No. 1392 ウクライナ危機はウクライナについてではない。それはドイツだ。

ウクライナ危機はウクライナについてではない。それはドイツだ。

By Mike Whitney

「第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦と何世紀にもわたって戦争を繰り返してきた米国の最大の関心事はドイツとロシアの関係だった。なぜなら、ドイツとロシアが団結すれば我々を脅かす唯一の勢力となるからだ。だからそれが起こらないようにしなければいけない」。

ジョージ・フリードマン(STRATFOR CEO、シカゴ外交問題評議会にて)

ウクライナ危機はウクライナとは何の関係もない。それはドイツの問題であり、特にドイツとロシアを結ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の問題である。

 

米国はこのパイプラインをヨーロッパにおける自国の優位性を脅かすものと考え、あらゆる場面でこのプロジェクトを妨害しようとしてきた。それでも、ノルドストリームは推進され、現在は完全に稼働準備ができている。ドイツの規制当局が最終的な認証を行えばガスの供給が開始される。ドイツの家庭や企業はクリーンで安価なエネルギーを確実に手に入れることができ、ロシアはガス収入を大幅に増やすことができる。双方にとってWin-Winの状況である。

米国の外交政策当局はこうした動きを快く思っていない。ドイツがロシアのガスに依存するようになってほしくない。なぜなら商売は信頼を構築し、信頼は貿易の拡大につながるからだ。関係が温かくなれば貿易障壁はさらに解除され、規制は緩和され、旅行や観光が増え、新たな安全保障体制が構築される。もし世界においてドイツとロシアが友人で貿易パートナーとなれば、米軍基地も高価な米国製の兵器やミサイルシステムも、NATOも必要なくなる。また、エネルギー取引を米ドルで行う必要も、収支を合わせるために米国債を備蓄する必要もない。ビジネスパートナー間の取引はそれぞれの国の通貨で行うことができ、ドルの価値は急激に低下し、経済力が劇的に変化するだろう。バイデン政権がノルドストリームに反対する理由はここにある。ノルドストリームは単なるパイプラインではなく未来への窓なのだ。それはヨーロッパとアジアが巨大な自由貿易圏に引き寄せられ、相互の力と繁栄を高める一方で、米国は蚊帳の外に置かれるという未来である。ドイツとロシアの関係強化は、米国が過去75年間監督してきた「一極集中」の世界秩序の終焉を意味する。ドイツとロシアの同盟は、現在、奈落の底に向かっている超大国の衰退を早める恐れがある。だからこそワシントンは、ノルドストリームを妨害し、ドイツをその軌道の中にとどめておくためにあらゆる手段を講じようとしている。生き残りをかけた問題なのだ。

そこにウクライナが絡んでくる。ウクライナは、ノルドストリームを失敗させ、ドイツとロシアの間にくさびを打ち込むためにワシントンが「選んだ武器」なのだ。この戦略は米国の外交政策ハンドブックの1ページ目に書かれている。分割統治だ。米国はロシアがヨーロッパの安全保障上の脅威となっているという認識を作る必要がある。それが目標だ。プーチンは血に飢えた侵略者で、短気で信用できないことを示す必要があるのだ。そのためにメディアには「ロシアはウクライナへの侵攻を計画している」と何度も繰り返して伝える任務が与えられている。メディアが伝えていないのは、ロシアはソ連崩壊後どの国も侵略していないこと、同時期に米国は50カ国以上の国を侵略したり、政権を倒したりしており、世界各国に800以上の軍事基地を維持していることだ。これらのことはメディアでは一切報道されず、代わりにフォーカスされているのはウクライナの国境沿いに推定10万人の軍隊を集結させ、ヨーロッパ全土を再び血なまぐさい戦争に巻き込もうとしている「悪のプーチン」である。

すべてのヒステリックな戦争プロパガンダは、危機を作り出すことでロシアを孤立させ、悪者にし、最終的にはロシアをより小さな単位に分裂させることを意図して作られている。しかし本当の標的はロシアではなく、ドイツなのだ。The Unz Reviewに掲載されたマイケル・ハドソンの記事からの抜粋を参照してほしい。

米国の外交官が欧州での(ロシアからの天然ガス)購入を阻止するために残された唯一の方法は、ロシアを軍事的に反撃させ、その復讐が純粋に国の経済的利益を上回ると主張することである。タカ派のビクトリア・ヌーランド国務次官(政治担当)は、1月27日に行われた国務省のプレスブリーフィングで次のように説明した。「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、ノルドストリーム2は前進しないだろう」。

(“America’s Real Adversaries Are Its European and Other Allies”, The Unz Review)

明白に書かれている。バイデンチームはノルドストリームを妨害するために「ロシアを軍事的に反応させよう」と考えている。これは、プーチンが国境を越えて東部のロシア民族を守るために軍隊を派遣するように仕向ける、何らかの挑発行為が行われることを意味している。もしプーチンがその餌に掛かれば、その反応は迅速かつ厳しいものになるだろう。メディアは欧州全体への脅威と非難し、世界の指導者たちはプーチンを「新しいヒトラー」と糾弾するだろう。これがワシントンの戦略であり、目的はただひとつ。ドイツのオラフ・ショルツ首相がノルドストリームの最終承認プロセスを通過させることを政治的に不可能にすることだ。

ワシントンがノルドストリームに反対していることを考えると、今年の初めにバイデン政権が議会にこのプロジェクトに対する制裁を強化しないように働きかけたことを読者は不思議に思うかもしれない。この疑問に対する答えは簡単だ。国内政治である。ドイツは現在、原子力発電所を廃止しており、不足するエネルギーを補うために天然ガスを必要としている。また、経済制裁の脅威は外国からの干渉の表れと考えるドイツ人にとっては「嫌なもの」なのだ。「なぜ米国は我々のエネルギー決定に干渉してくるのか」と平均的なドイツ人は言うだろう。

「米国は自分のことだけ気にして、我々のことには口を出さないでほしい」。これはまさに、合理的な人ならする反応である。

続いて、アルジャジーラの記事を紹介する。

“ドイツ人の大多数はこのプロジェクトを支持しており、パイプラインに反対しているのは一部のエリートやメディアだけである..”

“ドイツ外交問題評議会のロシア・東欧専門家であるシュテファン・マイスター氏は、「米国がこのプロジェクトへの制裁を口にしたり、批判すればするほど、ドイツ社会ではこのプロジェクトの人気がでる。」と述べている。”

(“Nord Stream 2: Why Russia’s pipeline to Europe divides the West”, AlJazeera)

世論はノルドストリームを支持しており、それがワシントンが新たなアプローチに踏み切った理由だ。制裁が効かないのでアンクルサムはプランBに切り替えたのである。ドイツがパイプラインの開通を阻止せざるを得なくなるような大きな外的脅威を作り出すのだ。率直に言ってこの戦略は絶望的なものだが、ワシントンの忍耐力には感心せざるを得ない。9回裏で5点差をつけられても、まだタオルを投げていない。最後の一手を打って、前進できるかどうかを見極めている。

月曜日、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのオラフ・ショルツ首相と初めて共同記者会見を行った。その時の騒ぎようは前代未聞だった。すべてはバイデンがドイツ首相に圧力をかけて米国の政策に変更させ、「危機的な雰囲気」を作り出すために仕組まれたものだった。週の初めにホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、「ロシアの侵攻が迫っている」と繰り返し発言した。この発言に続いて、国務省のニック・プライスが、情報機関から、近い将来にウクライナ東部で行われると予想されるロシア支援の「偽旗」作戦の詳細を提供されたと発言した。プライスの警告に続いて、日曜日の朝にはジェイク・サリバン国家安全保障顧問が、ロシアの侵攻はいつ、もしかしたら「明日でも」起こりうると主張した。これは、ブルームバーグ通信が「ロシアがウクライナに侵攻」というセンセーショナルで全くの虚偽の見出しを発表した数日後のことだ。

パターンがわかるだろうか?これらの根拠のない主張が、疑うことを知らないドイツの首相に圧力をかけるために使われたことがおわかりだろうか。

期待通り、最後の一撃を与えたのは米国大統領自身だった。記者会見でバイデンは次のように力強く語った。

“もしロシアが侵攻したら……もはやノルドストリーム2は存在しない……。我々がそれに終止符を打つだろう”。

つまり、ワシントンがドイツの政策を決めるのか?

なんという耐え難い傲慢さだろうか!

明らかに当初の台本にはなかったこのバイデンの発言にドイツの首相は困惑した。それでもショルツ首相はノルドストリームの中止に同意することはなく、パイプラインの名前を出すことさえ拒んだ。バイデンは世界第3位の経済大国のリーダーを公の場で追い詰めれば、サンドバッグになると考えていたのかもしれないが、それは間違いだった。ドイツは、遠く離れたウクライナでの紛争の可能性にかかわらず、ノルドストリームの開設を約束している。しかしそれはいつ変化するかわからない。結局のところ、ワシントンが近い将来どのような扇動を計画しているかは誰にもわからない。ドイツとロシアの間に楔を打ち込むために、どれだけの人命を犠牲にする覚悟があるのか、誰にもわからない。米国の衰退を遅らせ、新たな「多元的」な世界秩序の出現を防ぐためにバイデンがどのようなリスクを冒そうとしているのか、誰にもわからない。これからの数週間、何が起こってもおかしくない。何でもだ。

今のところ、ドイツは有利な立場にある。この問題にどう決着をつけるかはショルツにかかっている。ドイツ国民の利益のために最善の政策を実行するのか、それともバイデンの執拗な腕力に屈するのか。賑やかなユーラシア大陸の回廊で新たな同盟関係を強化するために新しい道を切り開くのか、それともワシントンの狂ったような地政学的野心を支持するのか。多くの新興勢力がグローバル・ガバナンスを等しく分担し、リーダーが多国間主義、平和的発展、万人のための安全保障を揺るぎなく約束するような新しい世界秩序において、ドイツが重要な役割を果たすことを受け入れるのか、それとも、明らかに賞味期限切れのボロボロの戦後システムを支えようとするのか。

ひとつ言えることは、ドイツがどのような決定を下すかは私たち全員に影響を与えるということだ。

Links:

{1} https://www.unz.com/mhudson/americas-real-adversaries-are-its-european-and-other-allies/

{2} https://www.aljazeera.com/news/2022/1/25/ukraine-russia-what-is-nord-steam-2-and-why-is-it-contentious

Mike Whitney Archive: https://www.unz.com/author/mike-whitney/

https://www.unz.com/mwhitney/the-crisis-in-ukraine-is-not-about-ukraine-its-about-germany/