8月31日、防衛庁は2022年度の概算要求で5兆4797億円の防衛費を計上することを決定した。ロイター通信によれば、米国製F15戦闘機の改修費などは金額を明示せず項目だけを盛り込んでいるため、実際の要求額はさらに膨らむという。菅首相が突然退陣を表明し、マスコミが自民党総裁選と新型コロナウイルス感染者の話題ばかりを報じる陰で、2021年度からは2.6%増、8年連続で増額されている防衛費がひっそりと計上されたのである。
5兆円を超す金額を日本が軍事費に充てるのは、米中対立が激化する中、米国の同盟国として台湾に近い南西諸島の防御力を高めるために戦闘機や艦船の調達を急いでいる(または急がされている)ためである。アフガニスタンで屈辱的な敗北を喫した米国は、再び負ける戦争を始めようとしているのだ。
台湾はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に独立国としてではなくチャイニーズタイペイ(中華台北)の名称で参加している。21カ国が参加するAPECは台湾にとって国際社会と協議ができる数少ない場である。これに対して米国は、12月に民主主義国のリーダーを集めた首脳会談「民主主義サミット(Democracy Summit)」をオンラインで開催するという。このサミットは世界各国を民主主義と非民主主義、つまり米国の同盟国と中国やロシアのような非同盟国のグループに分類することで世界を分断するものであり、そこに米国は台湾の総統、蔡英文を招待すると公言したのである。米国の行動に対して中国政府は、台湾の総統が他国の首脳とともにこうした会談に出席する場面を演出することは台湾を独立国として正式に認めるものであり、台湾が独立国家を装うのであれば、台湾上空の空域を中国の統制下に強制的に置くとして反発を強めている。https://www.globaltimes.cn/page/202108/1231317.shtml
中国が台湾の領空を掌握する日は遅かれ早かれくるであろう。すでに中国軍の戦闘機は日常的な訓練の一環として台湾近隣の上空を飛行しており、台湾上空を恒久的に監視する日は遠くない。中国が台湾の領空を掌握するというのは脅しではない。台湾海峡と台湾の領空権をめぐって、中国は米国との戦争に勝てるだけの軍事力を備えているからだ。台湾海峡をはさんで中国本土には数多くの空軍基地があるが、台湾に近い米軍基地といえば沖縄くらいしかなく、米海軍が空母を使ったとしても中国が戦略的優位にあることは明らかである。それでも台湾と米国、そしてその同盟国の日本は本気で中国と戦争をしようというのだろうか。
また、たとえ米国が挑発しても、中国は兵器を使って台湾のインフラや民間人を攻撃することなく交渉を通じて台湾政府を降伏させることは可能である。台湾の防空を掌握して台湾空軍を抑え、台湾の空港や港を使えなくすれば、台湾は孤立した状態に陥るからだ。しかしもし中国が武力を使わず台湾を降伏させても、米国が(日本の米軍基地や自衛隊を使って)反撃にでるのなら、米国に基地を提供している日本が中国の攻撃対象になるのは避けられない。
中国は自国の問題である台湾有事のために犠牲を払う覚悟はあるが、アフガニスタンや新型コロナで疲弊し辟易している米国の国民が負けるかもしれない中国との戦争を支持するとは思えない。中国に対してとっている挑発的行動により米国は、結果的に台湾や東アジア全体の支配権を失い、アフガニスタンでの敗戦に続いて世界での地位を完全に失うことになるだろう。退任する菅総理は米国に呼び出されて今月末に訪米するが、そこで日本を戦争に巻き込むような役割を命じられないことを祈るばかりである。