No. 1483 新しいボスの登場

新しいボスの登場

プーチンが重要な炭化水素を東に迂回させ、ヨーロッパを干上がらせる

by Mike Whitney

ロシアのエネルギー資源を拒否することは、ヨーロッパが世界で最もエネルギーコストの高い地域になることを意味する。これは、すでに世界の他の地域の企業との競争に敗れつつあるヨーロッパの産業の競争力を著しく損ねるだろう…西側の盟友たちは経済学の基本法則を忘れてしまったか、単に無視することを好んでいるようである。

   – ウラジーミル・プーチン ロシア連邦共和国大統領

火曜日、ロシアはノルド・ストリームパイプラインを通じてドイツに送る天然ガスの流量を40%削減すると発表した。ガスプロム社の幹部が発表したこの発表は、ヨーロッパのガス市場に激震を与え、価格はたちまち最高値に跳ね上がった。この3ヵ月で価格が3倍になったドイツでは、このニュースは恐怖で息を呑むほどだった。すでに40年来の高水準にあるインフレの中で、今回の供給減はドイツ経済を後退させ、さらに悪化させることは確実である。このような事態を招いたのは、アメリカの誤った対ロシア制裁の影響である。以下は、Oil PriceのWebサイトからの情報である。

 ロシアのガスプロム社は火曜日、設備の修理が遅れているため、ドイツへのノルド・ストリームパイプライン経由の天然ガス供給を予定より40%制限すると発表した。欧州最大の経済大国であるドイツへのノルド・ストリーム経由のガス供給が減少したことで、欧州のガス価格は2桁急騰した

     ロシアのヨーロッパ向けガス供給は、先月ウクライナがロシアからヨーロッパへの2つの中継点のうち1つを停止したためすでに減少しており、ウクライナからヨーロッパへのガスの3分の1が供給停止された。{1}

米国とその同盟国であるヨーロッパの国々は歴史上どの国よりも多くの制裁をロシアに課している。しかし火曜日の発表は、誰が実際に制裁で苦しんでいて、誰が苦しんでいないのかを説明している。ロシアは苦しんでいないし、実際、ロシアは特に動揺しているようには全く見えない。まるでピクニックでハエを追い払うように、ワシントンの攻撃を冷静に受け流した。さらに驚くべきことは、制裁によってルーブルが高騰し、原材料からの収入が増え、ロシアの貿易黒字が記録的なレベルに達し、ガスと石油の利益が成層圏に押し上げられたという事実である。あらゆる客観的な基準で制裁はロシアに利益をもたらしているように見えるが、もちろん、それは期待していた結果とは正反対である。

ワシントンの対ロシア経済制裁 成功か失敗か?

  1. ロシアの通貨(ルーブル)は5年ぶりの高値に上昇した。
  2. ロシアの商品価格は暴騰している。
  3. ロシアの貿易黒字は今年過去最高を記録する見込みである。
  4. ロシアの石油・ガス販売量が急増

ワシントンの制裁がロシアを「弱体化」させ、その経済にダメージを与えるという目的を達成したという証拠はない。しかし制裁が裏目に出て、その支持者と国民に大きな犠牲を強いることになったというかなりの証拠がある。実際にどれだけの被害が出たかを定量的に示すことは難しいが、最も劇的な影響を及ぼした特定のカテゴリーを特定してみる。制裁は:

  1. 食料・エネルギー価格の高騰を引き起こした(インフレ率の高騰)
  2. 世界の供給網の大混乱(脱グローバリゼーション)
  3. 食糧不足と飢餓の可能性の大幅な増加
  4. 世界経済の深刻な減速を引き起こした。

これまでのところ、ロシアはこうした攻撃にも報復措置もせずじっと耐えてきた。しかし、エネルギーに依存するドイツへのガスの流れを突然40%減らしたのは、メッセージを送る意図があると考えざるを得ない。ノルド・ストリーム2は、ドイツが土壇場で打ち切るまでロシアが完全にコミットしていた、数年がかり、100億ドルの大規模プロジェクトであったことを忘れてはならない。ドイツはいざとなれば、ビジネス上の合意を履行したり、自国民の利益のために行動したりするのではなく、常にワシントンと歩調を合わせて行進するということを証明したのである。しかしドイツが今直面しているのはワシントンのプードルとして行動することは、実に高い代償を伴うということだ。以下、ロイターの記事。

    ガスプロムは火曜日、ドイツへの海底パイプラインノルド・ストリーム1経由の供給を、修理に出していた機器の返却が遅れたことを理由に日量167百万立方メートル(mcm)から最大100mcmに抑制したと発表した。

 ロシアのガスプロムは、ポーランド区間を所有するEuRoPol Gazに対する制裁を受け、Yamal-Europeパイプラインによるポーランド西方へのガス輸出を停止している。Yamal-Europe経由でドイツからポーランドへの東向きの流量は継続される。

     「ガス圧縮機ユニットのシーメンス社による修理からの返却の遅れと技術的なエンジン故障のため、現在ポルトバヤ圧縮ステーションで使用できるのは3台のガス圧縮機ユニットのみである」とガスプロムは述べた。

     「カナダによる制裁措置のためシーメンス・エナジー社は現在、顧客にオーバーホールのガスタービンを納入することは不可能である。このような背景から、我々はカナダとドイツ政府に通知し、実行可能な解決策に取り組んでいる」と同社は述べている。 {2}

当然ながらメディアはメンテナンスの不手際を言い訳にする。しかしそれがどれだけ信用できるだろうか?コンプレッサーの故障で重要な資源の供給が半減することなどどれくらい頻繁に起きるのだろうか?

頻繁にはない。ロシアはドイツに、シンプルだが痛烈なメッセージを送っているのだ。「あなたがベッドを作ったのだから、そこで寝ろ」と。「裏切られた」ロシアの反応は至って普通であろう。

そして、近い将来直面するエネルギー不足を補う術を持たないドイツの苦難はまだ始まったばかりである。計画停電、家屋の凍結、そして国内産業の容赦ない締め付けを引き起こすであろうエネルギー不足を補う手段がないのだ。ドイツ政府が今直面しているのは、ロシアの炭化水素に代わるものとして、容易に入手でき、ドイツの特殊な要求に見合う品質のものがないということだ。いい換えれば、米国は、ドイツが他のエネルギー供給国に切り替えて、すべてがうまくいくと信じているのである。しかしそんなことはない。その結果、ドイツをはじめとするヨーロッパは、世界のどの地域よりも高いエネルギー料金を支払うことになり、EUの競争力が著しく損なわれることになる。これは、ひいては生活水準の急激な低下と社会不安の増大をもたらすだろう。以下は、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事。

 数十年にわたり、ヨーロッパの産業界はロシアから供給される安価な石油と天然ガスにより活況を呈してきた。

 しかし今、ロシアとウクライナ戦争の影響で、ヨーロッパの産業界のエネルギーコストは高騰しており、製造業がグローバル市場で競争する上で足かせになっている。モスクワが突然ガスの供給を停止し、生産が停止する恐れがあるため、工場はロシアのエネルギーに代わるものを見つけようと躍起になっている。

    2月のロシア侵攻を前にロシアとの緊張が高まり、ヨーロッパの化学、肥料、鉄鋼などのエネルギー多消費財の生産者はこの8ヶ月間、圧力を受けてきた。エネルギーコストがヨーロッパよりはるかに低い米国や中東などの工場との競争に直面し、一部の生産者は操業を停止している。天然ガス価格は現在、ヨーロッパでは米国の3倍近くになっている。{3}

ウォール・ストリート・ジャーナルは、ヨーロッパのひどい選択の責任はロシアにあると信じさせたいのだろうが、それは真実ではない。プーチンは価格を上げなかった。EUの制裁による供給不足で需要が増えたため、価格が上昇したのだ。それがどうしてプーチンのせいなのだろうか?

プーチンのせいではない。プーチンが「脅している」と非難したEU当局者も同様でその主張は何の根拠もない。この非難がなされたとき、EUのガス価格は現在の3分の1だった。市場価格よりも安く請求して、どうして脅しになるのだろうか?

もちろん脅していない。ばかげている。ヨーロッパは、アンクルサムの間違ったアドバイスで自分たちのためにそれを台無しにするまで、希少な資源を素晴らしい価格で手に入れていたのだ。今、彼らは法外な金額を払っているが、それは自分の責任だ。

EUの指導者たちは、この冬にエネルギーを配給する計画をすでに立てていることをご存知だろうか?

それは本当だ。ヨーロッパはワシントンの野心的な世界戦略を忠実に実行するために、米国のペットになることに同意した。これがその物語だ。

  国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、この冬、ヨーロッパは天然ガスの産業利用から、特に冬が寒く、中国経済が回復した場合、エネルギーの配給を開始せざるを得なくなる可能性があると述べた。

  「もし厳しい冬、長い冬になれば・・・ヨーロッパで、まずは大規模な産業施設から、天然ガスの配給をすることもありうる」、とビロル氏はFTに語った。

    世界は1970年代よりも「はるかに大きな」エネルギー危機に直面していると、ビロル氏は先月、ドイツの日刊紙『デア・シュピーゲル』に語った。

    「当時は石油だけだった」とビロル氏は報道機関に対し「今は石油危機、ガス危機、電力危機が同時に起きている」と、1970年代のアラブの石油禁輸のショック後に作られた国際機関のトップは語った。{4}

彼女は間違っている。私たちは「石油、ガス、電力の危機」を抱えているわけではない。政治的な危機なのだ。これらの不足はすべて、米国の世界的優位の最盛期に時計の針を戻せると考えているネオコンの幻想家たちの言いなりになっている無能な政治家たちが行った、愚かな選択がその理由なのだ。しかしそんな時代は終わった。ワシントンのシンクタンクにいる自己欺瞞に満ちた狂信者たちと、ペンシルバニア通り1600番地にいる彼らの産みの親たち以外は、誰もが終わったことを知っているようだ。

結論をいうと、世界経済フォーラム(WEF)で、ロシアが後戻りできない変化を遂げる前に、ウクライナ戦争を速やかに収拾するよう仲間に助言したキッシンジャーの言葉に耳を傾けた方がよほどよかっただろう。残念ながら、キッシンジャーの訴えは耳に入らず、プーチンはすでにエネルギーの流れを東に向け始めている。Oilprice.comの記事から、目を見張るような抜粋をご覧いただきたい。 

     1970年代のアラブ石油禁輸措置以来、最大の石油貿易の流れの再編成が進行中であり、事態は決して元には戻らないかもしれない。ロシアのウクライナ侵攻とロシアの石油輸出に対する制裁は世界の石油貿易ルートを変えつつある。過去50年近く、石油は世界のどの供給者からどの需要家へも、多かれ少なかれ自由に流れていた …    この自由なエネルギー取引は、その後の欧米の制裁措置と、何としてもロシアのエネルギーへの依存を断ち切るというヨーロッパの不可逆的な決定によってもはや終わったのだ・・・・・・。

     今年末までにヨーロッパはロシア産原油の輸入をウクライナ戦争前の90%、事実上禁止する見込みである。ヨーロッパ向けの原油については、中東からの原油は、インドや中国への短いルートと比較して、ヨーロッパの港まで長い距離を移動することになる。 

    ヨーロッパにとって石油供給の選択は政治的なものであり、ロシア以外の石油を調達するために割増料金を支払うことを厭わないだろう。このため、供給の選択肢が狭まり、今後数カ月は原油価格は上昇し続けることになるだろう。

     EUがロシアの海上石油輸入を禁輸したことについて、フィッチ・レーティングスは先週、次のように述べている。

     この禁輸は、世界の石油貿易の流れに大きな影響を与えるだろう。EUの輸入の約30%は中東(サウジアラビアとUAEはそれぞれ日量約200万バレルと100万バレルの生産余力を維持している)、アフリカ、米国など他の地域からの代替が必要になるだろう。{5}

これはどういう意味か?

ロシアの膨大な原油供給が東に向かうにつれて、インフレは上昇し続けるということである。それは、米国が30年にわたる「お気に入りのプロジェクト」グローバリゼーションを放棄し、世界をライバルブロックに分裂させたことを意味する。そしてこれは、ドル、債券市場、西側金融システム、そしていわゆる「ルールに基づく秩序」–これらはすべて、ほとんどすべて安価なエネルギーの入手可能性に依存する経済成長と不可分の関係にある–が、きしみ始め、西側諸国とその国民に破滅をもたらした愚かな政策決定の重圧の下でうめき声を上げ始めるだろうということだ。

 ワシントンの自殺にも等しい権力奪取のために、我々は重い代償を払うことになるのである。

Links:

{1} https://oilprice.com/Energy/Natural-Gas/Europes-Gas-Prices-Surge-13-As-Russia-Reduces-Nord-Stream-Flow.html

{2} https://www.reuters.com/business/energy/nord-stream-gas-capacity-restrained-by-repair-delays-gazprom-says-2022-06-14/

{3} https://www.wsj.com/articles/some-european-factories-long-dependent-on-cheap-russian-energy-are-shutting-down-11655112927

{4} https://oilprice.com/Energy/Crude-Oil/IEA-Europe-Could-See-Energy-Rationing-This-Winter.html

{5} https://oilprice.com/Energy/Energy-General/The-Biggest-Reshuffle-Of-Oil-Flows-Since-The-1970s.html

https://www.unz.com/mwhitney/meet-the-new-boss-putin-reroutes-critical-hydrocarbons-eastward-leaving-europe-high-and-dry/