No. 2505 トランプの不条理な貿易政策はアメリカ人を貧困化させ、世界に害をもたらすだろう

Trump’s Absurd Trade Policies Will Impoverish Americans and Harm the World

アメリカの貿易赤字はアメリカの企業支配層の浪費の尺度であり、具体的には金持ちへの減税と無駄な戦争に費やされた何兆ドルもの浪費とが組み合わさった結果の慢性的な巨額財政赤字なのだ。

by Jeffrey D.Sachs

ドナルド・トランプ米大統領{1}は、基本的な経済的誤謬において世界貿易システムを破壊している。彼は、アメリカの貿易赤字は他国がアメリカからぼったくっていることが原因だという誤った主張をし、「何十年もの間、歴史上どの国もぼったくられたことのないようなぼったくりが続いている」などと繰り返し述べている。

トランプは関税を課すことで貿易赤字を解消し、輸入を妨げて貿易収支を回復させる(あるいは、他国がアメリカに対するぼったくりをやめるよう誘導する)ことを目指している。しかしトランプの関税は貿易赤字を解消するどころか、アメリカ人を貧困化させ、世界に害を及ぼすだろう。

ある国の貿易赤字(より正確には経常赤字)は、黒字国による不公正な貿易慣行を示すものではない。それは全く別のことを意味している。経常収支の赤字は、赤字国が生産よりも支出を多くしていることを意味する。また、投資よりも貯蓄が少ないことを意味している。

アメリカの貿易赤字は、アメリカの企業支配層の浪費の尺度であり、より具体的には、富裕層への減税と無駄な戦争に費やされた何兆ドルもの浪費の結果、慢性的に多額の財政赤字が発生している。財政赤字は、カナダやメキシコなど、米国から買うよりも米国に売る方が多い国の裏切り行為によるものではない。

トランプはアメリカの赤字を世界のせいにしているが、それは馬鹿げている。アメリカこそが収入以上に支出を多くしているのだ。

貿易赤字を解消するには、財政赤字を解消するべきである。関税をかければ(自動車などの)価格は上がるが、貿易赤字や財政赤字は解消されない。特にトランプは関税収入を富裕層の献金者に対する莫大な減税で相殺するつもりなのだから。さらに、トランプが関税を引き上げると、米国は対抗関税に直面し、米国の輸出を直接的に妨げることになる。その結果、米国もその他の国々も、どちらも損をすることになる。

数字を見てみよう。2024年{3}、米国は4.8兆ドルの商品とサービスを輸出し、5.9兆ドルの商品とサービスを輸入し、1.1兆ドルの経常赤字となった。この1.1兆ドルの赤字は、2024年{4}のアメリカの総支出(30.1兆ドル)とアメリカの国民所得(29.0兆ドル)の差である。アメリカは収入よりも支出を多くし、その差額を世界から借りているのだ。

トランプはアメリカの赤字を世界のせいにしているが、それは馬鹿げている。アメリカこそが収入を上回る支出をしているのだ。考えてみてほしい。もしあなたが従業員なら、雇用主との経常収支は黒字で、商品やサービスを購入する企業との経常収支は赤字である。もしあなたが自分の収入と同じだけ消費すれば、経常収支は黒字である。仮に、クレジットカードで借金をし、収入以上の買い物をしたとしよう。この場合、経常収支は赤字となる。あなたは店からぼったくられているのか、それとも浪費が借金を増やしているのか?

ワシントンを支配する企業の略奪者と脱税者が財政的に無責任である限り、関税で貿易赤字は解消しない。例えば、トランプ関税によって海外からの自動車やその他の商品の輸入が減ったとしよう。アメリカ人は、輸出されていたはずのアメリカ製の自動車やその他の商品を買うようになるだろう。輸入は減少するが、輸出も減少する。さらに、トランプ関税に対抗して他国が課す新たな関税は、米国の輸出減少をさらに強めるだろう。米国の貿易不均衡は残るだろう。

関税によって貿易赤字が解消されるわけではないが、海外の生産者から安価に入手できたはず製品のかわりに高価格な米国製商品をアメリカ人は買わざるを得なくなる。関税は、経済学者が貿易から得られる利益と呼ぶものを無駄にしてしまう。つまり国内外の生産者の比較優位に基づいて商品を購入することができなくなるのである。

財政赤字の原因は、やみくもに解雇される公務員の給与でも、将来の繁栄がかかっている政府の研究開発費でもない。それは富裕層への減税と、アメリカの永久戦争への無謀な支出によるものなのだ。

関税は自動車の価格と自動車労働者の賃金を引き上げるが、その賃上げ分は国民所得の増加ではなく、経済全体のアメリカ人の生活水準の低下によって賄われることになるだろう。. アメリカの労働者を支援する真の方法は、トランプ大統領が好んでいるものとは正反対の連邦政府の施策である国民皆保険、組合結成支援、グリーンエネルギーを含む近代的インフラへの予算支援などであり、その財源はアメリカの富裕層と企業部門に対する増税で賄うことができる。

連邦政府が税収で全体の支出を賄っていないのは、裕福な選挙資金提供者が減税、(タックスヘイブンを利用した)租税回避、脱税を推進しているからだ。DOGE{5}が内国歳入庁(IRS)の監査能力を削減したことを覚えているだろうか。財政赤字は現在約2兆ドルで、アメリカの国民所得の約6%にあたる。慢性的な財政赤字のため、米国の貿易収支は慢性的な赤字が続くだろう。

トランプは、DOGEを通じて無駄と乱用を削減することで財政赤字を削減すると言っている。問題は、DOGEが財政浪費の本当の原因を誤って伝えていることだ。財政赤字の原因は、無秩序に解雇される公務員の給与でも、将来の繁栄がかかっている政府の研究開発費でもない。むしろ、富裕層への減税と、アメリカの永久戦争への無謀な支出、イスラエルのノンストップ戦争へのアメリカの資金援助、アメリカの750の海外軍事基地、肥大化したCIAやその他の情報機関、高騰する連邦債務の利払いなどが組み合わさった結果なのだ。

トランプと議会共和党は、メディケイド、つまり最も貧しく弱い立場にあるアメリカ人を狙っていると報じられている。つまり、最も貧しく弱い立場にあるアメリカ人を狙っている。最も裕福なアメリカ人のための新たな減税のためにだ。彼らは近いうちに、社会保障とメディケアも狙うかもしれない。

トランプ関税は貿易赤字と財政赤字の解消に失敗し、物価を上昇させ、貿易で得た利益を浪費してアメリカと世界をより貧しくするだろう。アメリカは、自国と世界に害を及ぼすことで世界の敵となるだろう。

違憲の暴挙

トランプとマスクは、連邦政府のほぼ隅々まで狙って違憲の暴挙に出ている。この2人の右翼億万長者は、看護師、科学者、教師、保育士、裁判官、退役軍人、航空管制官、原子力安全検査官を狙っている。誰も安全ではない。次はフードスタンププログラム、社会保障制度、メディケア、メディケイドだ。

前代未聞の大惨事であり大火事だが、報いがあるだろう。米国民はこれに投票したわけではない。米国民は、「効率性」という謳い文句の陰に隠れた、このディストピア的地獄絵図を望んではいない。それでも、現実には、これらすべては企業の利益とマスクのような極右オリガルヒのリバタリアン・ドリームへの贈り物なのだ。

Links:

{1} https://www.commondreams.org/tag/donald-trump

{2} https://abcnews.go.com/Business/markets-jittery-trumps-liberation-day-tariffs-loom/story?id=120325114

{3} https://www.bea.gov/sites/default/files/2025-03/trans424.pdf

{4} https://www.bea.gov/sites/default/files/2025-03/gdp4q24-3rd.pdf

{5} https://www.commondreams.org/tag/doge

https://www.commondreams.org/opinion/trump-tariffs