A President’s Bitter End
バイデンは自分が去らなければならないことを知っているが、だからといってそれを喜んでいるわけではない
by Seymour Hersh
ドナルド・トランプが木曜日の夜に何度も明言したように、大統領選の争点の中心は依然として国境であり、以前の選挙でもそうであったように、彼が「チェックされない不法移民」と呼ぶものと南部国境から来た人々が米国に殺人と騒乱をもたらしたという主張である。
しかし民主党には取り組まなければならない、もっと直接的で複雑な政治問題がある。ジョー・バイデン大統領は、ナンシー・ペロシ下院議員(意志が強く率直な前下院議長)の助けを借りて政治的な感覚を取り戻し、再選に出馬することはできないことに気付いたと、多くの報道機関が発表したのである。
バイデンにとって大きな問題は、これまで熱心だった多くの資金提供者の離反である。ある資金提供者は、東海岸の資金提供者の間では大統領の側近たちが大統領の精神状態が悪化していることを上手く扱ってこなかったことで怒りが渦巻いていると語った。「先月のトランプとの驚きの討論会前に、大統領側近の誰ひとりとして資金提供者にバイデンの障害の程度について言う者はいなかった」と彼は私に言った。「まるでタイタニック号のデッキで民主党のバンドが『Near, My God, to Thee』を演奏しているかのようだった」。(タイタニック号が沈没する際、沈みゆく船上で同船のバンドメンバー(沈没で全員犠牲になる)が演奏したと言われている)
バイデンに2期目はないと告げた政治的センスのある人物はペロシであり(ホワイトハウスの誰もそれを見抜けなかったようだが)、彼女の介入があったことが公に知られると、上院と下院の民主党指導者たちは、ホワイトハウスとワシントンの報道陣に本当の恐怖を共有し始めた。
ペロシの影響力は、少なくとも短期的には民主党を救った。
バイデンが次に何をするかはまだわかっていない。直ちに辞任し、ホワイトハウスをカマラ・ハリス副大統領に譲るのだろうか?それとも、1968年3月31日に、11月の再選には出馬せず、国内政治を避け、あの時点ではまだ勝てると主張していた悲惨なベトナム戦争に専念すると語って全米のテレビ視聴者を唖然とさせたリンドン・ジョンソン大統領のようになるのだろうか?1月20日の後任大統領就任まで、バイデンがウクライナやガザ地区での戦争への米国の悲惨な関与を管理できるとはとても思えない。
これまで発表された報道には多くの注意すべき点がある。実際、ここ数日、バイデンから直接話を聞いたメディアはない。彼は現在新型コロナ感染から回復中で、おそらくまだ隔離されている。そして、世論調査では大統領はよくやっていると、自分のキャリアを守るためなら何でもやる直属のスタッフが吹き込んだ妄想から目覚めたかどうか、本当のところは誰にもわからない。今日バイデン夫妻の長年の家族ぐるみの友人からは、見出しと矛盾するようなメッセージが私に届いた: 「ジョーは抵抗している」。
しかしこれらは民主党の資金組織の上層部とつながりのある多くの人たちが頭を悩ませている問題に比べれば表面的な問題だ。ハリス副大統領はバイデンの職を欲しがっており、女性、特に有色人種の女性が大統領を務めるべき時だという考えを押し進めるために、メディアの多くに懸命に働きかけていると聞いた。またハリスは大統領選における副大統領候補として3人の男性、ケンタッキー州のアンディ・ベシア知事、ペンシルベニア州のジョシュア・シャピロ知事、アリゾナ州のマーク・ケリー上院議員(元宇宙飛行士)の名前さえ挙げ、党幹部を落胆させた。(2019年、ハリスは民主党大統領候補指名のための予備選挙で序盤の牽引役となったが、第2ラウンドの討論会では振るわず、12月上旬には選挙戦から脱落せざるを得ない資金問題に直面している)
今週、私が話をした政治のプロたちは誰一人として、民主党の重鎮たちが、有色人種の女性とユダヤ人が、トランプに対抗して大統領選に出馬することに極度の懸念を抱いていることについて公式に言明しなかった。トランプのMAGA信奉者は主に白人で、米国における有色人種の影響力の増大に憤慨している。
6月の討論会でトランプは、バイデンは「パレスチナ人のようになった」と言い、「パレスチナ人はバイデンが嫌いだ、なぜならとても悪いパレスチナ人だからだ。彼は弱い人間だ」と言った。彼が言いたいのは、バイデンと彼の外交政策チームが、イスラエル政府とハマスに停戦に同意させることに失敗し、イスラエルの残りの人質とパレスチナの囚人を解放し、ガザの打ちひしがれた人々に数ヶ月に及ぶ包囲から解放させることができなかった、ということのようだ。バイデン政権は、イスラエルへの爆弾やその他の武器の主要な供給者であり続けている。戦争は続いていて、イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスが壊滅するまでイスラエル軍の空爆と地上攻撃はやめない、と主張している。
バイデンは、イスラエルに武器を供給し続けていることで世界中のアラブ人、そして米国の何千人もの大学生やその他の学生たちから激しい批判を浴びている。ガザでの停戦をアレンジしようとするバイデン政権の努力はネタニヤフに頭ごなしに却下された。ネタニヤフは自分の戦争を停止するつもりはないが、バイデン政権はまだそれを理解していないようだ。
では、どうするのか?
第一の問題は、直接の情報を持つ人によれば、バイデンが即座に大統領職を退きハリスに譲ることを決断しないようにさせることだという。「我々は新大統領が就任する2025年1月20日までバイデンに大統領職にとどまってもらいたい」。その戦略は政治的にマイナスの面もある、言われた。なぜなら共和党は「バイデンは大統領選に出馬する資格はないが、大統領になる資格はある」という考えを就任式まで当然利用するからだ。
そして、政治プランナーが直面する疑問は、「バイデンに最後まで残る力があるのか?」だと言われた。
ある政治専門家が私に語ったところによれば、病み上がりのバイデンをこの先6カ月も大統領にとどまらせておくことのもう一つの問題は、「カマラが自分を確かな候補者だと思っている」ことだという。彼女がそうではない可能性を示す証拠はたくさんある。6月6日、ポリティコ/モーニング・コンサルタントの世論調査によると、「ハリスが民主党候補になった場合、選挙に勝つ可能性があると考える有権者は全体の3分の1にすぎず、民主党支持者の5人中3人しか彼女が勝利すると考えていない。無党派層ではハリスが勝利すると考えているのは4分の1だ」。世論調査はまた、ハリスがバイデンと同じように評価が悪いことも示した。どちらもかなり悪い。バイデンは好ましいが43%、好ましくないが54%、ハリスは好ましいが42%、好ましくないが52%である。
一方、民主党はウクライナとガザの両方で、差し迫った殺人的な外交危機にも直面している。バイデンと彼の驚くほど無能な外交政策チームはロシアのプーチン大統領を心から軽蔑しているために、ウクライナのゼレンスキー大統領政権に対して何十億ドルもの軍事・社会援助を含む支援を続けざるを得なくなっている。戦争は上手くいっておらず、プーチンはウクライナの領土を手に入れている。
唯一の合理的な解決策は外交交渉だが、これまでのところバイデン政権は交渉を拒否している。
被災したガザでは、バイデン政権がハマスなどとの間接的な交渉に関わり続けているが、パレスチナ人囚人の解放と引き換えにイスラエル人人質を解放するという程度で、停戦を得るための進展はない。
ネックになっているのは、ネタニヤフが時折可能性を示唆しながらも、真剣に協議に参加しようとしないことだ。彼の目標は、何度も何度も言っているように、ハマスの指導者や幹部をできるだけ多く殺すことだ。イスラエルによる爆撃や攻撃はガザで絶え間なく続いており、民間人が死亡する恐ろしい光景が広がっているがバイデンや彼の外交政策チームから目立った不満は出ていない。
7月25日、共和党議員の招きでネタニヤフがワシントンにやってくれば、このみすぼらしいパフォーマンスはさらに悪化するだろう。この屈強なイスラエル指導者は、議会の合同会議で演説を行い、またバイデン(もしコロナから回復すれば)やハリスと公私にわたる会談を行う予定である。
ああ、その会合でメモ係になれたら……もし実現すればだが。
https://seymourhersh.substack.com/p/a-presidencys-bitter-end