2019年も1カ月が過ぎたが、昨年を振り返ると世界の国々ではさまざまな問題が進行中である。
顕著なのはフランスで起きているイエローベストによるデモだ。これは労働組合や政党ではなく、一般市民である運転手らが、マクロン大統領が燃料税を引き上げようとしたことに対して始まった。
フランスでは、車が路上で故障して車外に降りる際に目立つよう、車に黄色いベストの装備が義務付けられている。
EU内ではモノやサービスの自由移動が認められているため、トラック運転手は厳しい競争を強いられ、賃金格差のあるEU内で燃料費が上がれば運転手にとっては賃下げにつながる。仏政府は2040年までに国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止するとも発表しており、これに対して運転手が黄色いベストを着て立ち上がったのである。
その後デモにはフランス大都市郊外や農村出身で工場や介護、事務職種などで働きながらも低賃金で生計を維持するのに苦戦している人々が加わった。マクロン大統領はじめフランスのエリート階級への怒りがイエローベストなのだ。「米国第一」というトランプ大統領を当選させた米国の一般庶民層とも似ている。またイギリスのEU離脱「ブレグジット」を支持した人々の主張も、EU諸国よりも自分の生活を第一にというものである。
これらが示しているのは、グローバル競争の中で、職を失ったり生活に困窮する人の数が世界中で増えたことである。富裕層や大企業を優遇してきた政策への抵抗であり、地球温暖化という「グローバル」な問題のための燃料税よりも、生活のためにより多くの賃金をという叫びである。そこには移民や難民という問題もからみ合い、ナショナリズムの台頭した1930年代の世界情勢と対比する評論家もいる。
なぜ世界がこのような状況に陥ったのか。それは過去にないほど広がった貧富の格差にある。貧困を支援する国際団体オックスファムによれば、2017年に世界で新たに生み出された富の82%を世界の最も豊かな1%が手にし、片や世界の貧しい側半分の37億人が手にした富の割合は1%未満だったという。現在のグローバル化された経済は、すでに多くの資産を持つ者しか豊かにならない仕組みになっている。株主や経営層だけが富を手にし、労働者の賃金水準や労働環境は改善されないにもかかわらず、各国の政府は富の不平等を助長する政策を採用する。日本でいえば消費税増税だ。
日本で生活保護を受けている65歳以上の高齢者世帯は昨年88万世帯と過去最多となり、生活保護受給世帯は全体で約164万世帯、受給者数は約210万人にも上る。ヨーロッパでは富裕税軽減批判や庶民の家計改善策を求めるデモが起きても、日本では消費税増税反対デモすら起きていない。消費税率が3%から5%になってからデフレの日本はさらに経済が悪化したが、国民の無関心とあきらめによって世界の流れにも乗らず、このまま沈んでいく運命なのであろうか。