No.535 飛行機に乗らない理由

私は日本の国内出張では極力飛行機に乗らないようにしています。なぜ私が飛行機に乗らないのか、その理由について説明したいと思います。

飛行機に乗らない理由

住まいは京都だが、経営する会社の本社は東京、さらに全国十一カ所に営業所があるため、毎月のように北から南まで全国を移動している。
しかし私は、例えば京都から北海道へ行く場合でも飛行機は使わず、トワイライトエクスプレスを利用する。車中にパソコンを持ち込んでゆったりと仕事もできる快適な旅だが、これは私が鉄道マニアだからというわけではなく、飛行機に乗りたくない、ただそれだけである。

米軍が領空支配

なぜ乗りたくないか。それは日本の空が安全とはとてもいえないからだ。以前は国内の長距離移動に飛行機を利用していた私が完全に鉄道派になったのは、アメリカのチャルマーズ・ジョンソン氏の論文を読んだことがきっかけである。
日本研究者のジョンソン氏は「日本政策研究所」の所長で、日本でも一昨年『アメリカ帝国への報復』を出版しているし、このOur Worldシリーズでも何度も記事を紹介しているのでご存知の方も多いのではないかと思う。
氏はその著書で、アジアで展開されているアメリカの「帝国主義」が「アメリカの国益を損なう」結果をもたらすだろうと述べると同時に、アメリカ人でありながら日本国内の米軍基地反対派の意見をくみ取って紹介し、日本からの基地撤退を説いている。ジョンソン氏の論文には次のように記されている。
日本における米軍基地の75%が集中している沖縄で、その領空を支配しているのは米軍である。そして日本人にはあまり知らされていないが、この空域の安全を監視する米軍兵士は過重労働、貧弱な機器と訓練不足、安全規則の不徹底という極めて危険な状態にあるという。
さらに日米地位協定によって、米軍パイロットは日本の航空法を順守する義務すらない。第二次世界大戦の勝利の遺産を盾に日本に基地を置き、以来ずっと米国主導の政策を日本に押し付けてきたアメリカ。米軍支配の危険な日本の空という現象もその一つの結果に過ぎないのかもしれない。
しかし、自由に飛び回る米軍機を避けながら飛ぶ民間機を想像したとき、私はどうしても飛行機に乗る気にはなれない。

日本はどこも同じ?

もちろんそれは沖縄だけではない。北海道と羽田空港を結ぶ航路は、三沢基地から日本海へ米軍機が横断し、東京近郊にも基地は数多くあるため、日本国中どこも同じように危険なはずである。
空の旅が危険なのは日本に限ったことではない。九月十一日以降、私はまだ一度もアメリカへ里帰りをしていない。アメリカでは今、景気回復に協力しようと、大統領が国を挙げて国民に飛行機を利用するよう奨励しているという。テロとの戦争を宣言しつつ、その一方で平時を装い空の旅にお金を使えと国民に説く国家リーダーも珍しいだろう。
九月十一日の事件は確かにアメリカの航空業界の困窮に追い討ちをかけたかもしれないが、アメリカではずっと以前から航空自由化による競争激化で、多くの航空会社が倒産に追い込まれていた。従って、九月十一日の事件そのものが飛行機離れや経営危機の根本的原因になったとは考えにくい。
競争激化は運賃値下げにつながり、航空券の実勢価格はどんどん下がっていった。それでも利益を出していたのは定価で航空券を買うビジネス旅客からの収入があったからだ。しかし、そのビジネスマンでさえ、アメリカ経済の後退により出張が減り、また技術革新によってビデオ会議などで済ませることも可能になったために、旅客数はさらに減少していった。
九月十一日の事件の後は、米航空各社は軒並み大量の人員削減を発表し、政府の無償援助や貸付債務保証などを定めた航空救済法が成立したほどアメリカの航空業界は困窮している。そして、人員削減の安全体制への影響を懸念していた矢先にまた事故が起きた。

安全性は後回しに

この七月、ドイツ南部で貨物機と旅客機が空中衝突して墜落し、事故発生当初はロシア機パイロットのミスだとされたが、旅客機のシステムが「上昇」の指示を出したのにスイスの管制官が衝突を回避するために「降下」の指示を出し、判断に迷った機長が管制官の降下指示に従い急降下して貨物機と衝突に至ったということが事故調査によって明らかになった。
スイスの管制官はなぜ誤った指示を出したのか、ことの詳細はわからないが、一つ確かなことは、民営化とこの大惨事が結びついているということである。
事故調査委員会の調べで、スイスの管制塔ではもう一人の管制官は休憩をとっており、管制官はたった一人で五機を監視しながら、二機と同時に無線通信を行っていたという。さらに保守のために管制塔の警告スイッチが切れていたこと、電話回線さえきちんとつながっていなかったなど空恐ろしい状況が次々と発覚した。
民営化によって航空管制が民間企業の手に渡り、経営効率やコスト削減が重視された結果、一番大切な安全性が後回しになった結果が今回の衝突事故である。今後も民営化や規制緩和が進めば飛行機はますます危険な乗り物になっていくことは間違いないだろう。