No. 1453 ウクライナ戦争は今、米国の戦争か?

ウクライナ戦争は今、米国の戦争か?

by Patrick J Buchanan

ロシアの将軍の殺害と巡洋艦モスクワの沈没を手助けしたことを公に自慢することで、米国はロシアのプーチン大統領を愚弄している。米国はプーチンを刺激し、米国に対して報復するように仕向けることは、米露戦争が拡大し、第三次世界大戦に発展する可能性を高めている。

先週、ウクライナがロシアの将官を標的にして殺害し、ロシアの黒海の旗艦モスクワを沈めた事件で米国の情報機関が不可欠な役割を果たしたと、情報筋がニューヨーク・タイムズにリークした。

どうやら米国の諜報部員がウクライナ軍のために、彼らの致命的な攻撃のターゲットとなっている人物を特定し、位置を特定したようだ。

なぜ米国の情報機関がこのようなことをするのか、不可解に思える。

ウクライナの最も目に見える軍事的成功を米国の手柄だと主張することは、ウクライナの軍隊の功績を矮小化することになる。

ロシアの将軍の殺害と巡洋艦モスクワの沈没を手助けしたことを公に自慢することで、米国はロシアのプーチン大統領を愚弄している。米国はプーチンを刺激し、米国に対して報復するように仕向けることは、米露戦争が拡大し、第三次世界大戦に発展する可能性を高めている。

さらに、このような米国の自慢はロシアがウクライナで直面しているのは、米国主導の同盟国であり、それがロシアをつぶそうとしている、というプーチンの言い分ににまんまとはまる。

実際、なぜ米国はウクライナ人の自衛のための支援を超えて、これを米国の戦争にしようとしているのだろうか。

ナンシー・ペロシ下院議長がキエフ訪問の後、ポーランドに到着したとき、彼女はウクライナとロシアの戦争が米国の戦争であることを事実上容認し、宣言した。 

     アメリカはウクライナとともにある。勝利が得られるまで、我々はウクライナとともにある。

ペロシのキエフ訪問には下院民主党の代表団が同行した。そのうちの一人、コロラド州のジェイソン・クロウ下院議員は、ポーランドでペロシと同じことを言った。

    米国は勝つためにこの戦争に参加する。

彼らの訪問の後、ロイド・オースティン国防長官がキエフにきてウクライナの戦争における米国の戦略的目標を宣言した。

   ロシアがウクライナに侵攻したようなことができない程度にロシアが弱体化するのを見たい。

米国の指導者たちのこうした発言は、母なるロシアを恐れ、憎み、その敗北と衰退を望む米国主導の西側同盟にロシアは包囲されている、というプーチンの路線を補強するものだ。

プーチンはいま、ロシアを破壊しようとする西側の敵は1941~1945年の大祖国戦争で戦った相手のようなものだと主張している。そしてウクライナへの介入は、今日のネオナチがウクライナをロシア破壊という大きな陰謀に引きずり込むのを防ぐために必要だった。

1週間前のプーチンの言葉を考えてみよう。

  ロシアを封じ込める政策を常に追求してきた勢力は……彼らの考えには大きすぎる、このような巨大で独立した国を欲していない……。彼らは、ロシアが、存在しているという事実だけで、自分たちが危険にさらされると信じている。世界を危険にさらすのは彼らなのだ。

“我々が誰で、何であるかによって嫌われている。我々の軍事作戦は、大祖国戦争で戦ったのと同じ種類の「汚いナチス」に対する正当な自衛行為である。”とプーチンは言う。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ウクライナへの欧米の重火器輸送の最近の急増をこう表現している。

 NATOは…代理人を通してロシアと戦争をし、その代理人を武装させる。

ペロシは、キエフへの代表団から共和党員を排除することで、戦争を米国の戦争にしたいだけでなく、自分の党の大義名分にしたいようだ。

バイデンがプーチンに対して、「殺人者」、「殺人的独裁者」、「純粋な凶悪犯」、「虐殺者」、「戦争犯罪人」、「大量虐殺」の罪を犯した人物、「プーチンは政権を維持できない」と呼び、欧米の指導者を意識的に上回る言葉を使っている背景にもその動機があるように思われる。

このような言い方はバイデンを世界有数の反プーチン主義者として、また、ロシアがウクライナで行っていることに対して世界のあらゆる指導者の中で最も道徳的に憤慨しているとアピールするためのものである。

しかし、繰り返すが、モスクワ号沈没やロシア将兵の殺害における米国の役割について米国の諜報員が公に自慢したことは、停戦やこの戦争の終結を交渉するいかなる役割においても米国大統領を不適格だとするものである。

キューバ・ミサイル危機でジョン・F・ケネディ大統領が終結のために保持していたように、クレムリンの指導者との間のコミュニケーションがないことにどのような利点があるのだろうか。

ウクライナのレジスタンスを支援しているNATOヨーロッパは、ロシアを永久に機能不全に陥れるという米国の計画には乗っていない。

米国はこの戦争における目的はウクライナと同じではないことを認識する必要がある。

ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、米国がキエフに乗り込んで共に戦い、ロシア軍を壊滅させ、敗北させることを望んでいる。そして今年侵略された地域だけでなく、2014年にプーチンが併合したクリミアからもロシアを追い出したいと思っている。

しかし、この戦争における米国の死活的利益は、米露戦争、第三次世界大戦、核戦争になるのを防ぐことである。

ロシアの侵攻に壊滅的な打撃を与えるという米国の目標は、米露戦争を回避するというはるかに重要な利益にとって二次的なものである。

米国の利益は、早期かつ交渉による和平によって最もうまくおこなわれる。そのためには、モスクワとプーチンが政治的に生き残るために軍事的にエスカレートする原因となる、ロシアに屈辱的な条件を課すことなどもってのほかである。

Is Ukraine’s War Now America’s War?