No. 1315 半導体は台湾の武器

新型コロナが世界に及ぼした影響の一つに半導体の不足がある。ロックダウンや外出自粛によりテレワークが進み、パソコンやスマートフォンに使う半導体需要が急増したのだという。新型コロナで停滞した自動車販売も中国経済の回復により増加し始め、日本やヨーロッパでも半導体不足から自動車製造が制限される事態になっている。

半導体はパソコンやスマートフォン、自動車に限らず家電や社会インフラの制御システムなどあらゆるところで使われている。現代社会はもはや半導体なしにはあり得ないと言えるほどだが、ごく最近まで、半導体の中でも最小構造の集積回路を大量生産できるのは3社しかなかった。1社は米国のインテル社だが、回路線幅7ナノメートルの半導体技術の開発に失敗し、2020年中に製品を市場に提供することができなかった。もう1社は韓国のサムスン財閥の半導体で主にサムスンの製品に使われている。

残る1社が世界最大の半導体製造企業である台湾のTSMCである。世界シェアの半分以上を占めるTSMCは半導体を自社で設計するのではなく顧客からの設計データに基づいて量産する「ファウンドリー」(鋳造所)である。世界中の企業の半導体を製造してきた同社は今、台湾政府にとって強力な交渉の武器となっている。

台湾は独自の政府や通貨を持ち完全に独立国の状態にあるが、中国経済の発展により多くの国が近年中国と国交を結び、台湾を独立国家として認めているのは20カ国もない。日本も台湾は貿易における重要なパートナーとしながら国としては認めていない。また台湾国民も独立派は半数で、3割以上は現状維持か中国との併合を望んでいる。そして中国の主張は、1949年に中国大陸で共産党との内戦に負けた国民党が台湾に逃れてできたのが「中華民国」であり、本来は一つの中国だというものだ。しかし今の台湾政府(民進党)は党の綱領で「台湾独立」をうたい「一つの中国」を受け入れていない。

そこで独立国家になるための武器が半導体だ。いずれどの国も台湾への依存をなくすために半導体製造を国内で行うようになるだろうが、それにはまだ数年はかかる。その間台湾は半導体を戦略的に使い、一つの中国政策をとる国に圧力をかけるのだ。台湾が大国中国に武力で勝つことはできないが、独立を支援する米国やその同盟国の力を後ろ盾にするのである。折しも2月、日本とイギリスの外務・防衛担当閣僚協議はテレビ会議を開き、東シナ海や南シナ海で海洋進出を拡大する中国を念頭に防衛協力も含めた連携強化を確認し、イギリスは空母「クイーン・エリザベス」を東アジアに派遣するという。

台湾が半導体を理由に支援を求めるからといって台湾独立のために日本が中国と戦争をするほど愚かなことはないだろう。ましてや、中国に打撃を与えるために台湾独立戦争を起こしたい米国に協力することだけは日本は避けなければいけない。