No. 1046 核兵器と原子力発電所

8月6日、今年も広島で平和記念式典が行われた。広島市の松井市長は「原爆は絶対悪だ」と述べ、 また安倍総理は「日本人は唯一の戦争被爆国民であり、我々には核兵器のない世界を実現していく責務がある」とスピーチした。

今年3月、新たにアメリカで公開された公文書で、戦後その唯一の被爆国が核兵器を持とうとしていたことが明らかにされた。秘密指定が解除された公文書によれば、1958年、駐日アメリカ大使だったマッカーサーがアメリカから来日した政府高官に、日本の総理大臣は、ソ連から国を守るために日本は核兵器を保有する必要があると述べた、と語ったという。総理大臣とは、安倍総理の祖父の岸信介である。

冷戦の進む中で、アメリカは対ソ連の戦略として日本を含む同盟諸国の核による防衛力強化に積極的であったが、この公文書は日本政府が当時から核兵器の保有を検討していたことを明らかにした。被爆国が、表では安倍総理が広島で述べたように「核のない世界を」と言いながら、裏では核兵器を保有しようとしていたのである。もちろん当時、核兵器に対する世論の反対は強かったため、日本政府がしたことはいつでも核兵器を作れる能力を持つ、それが原子力開発であったといえる。

核兵器とその燃料を作るための原子力発電所が相互に深く関連していることは、例えばイランの核開発問題をみるといい。イランが自国の原子力発電所で高濃縮ウランの製造を進めているのは、核爆弾を作っているからというのがイランにかけられている疑惑である。しかしイランや北朝鮮において核兵器と原発が同じなら、なぜ日本でそれがあてはまらないのか。日本政府がそう言うから、では理由にならない。しかし日本国内では原子力の平和利用と呼び、その安全神話を吹き込み、多くの原子力発電所が建設された。

原発は安全なのは事故が起きるまでである。大事故が起きれば放射能は原爆と変わらぬ影響を人体に及ぼす。福島原発は事故から2年半経ち、7月の参院選挙の終わった翌日、原発推進の自民党圧勝を待っていたかのように東電は放射能汚染水が海に流出していることを発表した。事故から2年半も経ったにもかかわらず、高濃度の放射能のために修復もできず、一日に300トンもの汚染水が流れ出ているという。政府側の推定値だから真実はもっと多いかもしれない。

核攻撃にも等しい原発事故によって土地が汚染され、多くの人が故郷に帰れず、また海水の汚染で漁に出ることのできない人がいる。岸信介は対ソ連のために核兵器が必要だといったが、その孫である安倍総理は、対中国のために、または対北朝鮮のために核兵器が必要だというのだろうか。そしてこれだけ収拾のつかない原発事故を起こしながらも、まだ他の原発を再稼働し、外国にも安全神話とともに原発を輸出しようというのか。原爆も原発も、私には絶対悪としか思えない。