No.1010 経済争点のアメリカ大統領選

11月に行われるアメリカの大統領選挙では『経済』が最大の争点となっている。オバマ大統領の政策によって景気回復が遅れていると批判する共和党のロムニー候補は、企業活動を活発化させることで経済回復を呼びかける。

ロムニー候補の政策をみると、ブッシュ減税の延長、相続税廃止、法人税減税、企業が海外で稼いだ配当への課税をなくす等、減税一色だ。そして米国に必要なのは「多くの雇用」だと、1期目に1200万人の新規雇用を創出するという公約を打ち出しているが、どのように、どんな雇用をつくるというのだろう。

経済が争点である限り、その目標は経済成長で、それであたかもすべての問題が解決するかのような話になる。しかし人間ではなく経済を中心に考えるから、貧富の格差や失業率の問題がある。国民にはこのことに気づいてほしくないと企業経営者や政治家などの国を牛耳る金持ちエリート層は思っている。一般大衆のための政策をとることは彼らの目標ではないからだ。

政治家は、経済成長なしには雇用は増えないという。たしかに戦後、日本も経済成長とともに雇用が増え、国民の生活は豊かになった。だが人間が大人になると成長が止まるように、経済もある時点から成長が止まる。それを超えて成長を望んで食べすぎたり運動をしすぎれば体が傷むように、無限の経済成長を望むことにより、環境破壊や天然資源の枯渇など地球に問題がでてくる。

さらに、経済成長の指標であるGDPが増えても、国民は幸福にならない。東日本大震災の「復興需要」という言葉があるが、地震、原発事故、放射能汚染の除染など、人々の苦しみのコストがGDPを押し上げる。これが経済学者シュンペーターのいう「創造的破壊」で、破壊が国内生産を増やすのだ。それが経済であり、そんな国民の幸福や健康とは関係ない「数字」が大切だと、国民は信じ込まされている。

雇用減少の主因は、高度に自動化が進み生産性が上がったこと、利益を増やすために企業がより安く労働者を雇用でき、環境規制も緩い海外へ製造拠点を移転したためだ。本気で雇用を取り戻すなら逆の政策をとるしかない。ロムニー候補は失業をオバマの政策のせいにしたいが、実際は、彼の支持者である大企業のCEOたちが株価を上げて自分たちの給与を増やすために雇用をインドや中国に移し、貿易赤字を増やし、財政基盤を破綻させたことが原因なのだ。

日本でも同じように、国民の幸福や健康を考えない政治家が、自分の地位や利益だけを追い求めて消費税増税や、一部の大企業に国家の主権をわたすACTA、TPPなどの自由貿易協定を推し進めている。グローバル化という名の下、リストラや賃金を下げなければ世界市場で生き残れないという主張は、あたかもグローバル化が避けられない台風のように思えるが、実際は規制緩和やACTAやTPPと同じく、エリートたちが自分たちの利益を増やすためにつくっている。日本は首相を国民が選挙で選ぶことはできないが、国民自身が国のあり方を真剣に考えなければ、もはや後戻りできないほどの状況にきていると思う。