中国が現状をリセットすれば、米国は台湾について“良い選択肢はない”
by Kathrin Hille in Taipei
台湾の蔡英文総統は今週、北京に対して厳しいメッセージを発した。「台湾を侵略したり、侵略しようとしたりすれば、非常に大きな代償を払うことになるということを敵に理解させる必要がある」と彼女は言った。中国が砲撃を開始したものの、台北が支配する離島を奪取できなかった64年前の第2次台湾海峡危機を記念して、彼女はこう述べたのである。
中国を抑止することは台湾の安全保障を担っている米国にとっても最重要課題である。複数の国の政府関係者やアナリストは、バイデン政権が、紛争をエスカレートさせることなく、台湾に対する圧力キャンペーンで得た北京の地歩を否定することはほぼ不可能であり、米国が次に何をするかについて大きな疑問が投げかけられている、と指摘した。
中国人民解放軍(PLA)は8月、物議をかもしたナンシー・ペロシ米下院議長の台北訪問を受けて、台湾周辺で7日間にわたり前例のない演習を行った。PLAは以前より台湾に近い場所で毎日空と海軍の動きを続けており、台北とワシントンは北京がペロシ訪問を口実に台湾をめぐる現状を変更したと述べている。
カーネギー国際平和財団のシンクタンクでインド太平洋地域の安全保障を担当するアシュリー・タウンシェンド上級研究員は、「現状は米国と台湾にとって好ましくない形にリセットされており、米国にはこれに対応する良い選択肢がない」と述べた。「他の現状維持派と同様に、もしあなたが責任ある態度にでて敵がエスカレートしてきたら、あなたは負けることになる」。
1958年の攻撃とは異なり、今回のPLAは戦争の敷居を下げる動きをしている。台湾の領土を攻撃することはなかったが上空を通過するミサイルを発射した。中国の戦闘機は台湾海峡の中間線を毎日通過している。そこは以前は双方が尊重していた緩衝地帯で、台湾が戦闘機を発進させると引き返していた。
脅威の高まりを反映し、台湾は軍事予算の大幅な増加を望んでいる。木曜日に議会に提出された予算案によると、政府は来年の国防費全体を約14%増の586億台湾ドル(190億ドル)に引き上げることを求めている。
アナリストによれば、PLAの動きは、中国が台湾に対する主権を主張するのを支えるのに役立つという。シンクタンク、ランド・コーポレーションのPLA専門家であるクリステン・ガネスは、「台湾周辺の海域と空域における中国の存在は、彼らが望めばそれを支配できることを行動で示している」と述べた。またこれは、中国が望めば、台湾の出入りの空と海の貿易をすべて管理する検疫体制を敷くことができるという北京からのシグナルであるとも見ている。
中国が得たものを取り戻すために米国が軍事作戦を行うことは問題外である。なぜなら、それは不釣り合いとみなされ、新たなエスカレーションの引き金になりかねないとアナリストは言う。
「米国の主要な目的である、作戦の自由と移動の自由を制限する可能性のあるPLAの存在が常態化すれば、エスカレーションの可能性という点では、危険な時期である」とガネスは言う。「それは大がかりなデモンストレーションだった。そして期待していたような外交的・経済的なフォローアップがなされてない。より大きな紛争にエスカレートさせたくないからだと思う」。
米国は、軽率な行動はとらないが、引き下がることもないという意思表示をしている。ホワイトハウスのアジア担当トップであるカート・キャンベルは先週、米国の返答は「責任ある、着実で、断固としたもの」だと言った。 「我々は抑止されることはない」と述べ、米軍は近々台湾海峡を定期的に通過する予定だと付け加えた。米国はまた、台湾への侵攻に対抗するために不可欠な軍需品や武器の販売を加速させたいと考えている。
木曜日、米第7艦隊は空母戦闘群が日本の自衛隊とフィリピン海(台湾の南東にある西太平洋の一部)で数日間合同演習を行ったと発表した。
しかし、それだけでは十分でないとの見方もある。「米国が、国際法が許す限りどこまでも航行し、飛行し、活動すると言ったとき、それは抑止力ではなく物事を維持するだけだ。草刈りのようなものだ」とタウンゼントは言う。「彼らは合法的な主張をしている。しかし今までPLAを抑止することはできなかった。」
タウンゼントは、アジアと太平洋地域における米国の軍事力の相対的な低下が事態を悪化させたと付け加えた。「台湾を守ると言うジョー・バイデン大統領のレトリックと、許容できるコストとリスクでそれを行うための米軍の準備がますます不十分になっている現実との間には緊張関係がある。過去には、米国が台湾を守るために何をするかは、能力ではなく、意志の問題だった。今はその両方だ」。
このような背景から、米海軍の次の台湾海峡通過は、通常とは異なる意味を持つことになるだろう。専門家の中には、中国に対する抑止力を強化するために通常より多くの艦船を台湾海峡に通す、同盟国と共同で行う、あるいは空母を派遣する、などのオプションがあると指摘する者もいる。
日本の政府高官は、日米両国は中国の侵略を阻止する決意を示すべきだと述べた。「中国が新しい常態を作り出すことを許してはならない」とこの高官は言い、日米合同演習は「この地域に新しい常態を作り出すことを抑止する」ために必要だと付け加えた。
しかし日本は例外である。日本は台湾をめぐる紛争で直接的な影響を受ける。なぜなら日本には米軍が戦争に介入するための基地があり、日本の最西端の島々は中国の攻撃時に米海兵隊が台湾に入るための中継地となり得るからだ。
「他の同盟国が今より強力な対応をすることを嫌っている」と、この地域のある米国外交官は述べた。
その結果、米国がより強硬に対応してくれるという台湾の希望は無駄に終わるかもしれない。
「台湾に対して疑いようのない戦争行為である重大な侵略行為を行わせるまで、中国をエスカレーションさせようとしても、地域の支持は得られないだろう」とタウンゼントは言う。
中国と米国は台湾をめぐって戦争をするのだろうか?
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