No. 1575 ヨーロッパの最大の敵はロシアではない

ヨーロッパの最大の敵は、ロシアでもなく
イスラム派のテロでもなく、イスラエルだ

Europe’s Biggest Enemy Isn’t Russia …
… Nor Islamic Terrorism, but Israel

イラン核合意は、ジョー・バイデンがどれほどヨーロッパを愛しているかを示す究極のテストである。

by Martin Jay

ジョー・バイデンが大統領に就任したとき、多くの専門家が、少なくとも米国とEUの関係は修復されるだろう、と言った。しかしイラン核合意は彼がどれだけヨーロッパを大切にしているかを示す、究極の試金石となる。

イスラエルは、イランと欧米諸国によるいわゆるイラン核合意の調印を阻止するために、どこまでやるつもりなのだろうか?そして、公正なゲームをするのか、それとも、合意を決して締結させないという目標を達成するために、卑怯で秘密めいた戦術を用いるのだろうか?最近、ウィーンでの交渉が進展し、イラン側は交渉の重要なポイントを除外し、合意に近づけようとしていると米国人ですら見ている。またイスラエルが、少なくとも広報やロビー活動の観点から、あらゆる手段を講じていることも確認されている。

さらに、会談を破壊するための狡猾な手口という怪しい話題もある。もしあなたが、庭のはずれにいる妖精や、ある歯磨き粉を使えば歯が白くなると信じているような人であるなら、イスラエルがモサド(イスラエル諜報機関)を使って核合意を頓挫させたということは信じないかもしれない。

例えばイラクで米軍への攻撃{1}をしたのはイランの支援を受けた民兵だったといえば普通多くの人がイランを非難し、テヘランは核合意にまったく本気ではなく核爆弾を開発するのに時間をかけているだけだと言うだろう。そして、サルマン・ラシュディ襲撃事件という奇妙な事件が起きた。この事件でも、多くの人が、イギリス人に対していまだにファトワ(イスラムの法解釈)が生きているイラン人のせいにするだろう。実際、最高指導者でさえ、ナイフで刺されたと聞いたとき、ラシュディを非難するコメントをしたと報じられている。イスラエルのメディアでさえモサドがやったと推測している{2}ことを考えると、単純明快な事件と結論づけるのは簡単ではないだろうか?

しかし、著者は、モサドの汚い仕業であったニューヨークの9月11日の攻撃のように、これらの以前の攻撃もイスラエル人によるものだと考えている。イスラエル人はイランに罪を着せることができる大きな攻撃を米国で計画しているのかもしれない。実際、米国、米国人はイスラム教やアラブ世界に関することにあまりに無知なので、このような攻撃をイランに関連付ける必要もなく、ただ単に「イスラム派のテロリスト」でそれがテヘランと細いつながりがあるかもしれないというだけでよいのである。

イスラエルのエリートたちは、制裁緩和が経済に与える影響を考えればイラン核合意はテヘランの力を飛躍的に高めると考えているため、核合意を阻止するためならイスラエルに制約はない。しかし、イランが経済的に地域のプレーヤーとして台頭することはイスラエルにとって常に脅威である。特に、かつてのけもの扱いされていた国であるイランにスポットライトが当たり、イスラエルとイランの間の憎悪の不正行為を多くの人が目にすることになるからである。何十年もの間、西側がイランに関して湾岸諸国を煽り、イランへの恐怖から彼らが米国やイギリスから大量に武器を購入したように、イスラエルも自国民との国内政治のために、また毎年イスラエルに送られている法外な額の軍事援助を正当化するために、イランが脅威であるという糸を保ち続ける必要があるのだ。

しかしレバノンでヒズボラ(レバノンのシーア派イスラム主義の政治組織、武装組織)とつながりのある人なら、この脅威はまやかしであり、両者は互いに尊敬の念を抱いていると言うだろう。実際には、両陣営とも自国民を騙して、政治的支持を得るために攻撃の脅威を信じ込ませているのである。例えば、ヒズボラがイスラエルと小競り合いを始めようとしているという、イスラエルのメディアにおけるマシュー・レヴィットの最近の主張{3}は、レバノンのシーア派集団に近い人たちが、ヒズボラは怖くてそんなことはできないとして真剣に受け止められていない。しかしそれがイランの最高指導者の指示を受けているとなれば話は別である。

ヒズボラとイスラエルの、レバノンにおける巧妙なトリックのゲームは、イランが本当に西側との制裁解除のための取引に応じようとしているのか、それとも時間を稼ぐために我々をもてあそんでいるだけなのかと、一部の識者に疑問を抱かせている。確かにイスラエルは、最近の必死な態度は矛盾しがちで、どっちつかずになっている。

ヒズボラはイスラエルにとって有益で、イスラエルは統治責任を問われるよりも、防衛費など国境に関する取り組みに力を入れることができる。ヒズボラにとってもまったく同じだ。イスラエルが攻撃を仕掛けるという脅威は、繰り返すが、レバノンにおけるヒズボラ支持の根幹をなしている。この脅威がなければ、ヒズボラは一夜にして支持の半分を失うかもしれない。イスラエルがイランとヒズボラの活動を標的にシリアを爆撃し続ける理由の一つはここにある。夢を持ち続けるためだ。ヒズボラが、レバノンがイスラエルの海上国境近くにガスの掘削権を確保することに対して落胆しているのもこのためである。

しかし、欧州経済が不況に陥っている今、私たちはもっと大きな視点で考える必要がある。イスラエルがイラン核合意を頓挫させられず、再びイランが米国の歓心を買うような合意をすれば、イラン経済は確実に回復し、EUとの貿易は月10億ドルに戻るだろう。しかし、見落とされ、主流メディアの物語から注意深く除外されている些細なことが一つある。それは核合意が進んだ時のヨーロッパへの影響である。石油やガスの不足に悩まされているEU諸国の多くに、安価なイランの石油が送られることになる。イランの石油は、石油やガスの不足に悩むEU諸国に送られ、現在の市場価格は天の恵みとなり、イスラエルをさらに激怒させるだろう。ヨーロッパ人、そしてイギリス人ですら、イランをより好ましい国として見るようになるだろう。嫌なプーチンや一般的に憎まれているロシアよりも、イランを冷遇から戻すべきだと多くの人が主張するだろう。少なくとも、イラン人とは話ができる、と多くの人が言うだろう。この考え方は、ウクライナ戦争やロシアへの制裁に関するあらゆる現実から切り離されているように見えるブリュッセルにいるEUの戦争の犬たちも見逃すことはできない。イランからの安価な石油がEU経済を救うと思っているのだろうか。バイデンも事態がどのように推移するかを助言されたに違いない。しかし、EU諸国を自滅させることが米国経済を押し上げるとワシントンポスト紙が書いているように{5}、EU諸国にとって安価な石油は米国に直接有利にはならない。だからヨーロッパとの特別な関係はおしまいなのだ。イスラエルにとっても、ワシントンにとっても。

Links:

{1} https://www.reuters.com/world/middle-east/rocket-attack-iraqi-base-housing-us-forces-iraqi-military-sources-2021-07-07/

{2} https://www.jpost.com/international/article-715333

{3} https://www.jpost.com/arab-israeli-conflict/article-716896

{4} https://en.radiofarda.com/a/iran-s-exports-to-eu-drop-sixteen-fold-as-europe-stops-buying-iranian-oil/29920816.html

{5} https://www.washingtonpost.com/us-policy/2022/09/11/europe-energy-crisis-white-house/

Europe’s Biggest Enemy Isn’t Russia Nor Islamic Terrorism, but Israel