No. 1091 日本の貧富格差拡大へ

政府が9月に発表した景気判断は、消費税増税後の落ち込みが長引いていることを認め、5カ月ぶりに下方修正された。

金融緩和と円安の後押しで、物価の上昇が続いている。円安とは、日本国民の所得や資産価値が国際的にみて下がることである。安倍政権の発足当時、1ドル78円だった円は109円にまで安くなり、単純計算すると、日本が輸入に依存するエネルギーや食料などの価値は40%高くなった。その一方で、勤労統計によると実質賃金は1年以上減少を続けている。アベノミクスで株などを保有する富裕層の富は増えたが、大部分の国民の暮らしはますます厳しくなっている。

レーガン大統領のレーガノミクスは、トリクルダウン理論という、「富裕層や大企業にお金を回せば彼らがお金を使うことで経済全体が活性化し、一般国民もその恩恵を受ける」という考え方を採用した。それを理由に所得税や法人税の最高税率を引き下げ、大企業や富裕層に富が集中することを促進したが、富が、企業の設備投資など、実体経済を拡大するために使用されなかったためにアメリカの貧富の格差は拡大の一途をたどった。

今、同じようにアベノミクスは日本の社会を壊しつつある。資産家や大企業の富や資産価値が増える一方で、7月に発表された「2013年 国民生活基礎調査」によると、18歳未満の子どもの貧困率は16.3%と、過去最悪を更新した。6人に1人の子供が貧困状態にあり、特に一人親家庭の貧困率は54.6%にも上る。

貧困率の上昇にはいくつかの理由があるが、主なものは、正社員の仕事が減り、パートなどの非正規雇用で働く人の割合が増えたことだ。小泉政権の構造改革以降、日本では非正規雇用が増加した。若者の雇用機会を奪うとして終身雇用制度を見直し、「多様な働き方」を可能にするとして企業は正規雇用からパートや契約社員の採用にシフトした。同じ労働力を安い人件費で確保できるのである。

厚生労働省の発表によれば、1985年には655万人だった非正規雇用労働者の数は、2013年には1906万人へ、全労働者の36.7%に増加した。正規雇用労働者は1985年の3343万人から3294万人へと減少している。国税庁の調査では正規雇用者の平均給与は473万円だが、非正規雇用者は167万8千円。安い賃金の上、簡単に解雇できる非正規雇用者を企業が増やしたいのは当然だろう。

グローバル化の進展で、安い海外へ製造拠点が移転されることを見こした経済学者のシューマッハーは、1973年に「スモール・イズ・ビューティフル」の本の中で、「貧乏人の役割は、金持ちの要求を満たす穴埋めをすること」だと記した。貧乏人は金持ちの奴隷にも等しい。海外に転移できない仕事は、国内の安い労働者を使えばよいのだ。労働者からの搾取が続けば日本の貧富の格差はますます拡大する。企業利益と役員報酬を最大にするアメリカの手法をまねることで、国民の大部分が自分を中流階級だと考えた昭和の日本は、ますます遠ざかっていくの
である。