No. 1476 米国/NATOは(WEFの助けを借りて)グローバルサウスを食料不足に追い込もうとしているのか?

米国/NATOは(WEFの助けを借りて)グローバルサウスを食料不足に追い込もうとしているのか?

マイケル・ハドソン

ウクライナの代理戦争は、世界の飢饉と食糧と石油が不足する国の為替危機を含む、より大きなことへの前触れとなるのだろうか?

ウクライナの戦場よりも多くの人が飢饉や経済的混乱で亡くなっていくだろう。したがってウクライナの代理戦争と思われるものは、国際貿易と決済に対する米国の支配を固定化するための、より大きな戦略の一部なのかどうかを問うことは適切である。私たちは米ドル圏が、西ヨーロッパだけでなくグローバルサウスに対しても金融を武器として権力を奪取するのを目にしている。米国とその子会社である“国際”通貨基金(IMF)からのドルの融資がなければ、各国はどのようにやっていくのだろうか?米国は、各国が脱ドル化して米国経済の軌道から外れないようにするために、どれだけ強い行動にでるだろうか?

食料不足、石油、国際収支の危機を引き起こして利益を得る方法を考えているのは米国の冷戦戦略だけではない。クラウス・シュワブ率いる世界経済フォーラム(WEF)は世界が人口過剰、少なくとも“間違った種類の”人々が多すぎることを懸念している。マイクロソフトの慈善家(レンティア独占主義者の慣用的婉曲表現)であるビル・ゲイツは「アフリカの人口増加は課題である」と説明した。彼のロビー活動財団の2018年版報告書「Goalkeeper」は、”国連データによると、2015年から2050年の間にアフリカは世界の人口増加の半分以上を占めると予想されている。その人口は2050年までに倍増するとみられており、“世界の極貧層の40%以上が…コンゴ民主共和国とナイジェリアのわずか2カ国に集中している”と警告した。

ゲイツは、“より多くの少女や女性がより長く学校に通い、より遅く子供を産めるようにするために”、避妊具へのアクセスを改善し、教育を拡大することによってこの予測人口増加を30%削減することを提唱している。しかしこの夏、食糧と石油が政府の予算を圧迫する事態が迫っている中でそのような余裕があるのだろうか?

南米や一部のアジア諸国も、ロシアを孤立させるというNATOの要求の結果、同じように輸入価格の跳ね上がりに見舞われている。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン社長は最近ウォール街の投資家会議で、米国とNATO主導のロシア制裁は世界的な「経済ハリケーン」を引き起こすだろうと警告した。彼は4月にIMF専務理事のクリスタリナ・ゲオルギエヴァが発した警告を繰り返した。「簡単に言えば、我々は危機の上のまた危機に直面している」。コロナパンデミックにインフレが押し寄せたところへウクライナ戦争が問題を「はるかに悪化させ、不平等をさらに拡大させる恐れがある」と指摘し、次のように結論づけた。

     戦争がもたらした経済的影響は近隣諸国や国外に急速に広がり、世界で最も弱い立場にある人々を最も苦しめている。何億もの家庭がすでに所得の低下とエネルギーや食料の価格上昇に苦しんでいる。

バイデン政権は、ロシアの「一方的な侵略」だと非難している。しかし、ロシアが穀物、石油、ガスの輸出ができないのは、バイデン政権がNATOや他のドル圏衛星国に対して圧力をかけているためである。しかし多くの石油・食糧不足の国々は、米国/NATOの圧力による“巻き添え被害”の第一の犠牲者だと考えている。

世界食糧不足と国際収支の危機は、
米・NATOの意図的な政策なのか?

6月3日、アフリカ連合のマッキー・サル議長(セネガル大統領)は、米国/NATOの制裁の手先になることを拒否し、アフリカの食糧・石油貿易が途絶えることを回避する方法を計画するためにモスクワに赴いた。2022年のこれまでのところ、プーチン大統領はこう指摘している。”ロシアの貿易は拡大している。今年の最初の数ヶ月で34%伸びた。”しかしセネガルのサール大統領は、“反ロシア制裁はこの状況をさらに悪化させ、今ではロシアからの穀物、主に小麦を手に入れることができない。そして、最も重要なことは、肥料を入手できないことだ”と懸念している。

米国の外交官は、ジョージ・W・ブッシュの言葉を借りれば、「あなた方は我々の味方か敵のどちらかだ」という選択を各国に強いている。試されているのは、世界のユーラシアの中核である中国、ロシア、インド、イラン、およびその近隣諸国との貿易を停止することで食料と石油の不足で国民を飢えさせ、経済を停止させることをあえて行うかどうかだ。

欧米の主要メディアは、この制裁の背後にある論理をロシアの体制転換を促進するものだと説明している。石油やガス、食料など輸出品の販売を阻止することで、ルーブルの為替レートを引き下げ、「ロシアに悲鳴を上げさせる」ことが狙いだった(アメリカがアジェンデ政権のチリで、ピノチェトの軍事クーデターを支援するために試みたのと同じように)。SWIFT銀行決済システムからの排除はロシアの決済システムと販売を混乱させ、ロシアが西側に保有する3000億ドルの外貨準備を差し押さえることはルーブルを暴落させ、ロシアの消費者が慣れ親しんだ西洋製品を買えなくすることが予想されるからだ。これは、ロシア国民が欧米の高級品の値段の高さに抗議して反乱を起こすというものだった(今にして思えば、とても愚かな話である)。しかしルーブルは沈むどころか高騰し、ロシアはすぐにSWIFTに代わって中国のシステムと連動した独自のシステムを導入した。そして、ロシア国民は欧米の攻撃的な敵対心にそっぽを向き始めた。

明らかに、米国の国家安全保障シンクタンクのモデルにはいくつかの大きな次元が欠落している。しかし、世界的な食糧不足には、もっと秘密めいた、もっと大きな戦略が働いていたのだろうか?米国のウクライナ戦争の主要な目的は、世界の食糧およびエネルギー貿易を混乱させる制裁を課すための口実として、単に触媒として機能させることだったように現在では見えている。さらに、この危機を利用して、米国の外交官は「忠誠心と新自由主義への依存か、それとも命か」という選択をグローバルサウスの国々に突きつける機会を与えるだろう。その過程で、ダイモン氏やWEFが心配している世界の非白人人口を「間引く」ことになるのである。

次のような計算をしたに違いない。ロシアは世界の穀物貿易の40%、世界の肥料市場の25%を占めている(ベラルーシを含めると45%)。これだけ大量の穀物や肥料が市場から失われれば、石油やガスと同じように価格が高騰するという計算がどのシナリオにも含まれていたはずである。

これらの商品を輸入しなければならない国の国際収支の混乱に加え、外国の債券保有者や銀行に支払期限が来た債務を支払うためのドル購入の価格が上昇している。米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き締めは、ユーロやポンド、グローバルサウスの通貨に対する米ドルのプレミアムの上昇を引き起こしている。

世界経済は相互に連結したシステムであるため、これが欧米以外の国に及ぼす影響が考慮されていないとは考えられない。ほとんどの混乱は2〜5%の範囲であるが、今日の米国/NATOの制裁は歴史的な軌道から大きく外れており、物価上昇は歴史的な範囲を大幅に超えて高騰することになる。このようなことは近世には起こっていない。

このことは2月にウクライナとロシアの間で起こった戦争が、実は世界経済の再編を意図した引き金であり、米国の「グローバルサウス」支配を固定化する方法で、それをやろうとしているとされる。地政学的には、ウクライナの代理戦争は、米国が中国の一帯一路構想(BRI)に対抗するための格好の口実になった。

南半球の国々が直面している選択は、外国の債券保有者や銀行家に金を払って飢えるのか、それとも国際法の基本原則として、次のことを発表するか、である。

 主権国家として、私たちは、新たな冷戦を繰り広げるという選択の結果、不良債権化した融資を行った外国の債権者を富ませるという目的よりも、私たちの生存を優先させる。IMFと世界銀行が我々に与えた破壊的な新自由主義の助言に関しては、彼らの緊縮財政計画は役に立つどころか、破壊的なものだった。 したがって、彼らの融資は不良債権化した。またそのために彼らは憎むべきものとなった。

NATOの政策は、グローバルサウスの国々に選択肢をあたえず、ロシアとのいかなる競争も封じ、それによって世界の穀物とエネルギー貿易を独占し、米国の食糧支配を確立しようとするものだった。主要な穀物輸出国は、多額の補助金を受けた米国の農業部門であり、次いで欧州の高額の補助金を受けた共通農業政策(CAP)であった。これらはロシアが参入する前の主要な穀物輸出国である。米国/NATOの要求は、時間を巻き戻してドル圏とその衛星であるユーロ圏への依存に戻すことなのである。

ロシアと中国の暗黙の対抗策

世界の非米国・非NATOの国の人々が生き残るために必要なのは新しい世界貿易・金融システムである。それがなければ、世界の大部分は食料不足に見舞われる。ウクライナの戦場で死んだ人よりも、制裁で死ぬ人の方が多くなるだろう。金融と貿易の制裁は軍事攻撃と同じくらい破壊的である。だからグローバルサウスは、国際的な金融・貿易兵器の手先になるよりも、自国の主権的利益を優先させることが道徳的に正当化されるのだ。

まず、制裁を拒否し、ロシア、中国、インド、イラン、そして上海協力機構(SCO)のメンバーを貿易相手国とすることだ。問題はこれらの国々からの輸入品の代金をどのように支払うかである。特に、米国の外交官がこうした商取り引きに制裁を拡大した場合である。

グローバルサウスの国々が、これらの国からの石油、肥料、食糧の代金を支払い、さらに米国とユーロ圏の保護主義を前提とした米国主導の新自由主義的貿易政策の遺産であるドル債務を支払うことは不可能である。

したがって、次に必要なことは不良債権と化した債務について債務モラトリアム(事実上の否認)を宣言することだ。この行為は1931年にドイツの賠償金と米国に対するインターアライアンスの債務を停止したことと類似している。端的に言えば、今日のグローバルサウスの債務は、債務国を食料不足と緊縮財政に陥れることなしには支払えないのである。

このような経済的要請から導かれる第三の帰結は、世界銀行とその貿易依存と低開発という親米政策を、真に経済を加速する銀行に置き換えることである。この機関とともに、新銀行の兄弟銀行という形で、第四の帰結がある。それはIMFに代わるものを用意することである。自由で緊縮的なジャンク経済と米国のクライアントであるオリガルヒへの補助金と、米国の民営化と金融化に抵抗する国々への通貨強奪に取って代わるものである。

5番目に必要なことは、各国がNATOに代わる軍事同盟に加盟して自国を守ることであり、第2のアフガニスタン、リビア、イラク、シリア、ウクライナになるのを避けることである。

この戦略に対する主な抑止力は米国の軍事力ではない。なぜなら米国は張り子のトラであることを見せてしまったからである。問題は経済的な意識と意志である。

https://www.unz.com/mhudson/is-us-nato-with-wef-help-pushing-for-a-global-south-famine/