中国とロシアは先月、月に宇宙ステーションを共同建設する覚書を締結した。米国の反対で国際宇宙ステーションプロジェクトに参加できなかった中国がロシアと組んで米国に対抗する姿勢をとったと言える。
日本は米国主導の月探査計画「アルテミス計画」に参加しているが、旧ソ連時代に米国と宇宙開発を競ったロシアが中国側についたのは、新たな冷戦の始まりのようでもある。第2次大戦後、自由資本主義の米国と共産・社会主義のソ連との間で起きた冷戦は朝鮮戦争やベトナム戦争など代理戦争と呼ばれる実際の戦争にもつながったが、1989年にベルリンの壁が崩壊、1991年にはあっけなくソ連が崩壊した。
資本主義陣営つまり米国の勝利で冷戦は終結したが、米国も21世紀に入ってアフガニスタンやイラク戦争で疲弊し、一方でユーラシアの一帯一路構想で台頭してきたのが中国である。
米国は中国に対抗するために3月12日、同盟国である日本、オーストラリア、インドとオンライン首脳会合を開催した。新型コロナワクチンを増産して、中国製ワクチンによる「ワクチン外交」で各国に影響力を強めている中国に対抗し、日本は資金面でインドの製薬会社を支援して米国製ワクチンを増産するという。
中国製の新型コロナワクチンは、ポリオやインフルエンザワクチンのように不活性ウイルスを投与するもので、ファイザーやモデルナのようにかつて製品化されたことがなかった遺伝子を利用する新しい手法ではない。昨年、感染拡大が急激に広まり、中国が世界の国々にマスクや医療物資を送った時も「マスク外交」と呼んだが、中国の対外支援は全て米国にとって警戒すべき行動なのだ。
新型コロナワクチンの不足は生産能力と原料の不足だとされているが、知的財産の保護がワクチン増産のネックの一因でもある。日本もワクチン開発に500億円以上の予算を投じ、米国などは1兆700億円以上を充てている。新型コロナのために世界中が大きな影響を受け、感染予防または症状悪化を防ぐというワクチンは透明性と説明責任をもって先進国だけでなく、低中所得国にも公平に提供されるべきである。
そのために各国政府はワクチンを開発した製薬会社に対してオープンかつ非独占的なライセンス契約で、技術移転や知的財産、データなどノウハウの共有をするよう求めるべきだが、ワクチン開発に資金を拠出した政府は、ワクチンを確保するために製薬会社と直接、不透明な交渉をしなければならない。
3月10日、インドと南アフリカはWTOにおいて新型コロナウイルスの治療薬やワクチンを知的財産権に関する規制の適用除外とすることを提案し中国やキューバなど80カ国が支持したが、米国やEU諸国の反対により決定は見送られたという。中国に対抗して行う米国の「ワクチン外交」で最も利益を得るのは、開発に巨額の公的資金が投じられ、ワクチン接種で健康被害が出ても賠償責任を免除されている製薬会社にほかならない。