No. 2668 Delete USA

Delete USA

米国の技術禁輸措置がもたらした予期せぬ二次的効果で、中国がNvidiaチップを禁止

by Hua Bin

トランプとバイデンが中国との技術・貿易戦争を開始して以来、国家安全保障と経済競争力の観点から、北京が米国との完全な切り離しを追求すべきだと主張する論考を幾つか書いてきた。

今まさにそれが現実化しつつあるようだ。北京は大手テクノロジー企業に対し、NvidiaのH20とRTX 6000Dチップの購入を禁止したのである。これら2つのGPU AIアクセラレータチップは、Nvidiaが米国による中国向け先進AIチップ輸出禁止令に対応し、中国市場向けに特別に開発したものだった。

北京は貿易禁輸の戦略をワシントンの顔に投げ返したのだ。これは、考え抜かれていない強制政策が、結局は実行者に跳ね返る典型的な例だ。さらに、はるかに聡明な北京の技術官僚が、近視眼的なワシントンの政治官僚を出し抜いた事例でもある。

経緯を検証しよう。

トランプ政権初期から、米国は中国の技術的台頭を抑えるため圧力を強めてきた。まず通信大手Huaweiへの米製チップ販売を禁止し、同社を潰そうとした。それは見事に失敗したが、予想通りワシントンが失敗に直面した時のデフォルトの選択肢は、さらに踏み込むことだ。

バイデン政権下では、AIチップやソフトウェア、さらには露光装置に至るまで中国市場全体への輸出を禁止し、技術戦争をさらに激化させたのだ。これらの技術禁止措置の明確な目的は、中国が米国並みのAI開発水準に到達するのを阻止することである。

中国は世界最大の半導体市場であるため、バイデン政権は中国の技術進歩を阻害しつつ、中国から利益を得続けようとした。その解決策は、最先端から1~2世代遅れたチップの販売を許可することだった。

事実上の世界的なAIチップ独占企業であるNvidiaはバイデンの輸出規制に準拠し、中国市場向けにH20チップを特別に設計した。Nvidiaの戦略は中国需要から利益を得続けると同時に、最新のAIチップを中国に販売せずに、中国のAI開発者を自社のCUDAソフトウェアのエコシステムに縛り付けることだった。

しかし2025年1月、あまり知られていなかった中国AI企業DeepSeekがDeepSeek R1大規模言語モデルを発表し、技術界に衝撃を与えた時、世界は突然、中国のAIエンジニアがはるかに性能の劣るアクセラレータチップでも世界クラスのAIモデルを開発できることに気がついたのである。

DeepSeekは強化学習を活用し、LLMが自己進化を通じて推論能力を発達させることでこの突破を達成した。この革新的な訓練手法は米国における類似モデルほどの計算能力を必要とせず、 Nvidiaが最先端製品の周りに築こうとしたチップの堀を巧みに回避したのである。

これに対し、第二期トランプ政権は即座に性能を落としたH20チップすら中国企業への販売を禁止した。Nvidiaは在庫の未販売H20チップ55億ドル相当を損失処理せざるを得なかった。

先進的な欧米製AIチップへのアクセスが断たれた北京は、中国でAI産業を発展させる唯一の道は、半導体バリューチェーンの全工程における完全な自給自足であると悟ったのだ。

中国テクノロジー企業は設計・製造からソフトウェア・アーキテクチャに至るAIチップスタックへの大規模投資を開始した。Huawei、カンブリコン、アリババはいずれも最近、Nvidiaの最先端チップからわずか1世代遅れのAIアクセラレータチップの生産を発表している。

事実上、トランプのH20禁止措置は、かつてNvidiaが独占していた数千億ドル規模の市場を中国国内メーカーに開放したのだ。

米国が最大で唯一のチップ市場を中国の競合他社に奪われるリスクがあることに気づいたジェンセン・フアンとトランプ大統領の「AI 担当最高責任者」であるデビッド・サックスは、トランプ政権に対して、この禁止措置を緩和し、中国市場に戻ることを働きかけた。両者は中国のテクノロジー企業を、最高のものではないがNvidia 製品の顧客として維持することが米国の利益になると述べた。

その後、トランプは禁輸措置を解除し、ハワード・ラトニック商務長官はCNBCの番組で「中国市場は確保するが、販売するのは最高品質の製品ではなく、二番目でも三番目の製品でもないと」と自慢した。

元ウォール街の金融業者は、Nvidiaが二流の製品でも中国市場を支配し続けられるほど自分たちは賢いと傲慢にも考えていたのである。

米国のように銀行家や弁護士ではなく、エンジニアとして訓練を受けた指導者たちが率いる北京は、この策略を見抜いた。H20 を中国市場に戻す代わりに、北京は、バックドアや遠隔シャットダウンキルスイッチの可能性について懸念を表明し、H20 チップの潜在的なセキュリティ問題に関する調査を開始した。

ここでも、ワシントン自身が中国の疑惑の材料を提供した。公の議会公聴会で米国議会議員は米チップメーカーに対し、チップにジオフェンシング機能(特定の地理的エリアに仮想的な境界線(ジオフェンス)を設定し、そのエリアに人や物が出入りした際に特定のアクションを実行する技術)を組み込むよう公然と要求したのである。トロイの木馬に他にどんな「機能」が仕込まれているか、あとは推測するしかない。

グレン・グリーンウォルドの著書『隠れる場所はない(No Place to Hide)』(2014年)では、エドワード・スノーデンの暴露文書で明らかになった、CIAが中国向けシスコサーバーにバックドアソフトを仕込んだ手法が詳細に記述されている。

先週、中国サイバー管理局はテンセントやバイトダンスなどの中国テクノロジー企業に対し、Nvidiaの新製品「RTX 6000D」(中国専用チップ)のテスト中止と全注文のキャンセルを正式に要請した。

さらに中国商務省は、Nvidiaが2020年にイスラエル企業メラノックス・テクノロジーズを買収した際、中国規制当局との合意を履行しなかったとして独占禁止法調査を開始した。

北京がNvidiaなしでも進める決意を固め、中国が米国技術から完全に切り離したAI産業を構築する方針は明らかである。

2018年、Huaweiはトランプ政権第1期による壊滅的攻撃を受けた際、自社防衛のため「Delete America(米国を削除」と称する極秘プロジェクトを開始し、あらゆる米国技術を排除した。

今や中国は全面的に全国規模で技術開発から「米国を削除」し始めている。

技術レベルでは、Huaweiやカンブリコンといった中国国内のAIチップメーカーは既に、Nvidiaの中国向け専用チップと同等の性能を持つアクセラレータチップを開発済みだ。

優れたネットワーク技術により、Huaweiは最先端のブラックウェルチップを基盤とするNvidiaのGB200 NVL 72コンピューティングラックよりも、Ascend 910Cを基盤とするCloudMatrix 384のような強力なAIコンピューティング・スーパーノードを構築している。

ジェンセン・フアン自身が指摘したように、AIは並列計算の問題だ。個々のAIチップの性能で競うのではなく、より多くのチップを連結して規模を拡大し、ラックレベルで優れた性能を実現することでHuaweiはゲームのルールを変えつつある。

中国は米国よりもはるかに優れた発電能力があるため、電力消費量の多いAIデータセンターを米国よりも大規模に建設する余裕があり、AI戦争において究極の競争優位性を持っている。

以前書いたように、北京はフォトニックチップから、従来のシリコンチップを凌駕する可能性を大きく示している2次元材料であるセレン化インジウム(InSe)を基盤とする第3世代半導体に至る次世代半導体技術にも多額の投資を行っている。

北京大学と人民大学の研究者らは、InSeウエハーの製造において画期的な進展を発表したばかりだ。これはシリコンチップそのものを完全に置き換える可能性を秘めている。この件については今後の記事で詳しく取り上げるつもりだ。

Nvidiaの当初のAI戦略は卓越していた。同社は優れたAIアクセラレータチップだけでなく、AI開発者を同社のCUDAソフトウェアエコシステムに囲い込むことで市場支配を確立した。このモデルを打破するのは極めて困難だ。信じられないのならAMDに聞くといい。

Huaweiなどの競合他社はNvidiaが市場支配力と高い利益率という好循環を享受している現状を打破することは望めない。この好循環がさらなる研究開発を資金面で支え、その優位性を拡大していくからだ。

5年前、中国の技術企業がNvidiaのAI分野における技術的支配から脱却する見込みはほとんどなかった(これがNvidiaが世界最高価値企業である理由だ)。

しかし米国政府による中国技術発展への締め付けという悪意ある動きが、逆にその支配構造を崩した。米国の制裁や半導体禁輸措置から免れる中国技術企業は存在しない。今や全ての企業が、米国技術への依存を減らす代替手段を探す動機付けを得たのだ。

Nvidiaの最先端チップに及ばないチップでも全くないよりはましだ。Huaweiやカンブリコンといった企業がAIアクセラレータの選択肢を提供するにつれ、開発者もNvidiaのCUDAソフトウェアネットワークから離脱しつつある。HuaweiはオープンソースのCANNアーキテクチャを発表した。

数百億ドル規模の市場がかかっている中、数多くの新規参入者が競争に加わることで長期的にはNvidiaの支配力はさらに弱まる。一つの結果は確実だ——Nvidiaは世界最大の中国半導体市場から締め出され、中国企業が市場を独占するだろう。

中国は米国とは完全に分離した並行AIシステムを構築しようとしている。現時点では演算性能で遅れを取るかもしれないが、米国への依存度はゼロだ。

このシステムがアプリケーションレベルで拡大・成熟すれば、中国AIが世界市場で米国トップ企業と競合する日が来るだろう。現在のEV産業と同様に。

米国政府の短絡的な強硬姿勢は、自国の技術リーダーの優位性を自ら損なう結果となった。これは北京がレアアース産業で中国の優位性を築いた手法とは正反対の展開である。

ワシントンは中国に対する好戦的姿勢が繰り返し自滅していることに気がついた:

– 2011年に米国議会が中国の国際宇宙ステーション(ISS)参加を阻止するウルフ法を可決した後、中国は独自の天宮宇宙ステーションを建設した。ISSが数年後に退役予定で代替案も見えない中、天宮は拡張とアップグレードを続けている

– 1993年、米国が紅海で中国の銀河号貨物船を妨害するためにGPS信号を遮断した結果、北京は北斗衛星測位システムの開発を加速させた。現在それは老朽化したGPSシステムを上回る性能を持つ

– 1996年に米国が第三次台湾海峡危機に介入した後、中国は、米国の艦艇を中国沿岸から遠ざけることができる対艦極超音速ミサイルに焦点を当てた、完全なA2AD戦略の開発を決定した。現在、DFおよびYJシリーズの極超音速ミサイルは、「20分で米国の空母艦隊全体を沈めることができる」(ヘグセスによる引用)

米国政府が中国とのゼロサムの敵対関係を追求する中、北京は完全な分離を図るため、「Delete America」戦略を全速力で推進している。

– 技術の完全な自給自足、特に AI 分野において追求している

– 貿易関係の縮小 – 米国産農産物および石炭や LNG などのエネルギー製品の購入をすべて停止

– 米国債の売却

– 中国人学生にとって米国教育の魅力が低下 – 政府機関、国有企業、さらには民間のテクノロジー企業でも、米国の学位を持つ学生はますます就職が難しくなっている

– スターバックスやナイキなど、中国で事業を展開する米国企業は、消費者の反発に直面している

タンゴは二人で踊るものだ。傲慢で無知なワシントンの工作員たちは自分たちの好戦的な姿勢は決して報復されず、誰もいじめっ子に反撃する勇気はないと思い込んできた。欧州、日本、韓国、そしてファイブ・アイズの同盟国といった従属的な家臣国はそうかもしれない。

しかしついに彼らはライバルに出会った。中国はワシントンの威圧やトランプの「魅力」には屈しない。その代わり彼らはDelete(削除)ボタンを押すだろう。

https://huabinoliver.substack.com/p/delete-usa