嘘の上に築かれた国-米国はいかにして豊かになったか(パート6c)(その1)
by Larry Romanoff
https://www.bluemoonofshanghai.com (January 13 2021)
パート6c (1 of 3) – 繁栄の道を守るために
米国の経済支配のもう一つの大きな要因として、他国の限りなく小さい罪を非難する一方で、今日もなお米国はこのプロセスに大いに耽っているのが保護主義である。それは政府の規制の力を使って輸入を阻止し、外国による国内市場や企業の買収を防ぐ政策なのだ。輸入品に対する関税や税金、輸入割当、巧妙な貿易政策、官僚主義、政治的圧力、その他多くの手段を用いる。確かに、外国政府や外国企業による略奪行為から自国の産業や市場を保護する正当な理由がある場合もあるが、最も保護主義的なのは主に略奪国で、特に米国なのである。狐が鶏を盗みに行くとき、すでに持っている鶏が他の誰かに盗まれないように慎重に行うのである。保護主義は米国が不当に、そして例外的に持っている才能のように見える。200年以上にわたり米国ではこうした商業政策が横行し、米国政府によって国内産業にあらゆる利点を与えるために始められた。
保護貿易主義とは企業福祉プログラムに過ぎず、国民を犠牲にして私的利益を得るために政府の力を利用する特別利益団体の典型的な例である。鉄鋼、自動車製造、繊維、電子機器、農業などの米国の産業グループは、外国との競争を制限するために政府の力を借りることで大きな利益を得ている。このような措置で必然的に損をするのは国内消費者で、損害を与え、高くつくことがほとんどである。しかし米国では、メディアは政府や多国籍企業と同じ立場にあるため、米国の消費者は自分たちに何が行われているのか知らないのが普通である。典型的な例としては、外国製衣料品への関税がある。これは外国製品をより高価にするだけでなく、競争から解放された今、国内企業が価格を大幅に引き上げることを許可している。国内メーカーを低価格の中国製品から守るための高関税によって、3億人の米国人が1本のブルージーンズに20ドル多く支払い、2、3の影響力のある国内企業が10億ドル余分に利益を得ることができるようになったのである。
ここ数十年、米国政府は、低賃金、過小評価された通貨、製品ダンピング、不当な補助金の非難、その他中国による不特定の「不正」についての苦情をメディアに訴え続け、それが 米国による保護主義的報復を必要とするようになった。しかし、不思議なことに、米国の多国籍企業が同じ低コストを直接利用するために中国に生産拠点を移すと米国政府は直ちに繊維製品の関税を取り下げ、低コストを称賛し始めたのである。中国企業が中国から米国に安価なブルージーンズを輸出するのは、彼らが不正をしていて通貨が過小評価されているからであり、米国企業が中国から米国に安価なブルージーンズを輸出するのは、米国の効率と創意工夫と民主主義の偉大さによる功績であるという明白な結論が導き出される。どちらの場合も、コストと通貨は同じであることは、読者には明らかだろう。
パトリック・ブキャナンによれば:
関税の壁の向こうで……米国は農耕民族の沿岸共和国から、一世紀で世界一の工業国になった。今日、保護主義と呼ばれ、軽蔑されている政策が成功したのである。{45}
ブキャナンの発言は少なくとも部分的には正しい。確かに、米国の産業の成功は、米国政府が共和国創設当初から外国製品に対して行ってきた恒常的かつ広範な保護主義的措置によって、計り知れないほどの助けを受けてきた。工業化が始まると米国はすぐに保護主義の利点を知り、「ヨーロッパの低賃金から米国の製造業者を守る」必要性など、さまざまな形態や根拠を試した。この言葉は聞き覚えがあるだろうか?1800 年代初頭までに、米国の輸入関税は平均 50%以上となり、1900 年までに貿易関税は巨大な比率に達し、米国は関税が幼稚産業を保護するためであるという建前を多かれ少なかれ放棄したのである。
おそらく、米国の保護主義的措置が未開発国の軍事的植民地化と略奪ほど明らかに捕食的であった場所は他にないだろう。米国企業が貧しい国から資源や原材料を採取する場合、これらの製品は常に無税で米国に入国した。しかし、その国の国内企業が原材料や完成品を米国に輸出しようとすると、市場参入を阻むために50%から80%、時には数百%もの関税が設定された。 しかし米国はこれらの植民地を原料供給地としてだけでなく、完成品市場としても利用し、その場合、どの国も米国製品に対しておそらく5%を超える輸入税を課すことは許されず、各国はその旨の条約にサインすることを余儀なくされていた。またしても米国流のフェアプレー、公平な競争の場である。米国のすべての政権は、ウィルソン大統領が「その過程で不本意な国の主権が侵害されたとしても」他国のドアを打ち壊すと言った、捕食的な哲学に最もよく従っている。
保護主義は、瞬く間に米国の通商政策の恒久的な特徴になった。米国人が GATT、WTO、NAFTA の自由貿易協定を交渉したとき、それは保護主義的感情の欠如からではなく、むしろ貿易相手国に比べて有利で強力な交渉上の立場であると認識したからだった。これらのいわゆる「自由貿易」協定を結ぶ米国の意図は、主に米国企業や製品に他の市場を強制的に開放することであることは常に明白であった。米国は、はるかに多くの見返りがない限り、自国の貿易障壁を減らすことはなく、その場合でも、当初の保護主義的措置の多くが残っていた。国は、主に米国企業の利益になるような文言の協定を強要する力と交渉力を持っており、それは米国がすべての面で勝利することを期待して行われた。そしてもちろん、この優位性が計画通りに実現しなかった場合、米国はすぐに不公正貿易について泣き言を言い、「公平な競争条件」を求めたのである。貿易に関する米国の立場は、偽善の極みだ。米国は、自国が勝利し利益を得ているときだけ自由貿易を説き、米国企業の競争力不足により自国が遅れをとっているとわかると、自由市場理論をすぐに放棄し、不公正貿易を支持するのである。世界の自由貿易協定の中で、世界貿易機関(WTO)のような機関だけでなく、その仲裁委員会なども米国が支配しており、しばしば米国に有利な驚くべき決定が下されることに世界の多くの人々は苦々しさを感じているのである。このような不公平な影響力がなければ、米国は貿易紛争でほとんど勝てなかっ ただろうし、ずっと貧しくなっていたはずだ。
保護主義流れには2つの種類がある。一つは重商主義的なもので、海外の生産者を犠牲にして国内メーカーの利益を追求する、おそらく合理的なものである。もう一つはイデオロギー的、政治的なもので、非合理的であることが多く、対抗するのがより困難である。米国の重商主義的イデオロギーの主要な部分は、米国企業が世界で最も効率的で最高品質の商品を生産しているという絶え間ない愚かなプロパガンダによって米国人に吹き込まれた過剰な愛国心であり、この一連の信念からくる当然の結論は、米国を超える国は不正をしているに違いないということである。イデオロギーの流れもまた、米国の例外主義や白人至上主義に強く吹き込まれている。米国人は、どこかの国が米国の多国籍企業の侵略による破壊から自国の産業部門を守るために行動すると、泣き言を言う。なぜなら、国内が破壊されようとも、自分たちは神から与えられた権利として、自由に侵入し略奪することができると考えるからである。
米国は貿易政策を植民地化の道具として使うだけでなく、欧州市場やその他の国々に対して中国に対する貿易障壁を築くよう働きかけ、米国の覇権にとって最も有利な方法で中国を「開放」し、その他のあらゆる方法で閉鎖しようと集中的かつ多角的に努力している。特に米国政府は、中国の国有企業(SOE)に対抗できないため、SOEを破壊するという決意に固執し、商業的理由ではなく、道徳的、宗教的理由で攻撃し、愚かにも政府の持ち株を不正の一応の証拠と主張している。 同時に米国もヨーロッパも、中国への輸出品に多額の補助金を出しており、中国の国内生産者に大きな損害を与えていることもある。このような偽善的な措置には本当に驚かされる。
米国の保護主義的行動の政治的・思想的側面は、典型的なパターンに従っている。まず米国政府は、中国がWTOの規則に何度も違反し、あらゆる違法・不公正な貿易活動を行っていると非難する扇情的なメディアを立ち上げ、必ず中身のない主張で構成される。そのレトリックはしばしば極端で、何十万、何百万という米国の雇用が失われるという、誇張された、裏付けのない主張である。こうして保護主義の火をあおった後、米国は中国の産業をつぶすことを意図して懲罰的な輸入税を恣意的に課しているが、これは中国が望まない機密分野や国家安全保障分野に米国企業を入れるよう圧力をかけるための単なる政治的強要策である。金融分野、電気通信サービス、エネルギーなどである。しかし、彼らが望んでいるのは、中国が国有企業(SOE)を持ち続けているのを罰することだ。SOEは米国人がひどく嫌うもので、泥棒の夢は最大の銀行から金を奪うことだからだ。
人民元為替レートに関して中国にかけられた極端な圧力の多くは、米国の多国籍企業(MNC)に対して中国をさらに市場開放させるという、同様の目的を持っていた。人民元に関するレトリックはすべて無意味であったが、もし中国が切り上げを余儀なくされるなら米国にとってはそれでよいのである。しかし、それができなければ、少なくとも新しい市場に参入し、中国の銀行口座をさらに略奪することを望んでいた。WTOに持ち込まれた米国の貿易案件も同じ意図で、それ自体は重要ではないが、圧力交渉の道具として役立っている。もちろん、WTOは米国にほぼ支配されている。米国人は世界的な貿易機関を作り、実際にその機関に権限を与えるほど愚かではない。WTOは国際司法裁判所やIMFと何ら変わらない。帝国征服の道具の一つに過ぎず、そのように見なす必要がある。そして、「中国は国際貿易の規範に順応するか、異端児であり続けるかを決めなければならない」といった愚かな発言は全て米国のプロパガンダと偽善に過ぎず、キリスト教特有の道徳観がある。“私たちのために経済的自殺をしてほしいのではなく、それが神の意志だからそうしてほしいのだ”。
2007年の米国の金融破綻以来、苦境に立たされた米国経済は10年近く経っても回復の兆しを見せず、米国は保護主義的態度を劇的にエスカレートさせ、中国に対して何百もの貿易苦情を出しているが、そのほとんどが不当なものばかりである。対象となる製品のリストは週を追うごとに増え、米国政府は数十のケースで二重関税を課している。これは国際貿易ルールや協定に対する自国の約束に反し、WTOによってすべて違法とされているものだ。中国はもちろんこうした米国の保護主義的な措置すべてに抗議し、異議を申し立てているが、こうした抗弁は中国が最終的に勝訴した場合でも時間と費用がかかるものである。多くの場合、米国の法律は政府が貿易措置を取ることを認めていないが、米国は過去数年間、何度も自国の法律を無視して中国に対して何十ものいわゆる貿易「調査」を開始している。米国の裁判所が、米国政府には中国からの商品に高い関税を課す権利はないと判決を下すと、米国人は自分たちの違法行為を合法化する創造的な方法を見出した。米国議会が新しい法律を制定し、それを4年前に遡及させてとにかく関税を課したのである。米国の法執行と立法の柔軟性には感嘆せざるを得ない。ましてや、「法の支配」という米国人の概念には明らかな柔軟性がある。そしてもちろん、「公平な競争条件」を作ることも。西側メディアはこの巨大な偽善を積極的に支援する役割を担っている。まず悪魔化作戦を展開し、米国が中国に対してさらに別の貿易摩擦を起こす必要があると誇張した記事を掲載する。その後、メディアは沈黙し、一般大衆は、提訴された貿易苦情がほぼ必然的に失敗したことに気づかないのである。
米国政府は、世界で最も効率的かつ悪質な非関税貿易障壁となるいくつかの貿易法を巧妙に制定した。米国国際貿易委員会は、337条調査と呼ばれるものを開始することができる{46}{47}。米国企業は、明らかに違法な保護主義的目的のために、定期的にこの法律を悪用している。これらの調査は米国が自国企業を輸入製品との競争から保護するために用いる準司法的な貿易措置である。一度337条の調査が開始されると、国際貿易基準では全てのプロセスが違法であるにもかかわらず、問題の製品や類似製品でさえ、米国市場から永遠に禁止される可能性がある。近年、米国企業は、特許または知的財産権侵害の疑いを主張することを好んでおこない、中国の競争相手を追い出し、より大きな市場シェアを獲得するための事業戦略として、単にこの337条調査を利用するようになっている。中国企業は、米国企業によって提起されたこれらの請求に直面しなければならない場合、勝訴するか否かにかかわらず、必然的に大きな損失を被ることになる。中国企業が直ちに対応しなければ、米国の法律により、その製品は自動的に米国市場から排除されることになる。しかしこのようなケースを弁護するために、中国企業は、各種料金や弁護士費用など多くの費用を何千万ドルも支払わなければならないかもしれない。これは、米国の保護主義的な法律の実に悪質な部分であり、外国の競争に対する米国の武器庫の中の武器の一つにすぎない。 {48} これらの新しい法律のおかげで、米国企業にとって外国の競争相手に対して政府の援助を得るだけでなく、しばしば彼らを永久に機能不全に陥れることは簡単で苦痛のないことなのである。これらの調査に対して、米国政府はすべての弁護士を提供し、費用のほとんどを負担する。一方外国企業は、ほとんど常に根拠のない非難から身を守るために、数百万ドルと数ヶ月の時間を費やすのである。
このような米国の想像力豊かなプロセスでは、実際に関税などを課す必要がないことも多い。こうした貿易調査は、それだけで外国の競争相手を破壊するのに十分なのだ。調査機関は短い納期で無制限の量の書類を要求することができ、また、しばしば要求して従わない場合は厳しい罰則を課すからである。米国のいわゆる「国際貿易委員会」は、米国の産業を保護するために、無責任に冷酷に、さらには悪辣に、これらの訴追を適用してきたことが何度もある。以下はその2例である。
松下(現パナソニック)が不当廉売(アンチダンピング)の案件を取り下げ、5000万ドル以上の輸出販売を断念したのは、米国商務省が金曜日に、翌月曜日の朝までに3000ページの日本の財務書類を英語に翻訳するよう要求したからである。{49} また、台湾のある小企業の経営者に対して、20万件を超える情報の提供と、100ページにわたる英文の質問状への回答を求めたケースもある。しかし、この会社の経営者は夫婦二人だけで構成されており、回答することができなかった。商務部はこの即答できないことを口実に、台湾製セーターに60%近い不当廉売関税を課し、これらの企業の存続を不可能にさせた。このいわゆる「調査」が始まってから1年以内に、台湾でアクリルセーターを生産していた企業の3分の2以上が廃業してしまったのである。これは、米国が自国の多国籍企業のために「競争の場を公平にする」方法の一つである。
米国は典型的な保護主義的な作戦で、「チキン戦争」と呼ばれる歴史的なエピソードを作り出した。フランスとドイツが米国産鶏肉の輸入に2%または3%の関税をかけたのに対して、米国はこれに反発し、フォルクスワーゲンのミニバスを含む膨大な種類のヨーロッパ製品に25%の懲罰課税を課したのである。{50} {51} {52} {53} {54} ミニバスが含まれたのは、米国の自動車労組が大統領選の直前にストライキを提案し、ジョンソン米大統領が労組と「ストライキを放棄する代わりに、フォルクスワーゲンの米国での成功を罰する」という取引をしたからだと後に機密文書から判明した。そこでジョンソン大統領は、米商務省にVWのミニバスをトラックとして分類し直し、関税の対象とするように仕向けた。その結果、大きな打撃を受けた。ドイツから米国へのトラック輸出は35%激減し、愛されていたミニバスは米国市場から姿を消し二度と姿を現すことはなかった。その結果、ドイツのトラック輸出は35%減となり、ミニバスは米国市場から姿を消し、それっきりである。米国の自動車メーカーが自国市場で小型トラックの販売に成功しているのはこのためである。米国人が崇める「公平な競争条件」を作るという名目のもと、保護主義によって競争相手が消滅してしまったのである。
Notes:
{45} https://www.cato.org/commentary/truth-about-trade-history
{46} https://www.usitc.gov/intellectual_property/about_section_337.htm
{47} https://www.globaltimes.cn/page/202101/1213959.shtml
{48} https://www.huaxiao-ss.com/china-won-the-337-investigation-lawsuit.html
{49} Investigation No. 337-TA-392 usitc.gov›publications/337/pub3418.pdf
{51} https://www.nytimes.com/1964/01/10/archives/the-chicken-war-a-battle-guide.html
{53} https://en.wikipedia.org/wiki/Chicken_tax
{54} https://fee.org/articles/chicken-tax-makes-trucks-expensive-and-unavailable/