Why the Bank Crisis isn’t Over
by Michael Hudson
金利が上昇すると、債券価格は下落する(株価もそれに追随する傾向がある)。しかし銀行はこの評価額の低下を反映させるために資産の市場価格を下げる必要はない。銀行は保有する有価証券をそのまま保有していればよい。市場価格の下落を明らかにする必要が生じるのは、銀行の取り付け騒ぎがおき、実際に債券やパッケージモーゲージを売却して資金を調達しなければならない場合だけである。
シリコンバレー銀行(SVB)の場合、長期国債を購入してキャピタルゲインを得るというギャンブルをしていたところに、FRB(連邦準備制度理事会)の引き締めによって金利が急上昇したことが判明した。この銀行はFRBが深刻な景気後退を招かずに金利を高く維持することはできないと予想していた—そして実にパウエルFRB議長は景気後退こそが望むところだと述べたのである。
しかしパウエル議長は金利を下げる代わりに、アメリカの労働者が十分に失業していないため予想以上に金利を上げる予定だと発表した。金利は上昇し、債券価格は下落した。SVBは「自己資本を上回る1630億ドル近い含み損を抱えたままとなった。預金流出がこの損失を現実のものにしたのだ」(ヒュー・ヴァン・ステーニス, “History can instruct us on the fallout from SVB’s collapse”, フィナンシャルタイムス, March 13 2023).
米国中の銀行が急激に預金を減らした。これは不良経営への懸念から生じた「銀行の取り付け騒ぎ」ではなかった。銀行が利己的で貪欲に行動し、金利(借り手への金利と投資先からの利回り)の上昇で高額の利益を得たにもかかわらず、預金者には0.2%程度しか支払わなかったからである。銀行は独占企業として預金者に適正な金利を支払うことを拒否していたのである。その結果、投資家が無リスクの財務省証券を購入することで得られる利益(約4%)と、銀行が預金者に支払うわずかな金額との間のギャップが拡大した。つまり預金者は、より公正な市場リターンを得るために、銀行から資金を持ち出したのである。
これを「取り付け騒ぎ」あるいは「パニック」と呼ぶのは間違いだろう。預金者がお金を引き揚げるのは不合理なことではない。銀行の身勝手さに辟易していたのだ。そしてSVBはその中でも特に悪い銀行の一つだった。だから、ここ数年、SVBの株価は急騰していたのである。
「取り付け騒ぎ」の脅威は外国人預金者により多く当てはまるかもしれない。3月13日(月)、米ドル指数は1%ポイント下落した。これは実際1日にしては多い。欧州の人々は米国株を売った。そのためオープニングでダウ平均が下落した(ESTの午前9時30分は大陸ヨーロッパ時間の午後3時30分だったので、ヨーロッパの売り注文が積みあがっていた)。ヨーロッパの人々はアメリカの銀行市場から撤退するのだろうか?彼らは信頼を失ったのだろうか?
バイデン大統領は、何が起きているのか、国民を混乱させるためにできることはすべてやった。月曜日の演説ではSVBの “救済 “は救済ではないと有権者に断言した。しかしもちろん救済措置だった。1円も損しないように安全性を確保する資格を持たない無保険の預金者が、1円も損することなく救済されたのである。
バイデンが示唆したのは、正しく言えば、それは納税者の救済ではなかったということである。しかしではそれは何だったのか。
それは、現代通貨理論(MMT)がいかに強力であるかを示すものだった。「預金者を救済する」のに十分な銀行資産は、単に銀行当局によって作り出された。2008年以降、FRBが銀行に対して行った9兆ドルの量的緩和は、貨幣の創出ではなかった。それはバランスシート運動であり、技術的には一種の「スワップ」であり、担保として差し出された「不良」銀行証券に対して連邦準備銀行の優良な信用を現在の市場価格をはるかに上回る価格で相殺するものであった。これが2009年以降の銀行「救済」だった。連邦政府の信用は税金を使わずに作られた。
ここでいくつかの政治的考察が適切である。ひとつには規制緩和の腐敗が一役買っている。SVBは連邦住宅貸付銀行(FHLB)によって監督されていた。FHLBはその監督下にある銀行が規制を受けることで悪名高い存在である。しかしSVBのビジネスは住宅ローンではなかった。それはハイテク・プライベート・エクイティがIPO(新規株式公開)のために準備し高値で発行され、話題になり、通常の株価操作詐欺の策略で下落するのを放置することだった。
シリコンバレーが民主党の拠点であり選挙資金の豊富な供給源であることも政治的配慮のひとつである。バイデン政権は、選挙資金という金の卵を産むガチョウを殺すつもりはなかった。もちろん銀行とその顧客である民間資本を救済するつもりであった。金融セクターは民主党支持の中核であり、支持者に忠実である。
オバマ大統領は、搾取されたジャンク・モーゲージの顧客が家を失わないようにするために住宅ローンの負債を現実的な市場評価額まで評価減するという選挙公約を実行するのではないかと心配する銀行家たちに、「あなたたち(ホワイトハウスを訪れた銀行家)と武器を持った暴徒の間にいるのは私だけだ」と言った。オバマの「希望とチェンジ」という選挙公約を信じた有権者のことをそう表現しているのだ。
バイデン政権の計画はいつものやり方だ。銀行問題を先送りし2024年11月の選挙日まで(学生の債務者ではなく銀行家のための)救済策で経済を氾濫させるというものである。
SVBが予想していた通り、連邦準備制度理事会は月曜日に金利を引き下げた。急落防止チームによるこの金利引き下げは、SVBが購入した長期国債の投資家にとって実に大きな利益となった。
問題はタイミングだった。暴落するときはいつもそれが問題になる。
そしていつかは必ず金融の暴落が起こる。それは、有利子負債は指数関数的に増えていくが経済はS字カーブを描き、やがて下降に転じるからだ。そして経済が下降するとき、つまり独占価格や米国の反ロシア制裁による物価上昇に労働者の賃金率が追いつきそうになったときに意図的に減速させ、エネルギーや食料の価格を引き上げると、経済に対する金融債権の大きさが支払い能力を超えてしまう。
それが経済が直面する本当の金融危機である。そしてそれは銀行にとどまらない。たとえ連邦準備制度が資産価値のインフレを行っても経済全体が(所得の)負債デフレで苦しむのである。