No. 1331 米国、台湾に武器売却

バイデン大統領の誕生によって改善するかのように思われた米中関係だが、8月上旬、米国は中国に対抗するためとして台湾に820億円に上る武器の売却を決定した。

前トランプ政権は経済と安全保障の両面で対中政策を構築して台湾に武器を売り、経済面では貿易不均衡の是正に重きを置いて報復関税の応酬で貿易摩擦をエスカレートさせて米国には失業率の低下や好調な経済がもたらされていたが、新型コロナウイルスによってその状況は一転した。米国は世界最大の感染者と死者を出し、トランプ氏は新型コロナの原因は「中国」だと責任転嫁したのである。

トランプ氏の「米国を再び偉大にする(Make America Great Again)」というスローガンに対抗するように、大統領となったバイデン氏は「アメリカは戻ってきた(America is Back)」というフレーズを繰り返し、米国の孤立を招いた前政権の政策を否定する一方、中国への圧力政策はそっくりそのまま継承している。

8月に入り中国でもデルタ株の感染拡大が報じられているが、中国産不活化コロナワクチン接種の推進、厳しい検査や局所的な移動制限措置などにより、人口14億人の国でデルタ株の感染者は数百人ほどにとどまっている。

中国の主要経済指標は前年同期比では伸び率が鈍化しているが、それでも安定した回復を続けている中国に、米国が経済面、安全保障で圧力をかけたとしても勝ち目はないだろう。なぜなら米国企業は、オバマ政権時代に主に中国など労働賃金の安い国に製造拠点を移してしまったからだ。

米国の企業経営者や株主は高額の報酬を手にしたが、国益や国民の雇用は犠牲となった。企業は短期的に利益を増やした代償として製造を完全に中国に依存するようになり、一方で中国は、その利点を利用して経済成長を遂げてきたのである。

米中関係が悪化すれば中国がこれを逆手にとって、米国へのサプライチェーンを止めることもできる。そうなれば米国の製造業は停止せざるを得なくなるからだ。半導体は一つの例だが、その他多くのアイテムが中国を経由して調達されている。つまり中国が供給を止めることで米国の製造業を兵糧攻めにすることが可能なのである。

米国はグローバリゼーションという名のもとで自由貿易や市場主義の思想とシステムを世界の国々に要求し、それによって一部の金融資本家や企業経営者は大きな恩恵を受けた。しかし同時に製造、エネルギー、食料といった国家安全保障は、いまの米国のように不安定になってしまう。米国がこのことを理解していないはずはない。

台湾は中国から目と鼻の距離にあるが、米国とは1万キロ以上も離れている。米国民に戦争を正当化できるほどの関心事ではないし、過去に米国はソ連のような核保有国と戦争をしなかったことを考えれば、中国との戦争は考えにくい。武器売却は台湾を火種にして米国最大のビジネスである軍需産業をもうけさせるという、米国のいつもながらのやり方だと言えるだろう。