No. 1432 NATO・ロシアの代理戦争

NATO・ロシアの代理戦争

消えゆく米国の兆候が現れる

スコット・リッターとマイケル・ハドソンの対話

by Michael Welch (書き起こし)

GR(グローバルリサーチ):ハドソンさん、またお話できて光栄です。ようこそ。

MH(マイケル・ハドソン):お招きありがとうございます。

GR:今私たちは、SWIFTシステムからの排除を含むロシアへの制裁を求める米国の呼びかけにNATOが団結しているのを目の当たりにしています。彼らは痛めつけるための制裁によって打撃を受けています。バイデン大統領が言うところの「地獄の制裁」ですが、うまくいっているようには見えません。むしろ制裁はブーメランとなってEUや米国に、食料、肥料、石油、ガスなどの価格高騰で大きな打撃を与えています。彼らはロシアが侵略するよう煽っているようにみえます。プーチンがそのようにせざるを得ないようにしているのです。私たちはそれが対応策でなかったことを知っています。つまりそれは、彼らがずっと取り組んできたことなのです。ではロシアを挑発してウクライナと制裁戦争をさせるという戦略的な目標は、果たして何だったのでしょうか?彼らはロシアが助命を請うと思っているのか、それとも何かそれ以上のことが起きているのでしょうか?

MH:いまおっしゃったことの逆だと思います。戦争はロシアに対してではありません。戦争はウクライナに対してではありません。戦争はヨーロッパとドイツに対するものです。制裁の目的は、ヨーロッパや他の同盟国がロシアと中国との貿易と投資を増やすのを防ぐことです。なぜなら米国は脱工業化しつつある今、世界の成長の中心は米国にはないと見たからです。1980年代以降の新自由主義的な政策に従うことは、結局、米国経済を空洞化させることになりました。富を作る力を失った米国が、いったいどうやって繁栄を維持できるのでしょうか?

国内で作れなければ、繁栄を維持する唯一の方法は海外から調達することです。そしてバイデン大統領と米国のネオコンはその試みを1年前に始めたのです。ノルドストリーム2を阻止すること、それができなかったのでロシアとのエネルギー貿易やその他の貿易をすべて阻止することにしたのです。そうすれば米国が独占できるからです。過去100年間、米国が世界経済を支配してきた主な道具の一つが石油産業でした。世界のエネルギー貿易の支配です。エネルギーはすべての国のGDPと生産性の鍵であり、エネルギー貿易が米国の支配から他国の支配に移るという考えは、米国が他国への供給を止められる力を 脅かすものでした。

そこでウクライナで戦争を挑発し、米国の対応によって挑発することで米国は、「ロシアのひどさを見よ、自己防衛している」と言うことができるようになったのです。米国に対して自己防衛することは宣戦布告です。なぜならドル化したシステムから脱却するということですから、他の国が独立する可能性があると考えることは米国にとってはその国の政策を米国が決めることができること、ドル外交によって彼らの司令塔を掌握することへの挑戦となるのです。

米国が恐れているのは、もちろん、環境保護運動が炭素燃料である石油やガスをスローダウンさせることで地球温暖化を止めようと動き出すことですから、ヨーロッパにこのような危機をつくることは、米国はおおいに地球温暖化を加速させることを外交政策の基礎をおいているということです。石炭と石油を未来の燃料として加速させるのです。今日、ポーランドでバイデン大統領はロシアの石油に代わるポーランドの石炭を期待していると思います。そして米国の石炭。だからバイデン大統領は石炭産業ロビー出身のマンチン上院議員を環境エネルギー庁の長官にしたのです。

つまり今起きているのは、米国の行動が裏目に出たために、自ら世界の危機を招き墓穴を掘ったのではなく、それこそが彼らが考えていたことなのです。世界危機が起きればエネルギー価格が大幅に上昇し、米国の国際収支にプラスになることが分かっているのです。世界の石油貿易を支配する石油会社は、いったんロシアをそこから排除すると、農作物の価格は大幅に上昇し、農産物輸出国である米国に利益をもたらす。特に、ウクライナとロシアの小麦の輸出を阻止すれば、その恩恵はさらに大きくなります。これは、借金の期限が迫っている第三世界の国々に債務危機をもたらすことになり、米国はこの債務危機を利用して、うまくいけば     米国の買い手に公有地の民営化、売却を続けさせることができます。石油や食料の輸入量を増やすため、負債を支払うために財産を売り払わざるを得なくするのです。

米国の戦略は、あなたが言ったように、あたかも偶然に起きたかのように世界の危機を作り出すことなのです。この人たちは新聞を十分に読んでいるので、自分たちのやっていることの結果がこうなることは確信していたでしょう。彼らがやっていることは意図的なものだとして見てください。彼らが愚かだと思わないでください。彼らは賢く邪悪ですが、バカではありません。

GR:でもあなたの記事の中で、今米国を支配していると思われる3つの分野、経済分野についての話がありましたね。石油・ガス産業、軍産複合体、そして金融・保険・不動産といったFIRE(ファイア)産業です。たしかにこの3分野はすべて現在の状況から利益を得ていると思います。一目瞭然です。レイセオンやロッキード・マーチンのレベル、レートが上がっています・・・。

MH:銀行についてはよくわかりません。銀行の利益はどこに行き着いたのでしょうか?銀行は13世紀以来、貿易のための資金調達で大半を稼いできました。石油の輸入業者であれば信用状を発行してもらい、引き渡しがあったときに銀行が支払いを約束する。貿易金融は巨大な銀行活動です。そして今、米国の銀行は、ロシア、中国、そしておそらく一帯一路構想の国々に関わる限り、この貿易金融から締め出されています。ですから銀行がどのように利益を得ているのかなかなか見えてきません。特に第三世界の国々、グローバル・サウス諸国が、債券保有者に支払うためだけに自分たちの経済を犠牲にし、緊縮財政を強いるつもりはないと言うならなおさらです。ローンは不良債権化し、忌まわしい負債で、その支払いを拒否します、債権にお金を払いません、と言うかもしれません。

これは銀行にも投資家にとってもよいことではありません。だから銀行は今回打撃を受けているようです。戦争は経済的なものではなさそうです。むしろ新自由主義的、ロシアに対する直感的な憎悪、そしてネオコンの間ではドイツに対する憎悪によるものでしょう。そして、これは広く理解されていないと思いますが、このような非経済的な、ほとんど人種差別的な憎悪が、たとえば中国に対して働いているのです。

もし金融戦争が起きて世界が2つの経済圏に分かれるとしたら、それは軍事戦争と非常によく似たものになります。無政府状態では何が起こるか本当にわかりません。お楽しみ袋なんです。米国は、何人かの議員が訴えているように、必要であれば、賄賂や武力、暗殺によって、自分たちの思い通りになるだけの力をもっていると考えています。しかし、米国が敵だと宣言している人たち全員が簡単に服従するとは思えません。

GR:最近、サウジアラビアが原油の価格を人民元建てにすると発表しました。つまり、石油を買うのにドルにライバルができたということでしょうか。

MH:中国との石油貿易です。他の国はドル建て貿易をしようとしないでしょう、なぜなら、米国はその国のドル資産を何でも奪い取ることができるからです。チリがアジェンデの下で銅の貿易を支配しようとしたときのように、ある国が独自に何かをしようとすれば米国はその国のお金を奪うだけでよいのです。ベネズエラが民衆政策で土地改革を行おうと考えた時、米国はベネズエラのお金を押収し、イングランド銀行はベネズエラの金を押収しました。米国は、ロシアの外貨準備を押収する前に、アフガニスタンの外貨準備を押収しました。

だから突然各国は米国の銀行を使うのを恐れ、ドルと関係するものを使うのを恐れ、米国が手に入れられるものを持つのを恐れるようになったのです。なぜならそれが米国の今の政策なのです。それが他の国々を遠ざけているのです。米国の同盟国でさえも怯えています。ドイツはニューヨーク連邦準備銀行から、飛行機で金塊を送り返してもらうよう要請しています。

GR:そうですね、ドミノ倒しのような現象が起きています。つまり米ドルは、すでにある程度困難な状況にありましたが、この先さらに加速していくことが予想されます。そして、あなたが言ったような他のグローバル・サウスの国や他の場所でもドルを捨てて、他の通貨にするつもりなのでしょうか?

MH:危機は政治的なものです。別の通貨に付随するものではありません。プーチン大統領は演説でこの戦争はウクライナに関するものではないと言っています。この戦争は国際秩序を再構築するためのものなのです。その意味するところは、IMFに代わるもの、世界銀行に代わる機関、世界銀行に代わる機関、世界法廷に代わる機関。そして、米国のルールに基づくものではなく、例えば国連のルールに基づくようなものを構築することです。しかしそれは米国が一員である限り、できないことなのです。つまり、新しい国際機関のグループができるでしょうが、そこに米国は参加しないでしょう。なぜなら米国は拒否権を持てない組織には参加しないからです。ですから、2つの道が並行して進むことになるのです。ヨーロッパと北米では新自由主義的な金融化、負債による資金調達の道、そして中国、一帯一路参加国、上海協力機構のブロックでは産業資本主義が社会主義へ展開していく道です。

GR:ウクライナの解決は、ある意味、短期的な取引のようなものだと思うのですが、より長期的には、ヨーロッパをNATOや米国の影響力から引き離すことになっていくと思います。

MH:米国はヨーロッパの政治家を徹底的に支配しています。ヨーロッパでNATOと米国に反対しているのは右派だけです。国家主義派です。左派は完全に米国の後ろについており、NED(全米民主化基金)をはじめとする米国機関がヨーロッパ中の左派政党を支配して以来、ずっとそうなっています。彼らはヨーロッパの左派をトニー・ブレア化しました。ドイツの社会民主党、そして他のヨーロッパ諸国、イギリスの労働党。これらは労働者でも社会主義者でもない、 基本的に親米の新自由主義政党です。

GR:ロシアは鉱脈が非常に豊富な国であることは知っています。石油やガスも豊富です。ロシアとウクライナは世界の穀倉地帯の一部を形成しています。そしてリチウムやパラジウムなどの重要な鉱物を支配しているので、その一環として彼らはウクライナに関与していて、その結果、先ほど言ったように食料をはじめ世界中に多くの影響を及ぼし、おそらくかなり早い時期に食料不足に陥り始めるでしょう。

MH:それが目的です。これは予想されていたことだと理解しなければいけません。ガスがなければドイツの肥料会社は倒産してしまいます。なぜなら肥料はガスから作られるからです。ロシア産のガスが手に入らなければ、肥料を作ることができませんし、肥料がなければ作物は以前のように豊富に育つことはありません。つまりこれらすべては、とても明白なことですが、彼らはこうなることを知っていて食糧輸入業者に課すコスト圧迫によって、米国が利益を得ることを期待しているのです。

GR:ただ米国が何で反撃してくるのか、その辺の感覚を知りたいのです。つまり、彼らはでっち上げの能力において、ドルの威信を持っていましたが、彼らはまた、例えば、ロシア政府、ロシア中央銀行の金や預金を没収することで支配権を握っています。実際の軍事的な話はまた後できくとして、米国がロシアに反撃するために持っているその種のツールについてお話いただけますか?

MH:過去75年間、米国が使ってきた明らかな手段は賄賂です。特にヨーロッパの政治家に賄賂を贈るのは非常に簡単です。ほとんどの国で、政治家にお金を払い、政治キャンペーンを支援し、親米派の政治家に多額の資金援助をしてその国を干渉するのは明らかな方法です。第二次世界大戦中、イギリスと米国がギリシャに進駐し、反ナチス派をすべて射殺し始めて以来、標的型暗殺が行われるようになりました。なぜなら彼らは社会主義者であり、イギリスと米国はギリシャの王政復古を望んでいたからです。イタリアのグラディオ作戦や、チリからラテンアメリカ全域に及んで標的型暗殺がありました。つまり買収できなければ殺せ、ということです。

それからさまざまな軍事力があります。そして米国が使おうとした主な手段は、制裁です。もしロシアから石油やガスや食料で資金を調達できなければ、米国は単純に食料供給を停止することができます。そして、重要な原材料を止め、その経済プロセスを中断させる。なぜなら、ほとんどあらゆる種類の経済活動に必要な、非常に多くの異なるコンポーネントが存在するからです。

米国は弱点を探しています。そしてその弱点に働きかけようとしています。ウクライナで見たように、妨害工作も確かに使われているツールのひとつです。問題はこうした弱点に対する試みが、他国を動かすかどうかです。短期的にはこれらの国々に苦しみをもたらすことは間違いありません。

長期的には、主要な弱点において自給自足が必要になってくるでしょう。自分たちの食料は自分たちで生産しなければならないのです。小麦を輸入するのではなく自分たちの手で作るのです。輸出用のプランテーション作物の栽培から脱却し、自国の穀物を手に入れ、家族規模の農業に戻して、すべてを行う必要があるでしょう。自分たちの武器は自分たちで生産し、燃料源も自分たちで持たなければなりません。米国主導の石油・ガス・石炭の取引から独立するために、太陽エネルギーや再生可能エネルギーも含まれるでしょう。つまり、長期的、中期的にも、これらすべての効果は他の国々を自給自足させ、独立させることにつながります。

多くの妨害、飢餓、財産の移動、混乱が起こるでしょう。しかし長期的には、米国は相互接続された一つのグローバル化された秩序という考えを破壊しているのです。なぜならそれはヨーロッパと北米を他の地域全体から切り離すからです。

GR:ロシアのオリガルヒについてですが、この制裁で彼らが何に直面しているのか、彼らは制裁を解除して米国と関わりを持てるようにしたいのでしょうか。それとも、プーチンに取り入って、”自分たちでやろう     “としているのでしょうか?

MH:かつて、オリガルヒは非常に西側志向でした。なぜならロシアの石油やガス、ニッケル、不動産などを自分たちの手に移したとき、どうやって現金化したのでしょうか?ロシアにはお金がなかったのです。1991年以降のショック療法ですべて破壊されてしまいましたから、西側に株を売るしかなかったのです。ホドルコフスキーがユコスをスタンダード・オイル・グループに売却しようとしたのも、そういうことだったのでしょう。そして今、彼らは米国が、彼らのヨット、英国の不動産、スポーツチーム、西側で保持している資産を簡単に掌握できることに気づきました。西側が簡単に接収できる米国ベースの経済ではなく、ロシアとその同盟国経済圏内に保持することが唯一の安全策であることに気づいたのです。

それで昨日チュベスはロシアを去り、西側へきました。オリガルヒに選択させようとしているのです。ロシアに留まり、ロシアの生産手段を用いて富を見いだすか。あるいは盗んだものを西側がいくらか残してくれることを願いながら、ロシアから金を持って逃げ出すか。

GR:ロシアや中国に対する制裁を支持しない国のうち、インド、カザフスタン、タジキスタン、クルディスタン、つまり中央アジア地域の国々はすべてそうなんですが、それは、「一帯一路」構想の恩恵を受けているようですね。

MH:そう思うでしょう。大きな疑問符がつくのはインドです。非常に大きな国ですから。インドはすでにロシアとの多くの貿易金融の仲介役として位置づけられていますしね。またインドは親米的である傾向があります。モディ首相は過去に政治的に非常に親米的でした。しかしインドの暗黙の国益を考えるならば、その経済的利益はその地域とともにあるのです。米国ではなくユーラシア大陸との関係です。

国防総省や国務省が心配しているのは、どうやってインドを米国の手中に収めようかということでしょう。今後数年間はインドが大きな危機にさらされることになるでしょう。

GR:メガネをかけて未来に目を向けてもらうと良いかもしれません。たぶん2、3年後ですね。一般的な傾向からするとどうなるのでしょうか?一方が他方より進んでいるのか、それとも核の殻に閉じこもっているのか?どうお考えですか?

MH:核兵器はあり得ますが、そうはならないと思います。ワシントンの狂ったネオコンとキリスト教原理主義者、ポンペオのような人々は、世界を爆破すればイエスがやってくると考えているのでしょう。つまり、この人たちは文字通り狂っているのです。

私は50年前、ハドソン研究所で国家安全保障の専門家たちと働いていて、人間の脳がこれほどまでに歪んでいるとは信じられませんでした。宗教上の理由から、世界の大部分を吹き飛ばしたいと思っているなんて。そして民族的な理由、個人的な心理的な理由でも。そんな人たちがいつの間にか米国の政策立案者の地位に上り詰めたのです。彼らは世界だけでなく、もちろん米国経済も脅かしています。

しかし、核戦争はあり得ないと思います。米国は新自由主義が豊かになれる方法だと他の国に信じ込ませようとするのではないでしょうか。そしてもちろん、それは違いますが。

新自由主義は貧困化を進めます。新自由主義は、主に金融による労働に対する階級闘争であり、産業に対する階級闘争です。政府に対する階級闘争。金融階級が負債のレバレッジを利用して、企業、国、家族、個人、社会全体を負債によって支配しようとするものです。そして問題は彼らが本当に、金持ちになるには借金をすることだと人々を納得させることができるのか、ということです。それとも他の国々は、これは袋小路だと言うのでしょうか。ローマが債権者寄りの債務法をすべて西洋文明に遺贈して以来、これは本当に袋小路となっています。この法律は文明が発展した近東の法律とはまったく異なるものです。

GR:最後に一言私はカナダに住んでいます。米国経済が沈没しているとして、脱ドルについて聞いていると、どうやら そして、一般個人はどうなるのか。カナダはどうにかしてその軌道から逃れられないかと、隣で考えています。それとも、手首を枷で縛られているようなものなのでしょうか。米国が行くところには、我々も行くということでしょうか。

MH:カナダは銀行部門に支配されています。私は1978年に政府のシンクタンクに『カナダと新貨幣秩序』という記事を書き、カナダがいかに依存しているかを詳しく説明しました。非常に借金まみれで、金融に支配されており、政府はまったく腐敗しています。 新自由主義政党、リベラル政党はかなり腐敗していますし、他の政党もほとんどそうです。彼らは、カナダを支配できるようにするための腐敗と経済ヤクザ主義を守るものとして米国を見ているのです。

GR:では、マイケル・ハドソンさん、そろそろ時間です。私たちの生存に関する非常に大きく、興味深い議論をありがとうございました。この戦争をどう生き残るか、そしてその結果はどうなるか。グローバル・リサーチのゲストを務めていただきありがとうございました。

MH:お招きありがとうございました。

https://www.globalresearch.ca/nato-russia-proxy-war-revealing-signs-of-a-fading-america/5775462

https://www.unz.com/mhudson/nato-russia-proxy-war-revealing-signs-of-a-fading-america/