No. 1536 文化的帝国主義と認識管理

文化的帝国主義と認識管理
ハリウッドはいかにして米国の戦争犯罪を隠すか

by Mahdi Darius Nazemroaya

ハリウッドと米国政府の間には、米国の外交政策をあからさまに支持する、暗黙の、しかし非常に明確な絆がある。ハリウッドの映画産業は積極的に、米国の戦争犯罪を隠し、NATOが駐留するアフガニスタンや英米が占領するイラク、そして世界の他の場所での米国の軍事作戦を神聖化してきた。さらに、ハリウッドが文化的帝国主義のツールとしてヨーロッパとその他の国々を支配することで、ハリウッド映画はワシントンの考えを国際的に広め、誤った物語によって世界の観客をなだめる優れたツールとなっている。

文化的帝国主義と認識管理
ハリウッドはいかにして米国の戦争犯罪を隠すか

ニュースメディアは別として、米国やその他の国々の一般大衆が戦争について持つ考えや観念のほとんどが、映画、テレビ、ラジオ番組、ビデオゲーム、そして娯楽産業から来ることは驚くにはあたらないだろう。映画や娯楽産業は、観客の役割を特定するのに理想的である。多くの場合、映画と娯楽産業は、ニュースメディアよりも戦争や紛争に関する観客の認識を形成している。

映画は、どの個人、グループ、民族、国家がヒーローで、犠牲者で、侵略者で、悪者であるかを特定するのに使われる。この点でハリウッドはイラン、中国、ロシア、キューバ、北朝鮮といった国々を悪者にする一方で、米国を擁護している。ハリウッドはまた、歴史をゆがめ、歴史修正主義的な物語を再定義する。歴史的事実や現実からかけ離れたところで、ほとんどの米国市民や多くの西欧人が、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の結果は大西洋において米国が決めたのであって、ソ連が東欧と中央アジアで決めたのではないと信じているのはこのためである。

米国と西欧のほとんどの人々の認識は、歴史の教科書や学術書ではなく、ハリウッドと娯楽産業の影響を受けている。フランス世論研究所がフランスで行った第二次世界大戦に関する世論調査{1}は、ハリウッドの影響力による米国の文化的帝国主義がいかに展開されたかを示している。1945年に行われた世論調査では、フランス国民の57%が第二次世界大戦でドイツはソ連によって敗北したと考えていたのに対し、20%は米国によって、12%はイギリスによって敗北したと考えていた。1994年の調査では見方が歪み、25%のフランス人がヒトラーを倒したのはソ連のおかげだと考えていたのに対し、49%は米国のおかげ、16%はイギリスのおかげだと考えた。2004年には、ヨーロッパで第二次世界大戦を終わらせた主役はソ連だと認識しているフランス人はわずか20%で、58%が米国、16%がイギリスだと考えている。

第二次世界大戦を経験していない若い世代は、現代のマスメディア、特に映画や娯楽産業によって認識を形成されていると推察できる。だからこそ、CNNのクリスティアン・アマンプールは、2014年6月6日、フランスのブヌヴィル城で行われたD-Day70周年記念式典で、次のように大胆に宣言することができたのだろう。

  … 第二次世界大戦中のアイゼンハワー将軍とルーズベルト大統領のもとでの米国の努力、つまり米国の最高に英雄的な努力は、大陸全体(つまりヨーロッパ)がこの70年間、米国に感謝してきたものなのだ。

CNNのアマンプール記者は、ロシアを非難し、第二次世界大戦におけるロシアの役割を貶める一方で、フランス政府が「本日は米国に感謝する日であり、とりわけ歴史の流れを変えた米国に感謝している」と強調したと述べた。

ハリウッドと軍産複合体の垂直統合

ハリウッドと米国政府との結びつきが認められたのは、1927年の無声戦争映画「Wings(翼)」の制作からである。この無声映画は第一次世界大戦を描いたもので、米陸軍の航空部隊である米陸軍航空隊に大きく依存していた。1927年の『Wings』の製作以来、国防総省とハリウッドの間には密接な協力関係が作られ、それは中央情報局(CIA)など16のメンバーからなる米国情報機関のメンバーを含む他の政府機関や組織にも拡大し、開花してきた。その結果、ハリウッドと娯楽産業は軍産複合体に垂直統合され、ハリウッド映画は文化的帝国主義の道具となり米国のプロパガンダを隠蔽するようになったのである。

米国政府は、ハリウッド映画の脚本内容をますます操作し始め、米軍とその作戦を美化し、担ぎ上げるようになった。国防総省と米国政府は、米国の戦争の真の悪意を明らかにするような映画やテレビの制作は援助しない。 戦争と米国の外交政策を英雄的で高貴な解決策のように見せる作品にのみ、資金的、物質的援助は与えられる。『ハリウッド作戦』の著者であるデイブ・ロブはこのことを見事に描いている。例えば、国防総省は1961年の『ラッシー』のエピソード『ティミーと火星人』のプロットと脚本をすべて変更させた。このエピソードはもともと、主人公の犬ラッシーが遠吠えでティミーに飛行機事故を知らせるというものだった。当初は、米国の飛行機が墜落したのは設計上の欠陥があったからで、それをラッシーが高い音で感知し、識別する番組を作りたかった。 しかし、米軍は、たとえ遠回しであっても米軍のハードウェアに設計上の欠陥があるかもしれないことを想起させる脚本は一切認めなかった。米政府や国防総省は、子供たちに「米軍の装備に欠陥があるかもしれない」と思われると、将来の米軍への勧誘に響くので困るからである。 そのためペンタゴンの支持を得るためには、飛行機墜落の状況は書き換える必要があった。

この関係が、事実上、米国の戦争と侵略を神聖化し、ワシントンの外交政策を正当化してきた。その結果、歴史的に歪んだ映画が作られるようになったのである。ハリウッドの一端では、このことがハリウッドの自己検閲につながり、他方では政府の補助を受けたプロパガンダにつながった。ハリウッドの脚本家たちが自己検閲された映画の脚本を起草するのは、彼らはそれによってペンタゴンや米国政府からの援助を依頼でき、それによってハリウッド作品の予算を大幅に削減し、プロデューサーは大金を節約できることを知っているからである。ハリウッドの脚本はこの視点から常に修正され、ペンタゴンはロサンゼルスに映画連絡部隊と呼ばれるハリウッドの監督やプロデューサーと取引する組織を持っているほどである。

米国の戦争犯罪を隠すハリウッドの役割

米国は『トップガン』のような映画を宣伝や勧誘の材料として使う一方で、『グリーンベレー』のような映画を使って戦争における米国の役割を歪め、CIAが事実確認をしたとされる『アルゴ』のような映画を使って歴史認識を歪めてしまった。『アイアンマン』や『ローン・サバイバー』のようなハリウッド映画はなぜアフガニスタンや中央アジアに米軍がいるのか、その背景を説明することはない。あたかも米国はそこに招かれたように描き、米軍を単なる平和維持要員として見せることもあった。『トランスフォーマー』、『GIジョー』、『ファンタスティック4』などの映画では、米国が、ロシアや中国を含む世界のどこでも、他国の主権を無視し、米軍基地をその土地に置くことさえして、平然と行動することを命じられているように描いている。

米軍は中国本土に管轄権はないし、ペンタゴンはロシアの領土に基地を持っていない。これらのハリウッド映画は、米国の他国への干渉は当然のもので米軍には何でもする権利があるという誤った印象を植え付けている。

米国の外交政策の暗い面を扱わないことはさておいて、『フォレスト・ガンプ』のようなハリウッド映画は、サブリミナル・メッセージを伝えている。米国の文化・娯楽雑誌『ローリング・ストーン』誌の言葉を借りれば:

     『フォレスト・ガンプ』のメッセージは、「難しいことを考えすぎると、エイズになるか、足がなくなる」というものだ。一方、主人公は、国から無茶なことを頼まれると、ただ肩をすくめて「どうにでもなれ!」と言うバカだ。

ローリング・ストーン誌が言っているのは、命じられたことをやれ、ということなのだ。

そして、『アメリカン・スナイパー』のように、米国の外交政策を個々の登場人物という単純な概念に落とし込んでしまう映画もある。つまり、もしあなたが米国の戦争を批判するならば、兵士とその信念を攻撃することになる。これは兵士の陰に隠れ、不法な侵略と占領という本当の問題から遠ざかっている。また、アブグレイブ(イラク人被収容者が虐待された刑務所)や大量破壊兵器の嘘についても触れられていない。ローリング・ストーン誌は『アメリカン・スナイパー』について次のように述べている。

     『アメリカン・スナイパー』は、その政治性があまりにも滑稽で馬鹿馬鹿しい映画で、通常であれば批判にさえ値しない。この映画を真剣に受け止めざるを得ないのは、ほとんど同じような世界観が、問題の戦争に我々を巻き込んだ、小さな心しか持たない大統領を蝕んでいたという、異常な事実だけなのである。

    この映画が人気を博し、実際に多くの人々に理解されていることこそが問題なのだ。

実際、この映画の結果、米国ではヘイトクライムが増え、アラブ人やイスラム教徒に対する否定的な感情{4}が生まれた。

ハリウッド映画で描かれているように、現実のクリス・カイルは米国の生活様式を守るヒーローでもなかった。彼は、そもそもイラクにいるべきでない占領軍の一員であり、彼が戦っていたのは、イラクの占領に抵抗するために出現した「反乱軍」と呼ばれるものだった。カイルはまた、ニューオリンズで30人の米国人仲間が略奪しているから殺せと命じられたと主張した。彼はまた嘘つきでも知られており、本の中でイラク人を殺すのが好きだとも認めている。

ハリウッドは米国の戦争犯罪を正当化し、虚像を作り出すのに役立っている。またハリウッド映画も諜報活動の一部であることは驚くには値しない。映画『アルゴ』の監督で、『アルゴ』の製作に協力したCIAを敬愛するベン・アフレックは、キャサリン・シャードから「ハリウッドはCIAのエージェントだらけなのか」と聞かれたとき、「ハリウッドはおそらくCIAエージェントだらけだと思う」と答えている{5}。

ハリウッドへのCIAの関与については、米国上院議員のトム・ヘイデンの言葉を引用しておくといいだろう。

     こう考えてほしい。ハリウッドがCIAと癒着しているのではなく、CIAが最も人気のある娯楽を通じて、CIAに関する肯定的なイメージ(言い換えれば、プロパガンダ)を植え付けようと考えているということだ。CIAと娯楽のつながりがあまりにも自然であるため、その法的あるいは道徳的な意味を問う人はほとんどいない。これは他の政府機関にはないもので、その活動の真実は公的な検証の対象にはならない。CIAがハリウッド映画に影響を与えるということは、CIAのイメージをできるだけ良くするため、あるいは少なくとも悪いイメージが定着するのを防ぐために、人気のあるメディアを利用しているということだ。両者の関係が深すぎれば、こうした関係は政府の法律の精神や文言に違反する、とジェンキンスは主張している{6}。

米国の外交政策や戦争の道具としての映画の重要性は無視できない。その重要性を示すように、米国内では米国の戦争犯罪や現実を隠すために映画が検閲されてきた。1946年のドキュメンタリー映画『Let There Be Light』はジョン・ヒューストン監督の戦争で心に傷を負った米兵の生活を描いたものだが、米国民の意識に関わるとして30年以上も米国内での視聴が禁止された。

もしハリウッドが中立であるとか、北朝鮮の体制転換を促すセス・ローゲンのコメディ『ザ・インタビュー』のような映画は害にならないと思うのであれば、もう一度考えてみてほしい。ハリウッドは、ワシントンが認識管理という戦争を行い、米国の戦争犯罪を隠すのを助けているのだ。

Links:

{1} http://www.les-crises.fr/la-fabrique-du-cretin-defaite-nazis/

{2} http://www.rollingstone.com/politics/news/american-sniper-is-almost-too-dumb-to-criticize-20150121

{3} http://www.rollingstone.com/politics/news/american-sniper-is-almost-too-dumb-to-criticize-20150121

{4} http://www.independent.co.uk/news/world/americas/clint-eastwoods-american-sniper-film-has-caused-rise-in-antimuslim-threats-10001258.html

{5} http://www.theguardian.com/film/video/2012/nov/07/ben-affleck-argo-video-interview

{6} http://www.salon.com/2013/02/28/is_hollywood_secretly_in_bed_with_the_cia_partner/

https://www.globalresearch.ca/cultural-imperialism-and-perception-management-how-hollywood-hides-us-war-crimes/5473497