No.1020 TPPは日本略奪ゴール

先月、読売新聞は社説でTPP(環太平洋連携協定)に関し、『このままでは関税撤廃・引き下げや貿易・投資ルール作りを巡り、日本抜きで交渉が進みかねない。日本がルール作りなどに関与し、意見を反映できるかどうかで、国益が左右されるだろう』と早期参加を強く促した。

再選されたオバマ大統領がTPP推進派であることから日本への圧力がさらに強まることは間違いない。しかし読売新聞はよく内容も分からないTPPについてなぜこれほど熱心なのだろう。実際TPPは、多国籍企業600社のロビイストが密室で交渉しており、一般国民はおろか米議員も交渉内容を知ることはできない。インターネットでのリークが唯一の情報源であり、それによれば過去にアメリカが推進した自由貿易協定をさらに改悪したものである。

9月に行われたリースバーグでのTPP交渉協議で、オバマはTPPを中国への攻撃と位置付けているとした。日本の貿易データをみると、日本から中国への輸出額は、日本からアメリカへの輸出額より29%多い。過去10年間の対中輸出額は1・5倍に増えているが、対米輸出は33%減少している。なぜ日本は、縮小している日本の貿易相手国が日本の最大の貿易相手国に対する攻撃だとするような協定に参加する必要があるのだろう。TPPへの参加は日本の輸出を損ねること、つまり日本経済を殺すことにもなりかねないのだ。

TPPは多国間協定ではなく日米二国間協定であり、アメリカのターゲットは日本市場である。参加国のGDPを合計すると日米で全体の91%を占め、日米以外のGDPは9%にしかならない。そしてリークされた情報をみれば、TPPでアメリカが日本に求めていることの一つはISD条項だということは容易に推測できる。ISD条項によって、その国の商習慣を「非関税障壁」として訴えることが可能になるからだ。これは世界市場を同じルールに統一し、多国籍企業が政府より上の支配権を握るということである。

アメリカは農産物などの日本への輸出を増やすだけでなく、日本が持つ多くの特許やさまざまなコンテンツに関する法律、遺伝子組み換え食品などの基準も、すべてアメリカに合わせたいと思っている。医療制度や国民皆保険など、外資が参入できなかった分野も障壁の撤廃を理由にこじ開けようとしている。TPPとは、前川レポートから始まったアメリカによる日本社会の略奪の最終ゴールなのだ。

1日に90兆円もの日本円通貨売買が行われていることからして、資本統制のさらなる自由化による為替の動きで、関税撤廃によるメリットは一瞬に相殺され得る。実体経済を無視した資金の移動がすでに起きている金融世界を、さらに弱肉強食の自由競争に開放するのがこのTPPである。

政治家や企業経営者は、自分の利益だけを考えるのではなく、またアメリカの脅しやメディアに惑わされることなく、日本という国の未来を描いてほしいと思う。