No. 1740 ノルドストリームとアンドロメダの隠蔽工作

The Nord Stream-Andromeda Cover Up

米国情報部はドイツの調査に関する情報をニューヨーク・タイムズ紙にあまりにも早くリークした。真犯人はシーモア・ハーシュの調査活動に神経をとがらせているのでは、という印象がますます強まる。

by Scott Ritter   https://consortiumnews.com (March 14 2023)

2000年、『スタートレック』シリーズの生みの親であるジーン・ロッデンベリーの未使用資料を基にしたテレビシリーズ『アンドロメダ』が放映された。そのプロットは時が止まっている宇宙船「アンドロメダ」が、時間を逆行させて歴史を元に戻す機会を与えられるという概念を前提にしている。

このシリーズは5年間放映された。
話を現在に戻そう。
ロシアの天然ガスを4本のパイプライン(それぞれ2本のパイプラインからなるノルドストリーム1、ノルドストリーム2)でヨーロッパに送るノルドストリーム・パイプラインシステムに「終止符を打つ」という意図を公言したジョー・バイデン米大統領の政権は厳しい状況に追い込まれた。

ピューリッツァー賞を受賞した調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュが、2022年9月26日に発生した一連の海底爆発の責任をバイデン自身に押し付けるような不利な情報を詳細に報告したため、バイデンのホワイトハウスは、大統領の述べた意図を否定せざるを得なくなった(もしそれが事実ならば、疑う理由はないだろう)。

ハーシュのレポートはアメリカの主要メディアから無視され、ハーシュが長年国家安全保障問題を担当してきたニューヨーク・タイムズ紙も、またワシントン・ポスト紙も現役最強の調査報道ジャーナリストが超大作を発表したことをほのめかすにとどまった。

「アンドロメダ号」–同名のテレビシリーズの宇宙船ではなく、ドイツのバルト海の港町ロストックを拠点とする15メートル(49フィート)のヨット「ババリアC50」の登場である。ハーシュがSubstackで記事を公開してからほぼ1カ月後の3月7日、ARDキャピタルスタジオ、Kontraste、Südwestrundfunk(SWR)、Die Zeitのドイツの記者チームが共同で「秘密作戦に使われたとされるボート」の存在を突き止めたことを報告したのである。

その船は「ポーランドに拠点を置く会社から借りたヨットで、2人のウクライナ人が所有していたらしい」。記事によると「海上での秘密作戦は、6人のチームによって行われた」という。

ヨットの名前は「アンドロメダ」だった。

ドイツの報道によると、このチーム(船長、プライマリー・ダイバー2名、サポート・ダイバー2名、女性医師からなる男性5名)はアンドロメダで事件現場へ向かい、パイプラインを破壊するための爆薬を輸送したという。船は「清掃されていない状態」でロストックに戻されたため、1月8日から11日にかけて船内の捜索を行ったドイツの警察当局は、船室のテーブルから「爆発物の痕跡」を検出することができた。

新しいノルドストリーム攻撃のシナリオに関するドイツの報道が流れた同じ日、ニューヨーク・タイムズは「親ウクライナ派がパイプラインを妨害したことを示唆する情報、米政府高官発表」と題する記事を一面に掲載した。

ニューヨーク・タイムズ紙は初めてハーシュの取材に言及し、「先月、調査ジャーナリストであるシーモア・ハーシュは、バイデンの指示で米国が作戦を実行したと結論づける記事をニュースレター・プラットフォーム『Substack』で発表した」と書いた後、「米当局者はバイデンとその首席補佐官がノルドストリーム・パイプラインを破壊するミッションを許可しておらず、米国の関与もなかったとしている」と結んでいる。

2022年9月26日にノルドストリーム・パイプラインで引き起こされた爆発の地図。(FactsWithoutBias1, CC-By-SA 4.0, Wikimedia Commons)

バイデンホワイトハウスの否定に呼応するかのように、ニューヨーク・タイムズ紙はこう切り出した。

ロシアからヨーロッパに天然ガスを運ぶノルドストリーム・パイプラインへの攻撃を誰が行ったかについて、新たな情報報告が最初の重要な既知の手掛かりとなる。

ニューヨーク・タイムズ紙は、ハーシュの情報源を排除して、自分たちの匿名の情報源を使うことに満足しているようだ。

ドイツの報道とニューヨーク・タイムズの報道(その情報源は明らかにドイツの記者が報告したのと同じデータを参照していた)の両方の問題はアンドロメダの話が成り立たなくなることである。

例えば、トム・クランシーの物語のような、4人のウクライナ人ダイバーが240フィート(破壊されたノルドストリーム・パイプラインの深さ)の上昇に耐えるために減圧室を使用する必要がある潜水を行い、生理学を無視した勇敢な行動をとったという話はどうだろう。減圧には海水100フィートあたり約1日プラスアルファがかかるというのが経験則である。

つまり、ダイバーチームは1回の潜水で3日間の減圧が必要だった。しかし減圧するためには減圧室が必要である。2人のダイバーが潜る場合、アンドロメダには2人用のクラスA減圧室か、1人用のクラスB減圧室が2つ、そしてそれを長時間使用するための大型酸素ボトルが装備されている必要がある。

ヨット「ババリアC50」の室内キャビンスペースを簡単に検証してみればどちらもありえないことがすぐわかる。

つまり、減圧室がなければ、ダイビングもできないし、ストーリーはなりたたない。

高性能爆薬の「痕跡」

この話にはもう一つ、探るべき側面がある。ドイツの報道によると法執行機関はアンドロメダの客室内のテーブルから高性能爆薬の「痕跡」を検出したという。

スウェーデン検察当局によると、2022年11月19日に発表された声明の中で、スウェーデンの捜査当局は、爆発現場で「発見されたいくつかの異物に高性能爆薬の痕跡を発見」した。

ノルドストリーム1と2のパイプラインを所有するスイスの親会社Nord StreamAGが発行した2022年11月22日の報告書によると、これらの爆薬が「テクノジェニック」(つまり、人間の技術によって生み出されたプロセスや物質の、またはそれに関連した)3~5メートルのクレーターを、約248メートルの距離を隔てて作ったという。

「クレーターの間のパイプは破壊され、パイプの破片が飛散した半径は少なくとも250メートルである」と報告書は指摘している。

デンマークとスウェーデンの両国は国連への報告書の中で、ノルドストリームのパイプラインに加えられたダメージは「数百キログラムの爆薬」の威力に相当する爆風によって引き起こされたと述べている。

注意すべきことはノルドストリームで使用されているような水中パイプラインは、数百キログラムの大きさの装置による近接爆発に耐えるように設計されていることだ。実際、バルト海のように複数の世界大戦の不発弾が散見される場所では、漂流物がパイプラインに衝突して爆発する脅威は極めて現実的である。

コンピュータ・モデリングによれば、ガスが充填された厚さ34ミリの鋼鉄製パイプラインから約5メートル離れた場所で600キログラムの高性能爆薬を爆発させても、パイプラインの構造的完全性は損なわれないとされている。

爆発した場所のノルドストリーム・パイプラインは、26.8ミリの鋼管に33.2ミリのコンクリート被覆を追加し、合計60ミリの厚みで構成されていた。1本のパイプの重量は11トン以上になる。

つまり、一般的な数百キロの爆薬では、ノルドストリーム・パイプラインのような破壊を引き起こすことはできないのである。

ハーシュは、使用された爆薬が「成形炸薬弾」であると報じている。

成形炸薬弾は爆発のエネルギーを一方向に集中させるもので、通常は爆薬に凹型を作り、それを金属板で裏打ちすることにより装甲やコンクリートを貫通させる効果を得ることができる。

あまり専門的なことは抜きにして、水深240フィートのコンクリートライニング鋼管を貫通するのに十分な水中成形炸薬弾の設計は一般的に知られているものではない。爆薬の専門家による設計が必要であり、理想的には、運用前にテストを行い、デバイスの設計と機能性を検証する必要がある。

これらの作業はウクライナの水中破壊工作員による小規模なアドホック・チームが行うものではなく、軍用爆薬や試験施設を利用できる国家的な支援者が行うものである。

ドイツの報道はこれでツーストライクだ。

しかしドイツの報道の最も大きな欠点は、アンドロメダから「微量の爆薬」が検出されたと報じたことである。この情報は、使用された正確な爆発物を特定するものである。さらに、スウェーデン人がノルドストリーム攻撃の現場で発見した「微量の爆薬」と比較対照すれば、アンドロメダと攻撃との間に明確な関連性を示すことができるだろう。

しかしスウェーデンは国家安全保障上の理由からノルドストリーム襲撃事件の調査ファイルを封印しており、ノルドストリーム襲撃事件の現場で見つかった爆発物の痕跡がアンドロメダに搭載されていたものと一致するかどうかを確認するためにドイツと協力することはないということである。

この決定の背景には、2つの痕跡が一致しないから、という明白な理由がある。一つはスウェーデンのサンプルでこれは犯人を示している。もう1つはアンドロメダのサンプルで、隠蔽工作の証拠なのだ。

スリーストライクで、アウトだ。

ドイツ政府はノルドストリーム・パイプラインを攻撃したのが誰なのかについて、別のシナリオを作ろうと粗雑な努力をしているが、それは嗅覚テストで失格だ。要するに臭いのだ。このストーリーの穴は、最も才能のある脚本家でも、このアンドロメダ的な歴史改変の物語を少しでも信じられるものに変えることができないほどなのだ。要するにジーン・ロッデンベリーは感心しないだろう。

さらにアメリカの情報機関がドイツの調査に関する情報をいち早くニューヨーク・タイムズ紙にリークしたことは、この隠蔽工作にアメリカが加担した事実上の証拠であるように思われる。

そしてこの隠蔽工作の理由は明らかである。ドイツ人もアメリカ人もハーシュの報道を恐れているのだ。

著者Scott Ritter:旧ソ連では軍備管理条約を、ペルシャ湾では砂漠の嵐作戦を、イラクでは大量破壊兵器の武装解除を指揮した元米海兵隊の情報将校。近著に『ペレストロイカの時代における軍縮』(2022年)がある。

SCOTT RITTER: The Nord Stream-Andromeda Cover Up