Iran-China strategic partnership
The big picture
イランと中国の戦略的パートナーシップ、その全体像
by Pepe Escobar
エブラヒム・ライシ大統領の北京訪問で得られた重要な成果は、20の二国間協力協定に調印したことだけに留まらない。
これは非常に興味深い、複雑な、数十年にわたる進行中の歴史的プロセスにおける重要な変曲点である。それはユーラシア大陸の統合だ。
北京大学でスタンディングオベーションに迎えられ名誉学術称号を授与されたライシ大統領が、「真の多国間主義、最大のシナジー効果、連帯、単独主義との決別」を特徴とする「新しい世界秩序が生まれ、古い秩序に取って代わる」と強調したことは不思議ではない。
そして彼は、その新秩序の中心はアジアであると主張した。
イラン大統領が古代シルクロードを、貿易の面だけでなく「文化の絆」「歴史の中で異なる社会を結びつけるもの」として賛美しているのは非常に心強いことだった。
ライシは、メソポタミアから中央アジアにまたがる帝国であり何世紀にもわたって中国とヨーロッパを結ぶシルクロード交易の大中間地であったサーサーン朝ペルシャのことを話していたのかもしれない。
それはまるで中国の習近平国家主席の有名な「人と人との交流」という概念を新シルクロードに当てはめて裏付けしているかのようだった。
そして歴史的なつながりからイランが重要なパートナーである「一帯一路構想(BRI)」について演説したのである。
イランがアジアとの関係を完全に回復したのは、欧米諸国と同盟関係を結ぼうとした、間違いなく無駄な歳月を経た後である。それはJCPOA(イラン核合意)の運命に象徴される。交渉の末に一方的に破棄され、昨年は非難を一身に浴びた。
44年前のイスラム革命以降、「東でも西でもない」という政府の公式戦略の背後には、常に「東への軸足」の芽生えが潜んでいたということができる。
1990年代以降、それは中国の公式な「門戸開放」政策と完全にシンクロする形で進行していくことになった。
2000年代に入ってからは北京とテヘランはさらに深く同調するようになった。地政学的・地経済的な大躍進であるBRIは2013年に中央アジアと東南アジアで提案された。
そして2016年、習主席は西アジアのイランを訪問し、それが複数の覚書(MOU)の締結につながり、最近では25年間の広範な包括的戦略協定を締結し、イランはBRIの主要な関係者になりつつある。
全ての主要ベクトルを加速
実際には、ライシの北京訪問は、エネルギー部門(石油、ガス、石油化学産業、パイプライン)への重要な投資から、北京がイランの銀行部門の近代化改革を進め、中国の銀行がイラン全土に支店を開設している銀行業務まで、イランと中国の経済協力のあらゆるベクトルを加速するためのものであった。
中国企業は、新興のイラン商業・民間不動産市場に参入しようとしている可能性があり、産業分野全体にわたって先端技術、ロボット、AIに投資することになるだろう。
米国の厳しい一方的な制裁を回避するための洗練された戦略は、イランと中国の関係においてあらゆる段階で大きな焦点となるであろう。イランの石油・ガス契約と中国の産業・インフラ案件の取引に関しては、物々交換が確かに視野に入っている
イランの政府系ファンドであるイラン国家開発基金は推定900億ドルを保有し、戦略的な産業およびインフラプロジェクトに資金を提供できる可能性は十分にある。
イランがBRICS+のメンバーとして認められれば、アジアインフラ開発銀行(AIIB)やBRICS銀行(NDB)という形で、他の国際金融パートナーも登場するかもしれない。それは今年8月に南アフリカで開催されるサミットで決定されることになるだろう。
戦略的パートナーシップの問題の中心はエネルギーである。中国石油天然気集団公司(CNPC)は、カタールのガス田に隣接するイランのサウスパルスガス田のフェーズ11の開発契約から離脱した。
しかし、CNPCはいつでも他のプロジェクトのために戻ることができる。フェーズ11は現在、イランのエネルギー企業であるペトロパースが開発を進めている。
石油、ガス、石油化学工業、再生可能エネルギーなどのエネルギー取引は、私が2000年代初頭にパイプラインスタン{1}と名づけた地域全体でブームとなるだろう。
中国企業は既存のイラン・パイプライン・ネットワークに接続し、新たなパイプライン回廊を構成する新たな石油・ガス・パイプラインの一部になることは間違いないだろう。
すでに確立されているパイプライン同盟には、中国の西ー東パイプライン網に接続する中央アジアー中国パイプライン(トルクメニスタンから中国東海岸まで約7000キロメートル)、タブリーズーアンカラパイプライン(イラン北西部からトルコの首都まで2577キロメートル)などが含まれる。
そして、パイプライン同盟にまつわる長い話の一つにIP(イランーパキスタン)ガス・パイプライン(以前はピースパイプラインと呼ばれていた)がある。
アメリカは、このパイプラインを停滞させ、遅延させ、さらには消滅させるためにあらゆる手段を講じた。しかし、IPは死ぬことを拒み、中国とイランの戦略的パートナーシップによって、ついに実現することができたのである。
新たな地政学的構造
つまり中国・イランの戦略的パートナーシップの中心になるのは複雑な地政学的経済アーキテクチャの構成であり、BRI の旗艦である中国ーパキスタン経済回廊(CPEC)を、イランを中心とする二本の回廊に接続することなのだ。
これは中国ーアフガニスタンーイラン回廊、中国ー中央アジアーイラン回廊という形をとり、地政学的な中国ーイラン経済回廊と呼ぶべきものを形成することになるだろう。
北京とテヘランは現在、一刻の猶予もなく覇権国からの激しい挑戦と脅威に直面しているかもしれない。しかし、25年にわたる戦略的な取引は、現在では実質的な製造・産業基盤を備え、高度な科学技術革新の深刻な伝統を持つ歴史的に強力な貿易・商人文明をたたえている。
中国とイランが東アジアから西アジアに至る、21世紀の多極化の中心となる全く新しい拡大した戦略的経済空間を構成する可能性は、地政学的に極めて重要である。
それは国の制裁への執着を完全に無効にするだけでなく、イランが切望していた次の段階の経済発展を東方に向かわせ、中国からイラン、そしてその間にいるすべての人々に至るまで、地理経済空間全体を押し上げることになるだろう。
このすでに起きているプロセス全体は、帝国のロシアに対する「ウクライナ人の最後の一人になるまで」という代理戦争の直接的な結果である側面が多い。
大砲の餌であるウクライナは、マッキンダーのハートランド理論に根ざしている。世界の支配権はユーラシア大陸を支配する国家に属する、という理論だ。
これが第一次世界大戦の背景にあったもので、ドイツがロシアを打ち負かしたことでアングロサクソンの間に、ドイツがフランスを打ち負かせばドイツがユーラシア大陸を支配するのではないか、という恐怖が生まれたのだ。
第二次世界大戦は、ドイツと日本が枢軸国としてヨーロッパ、ロシア、中国を支配するとして構想された。
現在の第三次世界大戦の可能性は、ドイツ、ロシア、中国の友好的な同盟関係を壊すために覇権国によって構想されたもので、西アジアの特権的なパートナーであるのがイランなのである。
現在我々が目撃しているのは、アメリカがユーラシアの統合を崩壊させようとしていることを物語っている。
そういうわけで「ルールに基づく国際秩序」を支配するアメリカ寡頭政治にとって存立にかかわる「脅威」のトップ3は、中国、ロシア、イランという3つの主権国家なのである。
これは重要なことだろうか?そうでもない。(戦争の)犬が吠えている間にも、イランと中国の戦略的隊商は続いていることを我々は見たばかりである。
Link {1}: https://tomdispatch.com/pepe-escobar-welcome-to-pipelineistan/