ノルド・ストリームへの攻撃は、ウクライナにおける対話という展望を閉ざした
by M K Bradrakumar
月曜日に、スウェーデンとデンマークの排他的経済水域で、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン、ノルド・ストリーム 1とノルド・ストリーム 2{1}に数時間のうちに次々見つかった漏出は爆発によるものだった。スウェーデンのアン・リンデ外相は、今回の爆破は「起爆による結果であり、おそらく破壊工作によるものだろう。我々は情報収集を続け、いかなる原因、行為者、動機も除外しない」とツイートした。
スウェーデンのマグダレナ・アンダーソン首相も同じ意見で、「破壊工作の問題」と表現し、現在どの説も除外されていないことを付け加えた。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相はその後、ロイター通信の報道を引用し、「これらは意図的な行動だというのが当局の明確な評価だ。事故ではない」と述べた。これに先立ち、デンマーク当局は、パイプラインの事件は事故によるものではないとの声明を発表している。
一方、欧州議会議員で元ポーランド外相のラドスワフ・シコルスキは、ノルド・ストリームのパイププラインに損傷を与えた米国に感謝の意を表明した{2}。 「小さなことだが、とても嬉しい。そしてありがとう、USA」とシコルスキはツイートした。
シコルスキは、ロシアがウクライナで軍事行動を開始する前の2月7日に、ジョー・バイデン米大統領が、もしモスクワがキエフに対して行動を起こせば、「ノルド・ストリーム2はなくなるだろう。我々はそれに終止符を打つ」と脅したことを引き合いに出した。ジャーナリストがバイデンにその意味を尋ねると、「私は約束する、我々はそれをすることができる」と謎めいた言葉を発したのである。
実際、ノルド・ストリームが攻撃された事件現場から30km以内に、最近、米国の軍艦2群が目撃されたという情報もある。
シコルスキによれば、ノルド・ストリームの損傷はロシアの作戦行動を狭めたという。なぜならモスクワは今後、ヨーロッパへのガス供給を再開するためにドルジバとヤマルのガスパイプラインを管理している国、それぞれウクライナとポーランドと話し合わなければならないからだ。
ドイツの治安当局は、海底パイプラインを破損させることができるのは国家の仕業だけだと見解を示し、ダイバーやミニ潜水艦が地雷や爆発物を設置した可能性があるとしている。米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、コメントを求められた際、「(破壊工作の)初期段階の報告で、まだ確認していない。しかしもし確認したとしても、明らかに誰の利益にもならない」と言及を避けた。
米国の視点からすると、ブリンケンが言うように{3}、欧州のエネルギー供給に関して「今後数ヶ月の間に明確な課題がある」一方で、「2つのことを行う非常に大きな好機がある」。1つは「ロシアのエネルギーへのヨーロッパの依存を最終的に終わらせる」こと、もう1つは「再生可能エネルギーへの移行を加速させ」、西側が「気候変動問題」に対処できるようになることである。
明らかに、ワシントンにとっては、今後ロシアの石油輸出に価格上限を課し、欧米が課した対ロシア禁輸措置もあって、今年、米国が世界最大のLNG輸出国となった節目に欧州へのLNG供給を「急増」させることが優先課題なのである。そして、価格上限を決めるにはEUのお墨付きが必要になる。
地政学的な影響は自明である。ノルド・ストリームへの攻撃は、月曜日にドンバス、ザポロージエ、ヘルソンでロシアへの併合を問う住民投票が行われている時に行われた。日曜日にバイデンは、米国はウクライナの領土をウクライナの一部以外とは認めず、「ロシアの住民投票は偽物だ」とする強い声明を発表した。
要は、シコルスキが指摘するように、ノルド・ストリームが致命的なダメージを受けた今、ロシアがドイツへのガス供給を再開するとしたら、ポーランドとウクライナを通るソ連時代のパイプラインを経由するしかない。しかし、ワルシャワとキエフは、今の状況では協力する気にならないだろう。
原則的にロシアは、深刻な経済危機が目前に迫りノルド・ストリーム 2の稼働に対するベルリンの決定を見直す要求が高まっている時期に、ドイツの政策に対して持っていた影響力を失うことになったのである。先週、ドイツでは、エネルギー不足を解消するためにノルド・ストリーム 2の稼働を求める大規模なデモが行われた。
ドイツ指導部にはもはやロシアからのガス供給再開に食らいつくという選択肢はない(ポーランドとウクライナにヤマル・パイプラインとドルジバ・パイプラインの再開を懇願する以外には)。一方、先週末ショルツ首相は湾岸諸国(サウジアラビア、UAE、カタール)を訪問し石油供給の拡大を求めていたが、期待したほどの成果は得られなかった。
サウジアラビアはロシアと協調して原油生産規制を行っているが、西側諸国がエネルギーの完全自立をめぐってロシアと対立する中、国際舞台で曖昧な立場を保っている。UAEでは、シュルツは2022年末までにLNGを供給することを定めたエネルギー安全保障協定に署名し、やや良い成果を上げた。
別の見方をすれば、ノルド・ストリーム・パイプラインはウクライナ紛争が秋から12月まで小康状態を保つと予想される決定的な時期に使用不能になったということである。これはモスクワとの対話が狭まれると考えられる。ショルツの湾岸訪問ツアーはロシアのプーチン大統領と良好な関係にあるサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子に助けを求める目的もあったという噂もある。 (サルマン皇太子は最近、モスクワとキエフの間で行われた囚人交換を取り持ち、9月23日の『ウォールストリート・ジャーナル』紙{4}の報道によれば、ロシアのオリガルヒで政治家のロマン・アブラモヴィッチが仲介役を務めている)。
要するに、欧州とロシアの対話という構造においては、欧州の経済危機を緩和するためにロシアのエネルギー供給を再開することが中心テーマとなる。したがってノルド・ストリームを襲った者は、完璧なタイミングを見計らったと言える。この卑劣な行為は国家ぐるみであり、紛争を長引かせたい西側諸国の強力な勢力が、停戦と対話を望む初期の蠢動を、どんな手を使っても封じ込めようとすることを浮き彫りにしたのである。
このような「意図的な破壊工作」は事前に多くの計画を必要とする。当然のことながらクレムリンは「この事件を非常に懸念している」と述べている。今回の事件は3月末にキエフとモスクワの間で結ばれたイスタンブール協定を英米が妨害し、戦争を5カ月延長させたのと同じようなものである。
今回の場合は、戦争ロビーが舟橋を撤去し、ヨーロッパ諸国がロシアのガスを調達して経済を救済する手段をとれないようにしたのである。
ハンガリーのオルバン首相が皮肉ったように、米国の石油会社は「戦争成金」になったのだ。米国はエネルギー供給国としてロシアに取って代わっただけでなく、ガスプロムとの契約価格の8倍から10倍を支払うことをヨーロッパに強要しているのである。
Links:
{1} https://tass.com/economy/1514417
{2} https://tass.com/world/1514367
{3} https://www.rt.com/news/563626-blinken-nord-stream-sabotage/
https://www.indianpunchline.com/attack-on-nord-stream-kills-prospects-for-dialogue-in-ukraine/