No. 1105 中国経済の存在感

中国の経済成長が2014年の7.5%から今年は7%に鈍化したとして、中国経済を危ぶむ報道を目にすることが多くなった。

欧米向け輸出の停滞や製造業の景況指数の低下など中国の景気が減速していることは確かだが、習近平国家主席は、この低成長を「新常態」と呼び、安定成長の経済状態が常態化していると説明している。

不動産バブル崩壊や環境汚染といった問題があるとはいえ、年間7%で成長している先進国は他にない。中国には100万人都市が150以上あり、1人当たりGDPも年々増加している。何よりも強さの基盤は、中間層が記録的に増加していることであり、その内需によって10年にはGDPで日本を追い抜き、米国に次ぐ世界第2位となった。対照的に、中間層が減少している米国は、アジア市場から中国を締め出すためにTPPの締結を求めているが、中国はそんな米国を無視するかのような戦略を取りつつある。

その一つは「新しいシルクロード」と呼ばれる経済構想である。中国が基金を創設し、バングラデシュ、タジキスタン、ラオス、モンゴル、ミャンマー、パキスタンなど周辺地域の鉄道やパイプライン、通信網などのインフラ整備を支援し、広大なアジア地域に米国の影響を受けない経済圏をゼロから確立しようというものだ。また陸地だけでなく中国の南から海に乗り出し、インド洋を経てアラビア半島に至る「海のシルクロード」も画策している。第2次大戦後、米国が欧州で復興を援助して影響力を強めたように、中国の新シルクロード経済構想は「中国版マーシャルプラン」とも言われている。

さらに中国、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国が集まってできた上海協力機構は、国際テロや民族問題だけでなく経済面での協力強化も図っているし、中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカによって造られたBRICS開発銀行は、米国の影響を受けない組織として活動を始めている。特に中国は、ロシアと共同で新しい高速鉄道も計画するなど、欧米から経済制裁を受けているロシアとの急接近も著しい。

日本や欧米のメディアが経済の衰えなどを取り上げて中国を過小評価しても、米フォーチュン500社には既に中国企業が73社も入っている。中国とミャンマーを結ぶ原油のパイプラインも開通するなど、中国の「シルクロード構想」は着実に進んでいると言える。ユーラシアでの中国の経済的な存在感が強まる一方で、米国の行動で目立つのはアフガニスタン、ウクライナなど、武力攻撃だけである。

OECDによると世界の中間層は、アジア太平洋地区は2009年には18%だったが、2030年には66%に増え、一方で北米と欧州は2009年の54%から2030年には21%へ減少するという。安倍内閣の米国追随と中国への姿勢が変わらない限り、日中関係は疎遠となる。「世界の市場」中国へのアクセスも難しくなれば、アジアにありながら日本は、米国のように貧困層が拡大する国となっていくのであろう。