No. 1764 ドナルド・トランプは法の上には立てない

No Donald Trump Is Above the Law

by Ted Rall

アメリカでは法の上に立つ者はいない、たとえ大統領でも、もし彼の名前がドナルド・J・トランプなら。

グローバー・クリーブランド(第22、24代米大統領)が1期目に当選した1884年の10年前、クリーブランドは未亡人のマリア・ハルピンとの間に子どもが生まれた。問題は彼女がクリーブランドにレイプされたと宣誓して証言したことである。野心的で裕福なクリーブランドは19世紀の金持ちで意地悪な男なら誰でもするようなことをした。赤ん坊を孤児院に預け、母親を精神病院に入れるよう手配したのだ。(病院は母親を受け入れなかった)。さらに母親を乱暴なアル中だとマスコミに喧伝した。ところがハルピンは評判もよい人物で教会に通う善良な信者であった。

クリーブランドに対していかなる告訴もなされなかった。

ロナルド・レーガン(第40代米大統領)の最も有名なスキャンダルはイラン・コントラで、レーガン政権は自らの制裁に反してイランに武器を売り、連邦法を破ってその代金を中米の右翼の決死隊に使った。彼はこの種のことは初めてではなかった。

イランの人質となったアメリカ大使館員が1980年の選挙前に解放され、ジミー・カーターが再選を果たすのではないかと心配したレーガンの3人の高官(選挙対策本部長で後のCIA長官ウィリアム・ケイシー、元テキサス州知事のジョン・コナリー、コナリーの子分ベン)が、選挙が終わるまで人質を解放しない代わりにイランに武器を売ることを約束した。この取引に従い、レーガンが大統領就任宣誓を行った数時間後、イランは約束通り人質を帰国させた。レーガンは武器の約束を破った。

レーガンが起訴されることはなかった。

レーガンはシェノー事件に感化されたのかもしれない。当時の共和党候補であるリチャード・ニクソンが現職のリンドン・ジョンソン(LBJ)のベトナム和平への取り組みを妨害し、ヒューバート・ハンフリーにホワイトハウスを奪われないようにしようとしたことだ。

1968年の選挙の2週間前、民主党の情勢は好転していた。ソ連は、反共主義を掲げるニクソンの勝利を懸念し、その衛星国である北ベトナムに和平協定に合意するよう命じた。LBJは北への爆撃を中止することに同意した。あとはアメリカの衛星国である南ベトナムを味方につけるだけだった。

そこでニクソンは、裏ルート(シェノー夫人)を使って南ベトナムの大統領に和平交渉のボイコットを依頼し、勝利後の軍事・経済支援の継続を約束した。南ベトナムの指導者は和平交渉をボツにし、ニクソンは勝利し、戦争はさらに7年間続き、何十万人もの人々が殺された。FBIの盗聴によってこの計画が明らかになった時、LBJは「これは反逆罪だ」と言った。

ニクソンは起訴されなかった。

レーガンが署名した大統領令12333にはこうある: 「合衆国政府に雇用され、または合衆国政府を代表して行動する者は、暗殺に従事し、または従事することを謀議してはならない」。これは今でも法律として残っている。

レーガンは自らの規則に従わなかった。1984年、レーガンはレバノンの聖職者モハマド・フセイン・ファドララの暗殺を命じた。ファドララは無傷で済んだが、罪のない傍観者80人が殺された。1986年には、リビアのモアマル・カダフィの自宅を爆撃し、カダフィの幼い娘を殺害した。

これも起訴されていない。

歴代米大統領のジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、ドナルド・トランプ、ジョー・バイデンは、ドローン攻撃で何千人もの人々を殺害した。その一つひとつが、政治的暗殺(「政治的に象徴するもののために」殺された人)であると定義されている。オバマはオサマ・ビンラディンの殺害を命じ、トランプはイランのトップ将軍であるカセム・ソレイマニを殺害した。

起訴なし。

女優のヘザー・リンドは2014年の写真撮影の際にジョージ・H・W・ブッシュに体を触られたと訴えた。ジュアニタ・ブロードリックはビル・クリントンがアーカンソー州司法長官だった1978年に彼女をレイプしたと言った。タラ・リードは1993年にジョー・バイデンに性的暴行を受けたと主張している。

いずれも告訴はされていない。

ニクソンは、自分が指名した後継者のジェラルド・フォードから大統領恩赦を受けている。そのため、彼はウォーターゲート事件での訴追を免れることができた。

ビル・クリントンは、ポーラ・ジョーンズ事件での偽証罪での訴追を避けるために2万5,000ドルを支払った。

1806年に決闘で人を殺した(当時、すでに決闘は違法だった)アンドリュー・ジャクソンから、グアンタナモ拷問収容所を主宰したブッシュ、オバマ、トランプまで、米国は国連拷問禁止条約に加盟しており、条約上の義務であるため連邦法の対象となる。しかしこれまでどの大統領も元大統領も刑事責任を問われたことはない。

これまでは。

慈悲深く、お気楽な性格のアメリカ人は、ありふれた政治的暗殺、あるいは1000件もの暗殺には簡単に目をつぶる。私たちの中で決闘で人を殺したことがないと言い切れる人がいるだろうか。レイプは被害者にとって不愉快なことだが、レイプ犯が大統領や元大統領だった場合それがレイプ犯にとってどれほど不愉快なことか考えてみようー 無視して行ったほうがいい。

外国と共謀して大統領選挙を操作することは、特に、長期の戦争や人質として過ごす時間が長くなることを意味する場合にはひどい、安っぽいとさえ思うだろう。しかし、そのようなことで大統領や元大統領を追及するのは行き過ぎである。そのようなことは考えない方がいいし、ましてや行動に移さない方がいい。

この最も寛容な国アメリカでも、もしあなたが金持ちで白人で権力者でも、限界はある。その限界とは、元愛人に口止め料を支払う過程で、連邦選挙資金法に違反するために業務記録を改竄することだ。ドナルド・J・トランプは、その厳しい一線を越えてしまった。

だから彼は代償を払わなければいけない。

もしトランプが、歴代米大統領の中で最悪で人類がこれまでに生み出した最悪の人間であるトランプが、ストーミー・ダニエルズへの口止め料の支払いで最長5年の刑務所行きにならなければ、それはひどいメッセージを送ることになるだろう:

何でもあり。

それはいけない!

https://www.unz.com/trall/no-donald-trump-is-above-the-law/