No. 1039 租税回避行為

米コンサルティング会社が5月に発表した調査リポートによれば、億万長者とされる世帯は世界全体の1%、そしてその世帯が世界の39%の資産を握っているという。その一方で、国連の研究機関である世界開発経済研究所は、最も貧しい下位から50%の人々の持つ資産は、世界中合わせてもわずか1%にしかならないという。

世界のGDPの合計は約70兆ドルなのに、全世界の債務の合計は190兆ドルにものぼる。これは世の中の金融制度がシステム的に借金に基づいて成り立っているためだ。日本に流通するお金の約9割は民間銀行が「貸付」によって作り出し、この部分準備銀行制度のもとで銀行は預金者から預かっているお金の100倍以上を貸し出すことができる。つまり持っていないお金を貸し出し、利子を取ることができるのだ。そしてこの金融制度によって、なおさら富が個人や政府から一握りの億万長者に渡るようになっている。

多くの富を手中にした上位1%は、それを使って天然資源や食料を買い占め、企業を合併吸収する。さらには政府をも買収して弱者を保護する規制をとりはらい、国有だったものを民営化し、企業がとる行動を規制されることがないよう法律を変えさせるのである。

アメリカの上院は去る5月、米企業による海外への資産移転を通した課税回避の実態を調査した結果、情報家電メーカーのアップルが税金支払いを回避するためにアイルランドの子会社に数十億ドルの利益を蓄えていたと結論付けた。同社は2012年だけでも90億ドル(約9千億円)の米連邦法人税の支払いを回避した可能性があるという。アイルランドは経済政策の一環として多国籍企業を誘致するため法人税を低率に設定する優遇税制措置を長年講じており、アップルはそれを利用したにすぎない。

アップルだけではなく、インターネット検索大手グーグルもバミューダ諸島などの租税回避地を使い、イギリスでほとんど法人税を納めていないと批判されているし、コーヒー店チェーン、スターバックスコーヒーは法人税が高いイギリスでの利益を法人税の安い国に移し、そのためイギリスで過去3年間、法人税をまったく納めていないとしてネット上で不買運動の署名が広がる騒ぎにもなった。アマゾンも法人税の高い国で経費を計上し、法人税の低い国で所得を申告する租税回避行為をとっているという。

08年の世界金融危機以降、欧米各国は財政赤字が膨らみ、どの国も社会保障費など歳出削減に励んでいる。財政が悪化しているなら、まずすべきことは企業が租税回避をできないよう法律を変えることだと思うのだが政治家はそれをしない。なぜなら政治献金をくれるのはそれら大企業だからだ。そしてしわよせを受けるのは福祉を削られ、または消費税や付加価値税の増税など、一般国民であるのはどの国も同じである。

企業が国や国民を裏切って租税回避行為を行うのは、経営者自身、そして株主の利益のためである。強い者は弱者を搾取し、さらに富を蓄え、権力を手にしていく。こうしてますます世界中で貧富の格差が広がっていくのだ。