No. 1471 制裁を受けた国

制裁をうけた国

イランとロシアはどのように新しいルールを作っているか

by Pepe Escobar

先週、キルギスのビシュケクで開催された第1回ユーラシア経済フォーラム{1}は、ユーラシア大陸の地理経済的統合のためのパラメータを設定するマイルストーンと見なされるべきである。

ロシアのセルゲイ・グラジエフ ユーラシア経済連合(EAEU)統合・マクロ経済担当大臣は、中国と協力して、事実上のポスト・ブレトンウッズIIIともいえる代替通貨・金融システムの設計を推進するための調整を行っている。

グラツィエフによればこのフォーラムは、

 各国の通貨と商品のバスケットに固定された新しい世界決済通貨のモデルについて議論した。この通貨がユーラシア大陸に導入されれば、ドル体制が崩壊し、米国の軍事的・政治的パワーが最終的に弱体化することになる。

上海協力機構(SCO)の枠組みの中で適切な国際条約を締結するための交渉を開始することが必要である。

グラジェフは、4月に行われたThe Cradleの独占インタビュー{2}で、西側世界の金融システムを根底から覆す構想について、より詳細に語っている。

特に、グラジェフがEAEUの推進とSCOの地政学的・地理経済的役割の増大をどのように結びつけているかを理解することは重要である。SCOはユーラシア大陸の中国、ロシア、インド、パキスタン、カザフスタン、イランという主要国が同じテーブルで結束している。

これは、ロシアのプーチン大統領がユーラシア経済最高評議会の会合で、EAEUとSCOの新規正加盟国(唯一の西アジア)であるイランとの間の一時的自由貿易協定の延長を支持したことと直接つながる。プーチンは、「集団的西側による対立」にもかかわらず、これを進めるべきであると述べた。

ロシア、カザフスタン、キルギス、ベラルーシ、アルメニアの5つの正会員で2015年に発足したEAEUは、1億8400万人の市場と5兆ドルを超える総GDPを擁している。イランとの次のステップは完全な自由貿易協定を実施することで、おそらく年内にも実施される予定だとイランのアリレザ・ペイマンパク貿易副大臣は言う。エジプト、インドネシア、UAEもEAEUと協定を結ぶ候補にあがっている。

イランは、40年以上にわたり連続的な帝国からの制裁パッケージを回避するための創造的な解決策を見出すことを余儀なくされてきた。そのイランは、ロシアに教えるべき概念的な教訓を1つか2つ持っているかもしれない。バーター協定が定着しつつある。イランのレザ・ファテミ・アミン貿易産業相によれば、テヘランはモスクワの発電所に予備部品とガスタービンを提供し、代わりに自国の金属・鉱業に必要な亜鉛、アルミニウム、鉛、鉄鋼を供給しているという。

また、ロシアのアレクサンダー・ノバク副首相が最近テヘランを訪問した際に議論されたように、幅広い商品についてさらなるバーターが行われる予定である。

もう一つの「RIC」

BRICSの旧RIC(ロシア・インド・中国)とは対照的に、新RIC(ロシア・イラン・中国)はゆっくりと、しかし確実に、それぞれの金融システムの統合を試みている。中国にとってイランはエネルギー供給国として、また西アジアにおける一帯一路構想(BRI)の不可欠なパートナーとして、国家安全保障戦略の問題なのである。

しかし、ロシアと中国はもっと複雑な問題がある。米国の制裁を極度に恐れる中国の銀行は、ロシアの銀行との取引を増やすことを、少なくとも当面は控えている。そこで思い出すのはUnionPay(銀聯)の件だ。

特にアジアで人気が高まっている中国の銀行カード会社は、ロシア最大の銀行がEUと米国によってグローバルな銀行メッセージングプラットフォームであるSWIFTから排除される前から、ズベルバンク(ロシア貯蓄銀行)との提携を断念していた。Unipayはまたロシアの他の銀行との間で、VisaとMastercardのロシア市場からの撤退で利益を得ているロシアの決済システム「Mir」と連動したUniPayカードの発行計画を中止している。

これは中国にとって、まだ慎重なバランスを要する行為なのである。今年初め、アジアにおけるBoaoフォーラムで、習近平主席は「一方的な制裁の乱用」に断固として反対した。すでにロシアに進出している中国企業の8割以上が、従来通りのビジネスを続けているようである。

しかし現実的には深刻な問題がある。中国銀行と中国工商銀行(ICBC)は、ロシアの商品への融資を制限している。BRI(一帯一路)との関連はともかく、持続可能な開発プロジェクトに絶対不可欠なアジアインフラ投資銀行(AIIB)でさえ、3月上旬、「財務の健全性を守る」ためにロシアとベラルーシへの融資を全面凍結することを決定している。

金融面では、欧米から多大な影響を受けるために慎重になっている中国の銀行は常に事実を帳尻をあわせており、世界のクロスボーダー取引の80%近くが依然としてドルとユーロで、人民元はわずか2%である。したがってロシア市場は必ずしも優先順位が高いとは言えない。

これと並行して、ロシア・イラン戦線は極めて活発である。両国は自国通貨による相互決済を「可能な限り高いレベル」まで高めようとしており、アレクサンダー・ノバク副首相はこう述べている。「我々は、中央銀行とともに、金融メッセージングシステムの普及と運用、Mirと(イランの)Shetab決済カードの接続についても議論した」。

現状では、イランではまだMirカードは使えないが、トルコではこの夏から多くのロシア人観光客がMirカードで支払いができるようになるなどその状況は変わりつつある。これが実際に意味するのは、ロシアとイランは自国の銀行をロシアのSWIFTに相当するSPFS(System for Transfer of Financial Messages)に接続する予定だということだ。当然中国側はこの移行がいかにシームレスに行われるかを検証するだろう。

これらのことを、マスターカードのCEOマイケル・ミーバック氏がダボス会議で漏らした、もうすぐSWIFTがまったく存在しなくなる、という見通しと比較してみてほしい{3}。

ミーバック氏は中央銀行のデジタル通貨に関するパネルに参加し、国境を越えた決済について議論した際、SWIFTがまもなく過去のものになるかもしれないと示唆した。それは間違いない。モスクワはすでに暗号通貨やデジタル通貨に目をつけているし、北京はSWIFTとそれにリンクしたCHIPS(Clearing House Interbank Payment System)で動くデジタル人民元を作ることに躍起になっている{4}

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制裁を受けた者たちは今急速に動き出す

ロシアとイランの共同戦線は今年1月、イランのライシ大統領がモスクワを訪問した際、今後20年間の戦略的協力に関する協定案をプーチン大統領に手渡したときから急速に進展している。この協定は、「テロとの戦いにおけるシリアでのイランとロシアの非常に優れた協力の経験」を基礎とし、「経済、政治、文化、科学、技術、防衛、軍事分野、さらに安全保障と宇宙問題」へと拡大するものである。

ライシ大統領はまた、「テヘランのSCO入りを促した」プーチン大統領にはっきりと感謝した。

イランのジャバド・ウジ石油相は、先週テヘランで行ったノバク氏との会談で、次のように率直に述べた。

     両国は厳しい制裁下にあるが、二国間関係の発展を通じて制裁を無力化する可能性がある…。

我々は、銀行、エネルギー、輸送、農業問題、そして原子力発電所の建設問題についての共同委員会を設立した。

そして、ウィーンを拠点とする「包括的共同行動計画(JCPOA)」交渉という、永遠に続くかのような連続ドラマに再び焦点が当てられることになる。ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は、最終草案は「採択に向けた高度な準備段階にある。政治的な問題があるが、それはテキストの最終化とは関係ない 」と述べている。

有名な米国の沼霧を切り裂いて、ライプコフは、イランとの平和的核協力の文脈を含め、我々の利益という観点からすればこの文書は非常に満足のいくものである・・・『微調整』するものは何もない、とは強調した。したがって米国人がこの協定は「実現しない」と言うとき、それは彼ら内部の議論の結果を吹聴しているということだとレイブコフは付け加えた。

要するに、JCPOAに関してテヘランとモスクワは同調しているのだ。「我々は、いわゆるギリギリのところにあって政治的な決断が下されれば、非常に早くそうなる可能性がある」。

そのシンクロニシティを拡大し、テヘランは、トルコに倣って、ウクライナ紛争をめぐるモスクワとキエフの交渉を主催することさえ提案した。しかしアンカラが失敗した今となっては、ワシントンの意思決定者が、交渉ではなくウクライナ人がいる限り終わりのない戦争を望んでいることは明らかである。

イランのホセイン・アミール=アブドラヒアン外相は、セルゲイ・ラブロフ外相と同意見である。ダボス会議で彼は、ウクライナのドラマは「米国とNATOの挑発的な行動…彼らがクレムリンを挑発した」ことが原因だと述べた。これは北京が控えめにほのめかしていることと本質的に同じである。

以上、ユーラシア統合の試練と苦難、そしてEAEU-SCO新通貨体制への長く険しい道のりの一端を紹介した。

しかし、まず最初はMir-UnionPayの前線で何らかのアクションが起きるはずだ。このニュースが流れたときが、運命の分かれ目となるだろう。

Links:

{1} https://forum.eaeunion.org/en/

{2} https://thecradle.co/Article/interviews/9135

{3} https://www.zerohedge.com/geopolitical/mastercard-ceo-swift-payment-system-may-be-replaced-cbdcs-five-years

{4} https://www.nasdaq.com/articles/chinas-digital-yuan-may-aid-russia-bypass-swift-ban-but-will-it

https://www.unz.com/pescobar/the-sanctioned-ones-how-iran-russia-are-setting-new-rules/