マイケル・ハドソンのインタビュー …
… 新しく創刊されたドイツの雑誌 “ViER”
2022年8月に創刊されるドイツの新雑誌「ViER」のインタビューから引用。ViER(FOUR)は、牽制し合う第4の権力としてのメディアを意味する。
1 ハドソン教授の新刊『文明の運命』(The Destiny of Civilization)(2022年)が発売された。金融資本主義と新冷戦に関するこのレクチャーシリーズでは、あなたのユニークな地政学的視点の概要を紹介している。あなたはアメリカのような金融化され脱工業化された国と、中国やロシアの混合経済との間で進行中のイデオロギー的・物質的な対立について論じている。この対立は何なのか、そしてなぜ今、世界は著書にあるような独特の「分断点」にあるのだろうか?
今日のグローバルな分断は、世界を2つの異なる経済哲学で分割している。米国/NATO西側諸国では金融資本主義が経済を脱工業化し、製造業の主導権をユーラシアに移行させている。特に中国、インド、その他のアジア諸国へであり、基礎原材料と武器を提供するロシアと連携している。
これらの国は基本的に産業資本主義が社会主義に進化した延長線上にある。つまり、政府が強力なインフラ投資を行い、教育、医療、交通、その他の基本的ニーズを公共事業として扱い、これらのニーズに対して補助金や無料サービスを提供する混合経済へと発展しているのである。
これに対し、新自由主義的な米国/NATO西側諸国では、この基本的なインフラは民営化され、家賃を搾取する自然独占となっている。
その結果、米国/NATO西側諸国は高コスト経済となり、住宅、教育、医療費は負債で賄われるようになり、新しい生産手段(資本形成)に投資できる個人と企業の収入はますます少なくなっている。これが欧米の金融資本主義に存亡の危機を突きつけている。脱工業化、負債デフレ、金融化されたレント・シーキング(利潤追求)が1%をとませるために99%を貧困化させる中で、どうやって生活水準を維持できるのだろうか?
米国の第一の狙いは、ヨーロッパや日本がユーラシアやBRICSよりも世界の分断についてより有効な考え方をする上海協力機構(SCO)との貿易・投資関係の緊密化によって、より豊かな未来を求めることを抑止することである。ヨーロッパと日本を衛星経済国として維持するために、米国の外交官は、東西間の貿易を遮断するための制裁という、新たな経済的ベルリンの壁を主張しているのだ。
何十年もの間、米国の外交政策はヨーロッパと日本の内政に干渉し、新自由主義的を擁護する役人が政府の指導者になるよう支援してきた。これらの政府関係者は、自分たちの運命が(そして個人的な政治的運命も)米国の指導力と密接に結びついていると感じている。一方ヨーロッパの政治はいま、基本的に米国が運営するNATOの政治になっている。
問題は、中南米、アフリカ、多くのアジア諸国といった「グローバルサウス」の国々をいかにして米国/NATOの軌道にいれるかだ。対露制裁はこれらの国々が輸入しなければならない石油、ガス、食料価格(多くの金属価格も)を急激に上昇させ、貿易収支を悪化させる。一方、米国の金利上昇は、金融貯蓄と銀行の信用をドル建て証券に引き寄せている。このためドルの為替レートが上昇し、SCOやグローバルサウス諸国が今年返済期限を迎えるドル建て債務の支払いを非常に困難にしている。
このためこれらの国々は選択を迫られる。外国債権者に支払うためにエネルギーと食料を断つか、つまり国際金融の利益を優先させ、国内経済の存続を脅かすか、またはメキシコが1982年に外国債保有者への支払いができないと発表した後、1980年代に起きたように債務不履行に陥るかである。
2 ウクライナで進行中の戦争/特別軍事作戦をどのように見ているか?どのような経済的影響が予想されるのか?
ロシアはロシア語圏の東ウクライナとその南部の黒海沿岸を手に入れた。NATOは妨害工作と、特にポーランドの戦闘員による新たな継続的攻撃によって、熊をつつく」のを続けるだろう。
NATO諸国は古くて時代遅れの武器をウクライナに送ったため、膨大な費用をかけて軍備を近代化しなければならない。米国の軍産複合体への支払いによってユーロと英国ポンドに下落圧力がかかり、その上、自国のエネルギーと食糧の赤字は増加する。つまり、ユーロと英国通貨はドルと同等に下がっている。ユーロは現在、ほぼ1.07ドルに達している。これは欧州の物価上昇率の急上昇を意味する。
新しい制裁について私は相反する情報を読んだり聞いたりしている。東西の専門家の中には、制裁がロシア連邦の国家経済に多大な損害を与えると考える人もいる。他の専門家は、これが裏目に出るか、西側諸国に実に大きなブーメラン効果をもたらすと考えている。
米国の最優先政策は中国と戦うことであり、西ウイグル地域を分断し、中国を小さな国家に分割することを望んでいる。そのためには、ロシアの中国への軍事的・原材料的支援を断ち切る必要があり、やがて中国をいくつかの小国家(西部の大都市、北部のシベリア、南部の側面など)に分割する必要がある。
制裁はロシア人の生活環境を悪化させ、彼らが政権交代を求めるようになることを期待して行われた。ウクライナにおけるNATOの攻撃はロシアを軍事的に消耗させるために行われた。ウクライナ人が、ロシアの武器を吸収するためだけに命を捧げ、ロシアの弾丸と爆弾の供給を枯渇させるためだ。
結果はプーチンに対するロシアの支持を高めることになった。意図したことと正反対である。欧米に対する幻滅が高まっているのだ。米国がエリツィンを支援し、石油、ニッケル、公共事業の株を西側に売って民営化を「現金化」しようとし、グルジアとチェチェンからの軍事攻撃に拍車をかけた国内クレプトクラット層を作り上げたとき、ハーバードボーイズが何をロシアにしたのかを見たからである。ロシアが西方ではなく東方への長期的な転換を図っている、というのが一般的な認識である。
つまり、米国のロシアに対する制裁と軍事的対抗措置の効果は、欧州を米国への依存という政治的・経済的鉄のカーテンに閉じ込め、ロシアを中国と引き離すのではなく、引き合わせることであった。一方、ロシアの石油と食糧に対する欧州の制裁のコストは、米国のLNGガス供給業者や農産物輸出業者にとって大きな利益となる一方で、米国の一極集中的な世界戦略に対する欧州の長期的な反発を生み出す恐れがある。新たな「アメリカは帰れ」運動が展開される可能性がある。
しかし、欧州にとってダメージはすでに大きく、欧州の政府高官が米国の干渉によってもたらされる賄賂や個人的圧力に耐えられるとロシアも中国も信じていないようである。
ここドイツでは、新経済大臣である緑の党のRobert Habeck氏の話を聞いているが、彼は連邦政府の「緊急ガス」条項を発動し、エミレーツに資源を求めると言っている(この「取引」はすでに失敗したようだと、ニュースソースは伝えている)。ノルド・ストリーム IIの終了と、ベルリンとブリュッセルのロシア資源への大きな依存が予想される。結局のところ、どうなるのだろうか?
事実上、米国政府はドイツに経済的自殺を図り、不況、消費者物価の上昇、生活水準の低下をもたらすように要請したのだ。ドイツが貿易と金融の制裁を受け入れ、ロシアのガス(ほとんどの肥料の原料)を買えなくしたため、ドイツの化学会社はすでに肥料生産を停止し始めている。そして、ドイツの自動車会社は供給停止に悩まされている。
このようなヨーロッパの経済的な不足は、米国にとって大きな利益となる。米国は、より高価な石油で莫大な利益を得ている(石油は主に米国企業によって支配され、次いで英国、フランスの石油会社が支配している)。欧州がウクライナに寄贈した武器を補充することも米国の軍産複合体にとっては利益高騰の恩恵である。
しかし、米国はこうした経済的利益を欧州に還元しておらず、欧州は大きな損失を被っているようだ。
アラブの石油生産者はすでに、石油価格を引き下げるという米国の要求を拒否した。彼らは、ウクライナの代理戦争場に対するNATOの攻撃によるタナボタで大きな利益を得ているようだ。
ドイツは、ロシアのノルド・ストリーム2や、ドイツと取引してきたガスプロムの関連会社に簡単に戻ることはできそうもない。信頼は失われた。そしてロシアは、3000億ドルの外貨準備を盗まれたのでヨーロッパの銀行による支払いを受け入れることを恐れている。ロシアにとって欧州はもはや経済的に安全な場所ではない。
問題は、ロシアがいつごろ欧州への供給を完全に停止するかである。
欧州は米国経済の付属品になりつつあるようだ。米国に政治的代表権はないのに、事実上米国の冷戦の財政負担を負っている。論理的な解決策は、ヨーロッパが政治的に米国に参加することであり、政府はあきらめても、少なくとも米国の上院と下院に数人のヨーロッパ人を入れることである。
3 あなたの最近の研究では、現在のロシアとウクライナの戦争は(a)新冷戦と(b)新自由主義金融資本主義のどちらの役割を担っているのだろうか?
ウクライナにおける米国/NATOの戦争は、ドル圏の西側をユーラシアとグローバルサウスから孤立させようとする20年にわたる試みの最初の戦いであるように見える。米国の政治家は、ウクライナ戦争がロシアの「新しいアフガニスタン」になることを期待し、ウクライナ戦争を無期限に継続させることを約束している。しかしこの戦術は、今や米国自身の新しいアフガニスタンになる恐れがあるように見える。これは代理戦争であり、その効果はユーロをドルの衛星通貨とする顧客寡頭制として、ヨーロッパの米国への依存を固定化することなのだ。
米国は、3つの大きな方法でロシアを無力化しようとしてきた。まず、SWIFTの銀行決済システムから遮断することでロシアを経済的に孤立させる。ロシアはこれに対し、中国の銀行決済システムにスムーズに移行した。
2つ目の戦術は、米国の銀行にあるロシアの預金と米国の金融証券を差し押さえることだった。これに対してロシアは、欧米が投棄した米国や欧州の対ロ投資を安く買い上げることで対抗した。
3つ目の戦術はNATO加盟国がロシアと取引するのを妨害することだった。その結果、ロシアは欧米からの輸入が減少し、石油、ガス、食料の輸出が急増した。そのためルーブルの為替レートは下がるどころか上がっている。 そして制裁によって西側からの輸入がストップする中、プーチン大統領は輸入代替に多額の投資を行うことを表明した。その影響で、欧州のサプライヤーや輸出業者はロシア市場を永久に失うことになるだろう。
一方、欧州の対米輸出に対するトランプ関税は依然として適用されており、欧州の産業界はビジネスチャンスを縮小させられている。欧州中央銀行は、1%の富を守るために欧州の株式や債券を買い続けるかもしれない。しかし、ユーロ圏が自らに課している財政赤字の3%制限を遵守するために何かを削減するとしたら、それは国内の社会支出になるだろう。
中長期的には米国とNATOの制裁は主に欧州にむけられている。そして欧州人は、エネルギー、食糧、金融の利己的な支配をめぐるこの新しい米国の経済戦争の主要な犠牲者であることに気づいていないようだ。
4 ドイツでは、阻止されたエネルギープロジェクト、ノルド・ストリームIIが依然として大きな政治問題になっている。最近のオンライン記事「ドルがユーロを食い荒らす」{1}で、あなたは「今日の新冷戦の激化は、1年以上前から計画されていたことが明らかになった。米国がノルド・ストリームII を阻止しようとしたのは、西ヨーロッパ(NATO)が中国やロシアとの相互貿易・投資によって繁栄を求めるのを阻止する戦略の一環だった」と書いている。これを読者に説明していただけないだろうか?
「ノルド・ストリーム2を阻止する」と言っているのは、実際には「バイ・アメリカン」政策である。米国は欧州に対し、最安値の市場で購入するのではなく、米国のLNG供給業者から7倍もの価格を支払ってガスを購入し、港湾設備の拡張に50億ドルを費やすよう説得している–それも数年間は利用できないだろう。
このことは、米国の命令に従うことでドイツや他の欧州諸国に非常に居心地の悪い停滞期をもたらす恐れがある。基本的に各国の議会は現在NATOに従属しており、その政策はワシントンによって運営されている。
ヨーロッパが支払う代償の一つは、前述の通り、対米ドルの為替レートの下落である。欧州の投資家は、キャピタルゲインを最大化するため、また単純にドル建てで測定した株式や債券の価格下落を避けるために、欧州から米国に貯蓄や投資を移動させる可能性がある。
5 ハドソン教授、ドイツのさらなる動きを見てみよう。5月、ドイツ議会(連邦議会)は新しい法案を可決した。ドイツの国会議員は、エネルギー会社の収用が可能になることを承認した。これにより、エネルギー会社がその使命を果たせなくなった場合や、電力供給の安全が脅かされる場合、ベルリン政府はエネルギー会社を管財人の下に置くことができるようになる。ロイター通信によると、シュヴェート/オーデル(東ドイツ)にあるPCKリファイナリー製油所(ロシア国営企業のロスネフチが過半数を所有する)の所有権に関して解決策が見つからない場合、この新しい法律(まだ上院を通過する必要がある)が初めて適用される可能性があるという。
欧米はロシアの自国への投資を没収するようであり、NATO諸国がロシアに投資しているものを売却する(あるいはロシアに没収させる)だろう。これはロシア経済が西側から切り離され、中国との結びつきが強まることを意味する。中国は、中国海での対立でヨーロッパを巻き込んだ東太平洋条約機構となり、NATOによって制裁される次の経済圏となりそうである。
ヨーロッパ(そして米国)が押収したものを弁償することなく、ロシアがヨーロッパへの石油とガスの販売を再開したら、私は驚くだろう。そのため、米国が取り上げた3000億ドルの外貨準備高を返還するよう、欧州の圧力がかかるだろう。
しかし、このようなギブバックと賠償の決着がついたとしても、貿易が再開されることはなさそうである。米国の同盟国、敵国を問わない外交攻撃のもとで、世界がどのように分裂しているかという意識に変化が起きているのだ。
私の質問は、次のようなものになる。新著{2}では社会主義が大きなトピックになっているが、ドイツのような資本主義国が現在とっている「社会主義」的な措置について、どのようにみているのか?
一世紀前、産業資本主義の「最終段階」として社会主義が期待された。国家社会主義、マルクス主義社会主義、キリスト教社会主義、無政府主義社会主義、リバタリアン社会主義など、さまざまな種類の社会主義があった。しかし、第一次世界大戦後に起こったことは、社会主義のアンチテーゼであった。それは金融資本主義、軍国主義化された金融資本主義だった。
政治スペクトルの右から左まで、すべての社会主義運動に共通するのは、政府のインフラ支出の強化だった。社会主義への移行は(米国とドイツでは)産業資本主義自身によって主導され、基本インフラへの政府投資によって生活コスト(したがって基本生活賃金)と事業コストを最小化しようとするもので、そのサービスは自由に、あるいは少なくとも補助金付きの価格で提供されるべきものであった。
その目的は、基本的なサービスが独占的なレントの機会になることを防ぐことである。 そのアンチテーゼが、サッチャー・新自由主義者の民営化論である。政府は公共事業を民間投資家に譲渡した。企業は信用で買収され、利益と経営陣への支払いに金利やその他の金融費用が上乗せされた。その結果、新自由主義の欧州と米国は高コスト経済となり、金融化された新自由主義ではなく社会主義政策を追求する国々と生産価格で競争できなくなったのである。
この経済システムの対立が、今日の世界的なグローバル・フラクチャーを理解するための鍵である。
6 特に、ロシアの石油とガスが今注目されている。モスクワはルーブルでの支払いしか要求せず、中国、インド、サウジアラビアと、買い手のフィールドを広げつつある。しかし欧米のバイヤーはユーロや米ドルで支払うことができるようだ。この資源戦争について、どう思うか?ルーブルが勝ち組に見える。
ルーブルは確かに上昇している。しかし制裁によってサプライチェーンの円滑な運用に必要な自国の輸入が妨げられ、経済が混乱した場合、ロシアが「勝者」になるわけではない。
もしロシアが産業の輸入代替プログラムを実施し、1990年代に米国の指導の下でハーバード・ボーイズによって民営化されたものに代わる公共インフラを再創造することができれば、その時に勝者となるだろう。
BRICSと上海協力機構(SCO)の強化に伴い、ペトロダラーの終焉と東アジアにおける新たな金融アーキテクチャの台頭が見られるだろうか?
ペトロダラーはまだ存在するが、世界の国際貿易・投資体制の脱ドル化に伴い、様々な通貨圏のブロックが存在することになる。5月下旬、ラブロフ外相は、サウジアラビアとアルゼンチンがBRICSへの加盟を希望していると述べた。ペペ・エスコバルが最近指摘したように、BRICS+はメルコスールや南アフリカ開発共同体(SADC)にも拡大する可能性がある。
これらの取り決めは、おそらくIMFに代わる、米国を除く機関を必要とし、非NATO国の信用を創出し、公的外貨準備の手段を提供するものである。IMFは、米国の衛星国に緊縮財政を押し付ける一方で、グローバルサウス諸国からの資本逃避を助成し、米国の海外での軍事支出を賄うためにSDRを創設するために存続することになる。
2022 年の夏は、南半球の国々が、石油や食糧の赤字の増大と、外貨建て債務を抱えることによる国内通貨コストの上昇から、収支の危機に見舞われる試金石となることだろう。IMF は、南米諸国が米ドル建ての債券保有者に支払うために新たな SDR を提供し、支払能力があるかのような幻想を抱かせるかもしれない。しかし、SCO諸国は石油と食料を提供することができるが、それは各国が西側に対するドル債務を否認することによって信用を返済することを保証してくれた場合だ。
この金融外交は「面白い時代」の到来を約束するものである。
7 最近のあなたとマイケル・ウェルチとのインタビュー{3}では、現在のウクライナ/ロシアでの出来事について、「戦争はロシアに対してではなく、ウクライナに対してでもない。戦争はヨーロッパとドイツに対するものだ」 と具体的な分析をしているが、それについて、もう少し詳しく説明してほしい。
先に説明したように、米国の貿易・金融制裁は、ドイツを米国のLNG輸出と、NATOを事実上の欧州統治機構に格上げするために米軍兵器購入に依存させるものである。
その効果は、ロシアとの相互の貿易と投資で利益を得たいというヨーロッパの希望を破壊することである。保護主義的・民族主義的になっていく米国との新しい貿易・投資関係において、ジュニアパートナー(非常に後輩)にさせられているのである。
8 米国の真の問題はここにあるようだ。”自国で生み出せない繁栄を維持するためには、海外から調達するしかない”。そこでワシントンはどのような戦略をとっているのだろうか。
拙著『超帝国主義』(1972年)は、米国が1971年8月に金本位制を脱却して以来、過去50年間、米国債本位制によって、米国が外国の費用でタダ乗りしてきたことを説明した。海外の中央銀行は、米国の国際収支赤字から流入するドルを米国財務省への融資、つまり貯蓄を保有するための米国財務省証券の購入に再利用してきたのである。このような仕組みにより、米国はユーラシア大陸に800近くある軍事基地のために、ドル安や自国民への課税をすることなく、対外軍事支出を行うことができるのである。その代償は、中央銀行が米国債へのドル融資を積み上げた国々が負担してきた。
しかし、今や、各国が自国の経済的利益を守るために「脅す」場合、あるいは米国の外交官が指示する政策から乖離する場合、ドル建ての米国の銀行預金や国債、投資を保有することは安全ではなくなってしまった。では米国はどうしてタダ乗りし続けられるのだろう?
実際、制裁によって破壊されつつある産業・経済のサプライチェーンの一部を埋めるために、どうやってロシアから基礎資材を輸入することができるだろうか?
それが米国外交の課題である。いずれにせよ、ヨーロッパに課税し、他の国々を経済衛星にすることを狙っている。その搾取は、米国がベネズエラ、アフガニスタン、ロシアの公的埋蔵量を手に入れるほど露骨なものではないかもしれない。他国の自給率を低下させ、他国を経済的に米国に依存させることで、米国外交官が望むことよりも自国の国益を優先させようとする国々を、破壊的な制裁で脅すことができるようにするためである可能性もある。
9 これらすべてが西ヨーロッパ(ドイツ、フランス、イタリア)の国際収支、ひいてはユーロの対ドル為替レートにどのような影響を与えるのだろうか? また、なぜEUは新しい「パナマ、プエルトリコ、リベリア」になる道を歩んでいると思うか?
ユーロはすでに米国の衛星通貨である。米国による制裁とそれに伴う世界的な崩壊によって起こるインフレ不況に対処するために、加盟国は国内財政赤字を出すことができない。
カギとなるのは軍事的依存関係であることがわかっている。これは、米国が主導する「冷戦2.0」の「コストシェアリング」である。 このコストシェアリングによって、米国の外交官は、ヨーロッパの人々と企業が自分たちの利益のために行動するのを防ぐために、ヨーロッパの国内政治をコントロールする必要があることに気づいたのである。彼らの経済的圧迫は、今日の新冷戦の「巻き添え被害」である。
10 スイスの哲学者が3月中旬、ドイツ民主共和国政府の報道機関であったドイツの社会主義新聞『Neues Deutschland』に批判的なエッセイ{4}を寄稿した。トーベ・ソイランド女史は、ウクライナ危機と牛耳りに関する国際左翼の現在の行動を批判している。左派は権威主義的な政府・国家を支持するあまり、伝統的な右派政党の手法を模倣している、と。あなたはこの意見に賛成?それとも、厳しすぎるだろうか?
この質問、特に新著の論文について、どのように答えるのか?とくに、「代替案は、社会主義につながる広範な混合経済産業資本主義である。」について。
国務省とCIAの「強大なウーリッツァー」は、アメリカ中心の金融資本主義に対する大きな脅威は社会主義であると予想し、ヨーロッパの社会民主党と労働党を支配下に置くことに注力してきた。その中には「グリーン」政党も含まれている。地球温暖化に反対するという彼らの口実が、ウクライナでのNATO軍事戦争とそれに関連する空軍と海軍の演習による膨大な二酸化炭素排出量と汚染に照らして偽善であることが示されるほどである。環境保護と戦争支持を同時に行うことはできないのだ。
このため、右派民族主義政党は、米国の政治的干渉の影響をあまり受けなくなった。フランスやハンガリーのように、NATOに反対する人たちはそこから生まれている。
そして米国自身、対ロシア軍事費への300億ドルの新たな拠出に対する反対票は、共和党からしか出ていない。民主党の「左翼部隊」は全員、戦費に賛成したのである。
社民党は基本的にブルジョア政党であり、その支持者はレンティア階級への出世や、少なくとも株式・債券投資家のミニチュアとなることを希望している。その結果、新自由主義がイギリスのトニー・ブレアや他の国々のカウンターパートによって主導されることになった。この政治的な整合性については、『文明の運命』(2022年)の中で述べている。
米国のプロパガンダは、自然独占を公益事業として維持する政府を「独裁的」と呼ぶ。「民主的」であるとは、政府の規制や金融資本への課税から「自由」であり、これらの司令塔の支配権を米国企業に買わせるということである。「左翼」と「右翼」、「民主主義」と「独裁主義」は米国の寡頭政治(これを「民主主義」と婉曲的に表現する)によって作られたオーウェル的ダブルスピーク語彙になっている。
11 ウクライナ戦争は、世界の新しい地政学的地図を示すランドマークとなりうるのか?それとも、新自由主義的な新世界秩序が台頭しているのだろうか?あなたはそれをどう見ているのか?
質問1で説明したように、世界は2つに分断されつつある。その対立は、単に西側と東側の国家的な対立ではなく、経済システムの対立である。ユーラシア大陸とSCOの自給自足を目指す産業社会主義と、略奪的金融資本主義の対立だ。
非同盟国は、1970年代、食糧、エネルギー、原材料を自国内で生産するための最小必要量に欠けていたため、「単独で」行動することができなかった。しかし、米国が自国経済を脱工業化し、生産をアジアにアウトソーシングした今、これらの国々は米国のドル外交に依存し続けないという選択肢を得たのである。
Links:
{1} https://michael-hudson.com/2022/04/the-dollar-devours-the-euro/
{3} https://michael-hudson.com/2022/03/accidental-crisis/
Michael Hudson: Interview with the newly founded German magazine “ViER”