No. 1480 特別軍事作戦に関するプロパガンダに対する日本の認識

特別軍事作戦に関するプロパガンダに対する日本の認識

by Patricia Ormsby for the Saker Blog

初期のニュースキャンペーン

2月24日にプーチンがウクライナでの特別軍事作戦を発表した直後、日本のメディアは、欧米ではおなじみとなったロシア非難の一方的なキャンペーンを行った{1}。このキャンペーンは、日本では十分に計画され、調整されていたようだが、NHKが毎朝早朝に放送している国際ニュースの中から5分間のVesti.ru(ロシアのニュース)のニュースセグメントがなくなるまでには約1週間かかった(その後復活していない)。その後1ヶ月間は、15分以上テレビを見ていると、必ずウクライナに関するニュースやこれから放映されるドキュメンタリーの告知を目にすることになる。トーク番組には、新しい若い「ロシア専門家」が登場し、有名で尊敬される専門家は姿を消した。例えば、ミンスク合意については、若い教授たちは全く知らないようであったが、そのような話題は禁句であることが明確にされただけなのだろう。メディアからの印象は全体的にロシアのウクライナ侵攻は完全に領土征服戦争であり、罪のない市民に対する、野蛮でおぞましい残虐行為であったというものだった。

私はソーシャルネットワーキングサービスを利用していないが、その影響からするとSNSではもっと激しいキャンペーンがおこなわれているようだ。私の知る限り、日本にいるほぼすべての女性がこのプロパガンダに直感的に反応している。ロシアを連想させるものに対して怒りを露わにするのを目撃した。オリンピックのために設置されたロシアの看板は封鎖された。ロシア語を勉強しているある友人はモスクワの先生に連絡を取り、ロシアがあの嫌な侵略を止めるまではレッスンを続ける気になれないと言ったという。彼女の先生は、ウクライナに家族がいることを涙ながらに説明した。私の友人はこの話には別の側面があることに気づくべきだった。私は、日本のウクライナに関するニュースがいかに差別的であるか、また私たちが日夜見せられている残虐な行為の真偽を誰も証明できないことを説明したが、それでも彼女はただどうすればよいかわからなかった。

40年近く日本に住んでいる女性として言えることは、たとえそれがすべて未検証で惑わせるためのものだったとしても、ニュースを見て犠牲者にまったく同情しないのは自分が怪物だと感じずにいられないということだった。それほどの認知的不協和に耐えられず、数分後には逃げ出していた。対照的に私の夫とその弟は、権力者たちはこのような明らかなプロパガンダをどこまでやるのかという好奇心から何の感情移入もせずに見続けていた。

物語に生じた亀裂

女性への感情的な対応に成功したのとは対照的に、私が日本で知っている男性のほぼ全員がこのごまかしをすぐに見抜き、実際、多くの人がそれに腹を立てていた。ウクライナの話ばかりで嫌になると言ったのは男性たちだった。彼らは、ニュースが関心を持たないような遠くの貧しい小国に対して米国が常に同じような行動をしているのに、ロシアに対する一方的な非難がいかにおかしなことであるかを指摘した。そしてその背後には巧みな操作があり、それは海外での軍事行動を可能にする日本国憲法の新たな書き換えの試みが予測されることを、男性や、多くの女性も気づき始めたのである。

さらに、トーク番組では親ロシア的な意見を完全に排除することはできなかった。特別軍事作戦以前は日本のメディアもロシアを肯定的に報道することがあった。紛争前から持っていた知識は消せなかったのだ。私の夫によると、ある評論家は、ゼレンスキーが民間人を武装させて侵攻に協力させたことで、国際法上、民間人全体が軍事目標となったと指摘したという。紛争におけるゼレンスキーの役割に対する国民の認識も変わった。ある昼間の番組では「ミンスク合意」が取り上げられ、若い専門家の一人が不意を突かれた。この話にはもう一つの側面があるという認識が次第に国民の間に浸透していったのである。

4月には鉄道の駅にロシア語の看板が復活した。特別軍事作戦の最初の数週間に起きていたロシア人(あるいはウクライナ人を含むロシア人と疑われる人)に対するネット上での嫌がらせも最近聞かなくなった。先日のバイデンの来日前にはプロパガンダが増え、その後はやや沈静化したようだが、先日プーチンがいかに独裁者かというドキュメンタリーが放映されたようである。

公式発表の“真実”に肩をすくめる

日本には長い歴史があり、記憶に新しいところでは専制政治が行われていた。この専制政治は、仏教や儒教に根ざした社会制度に基づくヨーロッパ型とは異なる特徴を持っている。ここでは触れないが、その結果、彼らは専制政治に対処する方法を受け継ぎ、比較的尊厳のある有意義な生活を送ることができるようになったのである。

そのひとつが「建前」と「本音」という考え方である。建前とは「表向き」のことであり、本音は「本」(主または常)と「音」で構成され、「本当の意図」「本心」を意味する。人々は建前の必要性を認識しており、それによって社会が円滑に機能し、不正や長年の対立に悩まされることがないようにするためである。本音は建て前とは対照的なものであることは、誰もが認めるところである。儒教はこの制度をよしとし、何よりも調和を重んじている。各自が自分の「建前」を掲げ、適切だと思う自分の「本音」に対処する。

もちろん、これはどこにでもあることだ。ここで違うのは、それが普遍的に認識されていることである。不誠実な公式の「真実」は、本当に重要なことが危険にさらされるまでは容認される。たとえそうなっても、日本の人々は問題を静かに解決しようとする傾向がある。日本は米国とはある程度付き合っていかなければならないし、米国がローカルのルールを見過ごすような卑劣な行為をしない限り、米国と対立する理由はない。そして、目下の問題としては、日本人にとって重要なのは、あからさまなプロパガンダや感情操作ではなく、過去半世紀にわたって大きな利益を得てきた中立の立場を国として維持できるかどうかということだ。

左と右

日本にはロシアに好意的な右派がいると聞いたことがあるが、それ以外の知識はない。私の知る右派は、千島列島4島をめぐってロシアと領土問題で対立している。

https://tass.com/world/1041010?utm_source=yandex.ru&utm_medium=organic&utm_campaign=yandex.ru&utm_referrer=yandex.ru

そしてその結果、第二次世界大戦後67年間、日露間で平和条約が結ばれていない{2}。しかし一般に、日本の右翼は孤立主義的な傾向がある。神道は右翼的であるが、地域性の強い宗教であり、私の知る熱心な信者の多くは海外に行ったことがなく、海外旅行を見下す傾向がある。私は、富士教の会合に参加した。 富士山を中心とした修験道の宗派である。3時間の会合の間、一度もウクライナ人の窮状を話題にしなかったことに、宗教に内在する道徳的スタンスを考えるととても驚かされた。

日本の左翼は、ソ連を支持する共産・社会党系は別として、理想主義や民主主義の原則から米国を強く支持している。彼らの多くは海外に旅行したことがあるが、そのほとんどは商業ツアーの団体の一員としてであり、将来のビジネスを促すためにどんな見せかけでも守りたいという動機がある。また、日本語と他の言語との間に言語的な距離があるため、海外からフィルターを通さずに情報を得ることが難しい。その結果、米国に対するロマンチックな見方が生まれ、欧米のニュースソースを信用する傾向がある。私の印象ではこれはアジア全域にある程度当てはまる。

知を求める市民意識

しかし、上記のような物語の亀裂がある以上、日本の市民派、特に左派の人たちの間では、ロシアの視点を聞くことに関心が高まっており、とくに左派の間ではロシアの視点を聞いてみたいと思う人がいる。5月21日に水戸で行われた茨城大学元教授の曽我日出夫氏によるウクライナ紛争におけるロシアの視点を理解するための講演会{3}に多くの人が集まったのは嬉しいことだった。

曽我教授は、2月24日に行われたプーチンのロシア市民向け演説{4}の内容を講演と添付資料で紹介した。その内容は、1990年以降のNATOの東方拡大による脅威、NATOが国連安保理決議による承認を得ずに各国への侵略を繰り返していること(ベオグラード、イラク、リビア、シリア)、2021年12月にロシアがNATOと安全保障上の重要事項で合意に達することができなかったこと、ロシアが核兵器保有国としてトップクラスであり、多くの最新兵器を保有しているにもかかわらず状況が年々悪化していること、NATOがウクライナに進出し、ロシアに敵対する国から近代兵器を持ち込むというさらなる脅威があること、ドンバス地方でのロシア系住民の大量虐殺は、国連憲章第7章51条に基づき、ロシアの軍事的対応を必要としていたこと、そしてロシアの目的はウクライナの中立化・非武装化とネオナチを排除することで、国家を占領することではない、というものだった。

曽我教授はNATOの東方拡大について図で説明し、またウクライナの歴史を概観し、ウクライナ各地の民族や言語集団の割合を図式化した。ゼレンスキーの大統領就任については、コロモイスキーが後ろ盾にいたこと、クリミアをロシアに復帰させウクライナ東部に内紛をもたらした2014年以降の出来事、ジョー・バイデンやその息子ハンターが深く関与していることなどについても触れた。ドンバスにおける分離主義者とウクライナ政府との紛争について、ネオナチによる民間人の虐殺や住宅地の破壊にNATOが目をつぶり、むしろそれを教唆していたこと、2021年末に攻撃が激化したことについてより詳細に説明した。YouTubeのリンクを提供してオデッサの大虐殺についても言及した。

アメリカのディープ・ステートについては、馬渕睦夫元駐ウクライナ大使(2005年〜2008年)の言葉を引用し、ウォール街と、1912年にウッドロウ・ウィルソン大統領の下で貨幣発行権をもって設立されたアメリカ連邦準備理事会(FRB)の関わりを指摘した。そしてこれら影の権力者は、その後国際的に拡大し、グローバリゼーションを通じて「一つの世界秩序」を作ろうとしていると述べた。馬渕氏は、バイデンをディープ・ステートの一員と見なしているという。

最後に、曽我教授が自らの見解をまとめ、ロシアの資産を支配しようとする米国のディープ・ステート(ネオコン)が、エリツィンとロシアの寡頭政治を利用して、ロシアとウクライナの分断を利用したこと、プーチンの当初の目的はロシアの資産を回復することであり、そのためにオリガルヒーを排除し、民営化された資産を再国有化し、ロシア経済を再建することであったと述べた。このためプーチンはディープ・ステートのナンバーワンの敵となり、ディープ・ステートは何とかして彼を倒そうと最大の努力をするようになったという。ディープ・ステートは、世界征服の目標をグローバル化や民主主義といった素敵な名前でカモフラージュしながら、NATOを東に拡大することになったのである。プーチンは、各国の独立権の侵害に抵抗することは正当であると述べた。

ロシアが独立を維持するためには、友好国や中立国でロシアを囲む緩衝地帯が必要だという。ソ連が崩壊した当時、NATOはこのことを認識していたはずだ。ゼレンスキー政権はこうした必要性を認識するどころか、NATOのウクライナへの進出を推進し、密接な関係にあるロシアとウクライナの民族間の分裂の炎を燃やしている。このことが、ロシアの軍事的対応を正当化することになったという。

曽我教授は、生物学研究所や、ゼレンスキーが表明したウクライナの核兵器保有については触れなかった。

より深い理解への努力が必要

曽我教授の講演は、日本である程度非主流派を受け入れている人たちがウクライナ情勢をどう捉えているかを知るために参加したのだが、十分な収穫があった。曽我教授の講演後のディスカッションで、ロシア側の視点がメディアで取り上げられないことが人々の理解に大きなギャップを生んでいることがよくわかった。私も曽我先生の発表に加え、いくつかの情報を提供することが出来たが、聞き役に徹したかったのでそれはしなかった。米国が関係ない国に干渉するように、日本がウイグル人のために中国に介入するように、ロシアも干渉しているという印象を持っていた人がいたが、曽我教授の話はその誤解を解くのに大いに役立った。ゼレンスキーがユダヤ人なのに、どうしてアゾフ大隊がナチスなのかという質問があった。それに対して私は、ナチスの犠牲者はユダヤ人だけに限らないことを説明した。例えば、ベラルーシに住むロシア人の先生のお母さんはユダヤ人ではないにもかかわらず、ナチスの侵攻によって自分の夫が処刑されるのを見なければならなかった。また、参加した女性たちは、西側諸国は他国よりも言論の自由があると思い込んでいるようだった。私は、欧米では今、検閲が行われていることを伝えた。それは彼女たちが聞いたことのないことだった。

そのようなニュースは人々にとってショックであり、彼らはより心が落ち着く情報源に戻って、それを信じようとするだろう。しかし、このような反体制的な考え方があることを知れば、私が話したことが真実であるという証拠を知ることになるかもしれない。

全体として、日本が紛争に巻き込まれるのではないか、という懸念が中心だったが、世界的に見ても、日本人にとって最も重要なことは、その可能性に注意することだと思う。日本国内の他の人たちとの会話を考えると、ロシアとの紛争に引きずり込まれることに対して日本国内ではかなりの抵抗があると思う。

もちろん、米国から突き上げられたら、一般市民がどう考えるかはまた違ってくるだろう。

講演の後、曽我教授と話をする機会があった。米国の予算のうち、軍事費に使われているのは何%か、と聞かれた。正確な数字は分からず、「絶対的に膨大だ」としか言えなかった。彼はこう言った。「なぜ米国民はこのことを取り上げないのか?なぜ、誰もこのことを議論しないのか?ウクライナに戦争への圧力根源はこれだ」。そして曽我教授は、日本もそうだが、人々が自分の狭い家族的、社会的サークルを超えて何も興味を示さないことが問題なのではないか、と言った。私は、米国は、日本ほどには自分の集団に集中し、他のすべての配慮を排除することはない、と答えた{5}。米国では、「防衛予算」はたとえどちらの側であっても誰も批判できない、なぜならそれは「強いアメリカ」に反対していると見られるから、と説明した。

Notes:

{1} 日本が自国を「西洋」であると認識するようになったのは、1世紀以上前の明治時代から。近代化に着手し、受動的な被害者になるのではなく、植民地主義者の成功に倣うようになった。特にドイツを尊敬し、そこから科学用語の多くを学んだ。

{2} この問題に詳しい友人によると、与党自民党が平和条約に向けて動き出したことがあるが、しかし、そのたびにアメリカはすぐにそれを頓挫させた。

{3}  約20名。過去2年間の新型コロナの影響を考えるとこれは大きな集まりだ。日本人は大義のために自制することを信条としているので、本当に関心があることを示している。参加者は学んだことを自分の仲間と共有するだろう。

{4} YouTube : https://www.youtube.com/watch?v=1qS6J-WbTD8

日本語: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html.

NHKがこの翻訳を提供したことに意義があると思うが、これを指摘してくれた曽我教授に感謝する。普通テレビだと、プーチンが顔をしかめて唇を動かし、キャスターがそれに好意的でない解釈をしている。

{5} {5} Thorsten J Pattbergは、日本に関する一連の記事の中で、これがもたらす不条理をいくつか紹介している。(最新版: https://thesaker.is/top-guns-kishida-and-us-biden-showdown-with-russia-and-china/)。さらに、日本ではボランティア活動が比較的少なく、社会的な不正は無視され、被害者は自活を余儀なくされる。これはマイナス面である。一方、良い面は、社会が安定していることである。

Patricia Ormsby:1984年より日本在住。翻訳家。1995年から2002年まで日本からバイカルへのエコツアーを引率し、日本語のほかロシア語、タイ語、インドネシア語を話す。2001年に夫とともに東京を離れて地方に移り住み有機農業を営む。2001年、神主の資格を取得。

 

Japan’s Perceptions of the Propaganda regarding the SMO