No. 1659 避けられない破綻

The Unavoidable Crash

by Nouriel Roubini

世界経済はここ数十年の赤字、借入、レバレッジの爆発的増加に伴い、前例のない経済危機、金融危機、債務危機の合流点に向かって大きく揺れ動いている。

民間部門では、住宅ローン、クレジットカード、自動車ローン、学生ローン、個人ローンなど、家計の負債が多い。企業や法人は銀行ローン、社債、個人債務など。金融部門は銀行やノンバンクの負債。 公共部門では、中央政府、地方政府、地方自治体などの国債などの債務と、高齢化社会で増え続ける賦課方式の年金制度や医療制度など暗黙の債務が含まれる。

明らかな負債を見ただけでもその数字は驚異的である。世界的に見ると、民間部門と公的部門の負債合計の対GDP比は、1999年の200%から2021年には350%に上昇した。現在、先進国全体で420%、中国では330%となっている。米国は420%で、大恐慌時代や第二次世界大戦後よりも高くなっている。

もちろん、もし借り手が機械、住宅、公共インフラなどの新しい資本に投資し、借り入れコストよりも高いリターンを得ることができれば負債は経済活動を促進することができる。しかし多くの借入金は、単に継続的に収入を上回る消費支出を賄うためのものである。それは破綻の元凶だ。さらに「資本」への投資は、借り手が人為的につり上げられた価格で住宅を購入する家庭であれ、リターンに関係なく急速に拡大しようとする企業であれ、または「無用の長物」つまり贅沢だが役に立たないインフラプロジェクトにお金を使う政府であれ、リスクを伴う可能性があるのだ。

過剰借り入れ

このような過剰な借入が様々な理由から何十年も続いている。金融の民主化によって所得の乏しい家計が負債で消費を賄うことができるようになった。中道右派の政府は歳出を削減せずに減税を続け、中道左派の政府は十分な増税で賄えない社会計画に多額の支出をしてきた。そして、株式よりも負債を優遇する税制は、中央銀行の超金融緩和と信用政策によって助長され、民間部門と公的部門の両方で借入の急増に拍車をかけてきたのである。

長年にわたる量的緩和と信用緩和により、借入コストはゼロに近く、場合によっては欧州や日本のようにマイナスにさえなっていた。 2020年には、ドル換算でマイナス利回りの公的債務が17兆ドルに達し、北欧の一部の国では住宅ローンの名目金利さえもマイナスになっていた。

持続不可能な債務比率の爆発は、多くの借り手(家庭、企業、銀行、シャドーバンク、政府、さらには国全体)が、低金利によって債務処理コストを管理可能な状態に保っている、支払い不能の「ゾンビ」であることを意味した。2008年の世界金融危機と新型コロナ危機の際には、破産するはずだった多くの債務超過企業が、ゼロ金利やマイナス金利政策、量的緩和、そして全面的な財政出動によって救済されたのである。

しかし今、同じ超低金利の財政・金融・信用政策によってもたらされたインフレが、この「金融ゾンビ」を終わらせた。中央銀行は物価の安定を図るために金利の引き上げを余儀なくされ、ゾンビは債務返済のためのコストが急激に増加している。インフレは家計の実質所得を減少させ、住宅や株式などの家計資産の価値を低下させるため、多くの人にとってこれは三重苦である。脆弱で過剰なレバレッジの企業、金融機関、政府も同様である。借入コストの急上昇、所得と収入の減少、資産価値の下落に同時に直面しているのである。

さらに悪いことに、こうした状況はスタグフレーションの再来、すなわち高いインフレと弱い成長の同時進行と重なっている。最後に先進国がこのような状況に陥ったのは1970年代だった。しかし、少なくとも当時は負債比率が非常に低かった。今、私たちは、1970年代のスタグフレーションの最悪の側面と、世界金融危機の最悪の側面に直面している。そして今回は、単に金利を下げて需要を喚起するわけにはいかない。

結局のところ世界経済は、持続的な短中期的な負の供給ショックに見舞われ、成長を低下させ、価格と生産コストを上昇させている。パンデミックによる労働力と物資の供給障害、ロシアのウクライナ戦争による一次産品価格への影響、中国のゼロコロナ政策などである。そして気候変動から地政学的展開に至るまで、スタグフレーションの圧力をさらに増大させる多くの中期的なショックもある。

2008年の金融危機やコロナの初期の頃とは異なり、緩やかなマクロ政策で民間企業や公的機関を救済するだけでは、インフレの火にさらにガソリンを注ぐことになる。つまり、深刻な金融危機の上にハードランディング、すなわち深く長引く不況が待っているのである。資産バブルが崩壊し、債務返済比率が急上昇し、インフレ調整後の所得が家計、企業、政府全体で減少する中、経済危機、金融危機は互いに食い合うことになる。

最小限の抵抗

確かに、自国通貨建てで借入れを行っている先進国は予期せぬインフレの発生により、一部の名目上の長期固定金利債務の実質価値を低下させることが可能である。政府は赤字を減らすために増税や歳出削減をしたがらないので、中央銀行の赤字マネタイゼーションは再び最も抵抗の少ない方法と見なされるようになるだろう。

しかしすべての国民をずっと騙すことはできない。インフレの魔神が瓶から出れば、つまり中央銀行が迫り来る経済・金融危機を前に戦いを放棄すれば、名目・実質借入コストが急騰することになるだろう。

スタグフレーションによる債務危機地獄は、先送りはできても、回避することはできない。

https://informationclearinghouse.info/57391.htm