No. 1582 パイプライン・テロは怒涛の20年代の9/11である  

パイプライン・テロは怒涛の20年代の9/11である

by Pepe Escobar

公平な未来の歴史家が、9月30日に行われたロシアのプーチン大統領による「赤ちゃん熊たちの帰還」(ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャ)の演説を怒涛の20年代の変曲点として位置づけることは間違いないだろう。

彼の演説は2007 年のミュンヘン安全保障会議での演説の誠実さと明瞭さが根底にあったが、今回は地政学的な「ニュー・グレート・ゲーム」のわなを大きく超えている。

この演説は「グローバルサウス」の国々に向けたものだった。重要な一節で、プーチンは、“世界は革命的な変革の時代に入り、それは本質的に根本的なものである。新しい発展の中心が形成されつつあり、彼らは多数派を代表している」と述べた。

プーチンは多極化と主権の強化を直結させ、 彼はそれを1960年代の非同盟運動を加速させた新しい反植民地運動の出現にまで持っていった。

 欧米をはじめ、世界中に志を同じくする多くの人々がおり、我々はその支持を感じ、目にしている。一極集中の覇権主義に対する解放的、反植民地的な運動はすでにさまざまな国や社会で起きている。その主体性は高まるばかりである。将来の地政学的現実を決定するのはこの力なのだ。

しかし、演説の締めくくりは、超越について、つまり精神的なトーンで語られていた。最後の段落は「これらの言葉の背後には、輝かしい精神的な選択がある」で始まる。

この演説でポスト・モダニズムが始まる。その無数の意味を理解するために、演説は最大限の注意を払って読まれなければならない。そして、それこそ、下品な西側の誤った言葉の解釈とたくさんの屈辱的な形容詞が決して許さないものなのだ。

この演説は、私たちがこの白熱した歴史の岐路にどのように至ったかを示す簡潔なロードマップである。あえて状態を超えると、古い秩序が自分の死を認めようとせず、一方で新しい秩序が容赦なく生まれているのだ。

もう後戻りはできない。主に言われている事実、“新植民地主義的な世界秩序の邪魔になるから、ロシアに対してハイブリッド戦争が行われている”ことの重要な帰結は、ロシアがその嘘の帝国との全面衝突の準備を進めているということだ。

ユーラシアのトップパワーである中国やイランと共に。帝国の属国はこの場合せいぜい巻き添え被害にあう。

さらにプーチンの演説は、インドのSジャイシャンカール外相が国連総会で「植民地大国によるインドへの略奪」を強調したのに続くもので、極めて示唆的である。

プーチンの演説、そして西側諸国とのハイブリッド戦争やその他の戦争を戦うというロシアの決意がマクロの概念を作り上げている。

ミクロの概念は、ウクライナの戦場での変動、さらには9月30日の国民投票の結果とその公式承認を数日後に控えた、必死の策略であるノルド・ストリームとノルド・ストリーム2のパイプラインの爆破について述べている。

必要なときにオサマはどこにいるのだ?

どのようにしてこのような行為が行われたのか、様々な仮説が飛び交う中、いくつかのことが明らかになった。

ロシアには、ガスプロムの何十億ドルものエネルギーインフラを破壊する動機は全くない。彼らはいつでもそれを利用することができた。認知症が制裁をしたので実際に止めたように、ただガスを停止すればよかった。そしてガスをアジアの顧客に回すこともできた。

黒い政治経済の空白に陥っている、年老いたテレプロンプター読み(バイデン大統領)“率いる”ホワイトハウスは確かに無知だった。

第一の容疑者は、国家安全保障と国務省の不正な一派で、ワシントンの官僚の間で「The Blob」として知られる一派である。シュトラウス派、またはネオコンの狂信者とも呼ばれる。彼らはヨーロッパの「同盟国」を巻き添えにして、ロシアの破壊を大前提とする米国外交「政策」を実施しているのだ。

必然的な(もちろん想定外の)結果として、経済回廊戦争におけるこの新たな展開で賭けは中止になる。世界のどこのパイプラインや海底ケーブルも安全ではなく、報復の対象となる可能性があるのだ。

ノルド・ストリーム(NS)とノルド・ストリーム2(NS2)の2本のパイプラインの爆破は、9/11のパイプライン・テロの再来なのである。アフガンの洞窟に隠れてカラシニコフを手にしたイスラム教徒が犠牲になることはない。

財務上の損失は影響力のある企業を巻き込むことになる。ノルド・ストリームAGの株主は、ガスプロム(ロシア)(51%)、Wintershall Dea AG(ドイツ)(15.5%)、E.ON Beteiligungenの子会社PEG Infrastruktur AG(ドイツ)(15.5%)N.V. Nederlandse Gasunie(オランダ)(9%)そしてEngie(フランス)(9%)である。

つまり、これはロシアやドイツだけでなく、ヨーロッパの主要なエネルギー企業に対する攻撃でもあるのだ。

NS2は驚異的な工学技術で、バルト海の海底に20万本以上のパイプを6インチのコンクリートでコーティングし、それぞれ22トンの重さで敷き詰めている。

そして、すべてが失われたと思われたが、実はそうではなかった。パイプは非常に頑丈で、破損したのではなく、単に穴が開いただけだったのだ。ガスプロムはNS2が無傷で残っていることを明らかにし、「使えるかもしれない」と述べた。

要するに、ロシアのアレクサンドル・ノヴァク副首相が強調したように、復旧は可能だということだ。

     インフラを復旧させる技術的な可能性はあるが、それには時間と適切な資金が必要だ。時間と適切な資金が必要である。必ずや適切な機会が見つかると信じている。

しかし、まずロシアは最終的に犯人を特定することを望んでいる

失敗を受け入れないヘンリー・キッシンジャー

米国の権力者であり、悪名高い戦争犯罪者でもあるヘンリー・キッシンジャーは、トレードマークの「生ける屍の復活」の演技をやめることができず、ロシアは「すでに戦争に負けた」、なぜなら数十年あるいは数世紀にわたり享受してきた通常攻撃でヨーロッパを脅かす能力が「今明らかにやられたから」と言っている。

モスクワは通常兵器やその他でヨーロッパを「脅かして」いたわけではない。ただビジネスを行おうとしていただけだ。それを米国は、パイプライン・テロを企て徹底的に阻止したのである。

この米国の戦術で、わずか7か月で勝利を達成し、コストもほとんどかからなかった。この結果は素晴らしく見えるかもしれない。ロシアが経済的な影響力を失い、EU全体に対する米国の覇権は議論の余地のないものになる。しかしそれは、プーチンが演説で強調したように、帝国とその属国に対する戦いをどこまでも行うと言うモスクワの決意を深めるだけであろう。

ウクライナの戦場においては、ロシアの条件に従って交渉のテーブルにつかせることを意味する。そして、ヨーロッパの新しい「安全保障の不可分性」協定に同意させるのだ。

そう考えると、これらは2021年末にモスクワがワシントンに書簡を送って真剣な話し合いを提案したとき、電話一本ですべてが達成されたかもしれなかった。

事実、「戦争に負けた」のは米国である。世界の少なくとも87%(事実上「グローバルサウス」全体を含む)は、米国がならず者で、舵取りのできない帝国であるとすでに結論づけている。

キッシンジャー流の「負け」とは、ロシアがわずか7ヶ月で、ウクライナのGDPの90%近くを生産し500万人以上の市民を抱える12万平方キロメートル、またはウクライナ領土の22%を併合したことも意味する。その過程で、連合軍はウクライナ軍を基本的に破壊し、それは24時間365日続いている。NATO軍の何十億ドルもの装備、ほとんどの西側諸国の経済崩壊の加速、そして米国の覇権という概念も消滅した。

パイプラインの爆破を「とてつもない戦略的好機」だと言って勝負を挑んだブリンケン長官には、「Stupidistan Unplugged」(プラグの抜けたバカ)としてアカデミー賞が贈られるだろう。

ちょうど9/11がイスラム諸国への無差別侵略・爆撃・殺害・略奪の「とてつもない戦略的好機」だったように。

返ってきた衝撃と畏怖

EUは確実に貿易破壊への道を歩んでいる。今後ロシアとのエネルギー貿易の可能性はNATOとEUの両方が崩壊したあとになるだろう。そうなるかもしれないが、時間はかかるだろう。では、次はどうなるのか。

EUはアジアに頼ることはできない。遠いし、LNGの液化や再ガス化のコストという点ではどうしようもないほど高い。例えば、カザフスタンからのパイプラインは、ロシアを横断するか、中国からロシアを経由することになる。トルクメニスタンについてはすでに中国にガスを輸送している。

EUは西アジアに依存することはできない。Turk Stream(ロシアからトルコへのパイプライン)は満杯だ。ペルシャ湾の全生産量はすでに購入されている。もしもっとガスが手に入るとしたら、それはアゼルバイジャンからのわずかな量のガスだろう(そしてロシアはそれを邪魔するかもしれない)。イランは帝国から制裁を受けたままだ。素晴らしいオウンゴールだ。イラクとシリアは依然として米国に略奪されている。

残るはアフリカである。現状ではフランスは次々とアフリカの国から追い出されつつある。イタリアは最終的に、アルジェリア、リビア、キプロス、イスラエル間のガス田からドイツの産業界にガスを供給することになるかもしれない。サハラ砂漠のガス田や、ウガンダから南スーダンまでの中央アフリカのガス田をめぐる争奪戦は、まさに狂気の沙汰となるだろう。

バルト海はNATOの湖かもしれないが、ロシアは容易に波風を立てることができる。例えば、冬季に氷のないカリニングラード経由でドイツの港にバージ船でLNGを輸送することができる。リトアニアがそれを阻止しようとすれば、キンジャール(ロシアの極超音速ミサイル)の名前をだすだけで問題を解決できるだろう。また、ロシアの巨大な砕氷船ならフィンランド湾を利用することもできる。

つまり、ロシアは競争相手を簡単に潰すことができるということだ。サンクトペテルブルクからハンブルクまでは約800海里、カリニングラードからは約400海里しかない。

冬将軍の到来を前に、チェス盤全体が根本的に変わろうとしている。9/11はアフガニスタン爆撃、侵攻、占領につながった。パイプライン 9/11は、ウクライナで行われる予定の、NATOへの衝撃と畏怖につながる。反動が返ってきたのだ、すさまじい勢いで。

https://www.unz.com/pescobar/pipeline-terror-is-the-9-11-of-the-raging-twenties/