No. 2751 どこが「投資対象外」?

Who is “uninvestable”?

ウォール街の対中姿勢の方向転換

by Hua Bin

過去5年間、「中国は投資対象外だ」という見解がウォール街の用語として定着した。投資銀行、プライベート・エクイティ、ヘッジファンドから金融メディアに至るまで、この表現が広く使われている。

2020年、北京は消費者向けインターネット大手や教育テクノロジー企業に対する技術規制を開始し、時価総額1兆ドル以上を消し去った。

欧米の論評家たちは即座に明白な結論に飛びついた。中国の奇跡は終わり、共産党は必然的に自国の技術的台頭を台無しにした、と。

欧米の金融市場、政府、メディアの反応は、新自由主義的市場原理主義の自明の理が証明されたという満足感と、中国が自ら招いた失態への抑えきれない喜びが入り混じっていた。

アリババ、テンセント、Didi、JD.comの株式価値は半減した。中国テクノロジー企業への海外ベンチャー資金は枯渇した。米国と欧州による技術輸出禁止措置はさらに強化された。

米国でChatGPTやその他のAIスーパースターが出現し、結局米国がイノベーションと技術革新の世界的な重心を維持しているという説がさらに強まった。

米国株式市場は激しく上がっている。米国とEUはチップ法やグリーンディール産業計画を通じて、リショアリング、半導体生産、グリーンエネルギー転換に数兆ドルを注ぎ込んでいる。

しかし2025年に入り、この勝利主義は警戒感に変わった。DeepSeekは1月、優れたベンチマーク性能を持ち、シリコンバレーの最前線モデルと同等のトレーニングコストのわずか一部である世界クラスのAI大規模言語モデルR1を発表した。BYDはEVの世界出荷台数でテスラとの差を広げ、Unitreeは、ドローンのDJIが消費者向けドローン市場を支配するのと同様の優位性を四足歩行ロボット分野で確立した。

中国は工場でのロボット導入とヒューマノイド開発で世界をリードしている。

中国は合成生物学でも世界を牽引し、世界全体のバイオ医薬品の認可件数の3分の1以上を占める。特にがん治療薬と肥満治療薬で高い存在感を示している。

MSCI中国指数は今年40%以上上昇し、香港市場も35%上昇した。

「中国は投資対象外」論を最も声高に唱えていた者たちの何人かは、ひそかに立場を変え、新たな調子を歌い始めている:

– ゴールドマン・サックスは、世界のヘッジファンドがここ数年で最も活発に中国株を取引していると指摘している

– PIMCOは、投資家が今や中国市場の上昇相場を逃すことへの恐怖(Fear of Missing Out;FOMO)をより強く懸念していると主張している

– UBS は、「中国の経済的な存在感と投資家の低い配分とのギャップ」を理由に、顧客に対して中国へのエクスポージャーを増やすよう推奨している。

– フィデリティ・インターナショナルは、「再評価は現在より良好なファンダメンタルズによって推進されている」として、中国株への配分を増やしている。

– フランクリン・テンプルトンのCEOジェニー・ジョンソンは2025年3月の投資サミットで、「中国は絶対に投資対象だ」と述べた。

– HSBC は投資ニュースレターで、「投資家の中国に対する楽観論と関心が大幅に高まり、センチメントに『顕著な』変化が見られる」と記した。

最も興味深いのは、9 月に中国を視察した後、欧米のプライベート・エクイティおよびベンチャーキャピタル投資家グループが、中国が優位なため、欧米の主要産業セクター全体は「投資対象外」だと発表したことである。https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-09-21/china-road-trip-exposes-list-of-uninvestable-assets-in-the-west?embedded-checkout=true

これらの投資家はクリーンテクノロジー産業を研究するために中国を訪れた。彼らには、中国に直接投資する権限はない。

その代わり、彼らのゴールは中国の同業他社と競争できない欧米のスタートアップ企業に資金を配分をしないことだ。

ゴールドマン・サックスとバークリーの両方で投資銀行員を務め、現在はコンパスVCのパートナーであるタリア・ラファエリによると、彼らは中国が電池や「エネルギー関連全般」などの分野で大きく先行していることを知っていたが、その差の大きさを直接目にし、欧米の競合企業がどうやって生き残っているのか不思議に思ったという。

中国は世界のソーラーパネルの約 80%、風力タービンの約 60%、電気自動車の 70%、バッテリーの 75% を製造しており、そのすべてが欧米よりもはるかに安価である。

中国のソーラーパネルの生産コストは米国の 1/6 である。電気自動車の価格は、欧米の同等のモデルの半分以下である。

さらに、世界のクリーンエネルギー関連の特許の約 75% を中国が占めており、多くのグリーンテクノロジーの基盤となる重要鉱物のサプライチェーンも中国が支配している。これらには、リチウム、コバルト、銅、ニッケル、グラファイト、レアアースなどが含まれる。

このグループは、太陽電池パネルメーカーから EV メーカーまで、BYD や世界最大のリチウムイオン電池メーカーである CATL などのグローバルチャンピオンを含む数多くの中国企業を訪問した。

CATLを視察後、2150の共同創業者兼パートナーであるジェイコブ・ブロは「我々は最も自動化され、最も先進的な製造ラインを目の当たりにした。12のラインが並列で稼働し、その周囲にはさらに多くの設備があった。それを目の当たりにすると、追いつくのは無駄だと悟る。実現不可能だ。」と語った。

プラネットAベンチャーズのド・ラ・フォージは、中国が企業ダーウィニズムをどこまで推し進めているかを目の当たりにしたことが「啓示」だったと語る。「最強のプレイヤーだけが生き残る」のだ。

ベルリン拠点のベンチャーキャピタル、プラネットAベンチャーズの共同創業者兼ジェネラルパートナー、ニック・フォージは、電池製造・リサイクル、電解装置、太陽光・風力発電機器を扱う欧米スタートアップへの投資はもはやありえないと判断した。

彼は視察前、中国が大幅に先行していることを疑っていたが、現地を視察した後はこれらの分野は「完全にリストから外れた」と語る。

エクスタンティア・キャピタルのパートナー、ヤイル・リームは、この視察が既に同社による欧米の電池セルメーカーへの投資停止につながったと語る。

その代わり彼らはサプライチェーン全体で中国企業との協力方法を探っている。欧米における電池製造に関しては、中国の支配的地位により「ゲームオーバー」だという。

マッコーリー・グループ元マネージングディレクターで現エナジー・インパクト・パートナーズパートナーのアシュウィン・シャシンドラナートは、視察で見た光景が「欧米の投資家が中国に対する誤解の中で『バブル』に生きている」ことを「極めて明確」にしたと語る。

中国視察はエナジー・インパクト・パートナーズのアシュウィン・シャシンドラナートにも強い印象を残し、彼の投資プロセスにおける分水嶺となったと語った。「この経験は、私の思考において『中国以前(bC)』と『中国以後(aC)』を分けるものとなった」。

ブルームバーグのインタビューで、ベンチャーキャピタリストらは中国がこれらの分野で優位性を確立した要因を以下のように分析した:

– 中国はエネルギー安全保障を優先しグリーン移行を国家支援している

– 企業の失敗を許容することで、よりダイナミックで競争的な市場が育成される

– BYDのようにサプライチェーン全体を国内で開発し垂直統合する能力

– 破壊的革新ではなく漸進的改善(「小さなステップで速く走る」)

– 猛烈な労働文化とリスクを取る起業家精神

– 即時収益性より規模拡大を優先

「投資対象外」から西側産業全体を「投資対象外」に追い込むまでの転換はどのようにして起きたのか?

なぜ「情報通の」欧米投資家や経済・政治評論家は、中国について愚かな結論を出し続けたのだろうか?

これは、認知能力の欠如か悪意とイデオロギー的な盲点による北京のテクノロジー戦略に対する根本的な誤解に端を発している。

寛大な解釈では、欧米の中国経済分析は、自国の経済・政治モデルに根ざしている。

新自由主義的な金融化経済が産業大国のダイナミクスを理解できないのは当然だ。

中国の経済モデルを明確に把握し、偏りのない世界観で政府の行動を解釈できる欧米のアナリストや記者はほとんどいない。

より冷酷でおそらくより鋭い見方をするなら、不正直な欧米のアナリストやメディアは彼らの聴衆を喜ばせたり特定の政治的な物語に合わせたりするために「中国叩き」を行っているということだ。

現実を伝えることは彼らの優先事項の最下位にある。

「ピーク・チャイナ」のように中国経済を否定的に描くナラティブは政治的・経済的プロパガンダとして機能しているのだ。

これで思い出すのは、中国の経済的・政治的崩壊を繰り返し予測してきたゴードン・チャンのような、完全に信用を失った「中国専門家」である。彼は20年以上経った今も、自分の予測が現実になるのを待ち続けている。

チャンは2001年の著書『中国の崩壊』で示した「予測」が完全に外れたにもかかわらず依然として支持層を持ち、自ら「客観的」と称する『フォックス・ニュース』のようなプラットフォームに定期的に登場している。彼はあらゆる機会を利用して自らの主張を繰り返しており、おそらく死を迎える時にも「あと5年だ」と言うだろう。

ゴードン・チャンと対照的なのが、冷戦終結時に「歴史の終わり」を宣言したことで知られる政治学者フランシス・フクヤマだ。フクヤマはその後自らの未熟さを認め、現在は西洋における「民主主義の衰退」研究に注力している。

チャンは常に誤りを犯しながらも、依然として米国主流メディアの歓迎されるゲストである。一方のフクヤマは誤りを認めたが、新たな学術的分析が時宜にかない正確なものとなった今、完全に発言の場を奪われている。

明らかに、西側のメディアや評論家たち――経済分野であれ政治分野であれ――は自由な探究や偏りのない報道、独立した思考に何の関心も持っていない。

彼らは自己欺瞞と偽情報の流れを糧とし、聴衆を洗脳し情報操作をする。まさに啓蒙の逆の精神に則ったやり方だ。

一貫して誤った判断や欠陥ある分析を行う者たちは、自らのメッセージが雇用主・顧客・視聴者の世界観や政治的偏向と合致する限り、責任を問われることなく職を維持する。

私は1年前に2024年ノーベル経済学賞が新自由主義経済学者/プロパガンダリストであるダロン・アセモグルとジェームズ・ロビンソンに授与された際、この破綻したイデオロギーが作用していると指摘した。彼らは中国と米国の経済システムを対比する分析において根本的に誤っていたのだ: https://huabinoliver.substack.com/p/the-2024-nobel-economics-prize-is

残念ながら、この同じイデオロギーが、政治的教条ではなく利益追求を動機とするはずの投資コミュニティにも蔓延している。

なぜ北京が技術独占企業を取り締まったのかという質問の答えは、背景を知っている者にとっては極めて明快で単純である:

– アリババやテンセントのような消費者向けテクノロジー大手は、レントシーキング(レント追求)型の独占企業へと変貌しつつあり、競合他社と消費者双方に損害を与えていた

– アリペイやWeChat Payの活動には、過剰なレバレッジと金融化の明確なリスクが存在した。これは、現在の経済問題の根源である金融化という欧米の道を歩まないという北京の決意に反するものだった

– 最新・最高のフードデリバリーアプリなど、消費者のための技術系スタートアップは、半導体製造、AI、グリーンテクノロジーといった、中国の長期的なグローバル競争力の鍵となる、必要とされるハードテクノロジーやフロンティア技術への投資から、資源や資金をそらしていた。

– 教育テック企業の急増が教育資源へのアクセス格差を拡大し、社会階層の固定化を招いていた。これは国家目標である「共同富裕」に反する

この件については昨年、習近平主席の業績を論じた長文記事で触れた。https://huabinoliver.substack.com/p/10-achievements-of-xi-jinping-598

中国企業がグリーン移行に不可欠な技術で優位に立ち、人工知能でも新たなリードを築きつつある現状は、北京の長期的視野と果断な行動が正しかったことの証明である。

結局のところ、投資に値するか否かという問いへの答えは、四半期ごとの財務実績や株価リターンから見出せるものではない。その答えは、経済の長期的な強靱さと競争力の中にある。

https://huabinoliver.substack.com/p/who-is-uninvestable