No. 1504 あなたは私たちの側か、さもなければ”連鎖的な挑戦”

あなたは私たちの側か、さもなければ”連鎖的な挑戦”

by Pepe Escobar

猛烈ではないが急速にグローバルサウスが動き出している。バイエルン・アルプスで開催されたG7とは対照的に、北京で開かれたBRICS+サミット{1}の重要な収穫は、西アジアのイランと南米のアルゼンチンがともにBRICSへの加盟を正式に申請したことである。イラン外務省はBRICSがいかに「広範な側面のある非常に創造的なメカニズム」を持っているかを強調した。北京とモスクワの緊密なパートナーであるテヘランは、この申請についてすでに「一連の協議」を行っている。これがBRICSの拡大に「付加価値」をもたらすとイランは確信している。

中国、ロシア、イランはものすごく孤立しているという話がある。結局のところ、我々はメタバース・スペクトラム(仮想空間)の奥底の物事が見かけとは正反対のところにいるのだ。

ヨーロッパ全土戦争を始めるというワシントンのプランAに従わないモスクワの頑強さは、大西洋主義者の神経を芯から揺さぶっている。そのためG7サミットが元ナチスの療養所だった場所で盛大に開催された直後に、戦争を挑発する装いでNATOが登場したのである。

究極の「直接の脅威」であるロシアを徹底的に悪者扱いする残虐な展示会へようこそ。東欧を「砦」に格上げし、ロシアと中国の戦略的パートナーシップを涙ながらに語る。そしておまけに中国を「連鎖的な挑戦」と烙印を押した。

ほらね。NATO/G7連隊にとって新興多極化世界のリーダーたちとそれに参加したがっている広大な「グローバルサウス」は「連鎖的な挑戦」なのだ。

精神は「グローバルサウス」、やることは「綱渡り」と、揺れ動いているスルタン率いるトルコはスウェーデンとフィンランドがNATOに吸収されるまでの道筋をつけることを寛大にも許可し、文字通り欲しいものをすべて手に入れた{2}。

NATOの海軍がバルト海でロシアのバルチック艦隊に対してどのようないたずらをするか賭けることができる。そしてその後、「意思決定センター」を含むあらゆるNATOの順列を全滅させることが可能なKhinzal(極超音速ミサイル)、Zircon(極超音速巡航ミサイル)、Onyx(対艦ミサイル)、Kalibr(ミサイル)の出番となるだろう。

だからロスコスモス(ロシアの宇宙局)がそれら「意思決定センター」の座標をピンポイントで示す非常に面白い衛星画像を発表したとき、ある種の倒錯した喜劇的な安堵感を覚えた。

NATOとG7の「リーダー」たちは、“卑劣な警官”と“ピエロのような警官”を演じることを楽しんでいるようだ。

NATOの首脳陣はコカイン芸人のエレンスキー(「Z」の字は禁句)に、ロシアの複合武器警察作戦、あるいは戦争は軍事的に“解決”されなければならないと告げたのである。つまりNATOはキエフがウクライナの最後の大砲の餌食になるまで戦いを支援し続けるということだ。

これと並行して、G7でドイツのショルツ首相は、戦後のウクライナの残党にどのような「安全保障」を提供するのかを明らかにするよう求められた。ニヤニヤした首相の反応は、“はい、(明らかに)します...”。そして彼の声は次第に小さくなった。

イリベラルな(自由を認めない)欧米のリベラリズム

Z作戦の開始から4ヶ月以上が経過し、ゾンビ化した西側世論はモスクワが2021年の最後にNATOの東方拡大禁止と1997年の現状復帰に重点を置いた、法的拘束力のあるワシントンからの安全保障に関する真剣な議論を要求したことを完全に忘れているか、故意に無視している。

ワシントンが無反応という反応を示したことで交渉は失敗した。プーチン大統領は米国側が大規模な制裁の発動を警告しても、その後は「軍事技術的」対応になると強調した(それがZ作戦だった)。

分割統治という希望的観測に反して2月24日以降に起こったことは、ロシアと中国の戦略的パートナーシップの相乗効果、特にBRICSとSCOの文脈におけるその輪の広がりを強固にしただけだった。ロシア外交防衛政策会議のセルゲイ・カラガノフ議長が今年初めにこう述べている。「中国は我々の戦略的クッションである(…)いかなる困難な状況においても、軍事、政治、経済の面で中国に頼ることができることを我々は知っている」。

このことは2月4日の画期的な、新時代に入る協力という共同声明{3}によってすべてのグローバルサウスに詳細に説明された。それはBRI(一帯一路)とEAEU(ユーラシア経済連合)の統合の加速と、多極主義の重要な基礎石である新規加盟のイランを含むSCO(上海協力機構)の下での軍事情報の調和によって完成する。

ではこれを外交問題評議会の夢物語{4}や、軍事経験といえば1本の缶ビールの交渉経験しかない「世界におけるトップの国家安全保障シンクタンク」の腕利きの戦略「専門家」のたわごと{5}と比較してみよう。

故アンドレ・グンダー・フランクが「張り子のトラに関する論文」{6} を書き、ペーパードルとペンタゴンの交差点における米国の力を検証していた真面目な分析の日々が懐かしくなる。

帝国教育の水準が高いイギリス人は、少なくとも、いかにして習近平が「戦間期のヨーロッパに出現したものとは違うインテグラル・ナショナリズム(統合主義)の変種を受け入れ」、一方でプーチンは「衰弱したロシアをグローバルパワーとして蘇らせるためにレーニン主義の手法を巧みに展開している」ことを半ば理解しているようである{7}。

それでも「イリベラルな西洋から派生した思想やプロジェクトが世界政治を形成し続ける」という考え方はナンセンスである。実際、プーチンが複数のユーラシア主義の理論家に影響を受けているのと同じように、習近平は毛沢東の影響を受けている。重要なのは、西側が地政学的な奈落の底に落ちる過程で“西側のリベラリズム自体がイリベラルになった”ことだ。

もっとひどい。実際にそれは全体主義になってしまった。

グローバルサウスを人質にとる

基本的にG7 はグローバルサウスのほとんどの国に対して、大規模なインフレ、物価上昇、ドル建ての無秩序な債務という有毒なカクテルを提供している。

ファビオ・ヴィギは、「ウクライナ危機の目的は、世界的な景気後退をプーチンのせいにしながら、貨幣印刷機のスイッチを入れ続けることだ」と見事に説明している{8}。戦争は我々が言われているのとは逆の目的、つまりウクライナを守るためではなく、紛争を長引かせ、債務市場における激変リスクを和らげるためにインフレを助長するためのものであり、それは金融セクター全体に野火のように広がるだろうと言う。

そして、もしもっと悪化するとしたら、するだろう。バイエルン・アルプスでG7は「ロシアの石油とガスの価格を制限する方法」を見つけると約束している。もしそれが「市場の方法」によってうまくいかないなら「その手段は力によるもの」になるだろう。

G7の「意のままにすること」、つまり新中世主義的行動をとることは、ロシアのエネルギーを購入する見込みのある者が、G7の代表者と価格について取引することに同意する場合にのみ可能になるのだ。

このことが実際に意味するのは、G7は間違いなく、石油とガスの価格を「規制」する新しい機関を設立し、ワシントンの気まぐれに従属させるということである。実質的にこれは1945年以降のシステムの大きな急変である。

地球全体、中でも「グローバルサウス」が人質に取られることになる。 

一方、現実においてはGazprom(ロシアのガス企業)は絶好調で、EUへのガス輸出で出荷量はずっと少ないのに2021年と同じ利益を上げている。

 このドイツのアナリスト{9}が唯一正しいのは、Gazpromが永久に供給を停止せざるを得なくなった場合、「工業製品の輸出に過度に依存し、したがって安価な化石燃料の輸入に依存している経済モデルの崩壊を意味する」という点であろう。ドイツのガス使用の36%は産業界が担っているからだ。

例えば、考えてみてほしい。BASF社は、ルートヴィヒスハーフェンにある世界最大の化学工場での生産停止を余儀なくされている。あるいは、シェルのCEOが、パイプラインを通じてEUに供給されるロシアのガスを(米国の)LNGで代替することは絶対に不可能だと強調している。

この崩壊はワシントンのネオコン/新自由主義者たちがまさに望んでいることであり、世界貿易の舞台から強力な(西側)経済的競争相手を排除することである。チーム・ショルツ(ドイツ首相の仲間)がこの事態を予想することさえできないのは本当に驚くべきことだ。

1年前、G7が「グローバルサウスを助ける」ふりをしていたのを覚えている人はほとんどいない。それは、Build Back Better World (世界をより良ものに再建する:B3W)というブランド名だった。セネガルとガーナで「有望なプロジェクト」が見つかり、エクアドル、パナマ、コロンビアを「訪問」した。ダミー人形の政権は米国の金融手段の“全方位”、つまり出資、融資保証、政治的保険、助成金、気候、デジタル技術、ジェンダー平等に関する技術的専門知識を提供するといった。グローバルサウスは喜ばなかった。大半の国はすでに一帯一路に参加していた。B3Wは鳴りを潜めてしまった。

今EUは、グローバル・ゲートウェイというブランドで欧州委員会(EC)のウルスラ・フォン・デア・ライエン総裁が公式に発表した、グローバルサウスのための新しい「インフラ」プロジェクトを推進している。驚くべきことに、これは鳴りを潜めたB3Wと連携しているのだ。これが一帯一路に対する欧米の「反応」であり、「債務の罠」として悪者扱いされているものである。

理論的にはグローバル・ゲートウェイは5年間で3000億ユーロを費やすはずである。ECは民間投資で1350億ユーロを集めるつもりで、EU予算(つまりEUの税金で賄われる)からはわずか180億しか捻出しないだろう。

発表された3000億ユーロと希望的観測の1350億ユーロのギャップを説明できる欧州官僚は存在しない。

これと並行して、ECは、ガスと石炭を理由に低迷するグリーンエネルギー政策を倍にしようとしている。EUの気候政策担当者であるフラン・ティマーマンス氏は絶対的な真珠のような言葉を口にした。「5年早くグリーン・ディールを締結していればこんなことにはならなかった、なぜならそうであれば化石燃料や天然ガスへの依存度は低くなっていたはずだから」。

現実には、EUは2030年までに完全に脱工業化された荒れ地となる道を頑なに歩み続けている。効率の悪い太陽光や風力によるグリーンエネルギーでは安定した電力を供給することはできない。EUの広大な地域が石炭に回帰しているのも不思議ではない。

正しいスイング

NATO/G7の警官のルーティンの中で誰が最もお粗末かを判断するのは難しい。あるいは最も予測しやすいのは誰か。私がNATOサミット{10}について発表したものがある。現在ではなく、8年前の2014年。同じ極悪非道の悪者が何度も出てくる。

そして今回もまた事態が悪化する可能性があるとすれば、それは考えられることだ。ウクライナの残骸(主にガリシア東部)がポーランドの夢物語に併合されるのだ。バルト海から黒海まで(それにアドリア海を入れて)「3つの海構想」と呼ばれ、12の国民国家からなる「インターマリウム」の改編である。

これが長期的に意味するのはEUの内部からの崩壊である。ワルシャワは、ブリュッセルの大盤振る舞いで財政的な利益を得ながら独自の覇権主義的な思惑を抱いているだけである。「3つの海」の大半はEUから脱退することになるだろう。だれが彼らの「防衛」を保証するのか。NATOを介したワシントンである。他に新しいことはあるだろうか?新しくなったインターマリウムのコンセプトは、故ブレジンスキーの「グランド・チェスボード」にまでさかのぼる。

ポーランドはインターマリウムのリーダーになることを夢見ている。次いで3つのバルト海の小国、拡大されたスカンジナビア、ブルガリアとルーマニア。彼らの目的はロシアを「亡国」の地位に落とすことであり、その後、政権交代、プーチン退陣、ロシア連邦のバルカン化を実現することだ。

イギリスは取るに足らない島国でいまだに新参者の米国に帝国を教えることに投資しているが、これを気に入るだろう。ドイツ、フランス、イタリアはそれほどでもない。荒野に迷い込んだユーロアナリストたちは、インド太平洋のクアッドをまねた欧州4カ国同盟(スペインを加えて)を夢見ているが、結局のところ、ベルリンがどちらに振れるかにすべてがかかっている。

そして、揺れ動くスルタンが率いる予測不可能な「グローバルサウスの雄」が、新しく生まれ変わったトルコである。バルカン半島やリビアからシリアや中央アジアまでその触手を伸ばし続けているソフトな新オスマン主義は絶好調のようだ。イスタンブールは崇高なポルトの黄金時代を彷彿とさせ、モスクワとキエフの間の唯一の重要な調停者である。そしてユーラシア大陸の統合という進化したプロセスを注意深く管理している。

米国はあと少しでスルタンの政権交代をするところだった。今米国は、彼の言うことを聞かざるを得なくなった。地政学的な教訓をグローバルサウスに伝えるならこうだ。“適切なスイングをすれば「連鎖的な挑戦」なんてものはない”。

Links:

{1} https://thecradle.co/Article/Columns/12393

{2} https://www.nato.int/cps/en/natohq/news_197251.htm

{3} http://en.kremlin.ru/supplement/5770

{4} https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2021-08-04/right-way-split-china-and-russia

{5} https://www.youtube.com/watch?v=CzbsPOaCrLw

{6} https://www.globalresearch.ca/coup-detat-in-washington-and-the-dollar-paper-tiger-fiery-dragon-in-asia-and-the-pacific/5599132

{7} https://www.newstatesman.com/politics/2021/07/west-isn-t-dying-its-ideas-live-china

{8} https://thephilosophicalsalon.com/pause-for-thought-money-without-value-in-a-rapidly-disintegrating-world/

{9} https://www.eurointelligence.com/column/goodbye-gazprom

{10} https://web.archive.org/web/20150316142942/http:/www.atimes.com/atimes/World/WOR-02-030914.html

https://www.strategic-culture.org/news/2022/06/29/youre-either-with-us-or-youre-a-systemic-challenge/

https://www.unz.com/pescobar/youre-either-with-us-or-youre-a-systemic-challenge/