No. 1698 パニックに陥った帝国は……ロシアに「断れない提案」をする

A Panicked Empire Tries …… to Make Russia an ‘offer It Can’t Refuse’

by Pepe Escobar

陰の実力者たちは、壁に背を向けているときほど危険なことはない。

彼らは急速に権力を失いつつある。軍事的には、ウクライナにおけるNATOの漸進的な屈辱によって。財政的には、遅かれ早かれ南半球の大半の国々は、破綻した不正な巨大国家の通貨とは関わりを持ちたくないと思うようになるだろう。政治的には、世界の多数派は、強欲で信用のならない事実上の少数派に従うのをやめるための、重大な措置を取りつつある。

そこで今、陰の実力者たちは、少なくとも軍事面において襲い来る災害を食い止めようと画策している。

米国高官筋が確認したように、ウクライナにおけるNATO対ロシアに関する新しい指令がアントニー・ブリンケン米国務長官に伝えられた。実権を握っているという点では、ブリンケンは米国の外交政策を実際に動かしているストラウス派のネオコンと新自由主義者のメッセンジャーボーイにすぎない。

国務長官はクレムリンへのメッセージのような新しい指令を、主流の印刷メディアを通じて伝えるように指示され、ワシントンポストがすぐにそれを掲載した。

米国のエリート主要メディアは分業体制になっていて、ニューヨークタイムズは国務省に、ワシントンポストはCIAにそれぞれ非常に近い。しかしこの場合は指令があまりにも重要だったため、帝国の首都の新聞が伝える必要があり、意見社説 {1}として掲載された(有料記事)。

ここで目新しいことは2022年2月のロシアのウクライナにおける特別軍事作戦(SMO)の開始以来初めて、米国が「断れないオファー」という古典的なバリエーションを提案していることであり、そこにはロシアの安全保障上の必要条件を満たすかもしれない譲歩も含まれる。

重要なのは米国の提案はキエフを完全にバイパスしていることで、これは帝国とその手下のNATOが行う対ロシア戦争でありウクライナ人は単なる消耗品の代理人であることの再証明でもある。

「攻撃はやめてくれ」

ワシントン・ポストの古株のモスクワ特派員ジョン・ヘルマーは、ブリンケンの提案の全文{2}という重要なサービスを提供してくれた。もちろん、「米国の武器はプーチンの侵略軍を粉砕するのに役立つ」といった空想家的な概念や、「言い換えれば、ロシアは休んで再編成し、攻撃する準備ができていないはずだ」というような恥ずかしい説明も含めて広範囲に編集されている。

ワシントンからのメッセージは一見すると、クリミア、ドンバス、ザポロージエ、ケルソンという「クリミアとロシアを結ぶ陸橋」に対するロシアの支配を既成事実として認めるような印象を与える。

ウクライナは非武装状態になり、HIMARSミサイルとレオパルド、エイブラムス戦車の配備はウクライナ西部に限定され、「さらなるロシアの攻撃に対する抑止力」として維持されることになる。

オファーのようなものはかなり曖昧な表現だが、非武装地帯を含むウクライナの分割で、その代わりにロシア軍参謀本部が2023年の攻撃を取りやめるというものである。ロシアの攻勢が続けばキエフの黒海へのアクセスが断たれ、ポーランド国境を越えてNATOの武器の供給を断つような壊滅的なものとなる可能性がある。

米国の提案は「ウクライナの領土保全を維持する、公正で持続可能な平和」への道と定義されている。しかし実際はそうでもない。ウクライナが切り刻まれることはなく、キエフはポーランドが撮りたがっている西部の土地を保持する可能性すらある。

ウクライナのNATO加盟も含めて、「戦後の軍事バランス」に関するワシントンとモスクワの直接取引の可能性も喚起されている。ウクライナそのものについて、米国人は「EUに加盟し、強力で腐敗のない経済」になると信じているようだ。

ウクライナに残っている価値のあるものはすべて、その途方もなく腐敗したオリガルヒだけでなくブラックロック系の投資家や投機家にすでに飲み込まれている。様々なハゲタカ企業は、ウクライナの穀物輸出港や、戦前にEUと合意した貿易取引条件を失うわけにはいかないのだ。そしてロシアの攻撃によって、黒海の主要な海港と輸送拠点であるオデッサが攻略されるかもしれないと怯えている。ウクライナは陸の孤島になってしまうからだ。

ロシアのプーチン大統領や、ニコライ・パトルシェフ長官、ドミトリー・メドベージェフ副議長らロシア安全保障会議全体が、アメリカの体制、特にブリンケンやワシントンポストなどの単なる手先からの情報を信じる根拠は何もない。結局のところスタブカ(ロシア軍最高司令部の呼称)は、たとえ文書による申し出があったとしても、アメリカ人は合意能力がないとみなしている。

これは、今後数ヶ月の攻撃計画を遅らせるか、あるいは中止させるために、引き延ばし、モスクワに何らかの報酬を提示しようとするアメリカの必死の作戦のように思われる。

ストラウス主義のネオコン集団に忠実でない、古風で反体制的なワシントンの工作員でさえ、この作戦は何の役にも立たないほうに賭けている。古典的な「戦略的曖昧さ」モードでは、ロシアはこれまで主張してきた非軍事化、非ナチ化、そして非電化の推進を継続し、ドニエプル川の東なら、いつでもどこでも適切と思われるところで「停止」するだろう。あるいはその先でも。

ディープ・ステートが本当に望んでいること

この本質的にNATO対ロシアの戦争におけるワシントンの野望は、ウクライナをはるかに超えている。そしてそれはロシア、中国、ドイツのユーラシア連合でも仲間の競争の悪夢でもなく、ウクライナの戦場での単調な問題にこだわろうというものだ。

軍事、経済、政治、外交といった主要な「提言」は、昨年末のアトランティック・カウンシルの戦略文書{3}に詳述されている。

そして、もう一つの論文{4}の「戦争シナリオ1:現在のテンポで戦争が続く」の下に、ストラウス主義のネオコン政策が完全に綴られているのがわかる。

「キエフが勝利するのに十分な支援と軍事援助の供与を行う」から「供与される軍事援助の殺傷力を高め、ウクライナの領空支配とそこにいるロシア軍への攻撃を可能にする戦闘機や、ロシア領域まで届くミサイル技術を含める」、「ロシア領内に到達するのに十分な射程距離を持つミサイル技術など」すべてここに記されている。

ウクライナ軍に「西側兵器、電子戦、攻守のサイバー能力を使用し、新兵をシームレスに兵役に組み込む」ための訓練から、「ドンバス地方付近の前線での防衛」を補強し、「非正規戦に焦点を当てた戦闘訓練」なども行う。

「クレムリンと取引するすべての団体に二次的制裁を課す」ことに加えて、もちろん略奪に到達する。「ロシア国家が米国やEUの海外口座に保有する3000億ドルを没収し、その金を復興資金に充てる」。

プーチン、ヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長、ハルマゲドン将軍を中心とするSMOの再編成は、これらの緻密な計画を頓挫させつつある。

シュトラウス派は今、大パニックに陥っている。ブリンケンのナンバー2であるロシア恐怖症の温情主義者ビクトリア・ヌーランドでさえ、米国上院で、春までに(現実的には2024年まで)戦場にエイブラムス戦車は存在しないことを認めた。彼女はまた、モスクワが「交渉に復帰」すれば「制裁を緩和」すると約束した。その交渉は、2022年春にイスタンブールでアメリカ人自身によって頓挫している。

ヌーランドはロシアに「軍隊を撤退させる」よう呼びかけてもいる。まあ少なくともブリンケンの「断れないオファー」からにじみ出るパニックに比べれば、これは少なくとも滑稽である。ロシアの無反応な反応に注目しよう。

Links:

{1} https://www.washingtonpost.com/opinions/2023/01/24/blinken-ponders-post-ukraine-war-order/

{2} http://johnhelmer.net/blinken-concedes-war-is-lost-offers-kremlin-ukrainian-demilitarization-crimea-donbass-zaporozhe-and-restriction-of-new-tanks-to-western-ukraine-if-there-is-no-russian-offensive/#more-70567

{3} https://www.atlanticcouncil.org/content-series/atlantic-council-strategy-paper-series/preparing-for-victory-a-long-haul-strategy-to-help-ukraine-win-the-war-against-russia-and-secure-the-peace/

{4} https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/issue-brief/the-stabilization-and-reconstruction-of-ukraine/

https://www.unz.com/pescobar/a-panicked-empire-tries-to-make-russia-an-offer-it-cant-refuse