No. 1326 仮想通貨の規制強化

6月にイギリスで開かれたG7サミットでインターネットの遮断やランサムウエア(身代金要求型ウイルス)などのサイバー攻撃に関することが討議された。米国では5月、石油輸送パイプラインを運営するコロニアル・パイプライン社がハッカーからランサムウエア攻撃を受けて一時操業を停止している。

同社CEOは仮想通貨ビットコインで身代金440万ドル(約4億8千万円)を支払い、ハッカーに侵入されたシステムを解除するための複合ツールを受け取ったことを認めたが、その後米司法省の介入で身代金の大半は回収されたという。また6月にはブラジル食肉会社JBSがランサムウエア攻撃を受けて食肉工場が操業を停止し、同じくビットコインで犯行グループに1100万ドル(約12億円)の身代金を支払っている。バイデン大統領は、これら犯罪にはロシアのグループが関与していると述べた。

日本にも多くの仮想通貨(暗号資産)保有者がいる。仮想通貨は「交換所」や「取引所」と呼ばれる事業者から入手・換金することができるが、法定通貨ではなく、裏付け資産のないインターネットでやりとりされる電子データにすぎない。価格は大きく変動し、その特徴は匿名性にあり、米国では当初からマネーロンダリング、麻薬や幼児ポルノの売買に闇市場で使われるなどの問題が起きていた。

それでも、今年米国で仮想通貨取引所大手の「コインベース」が上場し、ビットコインも史上最高値を更新するなど注目を浴び、仮想通貨はよい投資先でありインフレヘッジになると主張する人もいる。しかしサイバー攻撃を受け仮想通貨で犯罪集団に身代金を払ったとなればバイデン政権も規制強化の方向に動くしかないだろう。

G7で最大の脅威と指摘されたロシアや中国は仮想通貨を厳しく規制している。その匿名性と分散型の性質から追跡が難しく、不正な金融取引に使われても個人に結び付けるのが困難だからだ。反プーチンとしてロシアの政権を交代させようとしたアレクセイ・ナワリヌイ氏の資金源は海外からのビットコインだったと言われている。中国もソーシャルメディアの仮想通貨関連のアカウントを停止したり、大量の電力を使うビットコインの「マイニング」を新疆や内モンゴル地域で禁止するなど、取り締まりを強化している。

G7の後行われた米ロ首脳会談でもバイデン・プーチン両氏はサイバーセキュリティーに関して協議したと報じられたが、世界経済フォーラム(WEF)も7月にサイバー攻撃のシミュレーション演習「サイバーポリゴン」を行う予定だという。WEFは2019年にコロナウイルスのパンデミックが起きることを想定したシミュレーション演習「イベント201」を行い、その数カ月後に実際に中国からコロナパンデミックが始まっている。「サイバーポリゴン」にはロシアも参加しているが、今回もWEFの想定通り、コロナの次は米ロのサイバー戦争などとならないことを願いたい。