No. 1894 中央アジアは新しいグレート・ゲームの主戦場

Central Asia is the prime battlefield in the New Great Game

ロシアと中国がこの地域の政治的、経済的な支配者であり続ける限り、中央アジアのハートランドは米国とEUの脅威、賄賂、カラー革命の標的となり続けるだろう。

by Pepe Escobar

歴史的なハートランド(中央ユーラシア)のサマルカンド(ウズベキスタン)は米国と中ロ戦略的パートナーシップの間で戦われる新たなグレート・ゲームの主戦場であり、今後もそうあり続けるだろう。

最初のグレート・ゲームは19世紀後半にイギリス帝国とロシア帝国の争いだったが、実際には終わっていなかった。それは米英連合対ソ連となり、その後の米EU対ロシアへと展開していった。

1904年にイギリス帝国が概念化したマッキンダーの地政学的ゲームによれば、ハートランドはまさに「歴史の中心」とされ、21世紀に再び活性化されたその歴史的役割は、新たに出現した多極性の推進力として何世紀も前と同じように重要である。

したがって、中国、ロシア、アメリカ、EU、インド、イラン、トルコ、そして小規模ながら日本など、すべての大国がハートランド/中央ユーラシアで活動しているのも不思議ではない。中央アジアの5つの「スタン」のうち、4つが上海協力機構(SCO)の正式メンバーである。カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンだ。またカザフスタンのように近い将来BRICS+のメンバーになる可能性のある国もある。中央アジアの地図

ハートランドをめぐる影響力争いにおいて直接的な地政学的対立は、米国対ロシア・中国で、対立は政治、経済、金融など多岐にわたる。

帝国のやり口は脅しと最後通牒を重視する。わずか4カ月前、米国の国務省、財務省、外務省管理局(OFAC)から派遣された使者はあからさまな、あるいはうまく隠された形で、脅しを伴う「贈り物」を携えてハートランドを視察した。その重要なメッセージは、少しでもロシアに「協力」したり、ロシアと取引したりすれば、二次的制裁を受けるというものだった。

ウズベキスタンのサマルカンドやブハラにある企業や、カザフスタンにいる人たちとの非公式な会話から、あるパターンが浮かび上がってきた。誰もが認識しているのは、米国はハートランド/中央アジアを武力で掌握しようとする際にどんな手段も選ばないということだ。

古代シルクロードの王たち

ハートランド全域で、「東方のローマ」と呼ばれるサマルカンドほど現在の権力争いを観察するのにふさわしい場所はないだろう。ここは古代のソグディアナの中心に位置し、中国、インド、パルティア、ペルシャを結ぶ歴史的な交易の十字路であり、東西文化の潮流、ゾロアスター教、イスラム以前/以後の方向性の非常に重要な拠点である。

4世紀から8世紀にかけて、ソグド人は東アジア、中央アジア、西アジア間のキャラバン貿易を独占し、絹、綿、金、銀、銅、武器、香料、毛皮、絨毯、衣服、陶磁器、ガラス、磁器、装飾品、半貴石、鏡などを輸送した。狡猾なソグド商人は遊牧民の王朝からの保護を利用して、中国とビザンチウムの貿易を強固なものにした。

実力主義の中国エリート層は、非常に長い歴史的サイクルの中で物事を判断しており、これらすべてをよく理解している。それが新シルクロード構想(正式名称は一帯一路構想(BRI))の背後にある主な要因である。習近平国家主席が約10年前、カザフスタンのアスタナで発表した。北京は全ユーラシア的な貿易と連結性を高めるために必要な道として、西側近隣諸国との再接続を計画している。

北京とモスクワは、ハートランドとの関係において常に戦略的協力の原則の下、補完的な焦点を持っている。両国は1998年以来、中央アジアとの地域安全保障・経済協力に携わってきた。2001年に設立されたSCOは、ロシアと中国の共通戦略の実際の産物であり、ハートランドとのノンストップ対話のプラットフォームでもある。

中央アジアのさまざまな「スタン諸国」がどう反応するかは多層的な問題である。例えばタジキスタンは経済的に脆弱で、安価な労働力の供給国としてロシア市場に大きく依存しているが、公式には西側諸国を含むあらゆる種類の協力に対して「門戸開放」政策を維持している。

カザフスタンとアメリカは、戦略的パートナーシップ協議会を設立した(最後の会合は昨年末)。ウズベキスタンとアメリカは「戦略的パートナーシップ対話」を2021年末に設置している。タシケントには大きな貿易センターがあることやウズベキスタンの村にある小さな商店にコーラやペプシが並んでいるなど、ビジネスにおけるアメリカの存在感が目立っている。

EUはそれに追いつこうとしている、 特にカザフスタンでは対外貿易(390億ドル)と投資(125億ドル)の30%以上がヨーロッパからのものである。ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領は5年前に国を開放したことで非常に人気があり、3ヶ月前にドイツを訪問した際には、90億ドルの貿易契約を締結している。

10年前に中国のBRIが始まって以来、EUはハートランド全域に約1200億ドルを投資してきた。これは悪くない数字である(対外投資総額の40%)。しかし中国のコミットメントにはまだ及ばない。

トルコは本当は何をしようとしているのだろうか?

ハートランドで帝国が注目しているのは、膨大な石油・ガス資源を持つカザフスタンだろう。アメリカとカザフスタンの貿易は、アメリカの対中央アジア貿易の86%を占めているが、昨年はたった38億ドルだった。しかしアメリカの対ウズベキスタン貿易はこれに比べるとはわずか7%である。

SCOに加盟している中央アジアの4つの「スタン諸国」のほとんどは、帝国から不要な怒りを買わないように「多角的外交」を実践していると言える。一方、カザフスタンは「バランスのとれた外交」を目指している。これは「外交政策コンセプト2014~2020」の一部である。

ある意味、アスタナの新しいモットーは、ヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領が30年近く君臨した時代に確立された「マルチ・ベクトル外交」という従来のモットーとの連続性を表している。カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のもと、カザフスタンはSCO、ユーラシア経済連合(EAEU)、BRIのメンバーであると同時に、帝国の策略に24時間365日警戒しなければならない。結局のところ、2022年初頭にカラー革命の企てからトカエフを救ったのは、モスクワとロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)による迅速な介入だった。

中国側は、集団的アプローチに投資しており、例えばわずか3カ月前に開催された中国・中央アジア5+1サミットのような注目度の高い会合でそれを確固たるものにしている。

さらに、トルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタンという中央アジアの「スタン諸国」を束ねるテュルク諸国機構(OTS){1}(旧テュルク評議会)という極めて興味深いものもある。

このOTSの最も大きな目標は、「トルコ語圏{2}諸国間の包括的な協力の促進」である。しかしトルコ製品を宣伝する奇妙な看板を除けば、ハートランド全域で実際に目みえる成果はない。2022年春にイスタンブールの事務局を訪れた際にも、「経済、文化、教育、運輸に関するプロジェクト」や、さらに重要な税関に関する漠然とした言及を除けば、具体的な回答は得られなかった。

昨年11月、サマルカンドでOTSは「簡素化された関税回廊の確立に関する」協定に調印した。この協定によってハートランドを横断するミニ・トルコ・シルクロードのようなものが生まれるかどうかを判断するのは時期尚早だ。

それでも、彼らが次に何を打ち出すか注目しておくことは有益である。彼らの憲章には、「外交問題に関する共通の立場を発展させる」、「国際テロ、分離独立主義、過激主義、国境を越えた犯罪と闘うための行動を調整する」、「貿易と投資のための有利な条件を作り出す」ことを重視している。

トルクメニスタンは、地政学的に絶対的な中立を激しく主張する中央アジアの特異な「スタン」だが、OTSのオブザーバー国でもある。またキルギスの首都ビシュケクにある遊牧民文明センターも注目に値する。

ロシアとハートランドの謎を解く

西側の対ロ制裁は、ハートランドの多くのプレーヤーを利する結果となった。中央アジアの経済はロシアと密接に結びついているため、輸出が急増した。実際、ヨーロッパからの輸入と同じくらいの量である。

かなりの数のEU企業がロシアから撤退した後、ハートランドに再定住し、それに呼応するように一部の中央アジアの富豪たちがロシアの資産を購入するプロセスも進行している。これと並行して、ロシア軍の動員が進んだことで、おそらく数万人の比較的裕福なロシア人がハートランドに移住し、同時に多くの中央アジアの労働者は新たな仕事を見つけて特にモスクワとサンクトペテルブルクで働いている。

例えば昨年、ウズベキスタンへの送金は169億ドルに上り、その85%(約145億ドル)はロシアで働く労働者からのものだった。 欧州復興開発銀行によれば、ハートランド全体の経済は2023年に5.2%、2024年には5.4%の健全な成長を遂げるという。

サマルカンドでは経済的な活況が明らかにみられる。この都市は今日、巨大な建設現場であり、修復の現場となっている。完璧に新しい、広い大通りがあちこちにでき、緑豊かな造園、花、噴水、広い歩道が完備され、すべてがピカピカに清潔である。浮浪者もホームレスも麻薬中毒者もいない。西側の衰退する大都市からの訪問者は完全に驚嘆する。

タシケントでは、ウズベク政府が全ユーラシア・ビジネスに重点を置いた広大で見事なイスラム文明センターを建設中である。

ハートランド全域で地政学的に重要なベクトルがロシアとの関係であることは間違いない。ロシア語は生活のあらゆる分野で共通語である。

ロシアと7,500キロもの国境を接する(しかし国境紛争はない)カザフスタンから見てみよう。ソビエト連邦時代、中央アジアの5つの「スタン」は実際には「中央アジア・カザフスタン」と呼ばれていた。なぜならカザフスタンの大部分はヨーロッパに近い西シベリアの南に位置しているからである。カザフスタンは自身を本質的にユーラシアの一部とみなしており、ナザルバエフ時代からアスタナがユーラシアの統合を重視してきたのも不思議ではない。

昨年、サンクトペテルブルク経済フォーラムで、トカエフ大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に直接、アスタナはドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立を承認しないと伝えた。カザフの外交官たちは、西側の制裁を回避するゲートウェイとして利用するわけにはいかないと強調しているが、陰では多くの場合そうなっている事例がある。

一方、キルギスタンは昨年10月に予定されていたCSTO(集団安全保障条約機構)の「Strong Brotherhood-2022」共同軍事演習を中止した。この場合、問題はロシアではなくタジキスタンとの国境問題であることは言及に値する。

プーチンは、ロシア・カザフスタン・ウズベキスタンのガス同盟の設立を提案している。現状では何も起こっていないし、起こらないかもしれない。

これらはすべて小さな逆風と考える必要がある。昨年、プーチンは久しぶりに中央アジアの5つの「スタン」すべてを訪問した。中国に倣って初めて5+1サミットも開催された。ロシアの外交官やビジネスマンは、ハートランドの道路を常に往来している。そして、昨年5月の戦勝記念日にモスクワの赤の広場で行われたパレードには、中央アジアの5つの「スタン」すべての大統領が出席したことを忘れてはならない。

ロシアの外交団は、米国が中央アジアの「スタン」をロシアの影響から引き離そうとしていることをよく知っている。

それは米国の公式な中央アジア戦略2019~2025をはるかに超えるものであり、アフガニスタンにおける米国の屈辱とウクライナにおける差し迫ったNATOの屈辱の後、ヒステリー状態に達している。

重要なエネルギー面では、トルクメニスタン-アフガニスタン-パキスタン-インド(TAPI)パイプラインが、2011年に米国務省が練り上げ、当時のヒラリー・クリントン国務長官が売り込んだ米国の「新シルクロード」の優先事項だったことを覚えている人は、今ではほとんどいないだろう。

あまり現実的でないその計画は、実際何も起こらなかった。代わりに米国が最近やったことは、その競合の開発であるイラン・パキスタン(IP)パイプラインを阻止することだった。米国はパキスタンの元首相イムラン・カーンを政治的舞台から排除するために計画された法的スキャンダルの後{3}、イスラマバードにこの計画をキャンセルさせたのである。

それでも、TAPI-IPパイプラインの物語はまだ終わっていない。アフガニスタンが米国の占領から解放されたことで、ロシアのガスプロムや中国企業がTAPI建設への参加に強い関心を示しているのだ。このパイプラインは、中央アジアと南アジアの十字路にある中国・パキスタン経済回廊(CPEC)につながる戦略的なBRIノードとなるだろう。

「異質な」西側集団

ロシアがハートランド全域で知られている通貨であり、今後もそうであるのと同様に、中国のモデルは、中央アジア固有の解決策の数々を鼓舞することができる持続可能な開発の例として並ぶものはない。

それとは対照的に、米国が提供するものは何だろうか?一言で言えば「分断と支配」である。 ISISホラサンのような地元のテロ組織を通じて、中央アジアに最も弱い地域、例えばフェルガナ渓谷からアフガニスタンとタジキスタンの国境にかけて、政治的な不安定化を煽るために利用されている。

ハートランドが直面する複数の課題は、バルダイ中央アジア会議{4}などで詳細に議論されてきた。

バルダイ・クラブの専門家であるルスタム・ハイダロフ{5}は、西側とハートランドの関係について最も簡潔な評価を下した人物である:

 西側諸国は文化的にも世界観の面でも我々にとって異質である。アメリカ・EUと中央アジアとの間には、関係や和解の基礎となるような現象や出来事、または現代文化の要素は一つも存在しない。アメリカ人やヨーロッパ人は、中央アジアの人々の文化や精神性、伝統についてまったく知らない。だから彼らは私たちと交流することはできないし、今後もできないだろう。中央アジアは、経済的繁栄を西欧の自由民主主義と結びつけて考えていない。それはこの地域の国々にとっては本質的に異質な概念なのである。

このようなシナリオを考慮すれば、そして日に日に激化する新しいグレート・ゲームの文脈においてハートランドの外交サークルの中には中央アジアをBRICS+により密接に統合することに強い関心を抱いているのも不思議ではない。これは来週南アフリカで開催されるBRICS首脳会議で議論される予定である。

その戦略的な方程式は、ロシア+中央アジア+南アジア+アフリカ+ラテンアメリカ、というようにあんる。これは「グローバル・グローブ」{6}の統合のもう一つの例である(ルカシェンコの言葉を借りれば)。すべては、カザフスタンがBRICS+のメンバーとして受け入れられた最初のハートランド国家になることから始まるかもしれない。

その後、再び活性化され再登場するハートランドは、輸送、物流、エネルギー、貿易、製造、投資、情報技術、文化など、あらゆる分野においてその舞台は世界中に広がり、そしてシルクロードの今も昔もその精神である「人と人との交流」も同様に重要な役割を果たすことになる。

{1} https://new.thecradle.co/articles/the-gray-wolf-returns-to-central-asia-turkeys-ambitions-for-the-region

{2} https://en.wikipedia.org/wiki/Turkic_languages

{3} https://new.thecradle.co/articles/democracy-diktats-and-detention-imran-khan-gets-cancelled

{4} https://valdaiclub.com/events/posts/articles/programme-of-the-third-central-asian-conference-of-the-valdai-discussion-club/

{5} https://valdaiclub.com/events/posts/articles/programme-of-the-third-central-asian-conference-of-the-valdai-discussion-club/

{6} https://new.thecradle.co/articles/finance-power-integration-the-sco-welcomes-a-new-global-globe

https://new.thecradle.co/articles/central-asia-is-the-prime-battlefield-in-the-new-great-game