No. 3009 ドル体制の危機:アメリカが日本を救済した本当の理由

Dollar system in crisis: The real reason the US bailed out Japan

By Ben Norton

アメリカが円を支援するために介入したのは、単に日本のためだけじゃない。そこにはドル体制そのものの危機が隠れている。ワシントンは各国が米国債を売却するのを嫌がっている。利回りが上がり、世界的な脱ドル化が進むからだ。

2026年8月、アメリカ政府はひそかに日本を救済した。

米財務省が為替市場に介入して円を買い支えたのだ。アメリカとして円支援に動いたのは1998年以来のことだ。当時は東アジアや東南アジアの多くが深刻な金融危機に見舞われていた。

今回のことは日本だけでなくドルを中心とする国際金融システム全体に進行している、新たなスローモーションの危機の症状にすぎない。

ドル体制に入ったひび割れと、ドル支配の緩やかな衰退を映し出している。

ブルームバーグはこの為替介入を「異例のオペレーション」と報じた。

表面的で安易な説明としては、日本はアメリカの緊密な同盟国で、円がドルに対して大幅に下落しているから、というものだ。2021年1月には1ドル=約100円だったのが、2026年7月には160円を超えた。

しかしそれが本当の理由ではない。

日本について財務長官のスコット・ベッセントは「日本を支援するためならなんでもするだろう。それによってアメリカ経済、アメリカの納税者を助け、世界経済を安定させるのだ」と宣言した。ベッセントが「世界経済」と言うとき、それは実際にはドルベースの国際金融システムを意味している。彼が守ろうとしているのはそれだ。

ここで強調しておくべきは、ベッセントはウォール街出身の元ヘッジファンドマネジャーだということ。何年も億万長者の寡頭政治家ジョージ・ソロスと一緒に働き、為替投機を専門にしていた。2人で英ポンドを空売りしてソロスに10億ドル以上を稼がせ、「イングランド銀行を破綻させた」男だ。

ベッセントは超富裕層の仲間である。彼が億万長者かどうかは諸説あるが、少なくとも数億ドルの資産を持っている。

とにかく、ベッセントにはドルベースの金融システムを支え続けるという経済的な利害が絡んでいる。そのシステムこそが彼のような寡頭政治家を富ませてきたのだから。そして日本はそのシステムを維持するのに役立ってきた。

日本がアメリカ帝国で果たす特別な役割

日本はアメリカ帝国の中で特別な役割を担っている。

まず何より、日本はどの国よりも多くの米軍基地を抱えている。アメリカは世界中に約750の軍事基地と施設を持っているが、日本だけで120カ所、5万人以上の米軍兵士が常駐している。

日本は第二次世界大戦の終わりから80年以上、アメリカ帝国に占領されたままだ。

この帝国主義的な構造が続いているのは、日本の企業エリートがアメリカの占領から利益を得ているからだ。日本は1955年以来、事実上一党支配状態で、ほぼ例外なく右派で企業寄り、親米の自由民主党(LDP)が支配する、いわゆる「55年体制」である。

日本の従属関係を完璧に象徴する出来事が今年7月にあった。アメリカ合衆国建国250周年を祝って、トランプと日本の超保守派首相・高市早苗をフィーチャーしたドローンショーが開催されたのだ。

日本がアメリカの緊密な軍事・政治同盟国だということは広く知られている。

でもあまり知られていないのは、日本が世界のドル体制を支える上で中心的な役割を果たしていることだ。

世界のドル体制における日本の特別な役割

日本はアメリカ帝国のために、もう一つ極めて重要なサービスを提供している。米国債(アメリカの国債、つまり政府債務)の最大の外国人保有者としての役割だ。

つまり日本はどの国よりもアメリカにお金を貸している。

何十年もの間、日本は巨額の経常黒字を維持してきた。投資主導・輸出志向型モデルに従い、先端技術を専門とする製造業大国として確立され、高品質の製品を世界中の顧客に販売してきた。

日本のハイテク製造業が生み出した巨額の黒字はどうなったか?その多くをドル資産——特に米国債——に再投資してきたのだ。

日本は2010年代、利回りが極端に低く、実質リターンがしばしばマイナスだったときでさえ(米国の金利がほぼゼロでインフレを下回り、FRBが量的緩和をしていた時期)、米国債を買い続けた。

日本が余剰資金を米国債に転換し続けたのは、ワシントンからの政治的圧力に直面していたからだけではない(もちろんそれも一因ではあるが)、円安が製造業に利益をもたらし、輸出の競争力を高めるためでもある(特に中国からの競争激化を懸念している状況下では)。

2026年2月時点で、日本は約1.24ドル(1,239,300,000,000ドル)の米国債を保有していた

ここで対照的なのが中国の米国債保有だ。

北京は10年以上にわたり米国政府債務への純投資を着実に減らしてきた。保有額は2014年に1.3兆ドル超でピークを打ったが、2026年時点で7,000億ドル未満まで減少し、年々縮小している。ワシントンが自国通貨を武器化していることに対する対応として、北京は着実に脱ドル化を進めている。

米国債市場の機能不全とイラン戦争によるエネルギー危機

日本は何年もの間、米国債の最大の保有者であり続けた。しかしここ数カ月、保有額を減らしている。なぜか?

2月末、トランプ政権はイランに対して侵略戦争を仕掛けた。これが世界的なエネルギー危機を引き起こし、東アジア・東南アジア経済に深刻な打撃を与えた。

日本は石油のほとんどを輸入に頼っており、その95%を西アジア(いわゆる中東)から得ている。その約70%はホルムズ海峡を通過するが、イランは米国の侵略戦争を受けて海峡を閉鎖した。

エネルギー価格の高騰が円にさらなる下落圧力をかけ、日本銀行は介入を余儀なくされた。

その後数カ月で、東京は米国債の一部を売却した。為替市場に介入するためだ(米国債を売ってドルを調達し、そのドルで自国通貨を買い戻した)。

7月には日本の保有額は1.12兆ドル(1兆1167億ドル)未満に落ち込んだ。つまり東京の純保有額はわずか4カ月で1,000億ドル以上減少した。日本は明らかに大量の米国債を売却していた。

これはワシントンを悩ませた。なぜなら米国債の利回りがコロナ禍のサプライチェーン混乱に続くインフレ危機以来、6年間着実に上昇し続けているからだ。

アメリカ政府は特に、経済の他の金利(社債、住宅ローン、自動車ローン、学生ローンなど)のベンチマークとして使われる10年物国債利回りが高止まりしていることを懸念している。

だからこそ、円支援という異例の為替介入のわずか数週間後、米財務省は「長期物の利回りを抑えるための流動性支援の買い戻しオペレーションの規模を少なくとも倍増する」と発表した。

言い換えると、財務省は短期債を発行して自らの長期債を買い戻すことで、利回り曲線の長期部分をコントロールしようとしているのだ。

これはかなり皮肉なことだ。というのも、スコット・ベッセントは、ジョー・バイデン政権の財務長官であるジャネット・イエレンを、主に短期債務証券(ビルと呼ばれる)を発行したとして厳しく批判したからだ。その考え方は、長期証券の供給を減らすことで、財務省が利回りの上昇圧力を緩和できるというものだった。

これはかなり皮肉な話だ。なぜならベッセントは、バイデン政権の財務長官ジャネット・イエレンが主に短期債を発行したことを激しく批判していたからだ。

しかし、ベッセントがイエレンの後任となって以来、彼もまったく同じことをしており、イールドカーブの短期部分に圧倒的に多くの債券を発行している

2026年7月、財務省は2.57兆ドルの短期債(満期1年以内)を発行したのに対し、中期債(2〜10年)は3,103億ドル、長期債(20〜30年)はわずか373億ドルだった。

つまり7月に発行された約3兆ドルの証券の86.4%が短期債で、中期債が10.4%、長期債はわずか1.3%だった。

ペトロダラーからヘッジファンドダラーへ

2026年6月時点で、外国政府が保有する米国債は3.78兆ドルで、その大部分(90%以上)は満期1〜30年の長期証券だ。

ワシントンは、外国政府に対し、長期の米国債を引き続き購入してほしいと考えているが、その売却は望んでいない。というのも、現在、米国債利回りが頑なに高止まりしている状況下で、売却が行われれば利回りの上昇圧力が強まるからだ。

問題は、外国政府が米国債の保有にますます関心を失いつつあることだ。まさに今、米国債の発行量が爆発的に増加しているこの時期に、米国の債務が急速に膨らんでおり、連邦財政赤字がGDPの約6%で横ばい状態が続いているためである。

外国人による米国債保有割合は、コロナ禍以降32〜33%前後で推移している。これは2010年代初頭の45%超から顕著に低下している。

一方、発行額が大幅に増えているにもかかわらず外国政府による米国債保有はここ数年横ばいである。

大きな理由の一つは、ドルの武器化への恐れの高まりだ。多くの外国中央銀行は、自国政府がワシントンの気に障ることをすれば、保有する米国債を差し押さえられるのではないかと恐れている。

2022年に米国と欧州諸国がロシアのドル建て・ユーロ建て資産約3,000億ドルを差し押さえた決定は警告となり、世界の中央銀行は代わりに金に殺到した。

だから米国債の供給は着実に増えているのに、外国政府の需要は着実に減っている。

その穴を埋めたのは誰か?外国の民間投資家、特にロンドン金融街やカリブ海のタックスヘイブンに登録されたヘッジファンドやその他の企業である。

日本と同様、これらの民間企業も世界のドル体制を支えている。これが、アダム・トゥーズがこの体制を「ヘッジファンドドル」あるいは「億万長者ドル」と呼ぶべきだと言う理由なのだ。

1971年のニクソンショックで米国政府がドルと金の交換を停止した後、ワシントンはサウジアラビアなどの主要産油国に圧力をかけ、余剰資金を米国資産(主に米国債)に再投資させてドルを支えさせた。ペトロドラーは今でも世界のドル体制の重要な柱だが、西側経済の急速な金融化が進んだため、ここ数十年でヘッジファンドドルの方がさらに重要になっている。

これが、トランプ政権が金融セクターの規制をさらに緩和し、ステーブルコイン(価格安定型暗号資産)を推進している理由の一つでもある。なぜならその発行体が米国債をステーブルコインの裏付けに使うことが多いからだ(少なくともそう主張している)。

これでTether (テザー)やCircle(サークル)といったステーブルコイン発行企業が短期間で世界有数の米国債保有者になり、主要外国政府と肩を並べるようになった理由が説明できる。

しかし、こうした民間の外国需要の増加でさえ、米国の利回りを低く抑えるには十分ではなかった。

だからワシントンは特に、外国政府が米国債を売却することに神経をとがらせている。

ドル体制の危機:アメリカは他国が米国債を売るのを望んでいない

これらすべてが示しているのは、ドルベースの国際金融システムの核心に危機が進行しているということだ。

これはまさに、ドル体制に関する世界有数の権威であるバリー・アイケングリーンが導き出した結論だ。同氏はカリフォルニア大学バークレー校の経済学教授であり、著書『Exorbitant Privilege: The Rise and Fall of the Dollar and the Future of the International Monetary System』の著者でもある。

『フィナンシャル・タイムズ』紙の記事の中で、アイケングリーンは、円相場を支えるためのトランプ政権の介入について、「ドルに関する憂慮すべき情報を含んでいる」と指摘した。

「メッセージは、財務長官スコット・ベッセントらが、円を支えるためにドル建て証券を売却することが米国債市場の長期部分にさらなる負担をかけることを懸念したということだ」と彼は書いている。

この懸念は、ベッセントが為替介入の資金を、ドルではなく財務省が為替安定化基金(ESF)で保有していたユーロで賄うという決定に表れていた。

つまり米国政府は、米国債を売却すれば利回り上昇圧力が高まるので、それを避けるために為替市場でユーロを売って円を買ったのだ。

特に衝撃的だったのは、米国政府がこの介入で保有するユーロを、欧州のいわゆる「同盟国」と協議せずに売却したことだ。FTは欧州中央銀行(ECB)がこのオペレーションの後になって初めて通知されたと報じた。

ドル体制の第一人者アイケングリーンはFTでこう結論づけている: 

これらの動きは、ドルの準備通貨としての地位がかつてとは異なることを示している。中央銀行は米国債市場の流動性が高いために外貨準備をドルで保有することに慣れている。中央銀行は自由に売買でき、介入に使えるから米国債を保有する。しかし今はそうではない、少なくとも無制限にはそうではない。……

要するに、ワシントンは、米国の金融市場への影響を懸念し、外国の中央銀行がドル準備高を使うことを快く思っていないということだ。これは、ドルがかつてのような魅力的な準備通貨ではなくなっていることを示している。この事実が浸透すれば、他国は、より魅力的で即座に活用できる代替手段を、さらに積極的に探し求めるようになるだろう。準備資産の分散化は、勢いを増していくだろう。

これが米国政府の日本救済から得られる最も重要なメッセージだ:ドル体制の構造のひび割れは拡大しており、世界的な脱ドル化運動が勢いを増している。

円キャリートレードで利益を得るウォール街

米国政府による歴史的な日本救済について、もう一つ重要な点がある。それは、この救済から利益を得ているのはワシントンだけではなく、ウォール街も同様だということだ。

これは、ウォール街の金融会社や、米国およびより広くは欧米の投資家が、いわゆるキャリートレードを通じて円安から利益を得ているためである。

キャリートレードとは何か?その考え方は非常にシンプルだ:低金利の通貨で資金を借り、高金利の通貨で資産を買う。そのスプレッド(差額)で利益を得るというものだ。

何十年もの間、日本は超低金利(時にはマイナス金利さえ)だった。そこで投資家は円建てで借金をし、そのお金をドルに換え、より高い利回りの米国債や米国企業の株式を買ってきた(それによって米国株市場の巨大なバブルを膨らませる一助となっている)。

円キャリートレードはウォール街に巨額の利益を生んできた。そしてこのトレードは何年も続いており、金融市場だけが動かしているわけではない。「見えざる手」ではなく、むしろ米国政府と日本政府がこのトレードを促進する暗黙の合意を持っているかのようだ。

米国の金融資産、特にビッグテック企業の株は、円キャリートレードから大きな後押しを受けてきた。日本企業も利益を得ている。円がドルに対して着実に下落すれば、製品の国際競争力が高まるからだ。

これは日本が中国との競争に苦しんでいる時期には特にありがたい後押しだ。中国は世界のバリューチェーンを急速に上昇し、高付加価値産業へと進出して日本企業の利益率を侵食している。

ガーディアン紙の編集委員会は多くのことで間違っており、通常は帝国主義寄り、親米、親アトランティック(北大西洋寄り)だ。しかしこの英国の新聞は反トランプなので、トランプ政権による日本救済に関する批判的分析は核心を突いていた。為替介入の本当の動機を説明している:

これは円を救うというよりは、スコット・ベッセント米財務長官が、米国に利益をもたらす資金供給源を維持しようとする試みだ日本の超低金利資金は、世界的な資金調達手段となっている:銀行家は円を借り入れ、それをドルに売り換えて、特にハイテク株など、より高利回りの米国資産を購入する。上昇する米国株式市場は、担保価値と投資を支えている。日本の「キャリートレード」こそが、ウォール街がAI分野に数千億規模の資金をレバレッジで投入できる理由の一つだ。調査によるとAIは米国GDPの1%以上を吸い上げている。ワシントンはこの資金の流れを維持したいと考えているが、円安の進行や米国債の売却を代償にするつもりはない

ウォール街にとっての「資金の蛇口」として円が果たすこの極めて重要な役割は、ワシントンにとっても利益となり、ドル体制を強化することでその世界的な権力を維持している。

しかし、この体制の基盤に生じている亀裂は広がりつつあり、日本で進行中の「スローモーションの金融危機」は、その体制の上に築かれた構造の根深い腐敗の兆候なのである。

https://geopoliticaleconomy.com/2026/08/23/dollar-system-crisis-us-bailout-japan-yen/