No.981 FTAとTPP

韓国政府がアメリカと自由貿易協定(FTA)を結ぶことに対して、韓国内ではそれに反対する人々による激しい抵抗運動が起きている。それでも韓国の大統領は、「韓国は貿易立国なので、米国市場に無関税で自動車などの有力輸出品を輸出できるメリットは大きい」として、国民の強い反対など聞く耳は持たないようだ。これは日本の野田首相の態度と全く同じである。

FTAとTPP

韓国が強引にFTAを進めたいのは、日本が環太平洋連携協定(TPP)に参加することが大きな原因だ。アメリカは、米韓が二国間貿易協定を結ぶことで日本を刺激し、日本がTPPに参加することで韓国を挑発し、日韓が互いに競争するように仕向けているのである。

TPPという自由貿易協定は現在9カ国が交渉を行っているが、日本が参加しなければそれはアメリカにとってほとんど意味がない。なぜならアメリカ1国のGDP(国内総生産)は全参加国のGDP合計の88%になるからである。つまり、残りの8カ国(オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、チリ、ペルー)のGDPはすべて合わせても12%にしかならない。

そしてTPPに日本が参加すると、10カ国のGDP合計のうち日米のGDPは全体の91%となり、さらに韓国を加えると、11カ国のGDP合計のうち日韓米で91%になるのである。つまり、他の加盟国との貿易はアメリカにとって微々たるものであり、本当の狙いは日本や韓国と自由貿易協定を結ぶことなのだ。そのため日本の巨大多国籍企業にはTPPに入らなければ韓国にアメリカとの貿易をとられてしまうと言い、韓国の多国籍企業には日本にとられてしまうぞと脅して協定を結ぼうとしている。

またTPPに参加すれば日本の産業のコストが下がるようなまやかしを日本政府は喧伝しているが、これも真実ではない。秘密裏の交渉によって、農業問題だけでなくさまざまな知的財産権(著作権、特許、パテントなど)がアメリカのルールに統一されかねない。となれば、日本はこれから多額の特許料や著作権料をアメリカに支払うことになり、それらの費用はもちろん日本国民に転嫁されるだろう。

こんなアメリカに対し、内閣府が発表した世論調査の結果によれば日本人の8割以上は「親しみを感じる」と答え、昭和53年の調査開始以来最高となったという。日本の国家主権を侵害するような協定を押し付けようとしている国にこの調査結果は疑問であるが、TPP反対に1千万人以上の国民が署名をし、東京はじめ日本全国でデモが行われていることを考えると政府のプロパガンダのようにも思える。

今月初め、「中南米カリブ海諸国共同体」(CELAC)が発足した。これはアメリカとカナダを除いた、反米のキューバやベネズエラなどを含む中南米諸国による共同体であり、アメリカと距離を置き、中南米諸国間で貧困問題や持続的な経済発展などの課題の解決に向けて結束して取り組んでいくことを目指す、というものだ。殖民地のように扱ってきた中南米から離反されたアメリカが、アジア太平洋地域、特に日本に本格的に乗り込もうとするのも当然であろう。