No. 2629 2つの異なる貿易圏の出現

The Emergence of Two Divergent Trade Blocs

中国中心と米国中心の貿易圏の違いと世界への影響

By Hua Bin

トランプ政権の関税戦略が明らかになった。従属的な貿易相手国に米国が押し付ける「合意」は、以下の3要素で構成される:

1 米国輸入品へのゼロ関税と引き換えに、相手国に10~50%の「相互」関税を一方的に課す。

2 エネルギーから武器に至る通常数千億ドル規模の米国製品を大量購入させる – 選挙資金提供者へ「自由世界のリーダー」からの見返り。

3  米国への投資。これも通常、不特定の産業に不確定な期間にわたって数千億ドルの規模で行われる。日本の場合こうした「投資」による利益の 90% は米国に流れる。

言うまでもなく、「合意」のあらゆる要素は綿密な分析と審議に基づいており、完全に現実的で実行可能なものだ。例えばEUは、購入目標を達成するために米国からの年間 LNG 購入量を 400% 増やせばよい

消費量を超える場合、EUは苦境に陥ったロシアの石油を高値で無防備な第三者に転売するインドから学ぶことができる(インドの転売先はヨーロッパ)。誰にとってもWin-Winだ。

マスコミはほとんど報じないが、トランプはエジプト(米国は年間 20 億ドルの貿易黒字)の 10% から、南アフリカとアルジェリアの 30% まで、アフリカの主要国すべてに対する関税を最終決定した。

これに対し、中国は今年 6 月、 53 カ国のアフリカ諸国に対する輸入関税をすべて撤廃すると発表し、アフリカ諸国は中国に無関税で輸出できるようになった。

中国と米国は貿易停戦を 90 日間延長することで合意したが、管理されたデカップリングは急速に現実のものとなりつつある。中国の米国への輸出は年初来で 22% 減少し、輸入は 19% 減少した。

米国への輸出が減少したにもかかわらず、中国の輸出総額は今年上半期に7.2%増加し、4.8%という一般予想を大幅に上回った。2025年上半期の中国の輸出額は1.8兆ドルに達し、貿易黒字は5,860億ドルと、スウェーデン、ノルウェー、ベトナムの年間GDPを上回った。

中国の年間貿易黒字は1.3兆ドルを超えると予測されている。これは世界史上最高の貿易黒字額であり、トルコ、インドネシア、スペイン、オランダの経済規模とほぼ同じである。

トランプ政権が米国の再工業化を期待して保護主義を強める中、中国はまったく異なる道を進み、グローバル・サウスにおける貿易と投資の拡大に注力している。今後10年間で中国を軸とした貿易圏と米国を軸とした貿易圏が対立する構図が浮上するだろう。

ワシントンやブリュッセルのIQ不足のイデオロギー家たちは、このような貿易圏を「民主主義同盟」対「独裁軸」とラベル付けするだろう。しかし理性的な思考を持つ者は、2つの貿易圏の経済構造が根本的違うことと、それに伴う長期的な影響に注目すべきである。

それを理解していれば、どちらの貿易圏と経済モデルが最終的に優勢になるかを推論できる。主権国家は、経済的、技術的、政治的な自己利益に基づいて、自国の立場を選択するべきだ。

まず、米国中心の貿易圏を見てみよう。最もすぐにわかるのは、このブロックは構造的に高コストになるということだ。

消費者は強いインフレ圧力に直面する

o トランプ関税は輸入業者が自ら吸収できない高い関税を必然的に消費者に転嫁する。これは米国消費者に対する間接税となる。

o 中国製の多くの高品質で低価格製品が消費者の選択肢から排除される。例えば、中国製電気自動車(EV)は、100%の輸入関税により米国とカナダでは既に販売されていない。EUは中国製EVに45%課税している。一方、中国が米国と欧州の自動車に課す輸入関税は年々低下傾向にあり、現在ではエンジン排気量に応じて10%から25%となっている。

o 同様に、太陽光パネルや風力タービンなど、低コストの中国製グリーンエネルギー製品は、中国が世界全体の80%の太陽光パネルと65%の風力タービンを生産しているにもかかわらず、関税のため米国市場から排除されている。

o 中国と米国が完全にデカップリングした場合、電子機器からビタミン剤までの消費財を米国は高コストの国内または海外のサプライヤーから調達する必要が生じる。

o 中国製品が第三国経由から転送されて米国に流入し続ける場合、輸送コスト、追加保険、仲介業者のマージンなどの追加コストにより価格が上昇する。

o 転送が停止された場合、メキシコ、マレーシア、ベトナムなどの国々は、自国で生産する米国向け製品に用いる原材料や中間製品を中国から調達し続けるだろう。ベトナムから米国への衣料品、靴、電子機器の輸出において、既にこのような動向が見られる

製造業者は構造的に高い運営コストを負担することになる

o 米国および米国と提携する企業は、国内生産に必要な重要鉱物、原材料、部品、コンポーネント、資本財を中国と提携するサプライヤーに依存し続けるため、バリューチェーン全体で投入コストの上昇が見込まれる。

o 例えば、鉄鋼はさまざまな製造業に重要な投入材料である。2024年の米国の鉄鋼生産量は8,000万トン未満であるのに対し、中国は10億トンを超えている。しかし、米国は鉄鋼とアルミニウムに50%の関税を課しており、自動車メーカーを含む国内製造業者の原材料コスト上昇を招いている。

o 中国と米国がデカップリングする中で、米国企業は船舶、コンテナ、通信機器、ロボット、レアアース、医薬品原薬など、代替となるより高コストになるであろう資本財や原材料の供給源を探す必要がある。

o米国の製造業者は、 製品カテゴリーやサプライチェーン全体でコスト上昇と利益率の低下に直面する。

o 米国生産者は中国生産者と比較して、エネルギーコストが大幅に高いこと、発電所、港湾、鉄道、橋梁など国内インフラが劣っている現実に直面する。米国の産業企業は平均して、中国企業に比べて電気代を3~5倍支払っている。米国のAIハイパースケーラーはデータセンターの電力消費量が急増する一方、過去20年間で発電容量がほとんど増加していないため深刻なエネルギー不足に直面する。

o 下のグラフは、中国の発電量と他の主要経済国との比較を示している。中国はすでに、米国、EU、日本、インドを合わせた発電量の2倍以上を生産している。さらに中国は発電容量を急速に拡大している。最近発表されたヤルンツァンポ川に建設予定の超大型水力発電ダムは、年間発電容量60ギガワット(GW)で、イギリスの全発電容量を超える世界最大の水力発電ダムとなる予定である。

o インフラ、エネルギー、原材料、部品/コンポーネント、労働コストがより高い米国および米国と提携している製造業は、あらゆる業界でグローバル競争力をさらに失う可能性が高い。

o 上記の分析には、工場、鉱山、発電所など再工業化に必要な数兆ドルの固定資産投資は含まれていない。このような固定コストは、最終的に消費者が負担する価格に償却される。

o トランプ政策の結果、再工業化の逆が起きる可能性もある。米国企業の一部がより低コストの生産拠点への移転を余儀なくされる可能性があるからだ。

金融緩和政策と為替安により、インフレはさらに深刻化するだろう

o トランプ政権の明確な政策の方向性は、歴代米国政権が経済刺激のために採用してきた超金融緩和政策への回帰である。

o 現在の株式市場や不動産市場の資産バブルを維持するには量的緩和が必要である。また、ビッグ・ビューティフル法案(BBB)による減税や赤字拡大の財源も、量的緩和によって賄わなければならない。

o あらゆる兆候をみてもトランプは来年 5 月にジェローム・パウエルの任期満了に伴い、自分の意のままに動く FRB 議長を任命するだろう。

o 長期的には金融緩和政策は、インフレ圧力が高まるだけでなく、ドル安とドルの準備通貨としての地位の低下にもつながるだろう。

o すでに世界最大の債務を抱える米国の消費者はさらに購買力を失うことになる。

o トランプの関税戦争の鍵となる要素である、米国消費者の過剰消費は、経済成長と実質所得の停滞に伴い、その威力を失うだろう。

コストの上昇は消費者や産業だけでなく、軍事分野にも及ぶ

o 5月にパキスタンとインドの間で起きた空戦では、中国製の戦闘機J-10Cがフランスのラファール戦闘機少なくとも3機を撃墜した。パキスタンはJ-10Cを1機あたり$40-50百万で調達したのに対し、インドはラファールを2億ドル以上で購入した。

o もう一つの例として、イスラエルとイランの12日間の戦争がある。イランが安価なミサイルとドローンでイスラエルの防空網を圧倒したため、イスラエルは和平を求めざるを得なかった。イスラエルと米国はイランのミサイルのほんの一部を撃墜するために、1日あたり5億ドルの高価な迎撃ミサイルを投入した。

o 今年の初め、米国はイエメンのフーシ派への攻撃を中止せざるを得なかった。数百億ドルのミサイル、迎撃ミサイル、弾薬を費やした上、3千万ドルのRQ-9リーパー無人機と7千万ドルのF/A-18スーパーホーネットを多数失ったからだ。

o 著名な経済学者マイケル・ハドソン教授が指摘したように、米軍は「勝利する軍隊」ではなく「支出する軍隊」だ。米国の貿易圏の国は、戦争に勝てない米国軍事産業複合体の、過大評価され、過剰設計された「奇跡の兵器」に莫大な代償を支払うことになる。

o米国が従属国から高すぎるエネルギーと兵器の強制購入という形で貢物を搾取し続ける一方、中国は同盟国に低コストで高性能な戦闘機、戦艦、ミサイル、ドローン、防空システム、弾薬、軍事ロボットを供給するだろう。

話題を変えて、中国と提携する貿易圏について見てみよう。高コストで間接費のかかる米国圏とは対照的に、中国の圏域では低コストの商品だけでなく、資本、技術、インフラへの民主的なアクセスも享受し、長期的で持続的な生産性の向上を推進するだろう。

非欧米諸国との貿易の伸びは、欧米諸国との貿易の伸びを大幅に上回っている

o 中国は、西側諸国との貿易よりもはるかに速いペースで、ASEAN、ロシア、アフリカ、中東、ラテンアメリカとの貿易を拡大している。

o 2025年の最初の5か月間で、中国とASEAN間の貿易額は4,210億ドルに達し、前年比9.1%増となった。ASEANは現在、中国の最大の貿易相手国であり、中国の総貿易額の17%を占めており、EU13%、米国は10%未満となっている。

o 中国とロシアの二国間貿易額は2024年に245億ドルに達し、2020年の2倍以上になった。

o 2025年1月から5月までの中国とアフリカ間の貿易額は$134.2億ドルに達し、前年同期比12.4%増加した

o2024年、中国と中東の貿易額は400億ドルに達した。これに対し、米国とMENA(中東・北アフリカ)の貿易額は2024年に141億ドルだった。

o 中国は現在、ラテンアメリカの最大の貿易相手国で、2024年の貿易総額は500億ドルを超え、米国とラテンアメリカ(メキシコを除く)の貿易額の2倍に達した。

o 2025年、中国と米国の輸出入は20%減少した。米国との貿易は、今年中国の総貿易額の7~8%を占めると予想されており、2024年の11.5%から減少する見込みである。デカップリングの加速により、2~3年後には5%未満になるだろう。

o要するに、中国にとって米国は長期的に重要な市場ではない。米国が技術貿易を制限する中、中国が米国から購入したいものはますます少なくなっている。

中国の需要の伸びは、中国と提携する貿易圏の米国需要の減少を相殺する

o 中国の消費者の貯蓄率は可処分所得の40%を超え、世界最高水準で、かたや米国の平均は10%未満である。

o 中国の世帯債務は米国世帯よりもはるかに低い。住宅ローンを抱える中国の住宅所有者は18%のみで、住宅所有率は90%を超える。

o 中国には学生ローンが存在せず、自動車のクレジット販売は5%未満。

o 中国には巨大な潜在的消費者需要がある。住宅バブルの破裂の影響が時間とともに吸収されるにつれ、中国世帯の消費は回復する見込みで、特に通貨の国際化をさらに進めるために必要不可欠な措置である人民元の切り上げを北京が実施すればなおさらである。

生産性向上のための資本、技術、インフラへのアクセスを民主化する

o 中国は一帯一路(BRI)とデジタルシルクロード・プログラムを通じてグローバル・サウス全域におけるインフラとデジタル接続への海外投資を加速しており、2025年には投資額が過去最高に達する見通しだ。

o 中国は、過去最高の貿易黒字(2025年は推定1.3兆ドル)を積み上げている。同時に、北京は米国債の保有額を$7500億ドル未満に削減した。これは10年ぶりの最低水準である。

o 北京は現在、3.3兆ドルの外貨準備を保有し、これは世界最高水準である。これらの資金は金や石油、穀物、重要鉱物などの戦略的備蓄の購入に充てられ、また中国の貿易開発銀行はBRI参加国に対し、外貨準備の一部を融資している。

o 皮肉なことに、中国銀行は米国政府の借入コストよりも低い金利で、グローバル・サウス諸国に米ドル建て融資を拡大している。

o 2024年の世界銀行の調査によると、BRIプロジェクト向けの中国の海外融資の加重平均金利は4%だった。

o 以下の表は10年物国債利回りを示している。ご覧の通り、米国政府は債権者から4.28%の金利で借り入れを行っており、これはガーナやボリビアのBRIプロジェクト資金調達金利よりも高い。

o 別の言い方をすれば、アフリカやラテンアメリカの各国政府は、AAA格付けの米国政府が米国の国内投資家から米ドルを借り入れるよりも低い金利で、中国の銀行から米ドルを借り入れることができる。

o このような民主化は資本へのアクセスだけにとどまらない。DeepSeek、Zhipu、アリババ、ファーウェイ などの中国の AI 企業は、基礎モデルをオープンソース化し、OpenAI(Openという名前にもかかわらずオープンではない)、X、Gemini などのクローズドな米国の AI システムに比べ、わずかな料金で提供している。

o AI などの重要な未来技術をオープンソース化することで、各国は真のデジタル主権を発展させることができる。

o ファーウェイは、Pangu AIモデルをオープンソース化するだけでなく、CANNとMindSpore AIソフトウェア開発ツールキット、Ascend AIチップソフトウェアエコシステム、Harmony OSオペレーティングシステムもオープンソース化している。

o MoonshotのKimi K2推論モデルは世界最高水準のAIモデルの一つで、料金は100万入力トークンあたり$0.15、100万出力トークンあたり$2.5である。一方、GPT-4 Turboは、レガシーアプリケーション向けに100万入力トークンあたり$10、100万出力トークンあたり$30で利用可能である。

o エンボディドAI(ヒューマノイド)市場では、中国のUnitreeやUBTechのヒューマノイドは、テスラやボストン・ダイナミックスの類似製品に比べて1/3から1/4の価格である。

o 資本と技術へのアクセス民主化に加え、北京の一帯一路(BRI)イニシアチブは、港湾、橋梁、鉄道から病院、学校までのインフラ開発に引き続き大規模な投資を継続し、長期的な持続可能な生産性向上の基盤を築いている。

今後数年間で、我々は世界貿易システムの分断が加速するのを目にすることになる。2つの新たな貿易圏が形成され、そのうち1つが優位に立つだろう。これこそが、権力エリートが搾取と分極化を永続させるために利用する偽りの「一人一票」の「民主的統治」ではなく、真の民主主義なのである。

https://huabinoliver.substack.com/p/the-emergence-of-two-divergent-trade