No. 1608 ワシントンのロシア解体計画

By Mike Whitney

「西側諸国の目標は、我が国を弱体化させ、分裂させ、最終的には破壊することである。彼らは1991年にソビエト連邦を解体することができたので、今度はロシアを多くの別々の地域に分割し、互いに対立させる時だと公言している」  ロシア大統領 ウラジーミル・プーチン

チェイニーは“ソ連とロシア帝国だけでなく、ロシアそのものを解体し、二度と世界の脅威とならないようにすることを望んでいた”…。西側諸国は、1991年に始まったプロジェクトを完成させなければならない。“でもモスクワの帝国が倒されるまでは、この地域も世界も安全ではないだろう……{1}

ロシアに対するアメリカの反感の歴史は古く、1918年にウッドロウ・ウィルソンがボルシェビキ革命の成果を押し戻すために連合軍の取り組みの一環としてシベリアに7000人以上の軍隊を派遣したときにまで遡ることができる。当時1年半の間、シベリアに駐留した米国の遠征軍の活動は米国ではとっくに歴史の教科書から消えたがロシア人はこの事件を米国が近隣国の問題に執拗に介入した例として指摘する。実際、ワシントンのエリートたちはモスクワの強い反対にもかかわらず、常にロシアに内政干渉してきた。ロシアを地理的に小さな単位に分割すべきだと考えているばかりでなく、ロシア国民はそのような分割を歓迎すべきだと多くの西側エリートが考えているのだ。英米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの西側指導者たちは、傲慢さと自分たちの無分別な権利意識に蝕まれており、普通のロシア人が、西側の巨大石油企業や鉱山会社、そしてもちろんペンタゴンの貪欲な搾取のために、国が一口サイズの小国に分割されるのを望んでいると心から信じているのである。ワシントンの地政学的指導者であるズビグニュー・ブレジンスキーは、『フォーリン・アフェアーズ』の記事でこのように要約している。

(ロシアの)規模と多様性を考えると、非集中的な政治体制と自由市場経済がロシア国民とロシアの膨大な天然資源の創造力を最も発揮しやすいと考えられる。緩やかな連合体のロシア、すなわちヨーロッパ・ロシア、シベリア共和国、極東共和国からなる、緩やかな連合体なら、近隣諸国とより緊密な経済関係を築くことも容易になるだろう。モスクワの重厚な官僚主義に何世紀にもわたり抑圧されてきたそれぞれの連合は、その土地固有の創造力を発揮することができるようになるだろう。その結果、地方分権化したロシアは帝国の動員に影響されにくくなるのだ」。{2}

ブレジンスキーが想像する「緩やかな連合体のロシア」は、自国の国境や主権を守ることができない歯抜けで依存的な国家となるだろう。より強力な国々が自国を侵略し、占領し、軍事基地を設置するのを阻止することもできないだろう。またバラバラになった国民を一つの旗の下にまとめることも、国の将来について前向きな「統一」ビジョンを追求することもできないだろう。無数の小さな部分に分断された連邦制ロシアは、挑戦や干渉の脅威を受けることなくこの地域における支配的な役割を米国が維持することを可能にするのである。そして、それがブレジンスキーの真の目標なのであろう。彼は、彼の大著『グランド・チェスボード』(1997年、30ページ)の中のこの一節で指摘している。以下は彼の言葉である。

 アメリカにとって地政学上の最大の獲物はユーラシアだ。そしてアメリカの世界的な優位はユーラシア大陸での優位をどれだけ長く、どれだけ効果的に維持できるかに直接かかっている。

ブレジンスキーはアメリカ帝国の野望を簡潔にまとめている。米国は世界で最も繁栄し、人口の多いユーラシア大陸で優位に立とうと計画している。そのためにはロシアを衰退させ、分割し、指導者を倒し、交代させ、その膨大な資源をグローバルな多国籍企業の鉄腕に移し、それを使って東から西への富の流れを永続させなければならないのである。言い換えれば、モスクワは、アメリカの事実上のガス会社、鉱山会社として、新秩序の中で謙虚な役割を受け入れなければならない。

ワシントンはロシア国家を消滅させるという目的を決して変えることはない。実際、最近発表された国家安全保障戦略(NSS)と「大国間競争の再燃:国防への影響‐議会の課題」と題された議会報告書はここで述べたことの多くを裏付けている。米国は中央アジアで支配的なプレーヤーになるために、中央アジアへの拡張に反対する新興の反対勢力をすべて粉砕する計画であるということだ。以下は、その議会報告書からの抜粋である。

ユーラシア大陸における地域覇権国家の出現を阻止するという米国の目標は、長年にわたって掲げられてきたが、石碑に刻まれたものでもない。それは、2つの判断を反映した政策選択である。(1)ユーラシア大陸の人口、資源、経済活動を考えると、ユーラシア大陸に地域覇権国家が出現すると米国の重要な利益を脅かすほどの大きな力の集中が生じる。(2)ユーラシアは地域覇権国の出現を防ぐという点で、確実な自己規制を持っていない、つまり、ユーラシア諸国が自らの行動によって地域覇権国の出現を防ぐことは期待できず、これを確実に行うためには、ユーラシア以外の国の支援が必要である。{3}

この新しい米国の公式外交政策はイラク戦争前に発表されたいわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンとどう違うのだろうか。ここにその内容がある。

     我々の第一の目的は、旧ソ連の領土やその他の場所で、かつてのソ連のように脅威をもたらす新ライバルの再出現を防ぐことである。このことは、新しい地域防衛戦略の根底にある重要な考慮事項であり、敵対する国が、統合された支配下でグローバルなパワーを生み出すのに十分な資源を有する地域を支配するのを防ぐよう努力することが必要である。

このように、ウォルフォウィッツが20年近く前に自らのドクトリンを発表して以来、この政策には大きな変化はない。米国外交当局は中央アジアを支配する米国の権利を断固として主張し、この地域のいかなる競争相手も国家安全保障上の脅威とみなしているのである。このことは、最新の国家安全保障戦略において、ロシアと中国が「戦略的競合相手」として認識されていることからも明らかである。「第三次世界大戦後のロシアの分割か」と題する記事からの抜粋を見てほしい。

米国とNATOの最終目標は、世界最大の国であるロシア連邦を分割し、制圧することである。その広大な領土、あるいは最低でもロシアとソビエト連邦後の空間の一部に、永久に続く一面の無秩序(ソマリア化)を確立することである…

米国の究極の目標は、ヨーロッパとユーラシア大陸に、大西洋統合に代わるいかなる選択肢も出現しないようにすることである。そのために、ロシアの破壊が戦略目標の一つとなっているのだ…..

ユーラシアを描き直す:ワシントンのロシア分割地図

ロシア連邦の分裂により、モスクワとワシントンの二極対立は第三次世界大戦の後に終わると記事は主張している。この記事は、ロシアが滅亡したときにのみ、真の多極化した世界が訪れると主張している。しかしワシントンとEUはロシアとの予想される大規模な戦争によって弱体化しても、米国が最も支配的な世界大国になることも示唆している。{4}

ワシントンとロシアの関係は常に対立しているが、それはモスクワ側の破壊的な行動というよりもワシントンの地政学的な野心と関係がある。ロシアの唯一の罪は、米国があらゆる手段を使って支配したい世界の一部で、たまたま不動産を占有していることである。ヒラリー・クリントンが初めて米国の「アジアへの軸足転換」計画を発表したとき、ほとんどの人は、世界で最も急速に成長している市場への米国の参入を増やすために、中東からアジアへ資源をシフトする合理的な計画だと思っただろう。しかし、その当時、政策立案者がロシアをウクライナでの血みどろの地上戦に駆り立てて「弱体化」させ、ユーラシア大陸に軍事基地を無抵抗に広げることを意図していたことは知らなかった。また、ワシントンが政治指導者を排除し、国を複数の国家に分割するという明確な目的のためにどこまでロシアを挑発し、孤立させ、悪魔化するのか、誰も予想していなかった。2011年当時、ヒラリーはこのような主張をしていた。

 アジアの成長とダイナミズムを利用することは、米国の経済的・戦略的利益の中心である…アジアの開かれた市場は、投資、貿易、最先端技術へのアクセスにおいて米国に前例のない機会を提供する……米国企業は、広大で成長するアジアの消費者基盤を利用する(必要がある)…

 この地域は、すでに世界の生産高の半分以上、世界貿易の半分近くを生み出している…我々は、アジアでさらに多くのビジネスを行う機会を探している…そして、アジアのダイナミックな市場における我々の投資機会も。{5} 

クリントンの演説を注意深く読み、ウォルフォウィッツ・ドクトリンを見直せば、最も鈍感な読者でも現在のウクライナ紛争についていくつかの明白な結論を導き出すことができるだろう。この紛争は、いわゆる「ロシアの侵略」とはほとんど何の関係もなく、アジア全域に力を及ぼすというワシントンの計画に関わるものなのだ。ロシアの膨大な石油とガスを支配し、中国を軍事基地で包囲し、今世紀最も繁栄している市場の中心で米国の支配を確立しようとするワシントンの計画なのである。再びプーチンの言葉を引用する。

  最新の課題の網から自らを解放するためには、ロシアだけでなく主権的発展の道を選ぶ他の国家を何としても解体し、他国の富をさらに略奪して自国の穴埋めに使えるようにする必要がある。それができなければシステム全体の崩壊を引き起こして、すべてをそのせいにするか、あるいは、とんでもないことに、戦争による経済成長という古い方式を使うことを決定する可能性を排除することはできない。

米国の外交専門家は、ロシアと直接的な軍事衝突が起きれば核の応酬に発展する恐れがあるという説を恥ずかしげもなく宣伝している。 最近、“6月23日に「ロシア植民地を独立させる(Decolonizing Russia)」というタイトルで「議員向けウェビナー」がおこなわれた。ウェビナーはCIAの工作員とウクライナやコーカサスの右翼民族主義者がスタッフとして参加し、ロシアは植民地帝国なのでワシントンの支援で解体しなければならない、という主張がなされた”(WSWS)。筆者はなぜ一部の専門家がロシアに「帝国主義」の烙印を押したいのか、その理由を探った。WSWSの記事はその理由を解説している。

  ロシアが「帝国主義的」であるという主張は重要な政治的機能を果たしている。それはロシアに対する帝国主義的侵略と帝国主義列強の戦争目的に、政治的な隠れ蓑を提供するのだ。親NATOのエセ左派が、「ロシア帝国主義」と騒ぐのはこの戦略によるものである。民族主義、地域主義、民族的緊張の醸成は、何十年もの間、帝国主義戦争政策の重要な構成要素であったのだ……

     NATOの拡大、国境でのクーデター、ロシアや中国と同盟を結んだ国々への軍事介入を組み合わせることで、帝国主義勢力はロシアを体系的に、そして容赦なく包囲している。帝国主義勢力は、組織的に、執拗にロシアを包囲してきた… 

    確かに、過去30年間にアメリカ帝国主義が行った戦争の歴史を振り返れば、ロシアと中国を切り刻むために繰り広げられる戦争は残酷な必然のように見える。世界資本主義体制に再統合したにもかかわらず、帝国主義勢力は支配的な寡頭政治体制によってこれらの国の膨大な資源を直接略奪することを禁じられている。これらの資源を互いに奪い合い、そして解決不可能な国内危機に追い込まれているために彼らはこれを変えることを決意した。 

    …決議案では、アメリカの対ロシア戦争の基本的な目的を次のように説明している。“ロシアの現政権を排除し、アメリカが支配する傀儡に置き換え、ロシアそのものを解体し(「ロシア植民地を独立させる」と呼んでいる)、貴重な資源を持つ十数の無力な小国に分割してその貴重な資源はアメリカとヨーロッパの金融資本が所有し、搾取するだろう。” この一節は、展開中の紛争と親NATOのエセ左派の政治、およびロシアは「帝国主義国」であるという彼らの主張の両方を理解する上で中核となる。{6}

これからわかるように、外交政策のエリートたちはロシアとの対立を正当化する、より説得力のある新たな理由を必死に探している。その究極の目的は、ロシアをバラバラにし、ワシントンの戦略的リバランシング(軸足転換)に道を開くことである。20年前のブッシュ政権時代には、政治家たちはロシアに対してここまで熟慮していなかった。例えば、ディック・チェイニー元副大統領はロシアに対するひどい侮蔑を隠そうともせず、自分が支持する政策について驚くほど率直に語っている。ベン・ノートンの記事からの抜粋を参照してほしい。

  イラク戦争の立役者であるディック・チェイニー元アメリカ副大統領は、ソビエト連邦の解体を望んでいただけではない。ロシアが再び重要な政治勢力として台頭するのを防ぐために、ロシアそのものを解体したかったのである……。元米国国防長官のロバート・ゲイツはこう書いている。“1991年末にソ連が崩壊したとき、ディックはソ連とロシア帝国だけでなく、ロシアそのものを解体し、二度と脅威とならないようにしたかった”… 

    米国政府の中枢にいる人物がロシアという国の永久的な解体を密かに求め、それをロバート・ゲイツのような同僚に率直に伝えたという事実は、ソ連邦崩壊後、米国がロシアに対してとってきた攻撃的な姿勢の一端を説明している。 

    現実には、モスクワ政府が資本主義を復活させたにもかかわらず、アメリカ帝国はロシアがユーラシア大陸を一方的に支配しようと挑戦するのを決して許さないだろうということだ。だからこそ、ワシントンがロシアの安全保障上の懸念を完全に無視し、ドイツ統一後もNATOを「一歩も東に拡大しない」という約束を破り、モスクワを不安定にしようとする軍国主義の敵対国で取り囲んでいることは驚くには当たらないのである。 

   ロシアの安全保障機関は、ロシア中央政府に対する戦争で米国がチェチェン分離主義者を支援したという証拠を発表した。イギリスの学者ジョン・ローランドは、「チェチェンの米国の友人たち」と題されたガーディアン紙の2004年の記事で、チェチェン分離派の指導者数人が西側に住んでおり、米国政府から助成金をもらっていると強調した。ローランドは、米国に本拠を置くチェチェン分離独立派の最も重要なグループである「チェチェン平和のための米国委員会(ACPC)」が、そのメンバーを「『対テロ戦争』を熱狂的に支持する最も著名な新保守主義者」として挙げていることを指摘した。

 その中には、ペンタゴンの悪名高いアドバイザー、リチャード・ペール、イランコントラで有名なエリオット・エイブラムス、イラク侵攻を「楽勝」と予言し煽った元国連大使のケネス・アデルマン、ドナルド・ラムズフェルドの伝記作家で右翼団体ヘリテージ財団の理事であるミッジ・デクター、軍国主義者である安全保障政策センターのフランク・ガフニー、元米国軍情報将校で、一時はロッキード・マーチン社の副社長を務め、現在は米国NATO委員会の会長のブルース・ジャクソン、イタリアのファシズムを崇拝していたが、現在はイランの政権交代を推進する中心人物であるアメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・レディーン、そしてイスラム世界を親米路線で再構築するというジョージ・ブッシュの計画を支える一人、元CIA長官ジェームズ・ウールジーなどがいる。

 極右のサラフィー・ジハード主義者(モロッコのイスラム原理主義組織)がチェチェン反乱軍のかなりの割合を占めていたという事実はこれら反イスラムのネオコンにとってどうでもよかった。それはイスラム恐怖症の「テロとの戦争」経験者が、その後の米国のシリアやリビアでの戦争で過激派の首切りタクフィリ・イスラム主義者(別のイスラム教徒を背教者であると非難するイスラム教徒)を支持しても問題なかったのと同じである……

     …. ジョー・バイデン政権の国務省で3番目に力のあるヴィクトリア・ヌーランドは、2003年から2005年までチェイニー副大統領の外交政策主席補佐官を務めていた。(彼女はまた、2014年にウクライナで民主的に選出された政府を転覆させた暴力クーデターを支援した)。師匠のチェイニーと同じく、ヌーランドは強硬な新保守主義者である。彼が共和党で彼女が主に民主党政権で仕事をしていることは関係なく、このタカ派的な外交政策のコンセンサスは完全に超党派である。

 ヌーランド(NEDの超党派理事会の元メンバー)は、新保守主義の守護聖人であるロバート・ケーガンと結婚した。ケーガンはワシントンのネオコンたちの居心地の良い場所であるニューアメリカンセンチュリープロジェクトの共同設立者で、ここでチェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、ポール・ウォルフォウィッツ、その他のブッシュ政権の高官たちとともに働いていた。ケーガンは長年の共和党員だったが、2016年には民主党に入り、大統領選では公然とヒラリー・クリントンの選挙運動を行った。{7} 

米国の外交政策は、外交を真っ向から否定し、米国の戦略的利益はロシアとの軍事衝突によってのみ達成できると本気で信じている少数のネオコン過激派の手に独占されているのである。ということは、ある程度確実に言えるのは事態が良くなる前に、かなり悪くなるだろうということだ。

Links:

{1} https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2022/05/russia-putin-colonization-ukraine-chechnya/639428/

{2} https://www.foreignaffairs.com/articles/asia/1997-09-01/geostrategy-eurasia

{3} https://crsreports.congress.gov/product/pdf/R/R43838/71

{4} https://shakeri.net/1163/partitioning-russia-world-war-iii/

{5} https://foreignpolicy.com/2011/10/11/americas-pacific-century/

{6} https://www.wsws.org/en/articles/2022/10/18/prin-o18.html

{7} https://multipolarista.com/2022/02/01/dick-cheney-us-goal-break-up-russia/

https://www.unz.com/mwhitney/washingtons-plan-to-breakup-russia/