Top Ten Myths About China – Part 2
欧米で流布している中国に関する作り話とは?
オーストリア学派経済学の視点による中国
https://austrianchina.substack.com (June 22 2023)
2022年5月、当時流布していた作り話のいくつかを紹介した。あれから1年が経ち、私たちはさらにいくつもの作り話を蓄積するのに十分な時間があった。
新しい話に入る前に、1年前に取り上げた5つの作り話を紹介しよう:
1 中国は中央管理経済である。
2 中国における「政府」は中国共産党(CCP:Chinese Communist Party)と同じである。
3 中国には「社会的信用システム」があり、市民の行動を追跡し、飼いならされた者には褒美を、従わない者には罰を与えるような点数をつけている。
4 2020年に発生したコロナに対する中国の対応は、世界の他の国々にとって模範となった。
5 コロナの発生に対する中国の対応は、世界のどこよりも非人道的であった。
率直に言ってこれだけの数があると、どこから手をつけていいのかわからない。いずれパート3をやらなければならないかもしれないが、ここでは2023年に最も出回った5つを紹介する。
Part1{2}を読んでいない人のために、作り話1を繰り返そう。残りを理解するには、その1を理解することが極めて重要だからだ:
1 中国は中央管理経済である。
現実: ほとんどの予測で、中国のGDPの約25%は政府が管理する企業によって生み出されている。75%は民営企業や外資系企業によって生み出されている。しかしおそらくより重要なのは、民間部門が雇用とイノベーションの両方を推進し、新規雇用の100%と新規特許出願の93%を生み出していることである。つまり、政府が運営するセクターはかなりあるが、実際には、優遇政策を享受しているにもかかわらず経済にとって重荷になっているといえる。
どこの国でもそうであるように、政府は民営企業に対してある程度の影響力を持っているが、その効果という点では、この手の届く影響力は実際の直接的な公的所有権とは比較にならない。これについては{3}で詳しく述べている:
さて、新しい作り話と準新しい作り話にいこう。その最たるものが作り話その6(下記)で、実際にはその1と同じものである。
6 中国は共産主義国である。
何故か、多くの人々がラベルが誤解を招く可能性があるという考えに苦しんでいる。もし誰かが「民主主義者」と主張した場合、それは彼が実際にそうであることを意味するのだろうか?同様にもし誰かが「保守主義者」と主張した場合はどうだろうか?とはいうものの、中国政府でさえ中国を「共産主義」と言ってはいない。彼らは「中国の特色ある社会主義」という言葉を使っている。だから中国が「共産主義」という言葉を党名に持つ政党によって運営されているという事実は何の意味もなさない。
こうした主張をする人々に合わせるために、彼らが「共産主義」という言葉を使うときに、彼らが実際には社会主義を指していると仮定しよう。例えば、ソビエト連邦や毛沢東時代の中国のように、国が統治を開始する際に彼らは支配下にある地域のすべての企業を国有化した。
現実: 呼び名はさておき、今日の中国はこれらの言葉に通常関連づけられるどのような基準から見ても、とても社会主義(あるいは共産主義)とは言えない。それどころか、自由市場主導の経済があり、アメリカ以外の世界のどこよりも、5倍も多くの億万長者がいる。
作り話その1で述べたように、中国のほとんどの企業は個人所有であり、いくつかの例外はあるもののほとんどの産業において企業間の競争は世界で最も激しいもののひとつである。このような垣根のない競争は、社会主義的でもなく、ましてや共産主義的でもない。特に、熾烈な競争は中央計画から得られるものではない。政府は民間企業にかかわっているのだろうか?もちろんそれは世界中で行われていることだ。しかしかかわることは所有ではない。大きな違いがある。
また、中国の福祉制度は極めて限定的である。公的年金制度やホワイトカラー向けの公的健康保険は存在するが、その他の制度(障害、失業)は極めて貧弱だ。その代わり、家族が主要な支援メカニズムであることに変わりはない。数十年にわたる高い貯蓄率と好況の不動産市場のおかげで、ほとんどの家族は、家族の誰かが苦境に陥った場合に備えてある程度の貯蓄を持っている傾向がある。国が給付を行うとしてもその額はごくわずかであるため、わざわざ申請する人はほとんどいない。
これとは対照的に、名目上は「資本主義国」でありながら、大きな福祉制度を持つ国々の多くが、現在、万人向けのユニバーサル・ベーシック・インカムの導入について話し合っている。これは中国では考えられないだろう。
しかし最終的に重要なのは結果である。「共産主義」が富、つまり資本を生み出さないことは周知の事実である。それどころか、資本を使い果たしてしまう。新たな富、つまり資本は生み出されているのか、それとも生み出されていないのか?あるいは、生み出された富の多くが、寄生階級への贈与によって吸い上げられてしまうのか?これがリトマス試験紙である。
中国での答えは明白である。イエス、富はたくさん生み出されている。一部は寄生階級の手に渡る。そして、イエス、他のところでも論じたように、資本の一部は確かに浪費されている。さらに2008年以降、中国政府はあらゆるレベル(国、省、地方)で支出を大幅に増やしたが、そのすべてが(特に2020~2022年に!)特に生産的だったわけではない。この間、北京の指導部は欧米諸国と同様、銀行が巨額の新札を印刷することを容認し、不動産セクターを中心にあらゆる種類の不正投資{4}を引き起こした。ゴーストシティに関する作り話はさておき、実際にミスは犯され、多くのデベロッパーがオーバーレバレッジに陥った。こうした誤った判断のツケを払うのは、株主、債券保有者、債権者、そしてデベロッパーの顧客である。そしてある程度は国も払っている。しかし貯蓄率が40%前後で推移しているため、通常、経済は多くの失敗を犯しながらも、純資本を蓄積し続けることができるのである。
ではその結果はどうだったのか?これだけお金を刷り、政府支出を行ったことで非常に現実的な問題が生じたが、正味の結果として世界最大の中産階級が生まれた。このことを示す指標はたくさんあるが、おそらく最も顕著なもののひとつは乗用車市場だろう。中国市場の規模は、次に大きいインド市場の6倍以上である。(商用車販売も含めると米国は第2位で市場規模は中国の約半分。しかし中産階級の消費者の購買力を測ろうとするなら、商用車はあまり関係ないだろう)。これは単に量と質の問題でもない。ハイエンド市場においても、中国の消費者需要は他のすべての市場を上回っている。
2022年の乗用車新車登録台数。出典{5}。
もう1つの注目に値する指標は、観光業で、2020年まで、中国人観光客は世界中の多くの国で観光支出の第1位となっていた。もちろん、この点を証明するには2つの指標だけでは不十分だが、興味のある方は他にもたくさん見つけることができる。
ここでは富について話しているのであって、所得について話しているのではないことに注意してほしい。所得の流れは、富や消費に比べて、特に中国のように所得税の申告をする人がほとんどいない国では、突き止めるのが難しいことで有名である。
7 中国企業はすべて「中国共産党(CCP)」に支配されている。
まさか、とんでもない。
現実:「中国共産党(CCP)」という組織が存在しない(あるのはCommunist Party of China:CPC)という事実はさておき、これは精査にまったく耐えない愚かな発言にすぎない。それなのに、一部の欧米人は信じているらしい。
株式市場について何も知らなくても、これらの主張を繰り返す人には、彼らが語る「超人的な」CCPが何故何百万もの企業を収益を上げながら管理できたのか、一方でソビエト連邦や毛沢東時代の中国は惨めにも失敗したのか、と問うことができるだろう。
よくある反論のひとつは、補助金を出したり、コスト割れした製品を「ダンピング」して利益を上げているというものだ。このような考えがでてくるのは、経済学をまったく理解していない人たちからである。当たり前のことだが、「補助金」を支払ったり原価割れで売っても富は生まれない。
この主張のもうひとつの明らかな問題は、中国政府と中国のトップ企業の多くが、敵対的な関係にあることだ。過去5年間、中国政府は中国の大企業数社に天文学的な罰金を課してきた。アリババには28億ドル、美団には5億8000万ドルの罰金が科せられた。彼らはまた、中国の決済市場を支配する寡占体制の一つである決済サービスプロバイダーである、アリババが計画していた数十億ドル規模のアリ・フィナンシャルの株式公開(IPO)を中止した。
自国の最高のチャンピオンであるべき企業に対するこのような厳しい取り扱いは、間違った行為と言えるかもしれないが、それは絶対的な支配の立場を意味するものではない。これは西側の対応とは明らかに対照的で、西側の多くの企業は、ブラックロックとその連携する投資ファンドによって支配されている。
中国とは異なり、これらの企業はいずれも各国政府と非常に親密な関係にある傾向がある。実際欧米では、どう見てもブラックロックは国家と見分けがつかない。もしそうだとすれば、ブラックロックが支配する企業の多くが、民営の中国の競合他社と競争するのに苦労しているのも当然ということになる。この比較については{6}で書いた。
8 中国はオーウェリアンな警察国家であり、警察は残忍でほとんどの人々が政府を恐れている。CCPはすべてを監視し、決定している。あるコメンテーターが述べているように、「中国は絶対に刑罰を受けずに統治する1つの与党によって統治されている」。
引用:「すべてが党によって追跡されている…もし党に反対する発言をすれば社会から締め出され、処罰される」。
このような主張と現実には大きなギャップがある。しかしこの発言にはいくつかの部分があるので、ひとつずつ見ていこう。
現実: 警察国家とは漠然とした言葉だが、客観的に言えるのは、中国は現在、世界のどこよりも「恐怖」のレベルが低いということだ。一つは凶悪犯罪が少ない。ほとんどの地域では犯罪者や警察に襲われたり、声をかけられたりする心配がなく、文字通り24時間365日、iPhone14を見ながら街を歩くことができる。警察は銃を携帯していないし、警察と口論している人を見かけることも珍しくない。そういう意味で何らかの取り締まりが行われていない限り、警察が路上で人々や運転手にかかわっているのを見かけることは特に多くない。最もよくあるのは、警察官がバイクに乗った配達員を捕まえている姿だろうが、彼らは交通法規を最低限しか守らないため、これはかなり頻繁に起こる。
さらに、どこかの国と違って、警察が犯罪の疑いがある人物や犯罪に関係している人物と話をしたい時、SWATチームを手配してその人物の家に押しかけることはない。その代わりほとんどの場合、まず本人に電話をかけ、警察署に来て供述するよう求めるのだ。
とはいえ、警察国家という考え方が監視と結びついている点では世界的なランキングで言えば、中国の大都市はかなり上位に入るだろう。繁華街、駅、空港などではカメラが至るところにあり、多くの国と同様、顔認識ソフトが確実に使われている。指名手配された者は最終的に逮捕される傾向にあるが、その所要時間の長さから判断すると、特に小さな町ではこのようなソフトウェアはまだ一般的に使われていないようである。さらに、もしあなたが指名手配リストに載っていなければ、あなたが影響を受けることはないだろう。例えば、都市部では何年も警察に登録せずに生活している人が絶対にいる。そのような人たちが登録に行っても、明らかに警察は彼らが実際にいつ到着したのかわかっていない。
さらに、このような監視が犯罪を抑制する効果があることも忘れてはならない。特に子供がいる人にとっては、犯罪がないことは非常に魅力的なことである。
党を批判することで「社会から締め出される」ことについては、これもまた現実とはあまり関係がない。プライベートにおける批判は日常茶飯事で、ネット上でさえ珍しいことではない。中国の「言論封殺」政策に関する以前の記事{7}で述べたように、中国の現在の検閲の枠組みは確かに不合理である。それはむしろ非効果的でもある。どうせニュースは出回る。しかも投稿の削除やソーシャルメディアのアカウントの一時的な凍結以上の措置をとらせるほど政府を刺激するには、それなりのことをしなければならない。そして誰かが実際に「犯罪」で有罪判決を受け、実刑判決を受けるという絶対に最も極端なケースであっても、5年以上前の判決は極めてまれである。15年以上の実刑判決が常態化している米国と比較すれば、その差は歴然だ。おそらくいつか中国が欧米の出版物に書かれているような社会信用システムを実際に導入すればこの状況は変わるかもしれない。しかし、まだそこまでは至っていない。
{8}で社会信用システム心理戦をレビューしている。
9 中国はトップダウンの国である。
表面的な意味ではイエス、であう。しかし現実はそうではない。中国には確かに権威主義の伝統があるが、それはしばしば行動よりも口先だけのものだ。古いことわざにあるように、山は高く、皇帝は遠くにいる。(山高皇帝遠:つまり政府はあまり注意を払っていない)
現実: 地域主義がルールである。それについては{9}で書いているので、『Goodbye to regional competition?』から読んでほしい。中央政府は干渉することがあり、時には成功することもあるがそれは例外的なケースである。さらに、西洋社会でのイメージとは異なり、中国人は特に従順ではない。彼らは「Yes」と言うかもしれないが、しばしば「No」と行動する。
10 中国の経済成長は、主に西洋技術のコピーと盗用によってもたらされている。
このような幻想を払拭するのに役立つのが特許付与を国別に比較した以下のグラフである。特許がすべてではないが、イノベーションのペースと相関関係がある。米国が4分野、日本が3分野であるのに対し、中国が29分野でトップであることにショックを受ける人もいるに違いない。
これを最後にしたのは、中国の二重性やその潜在的な脅威を明らかにしようとする際、しばしばこれが最後の頼みの綱となるからである。
最後におまけの作り話を紹介する。中国に関する作り話というわけではないが、それでも言及する価値はあるだろう:
おまけの作り話:クラウス・シュワブやビル・ゲイツなどの西側のエリートは、中国を「アジェンダ2030」、のモデルとして見ている。
それはあり得るかもしれない。私たちは彼らの心にアクセスすることはできない。シュワブとゲイツの両方が、中国に対して何度も曖昧な「賞賛」の意を表明しているのは事実である。しかし彼らは正直に言ってるのだろうか?そうとは思えない。なぜなら、彼らのアジェンダの中核を成すアイデアは、すべて大規模な中央計画と経済介入を必要とするからで、先述したように、実際の中国はそうした原則を実践する良い例ではないからだ。彼らはきっとそれを認識しているはずである。それには「あなたは何も所有せず、幸せである」というような考えが含まれている。あるいは自家用車の所有を75%減らすべきだという考え方もだ。あるいは、国家はエネルギーに巨額の税金を課すべだと考えており、それは論理的に社会の大規模な貧困化につながるだろう。中国の指導者層が、こうした考えのいくつかにリップサービスを提供しようとしているのは事実だが、結局のところ、中国はすでに中央計画経済を試行し、その結果を目の当たりにしている。その結果は、控えめに言ってもお粗末なものだった。中国の誰も、そのような状況に戻ろうとはしない。一度で十分なのだ。
2023年のダボス・サミットで、中国の李克強首相もそのように述べた。彼は特に、中国は市場主導型経済にコミットしていると述べた。実際には、いくつかの政策上の誤りによる挫折があったにも関わらず、この基本的な主張に疑念を抱かせるような証拠はない。
Links:
{1} https://austrianchina.substack.com/p/top-10-myths-about-china-part1
{2} https://austrianchina.substack.com/p/top-10-myths-about-china-part1
{3} https://austrianchina.substack.com/p/which-country-has-the-larger-private-sector
{4} https://wiki.mises.org/wiki/Malinvestment
{5} https://www.theglobaleconomy.com/rankings/passenger_cars_sales
{6} https://austrianchina.substack.com/p/which-country-has-the-larger-private-sector
{7} https://austrianchina.substack.com/p/chinas-zero-speech-policy-not-sustainable
{8} https://austrianchina.substack.com/p/china-dystopia-psyop
{9} https://austrianchina.substack.com/p/lamenting-chinas-2021-cancel-culture
https://austrianchina.substack.com/p/top-10-myths-about-china-part-2?