No. 1194 原子力開発、世界と日本

不適切会計問題などから経営危機に陥っている東芝だが、発端はアメリカの巨大原子力メーカー、ウェスチングハウス(WH)を傘下に置いたことであった。

東芝は世界で原子力エネルギーの需要が増えるとして2006年、WHを約6,000億円で買収し、積極的な海外展開を進めた。しかし2011年、東日本大震災を機に世界各国で原発からの撤退または計画が凍結された。原発輸出を成長戦略の柱とする安倍首相がトップセールスマンとしてトルコやサウジアラビアなどを訪問し受注獲得に励んだが、世界の趨勢は原発撤退に転換したのである。

アメリカの電力自由化などで原発の採算が悪化していたWHを2006年に東芝が買った背景には、経済産業省が「原子力立国計画」を国のエネルギー戦略として打ち立てたことがある。経産省はエネルギー白書で、「原子力は、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーであることに加え、少ない量で発電が可能であることや備蓄が容易なこと、燃料を一度装荷すると3~4年間は利用できること等から、エネルギーの供給安定性にも優れている。我が国は、安全確保を大前提に、エネルギー安全保障の確立と地球温暖化問題を一体的に解決する要となる原子力発電を基幹電源として推進し、『原子力立国』を目指す」としたのだ。

原発は政府が公的資金を投入しなければ成り立たない、採算のとれない発電方式である。加えて放射性廃棄物の処理費や廃炉費などを考えればさらにコストは上がる。しかし日本政府は原子力発電を増やし、使用済燃料を再処理し、プルトニウムを有効利用する核燃料サイクルの推進、高速増殖炉の商業ベースでの導入、というように国が原子力産業を後押ししていくプランを策定していた。

福島の事故以後、ドイツは2022年までに原発全廃を宣言し、原子炉メーカー、シーメンスは原発事業からの撤退を表明した。スイス、イタリア、ベルギー、オーストリアなどヨーロッパ各国で原発撤退が進んでいる。電力の76%を原発に依存するフランスでさえ、2025年までに原発依存度を50%にまで下げる法律を採択した。アジアではベトナムが原発の建設を撤回し、台湾は2025年までに原発をすべて廃炉にすると決めた。この世界の流れの中、そして福島原発事故の収束の見通しもなく、いまだに10万人以上が避難生活を余儀なくされている中で原発再稼働強行を続けているのが日本なのだ。

俳優で元・参議院議員の中村敦夫氏は以前から環境問題に関わっていたが、朗読劇「線量計が鳴る」で全国を回られている。朗読劇は中村氏が元・原発技師だった老人の独白として、原発の歴史、チェルノブイリ事故の事実、そして今も原発が動き続ける理由を一人で語るというもので、10月には私の住む京都で開催される。私も実行委員として参加しているので、多くの方に中村氏の朗読を聞いて欲しい。世界が風力や太陽光などの自然エネルギーへの投資に向かう中、原発事故の当事者である日本が原発に固執し続けることはあまりにも悲しい。