ロシアと中国の北極シルクロードが加速
by Matthew Ehret-Kump
中国の新シルクロードが北極に延長することが2018年1月の白書{1}で初めて公開されてから、地球上で最も重要で過小評価されている開発の1つである北極開発のプロセスが解き放たれた。中国とヨーロッパの間が北極ルートで物資移動が10日短くなるだけでなく、脱成長の世界政府体制に世界を誘導しようとする反人間的な脱成長プログラムに対抗する、新しい文明構築の手段が今解き放たれようとしているのである。
NATOの地政学的一極主義者が世界統治と北極の軍事化に執着する一方で、ユーラシアの北極政策は経済発展と協力に重点を置く、非常に異なる性格になっている。
もちろん、ロシアは北方軍事政策の軍事的要素を軽視しているわけではないが、経済的ビジョンを持たない西側とは異なり、ロシアの北極軍事態勢は明らかに防御であり、主に外交を重視している。昨年のアラスカでの北極圏サミット終了後、ラブロフ外相は「北極圏が平和、安定、協力の領域として発展するよう、ロシアは多くのことを行っているし、今後も行っていくだろう」と述べている。{2}
この北極シルクロードを巡るロシアと中国の北方政策の連携は、2015年に発表されたロシア主導のユーラシア経済連合(EAEUまたはEEU)と一帯一路構想(BRI)の提携{3}以来、両国の密接な戦略的友好関係に注目してきた者にとっては驚くには値しない。この海上シルクロードの北方延長は、地球上の最後の未開拓地を変革し、北極を地政学的な紛争地帯から相互協力と発展の新しいパラダイムに転換する強力な力を象徴しているのである。
プーチンは先日のBRIフォーラムで次のような演説をした:
… グレートユーラシア・パートナーシップと一帯一路のコンセプトは、両方とも誰もが理解できる原則と価値観に根ざしている。それは平和と調和の中で生き、最新の科学的成果と革新的な開発への自由なアクセスから恩恵を受け、同時に文化や独自の精神的アイデンティティを維持するという国家の自然な願望だ。言い換えれば我々は戦略的かつ長期的な利益によって結ばれているのである。
このスピーチの数週間前、ロシアは「北極圏:対話の領域」会議で北極圏開発のための大胆な計画を発表し、それはその後飛躍的に発展している。この大胆な計画は、「グレートユーラシア・パートナーシップ」{4}と結びついており、道路、鉄道、新しい都市を極東に拡張するだけでなく、長く全く人を寄せ付けないと考えられていた地域に科学と文明を広げている。この計画を推進する重要なプロジェクトのひとつが、2002年にインド・イラン・ロシアの共同プロジェクトとしてスタートし、ここ数年で新たな息吹を吹き込まれた国際南北輸送回廊(INSTC)の完成である。
西側諸国が数世代にわたり新しい都市を建設していないのに対し、ロシアは今後数年間にそれぞれ100万人を支える5つの主要な北極圏都市の建設を発表し、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相がこの計画を主導している。このプログラムについて、Atle StaalesenはArctic Today{5}に次のように書いている。
ショイグは、シベリアのマスタープランを近隣の中国の市場と密接に接続させて考えている。しかし、北極圏の発展にとっても新しい都市は重要であると彼は主張し、「ロシアの力はシベリアと北極海とともに成長する[…]」と書いた18世紀の有名な科学者・作家ミハイル・ロモノーソフを引き合いに出している。ロモノーソフは北極とシベリアを偶然に結びつけたのではないとショイグは言う。「北極とシベリアは別々に発展させるのではなく、一緒に発展させるべきだ」と強調し、「シベリア地域の発展に焦点を当てることは、タイムリーで合理的だ」と付け加えた。
一般的に、偏狭な地政学者によって「反BRI」の巨大プロジェクトと決めつけられることが多いが、INSTCとBRIは同じプログラムの表裏一体であり、むしろユーラシア、南西アジア、さらにはアフリカの産業発展のための姉妹プログラムとして捉えるべきものである。INSTCは現在12カ国の参加を得ており、最近、その回廊の北端がサンクトペテルブルクからさらに北のロシアのムルマンスクのラブナ港まで延長された。新疆を通る中国西部の「中間の回廊」も北極圏と極東の接続はいうまでもなく、INSTCに直接接続する鉄道・道路回廊をいくつか備えている。
INSTCがすべて完成すれば、混雑しすぎたスエズ運河を経由する、地中海のNATO支配地域を回避できるだけでなく、現在のスエズルートより約10日間短縮され、輸送コストは40%を削減できるようになる。
2019年、中国とロシアは、北極シルクロードの一環として「中国・ロシア北極圏研究センター」を設立する初の科学協力協定{6}に調印している。
BRIのこれまでの成功
一帯一路構想{7}はすでにアフリカの多くの地域で成功を収めている{8}。BRIによって接続された鉄道、港湾、その他のインフラが、IMF/世界銀行の条件によって長い間人質となっていた国々に新しい風を吹き込んでいるのだ。
パキスタンと西南アジアの多くの国も中国-パキスタン経済回廊の拡大を通じて、BRIにますます乗り気になっている{9}。アラブ20カ国がBRIに署名し{10}、ラテンアメリカ{11}の多くの国も何千億ドルものインフラプロジェクトに参加している。
ユーラシア経済連合は現在、中国とロシア主導の経済ブロックとの間で長期計画された経済条約の最終段階にあり、最近プーチンの顧問のセルゲイ・グラジエフがその概要を説明した{12}。
2013年の発足以来、米国とカナダの両国は何度もBRIに招待されているが、西側を操るNATO・ディープステートの権力構造によって肯定的な回答は許されていない。
中国の北極圏での活動は今になって顕在化しているが、その北極戦略は何年も前から始まっている。
中国にとっての北極シルクロードの重要性
中国は 1999 年に最初の北極圏調査隊を派遣し、2004 年にはノルウェーのスヴァールバルに最初の北極圏調査基地を設置した。長年の努力の末、中国は2011年に北極評議会の常任オブザーバーの地位を獲得し、砕氷船の建造を開始後すぐにカナダを抜き、旧式の砕氷船2隻{13}が耐用年数を過ぎている米国もほぼ凌駕している。
北極圏の氷が後退し続ける中、中国にとって北方海航路は大きな注目点となっている。中国の大連港からロッテルダムまでの航行時間が10日間短縮されることは非常に魅力的である。現在、中国からヨーロッパへ向かう船は、混雑したマラッカ海峡やスエズ運河を経由する必要があり、北方航路よりも5000海里も長い。また、中国の長期的な展望に不可欠な北極圏の資源開放もこの構想の大きな推進力となっている。
資源開発に備え、中国とロシアは2016年に「ロシア中国北極工学・研究センター」を設立し、永久凍土の上での建築、耐氷プラットフォームの作成、より耐久性の高い砕氷船など、北部開発に必要な能力を開発してきた。港湾の強化、極寒の地での輸送に必要な新技術も活動対象だった。中国はさらに、ヤマルLNGプロジェクトに30%出資しており、「パワー・オブ・シベリア」と呼ばれる全長3000マイルのロシア・中国ガスパイプラインは、2019年の操業開始以来、中国の石油と天然ガスの需要の主要供給源となっている。
西側諸国が脱炭素化のために炭化水素ベースの燃料をすべて停止させるという自殺的な競争をしている一方で、ロシアと中国は2600キロの「パワー・オブ・シベリア2」パイプラインに調印した。これは今後数十年間の中国の成長ニーズを満たすだけでなく、鉄のカーテンが再び張られたときにヨーロッパへのガス販売の損失を簡単に補うことができるものである。ヤマル半島のガス田は現在ヨーロッパの需要にのみ対応しているが、「パワー・オブ・シベリア2」が中国に供給するようになれば大きく変わるだろう。
ベルトが行くところに
道は続く
一帯一路は陸と海の2つの要素で構成されているが、実は両者は切っても切れない関係にある。鉄道や港湾など、科学技術の進歩を信じる文明建設が、各国の発展経路に適応する力と柔軟性をこの計画に与えているのだ。これこそ、ゼロサム思考しかできない閉鎖的な地政学者の頭を悩ませる、BRIの強力な適応力の謎の「隠し味」なのである。
科学技術の進歩は、人類共通の利益を支持する意思によって形成された場合、人類生存のための普遍的な要件を表し、すべての人々の最も深い核心にある創造的渇望を満たす。社会の生産力と生活の質の継続的な向上に対するこのコミットメントがなければ、社会は常に、自分たちの短期的な利益のために戦う部分的な利己主義によって分裂することになる。それが、1960年代の暗殺事件と1971年のドル変動制以降、「ポスト工業的存在様式」{14}によって消費社会に乗り出した西洋の運命だった。
この人類全体と各部分の共通の発展という概念は、最近、習近平が次のように述べている{15}:
中国は国際パートナーとともに「一帯一路」構想を共同推進する用意がある。我々はこの国際協力の新たなプラットフォームを通じて、共通の発展を後押しする新たな原動力を生み出すことを望んでいる。平和、繁栄、開放、グリーンな発展、イノベーションの道、異なる文明を結びつける道とすることを望んでいる。
この10年間で、BRIは2013年の緩やかでオープンなコンセプトから、人類史上最も野心的な試みへと発展し、3本の主要鉄道路線、数千キロに及ぶ高速鉄道、北極圏や宇宙空間への拡張、新たな産業回廊、教育政策の新しい形、そして特に西洋では行われていない新しい銀行業務の実行形態にまで広がっている。
もちろん、反BRIの誹謗中傷は日を追うごとに増え、中国が “借金漬け外交 “をしている、ロシアはウクライナを征服したとたんに次は世界征服を企んでいる、といったニュースを信じ込まされる主流派の普通の人々の関心を満たしている。
さらにより綿密な陰謀論者は、ロシアと中国の同盟は、世界の人口を愚鈍な家畜の状態にまで減らそうとするグレートリセットの一部に過ぎないと信じるよう仕向けられている。そのような狡猾な目的が大規模なインフラプロジェクトの建設、大量の技術訓練、科学的ブレークスルー、全領域の産業成長によっていったいどのように達成されるのかこうした極端な皮肉屋たちは考えないのである。
Links:
{1} https://arcticyearbook.com/images/yearbook/2018/Scholarly_Papers/24_AY2018_Kong.pdf
{2} https://www.rt.com/news/388039-arctic-council-alaska-lavrov/
{4} http://greater-europe.org/archives/6506
{6} http://tass.com/press-releases/1053930
{7} https://larouchepac.com/20170509/belt-and-road-initiative-defining-project-our-century{8} https://africanbusinessmagazine.com/region/china/african-leaders-sign-billions-in-deals-at-chinas-belt-and-road-summit/
{10} https://risingtidefoundation.substack.com/p/favorable-winds-from-china-how-the
{11} https://risingtidefoundation.net/2021/09/08/new-silk-road-prepares-new-paradigm-in-latin-america/
{12} http://www.eurasiancommission.org/en/nae/news/Pages/17-09-2020-1.aspx
{14} https://www.youtube.com/watch?v=dEOqcb5QgHY
{15} http://www.xinhuanet.com/english/2018-09/03/c_137441987.htm
https://www.globalresearch.ca/russia-china-polar-silk-road-speeds-ahead/5786862