No. 1332 アフガン陥落と米国の失墜

先日このコラムで、米国がアフガニスタンから米軍を撤退してもアフガニスタンを手放すことはないだろうと書いたばかりだった。事態は急展開し、8月15日、タリバンがカブールの大統領府を掌握して米国のかいらい政権は倒され、アフガニスタンのガニ大統領は車とヘリコプターに現金を積み込みウズベキスタンに逃げ出したという。

タリバンが首都カブールを制圧すると、米国は大使館員などを優先的に退避させるために米軍がカブール国際空港を管理下に置き、空港はアフガン戦争で米国側に付いていたアフガン市民が押し寄せて大混乱となった。離陸する米空軍機にしがみつく人々の姿は46年前、北ベトナム軍がサイゴンに到着すると米軍が南ベトナムを見捨てて国外脱出したサイゴン陥落のようでもあった。

米民主党は1年半前にアフガニスタンからの撤退を決めた前トランプ大統領に責任を転嫁し、米主要メディアはバイデン大統領の計画性のなさを非難した。そしてタリバンの手に渡ったことで「恐怖政治」が始まるアフガニスタンでの女性の運命や難民を大きな問題として取り上げている。しかしこれで本当にアフガン戦争が終わったとは言い難い。前にも書いたように米軍が撤退してもまだ米国の民間戦争請負業者が残っているからだ。

カブール制圧は武力衝突もない、あっという間の出来事だった。米軍は何百台もの装甲車や武器を置いたままアフガン基地を放棄したため、それらは残された5千人以上のタリバンの捕虜と共に、進撃するタリバン軍の手に渡った。

米国が数十億ドルをかけて武器や訓練を施したアフガン治安部隊はタリバンを阻止できず、あっけなく崩壊したのである。このためSNSなどでは、昨年トランプ政権とタリバンとの間の和平合意で5千人のタリバン捕虜を引き渡すという条件があったことから、計画通りの撤退だったのではとの臆測もあるほどだ。

カブール空港の混沌とした様子は米国の敗北、つまりアフガン戦争の終わりを人々に強く印象付けた。それと同時に、タリバンは女性を抑圧し公開処刑を行う狂信的な人々として再ブランド化され、欧米メディアは早速アフガニスタンからの難民問題や大規模なテロの発生という恐怖もあおり始めている。米国とその同盟軍がアフガニスタンで20年間行ってきた蛮行から目をそらさせるためには、タリバンを悪として描き続ける必要がある。

一方、タリバンのザビジュラフ・ムジャヒド報道官はアルジャジーラTVの記者会見で、アフガニスタンが今後、麻薬の生産を中止することを明らかにし、そのために麻薬に代わる作物を栽培できるための国際的な支援が必要だと述べた。米国はカブールから大使館員を退避させたが、ロシアや中国大使館はカブールにとどまりタリバンとの連絡を維持しているという。

欧米諸国がテロ集団と見なすタリバンは米国が敵対する中国、ロシアとの関係を強化しているのだ。アフガン陥落が世界におけるさらなる米国の失墜を意味するのかは、時間がたてば明らかになってくるだろう。