No. 1408 ロシアに対するNATOの組織的な敵意を示す全面戦争のレトリック

ロシアに対するNATOの組織的な敵意を示す全面戦争のレトリック

Strategic Culture Foundation Editorial

https://www.strategic-culture.org (March 04 2022)

ウクライナの紛争と苦しみは残念なことである。しかしそれ以上に残念で嘆かわしいのはNATO諸国がこの紛争を引き起こしたということだ。

フランスのブリュノ・ルメール財務相は今週、西側諸国がロシア経済に対して「全面戦争」を仕掛けていると宣言し、意図した以上のことを言ってしまった。彼がすぐに自分の言葉を不適切だとして撤回しようとしたのは、このフランス政府高官が、ロシアのウクライナへの軍事介入に対するNATO諸国の対応を 明らかにしてしまったことの重大性を理解していることを示している。

ウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナのロシア語圏の住民を守ることを主目的とした「特別作戦」と称してロシア軍にウクライナへの進駐を命じてから2週間が経った。ドンバスのドネツクとルガンスク共和国(現在はロシアが正式に独立国家として承認)は、NATO軍が支援するキエフ政権から激しい軍事攻撃を受けつつあった。ウクライナのニコライ・アザロフ前首相は今週、ロシアの介入によって何千人もの死者を出したであろうNATOと   キエフの攻撃を防ぐことができたと主張した{2}。

また、重要な背景として、モスクワがNATO諸国との間でウクライナを将来的に同盟から排除することに関する安全保障条約を繰り返し要求したが、全面的かつ傲慢にはねつけられたことも指摘しておきたい。この隣国はロシアにとって、西側諸国ならその国境で決して許容できないような存亡にかかわる安全保障上の脅威を与えていた。

いずれにせよ、ロシアの介入に対する米国と欧州のNATO同盟国の反応は、モスクワに合理的な理由があったことを無条件に否定するものであった。実際、西側メディアはロシアを「怒る理由     がないのに侵略した者」として中傷するキャンペーンを大々的に展開した。

NATOの拡大、とくにロシアの国家安全保障に脅威となっているウクライナの役割に関してロシアが長年抱いてきた安全保障上の懸念は一切認めないどころか、西側諸国はロシアに組織的な敵対行為を取るという選択をした。セルゲイ・ラブロフ外相が今週警告したように、それは極めて危険な状況であり、ロシアとNATOの間で直接戦争(第三次世界大戦)に陥る危険性があり、それは必然的に核による絶滅をもたらすだろう。

ウクライナ危機をめぐり、ワシントンをはじめとする西側諸国がロシアに対して経済封鎖を行うという協調行為は、服従させるための戦略的なアジェンダの表れである。このアジェンダは犯罪的であり、国連憲章に違反していると言えるだろう。米国、イギリス、フランス、その他NATOの指導者たちは、ロシア経済を崩壊させるという見通しを喜んでいる。(西側の要求に屈しないために、キューバ、イラン、ベネズエラ、北朝鮮などが耐えなくてはならないのと同じ種類の国家主導の経済テロリズムである)。

この経済戦争に加えてNATO諸国は武器と民間軍事請負業者をウクライナに投入し続け、ロシアに対する代理戦争になりつつある。過去1年間だけでもバイデン政権はウクライナに10億ドルの軍事支援を行ったと推定されている。イギリスもウクライナに武器を供給しており、今週はドイツも数十年にわたるタブーを破って、他のNATO加盟国と一緒に武器を供給することになった。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、NATOは紛争の当事者ではないと主張している。しかしその主張は真っ赤な嘘だ。CIAが支援した2014年のクーデターでネオナチの陰謀団が政権を握って以来、NATOはキエフ政権に兵器を供給してきた。NATO諸国の特殊部隊は、ワッフェンSS(武装親衛隊)の記章をつけた超国家主義者の大隊に、キエフ政権を認めないドンバスのロシア系住民を攻撃するための武器の使用法を訓練してきた。

経済戦争と軍事代理戦争は、ロシアを悪魔化し犯罪者とする欧米全域の圧倒的なメディア宣伝キャンペーンと同時進行している。米国の政治家は公然とロシアのプーチン大統領の暗殺{4}を要求し、英国の国会議員はすべてのロシア国民の国外退去{5}を要求している。ロシアの文化人やスポーツ選手は追放されつつある。ロシア恐怖症の熱狂の中で、猫までもがキャットショーのような国際的なイベントの禁止対象とされ{6}。猫の例はほとんど笑い話だが、ロシアを悪魔化し孤立させるために行われている総力戦を物語っている。

次の論理的段階は、欧米列強によるロシアとその国民への戦争を「正当な理由」とする極悪非道なものである。

このヒステリックな地政学的情勢の中で、なぜ現在の紛争に関係しているのかという歴史的な分析を保持することは極めて重要である。

ここ何年もの間、米国とNATOの代理人である帝国計画家たちは、ロシア(と中国)を米国主導の世界支配を阻む敵だとして公然と提唱してきた。例えば、ランド研究所はモスクワの政権交代を堂々と推奨している。{7}

ソ連崩壊後の過去30年間にワシントンとヨーロッパの同盟国が行ってきた戦争はすべて、覇権を主張し、ロシアや中国などからの反発を抑えるというアジェンダで動いてきた。2014年のウクライナでのクーデターと同様に、ロシアの国境まで容赦なく東進するNATOの脅威はそのために不可欠なものである。

この米国主導の戦略的なロシアへの敵対心があるからこそ、今の状態になっている。

これは単にロシアのウクライナへの介入についてだけではない。西側メディアは、プーチンが今週、ロシアにはヨーロッパに対する悪意はないと何度も繰り返したにもかかわらず、それをモスクワが ヨーロッパに対して侵略するという主張だとして紹介している{8}。西側の専門家はプーチンの復古主義はソビエト連邦を復活させるためだともったいぶって論じている。制裁は西側の「民主主義的価値」の擁護を示すために行われるはずだが米国とヨーロッパはあらゆる手段を使って、ロシアのメディアが別の見解を示すのを検閲している。

「全面戦争」というレトリックは舌禍や不運な誤用ではない。ロシアと対決したい、その指導者を殺したいという願望や希望が繰り返し表明されていることは、その展開には戦略的、長期的な力学が存在することを示している。もし、ワシントンとNATOのパートナーが純粋に平和的関係に関心があるのなら、12月にモスクワが提示した安全保障に関する提案を否定することはなかっただろう。キエフの政権に兵器を供給することもないだろう。その意味で、現在ロシアとウクライナの間で行われている紛争の平和的解決に向けた話し合いを、NATO諸国が妨げているように見えるのは不愉快なことである。

さらに不吉なことに、ロシアに関して「全面戦争」という言葉が公の場で語られたのは、おそらくナチス・ドイツのヨーゼップ・ゲッベルスの口から出たのが最後だろう。

ウクライナの紛争と苦しみは残念なことである。しかし、それ以上に遺憾で嘆かわしいのはNATO諸国がこの紛争を作り出したということである。さらにひどいことに、西側エリートやその影響力の強いメディアは、ウクライナや民主主義、国際法、平和への配慮という冷笑的な口実で、ロシアに対する詭弁を弄していることである。

Links:

{1} https://www.euractiv.com/section/politics/short_news/le-maire-backtracks-after-talking-of-economic-and-financial-war-against-russia/

{2} https://sputniknews.com/20220304/putin-saved-thousands-of-lives-in-donbass-republics-pre-maidan-ukrainian-prime-minister-says-1093577806.html

{3} https://www.reuters.com/business/aerospace-defense/germany-hike-defense-spending-scholz-says-further-policy-shift-2022-02-27/

{4} https://news.sky.com/story/ukraine-invasion-us-republican-senator-lindsey-graham-calls-on-russians-to-assassinate-vladimir-putin-12557148

{5} https://www.independent.co.uk/news/uk/politics/russia-citizens-visa-uk-roger-gale-b2024940.html

{6} https://www.nbcnews.com/news/us-news/international-cat-federation-bans-russian-felines-competitions-rcna18595

{7} https://www.rand.org/pubs/research_briefs/RB10014.html

{8} https://sputniknews.com/20220304/putin-says-russia-has-no-ill-intentions-towards-its-neighbours-1093584107.html

https://www.strategic-culture.org/news/2022/03/04/total-war-rhetoric-betrays-systematic-nato-hostility-towards-russia//news/2022/03/04/total-war-rhetoric-betrays-systematic-nato-hostility-towards-russia/