No.132 読者からの指針に関する質問に対する私の回答

「日米防衛協力のための指針」が発表されてから、このメモでは毎週その内容の分析を中心にお送りしてきました。今回は、私の分析を読んだ読者からお寄せいただいた質問と、それに対して私が出した回答をお送りします。同じような質問を持たれた方もいらっしゃると思いますので、是非お読みいただきたいと思います。

読者: 「日米防衛協力のための指針」に関するあなたの分析には大きな展望が欠けている気がする。以下、いくつか質問がある。

まず第一に、防衛手段を持たない国家が主権を維持することができるのであろうか。歴史を見ればわかるように、国家の存続には、その主権と独立を守るための軍隊が必要である。だからこそ、近年、東南アジア諸国ではこれまで達成したものを失わないようにするために、狂ったように兵力を増強しているのである。

回答:上記について以下、何点かにわけて回答したい。

1.  私は日本が防衛をすべきではないとは言っていない。むしろ、日本は自国の防衛を行うべきであると思っている。しかし、その防衛範囲は、領土および領海(日本の沿海部から14マイルまで)に限定すべきである。日本は自衛隊と警察庁を合体し、地球上のすべての国々に次のことを明らかにすべきである。

a) 日本の警察庁は、日本の領土および領海において、いかなる手段を使っても、日本のすべての法律を厳重に執行する。

b) 日本は、日本領土に対して、人、航空機、船舶、ミサイル、その他による不法侵入を認めない。警察庁は、不法侵入を食い止めるために必要とあればいかなる手段をも使う。

c) 日本の警察庁は日本の領海の外では、いかなる行動もとらない。

2.  日米安全保障条約が日本に防衛といえるようなものを提供できるかどうかは、極めて疑わしい。安保条約の中で日本の防衛について述べているのは第5条のみである。以下、その部分を引用する。

「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危機に対処するように行動することを宣言する」

「前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない」

わずかこれだけの記述で、いかなる状況下でも米国が敵の攻撃から日本を守ってくれるものと安心していられるであろうか。

3.  1978年及び1997年の指針では、日本は自国の防衛は自分で責任を持つべきこととなっている。
1978年の指針「I.侵略を未然に防止するための態勢」の項は、次のように述べている。

「1.日本は、その防衛政策として自衛のため必要な範囲内において適切な規模の防衛力を保有するとともに、その最も効果的な運用を確保するための態勢を整備・維持し、また、地位協定に従い、米軍による在日施設・区域の安定的かつ効果的な使用を確保する。また、米国は、核抑止力を保持するとともに、即応部隊を前方展開し、及び来援し得るその他の兵力を保持する」

また、同じ1978年の指針の「II.日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等」の項には次のようにある。

「(1)日本は、原則として、限定的かつ小規模な侵略を独力で排除する。侵略の規模、態様等により独力で排除することが困難な場合には、米国の協力を待って、これを排除する」

「(2)自衛隊及び米軍が日本防衛のための作戦を共同して実施する場合には、双方は、相互に緊密な調整を図り、それぞれの防衛力を適時かつ効果的に運用する」

1997年の新たな指針では、「IV.日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等」の項に次のように記されている。

「2 日本に対する武力攻撃がなされた場合」「(1)整合のとれた共同対処行動のための基本的な考え方」 「(イ)日本は、日本に対する武力攻撃に即応して主体的に行動し、極力早期にこれを排除する。その際、米国は、日本に対して適切に協力する。このような日米協力の在り方は、武力攻撃の規模、態様、事態の推移その他の要素により異なるが、これには、整合のとれた共同の作戦の実施及びそのための準備、事態の拡大を抑制するための措置、警戒監視並びに情報交換についての協力が含まれ得る」

これは、日本が自力で防衛しなければならないことを示している。米国が日本に提供するものは、”米国が適当と考える”支援だけなのである。つまり、米国が支援しないことが米国の国益にとって「適切」ならば、米国は何の支援も提供しないのである。

4.  歴史から私が学んだことは、国家の存続に軍隊が必要だということよりも、むしろ戦いや戦争は利益を全くもたらさないということであり、ジャングルや野蛮な社会から現代の20世紀へと文明が進むにつれて、人々は戦いや戦争をなくそうと努力しているということである。ジャングルや野蛮な社会では、すべての動物や人間が自分で自分の身を守った。初期の社会では、家族、部族、都市が集団で防衛をした。そして家族や部族、都市は、(1)紛争状態にある仲間を保護し、一方で仲間同士で武力を使うことを禁じた。また(2)他の家族や部族、都市との紛争から仲間を守るために共同で防衛にあたった。過去数世紀の間、世界中で国家が誕生し、保障や防衛はさらに集合化していった。それは先と同じように、(1)個々の都市や地域の紛争において仲間を守ると同時に、仲間同士が武力を使うのを禁じ、(2)他の国家との紛争においては国家防衛により国民を保護しようとすることであった。20世紀になって、多くの人間がこのような防衛を全世界に拡大する必要性を認識した。国際連盟や国際連合がその表れで、国家同士の紛争から国家を防衛し、一方で互いに武力行使を行うことを禁じてきた。 米国は国際連盟や国際連合の発足を導いた国であるにもかかわらず、国際連盟を崩壊に導いた張本人であり、また国際連合もないがしろにしている。(1)現在の常任理事国の立場および拒否権の維持を強く主張し、(2)米国の国益に合わない国連の行動すべてに拒否権を発動し、(3)国連が米国の要求に素直に従わない場合には拠出金を滞納し、さらに、(4)軍備競争も主導してきた(米国の国防予算は世界の軍事費の3分の1を占め、第2位の国の3倍以上となっている。世界の武器輸出に占める米国の割合は、過去10年間に倍増し52%にまで増加した)。また、戦争の撲滅に必要な世界の司法制度および警察機能の確立を最も阻んでいるのも米国である。

読者: 第二に、米国が提供してくれるもの、つまり世界の安全保障、そして米国が開放してくれる市場からの恩恵を日本がただで享受しているのも事実ではないだろうか。

回答: 事実ではない。しかし、あなたが米国の教育に洗脳されていることがこの一文に端的に表れている。

1.  『読売新聞社に対する私の投書』 (No.126:9/24/97号)でも述べたとおり、米国政府の利用する対日貿易赤字のデータは事実に基づいていない。米国企業は日本企業が米国で販売しているのとほぼ同額の製品を日本で販売しており、サービス貿易で比較すると米国の超過となる。米国政府は米国企業が米国で製造し日本で販売している製品の金額と、日本企業が日本で製造し米国で販売している製品の金額のみを比較して、対日貿易赤字のデータをでっち上げている。これには米国企業が海外で製造し、日本で販売した製品および日本企業が海外で製造し米国で販売した製品は含まれていない。つまり、利益追求主義により米国企業のほとんどが海外生産していることを考えると、米国が日本で販売している製品のほとんどが米国が使うデータから除外されていることになる。IBM、インテル、ゼロックス、モトローラ、ゼネラル・モーターズ、フォード、クライスラー、コダック、キャタピラー、ゼロックス、3M、コカ・コーラ、プロクター&ギャンブル、ゼネラルフーズ、リーバイス、ナイキ、その他の米国の大会社の日本における売上がほとんど米国が発表する対日貿易赤字の数字には含まれていないのである。

2.  米国が提供する安全保障は、ヤクザや強盗が保護を提供するやり方と同じである。つまり、米国が武力を使うのはそれが国益に適っている時だけであり、自分勝手に好きな時に使用するのである。米国の海外における軍事的野望は国際法に準拠するものでもなければ、それで制限できるものでもない。米国の軍事攻撃の犠牲者は、裁判所にも法律にもその保護を求めることはできないのである。

読者: さらに歴史を辿れば、この地域における米国のプレゼンスがあったからこそ、戦後、日本は共産化せずに済んだ。これはちょっと言い過ぎかもしれないが、ただ乗り論については譲ることはできない。

回答: 米国が日本の共産化を食い止めたということを裏付ける証拠は何か。中国が他の国を侵略したことがあったであろうか。さらに、ソ連が米国の許可なしに他の国を侵略したことがあったであろうか。そしてそのことと、朝鮮半島、ベトナム、カンボジア、ラオス、グレナダ、パナマ、イラクに対して行った米国の侵攻を比較して欲しい。

読者: 日本の繁栄およびアジアの新興経済諸国の繁栄は、自由経済秩序に則った平和的世界に基づいている。日本や繁栄するアジア諸国はこの秩序からの自分達の取り分を正当化できるだけ、世界の平和には貢献していない。

回答: ではあなたは、米国が世界の平和に貢献してきたとでも言うのであろうか。具体的にどのような貢献をしたというのか。核兵器を発明・使用し、1945年以降の世界的な軍拡競争を導いてきたのが米国ではなかったであろうか。共産主義を病的に恐れ、冷戦を開始し、共産主義と平和的に戦うことを躊躇したのも(恐らくその自信がなかったのであろう)米国であり、世界最大の武器輸出国も米国である。日本は自国の問題に従事し、1945年以来他の国を侵略しておらず、また武器の輸出も行っていない。このような日本は、世界平和への貢献度という点で米国より劣っているのだろうか。(日本人の大半が今日受けている教育に注意を向けるべきである。マッカーサーが1945年に日本に押し付けた教育制度で学び、仏教、儒教、道教、古典、アジアの文化、倫理、道徳といったものの教えを受けていない。日本やアジアの文化を侮辱し、逆に米国や現在流行のアングロサクソン流の考えを崇めるような教育である。海外留学者の多くが米国で学び、ヨーロッパ、中国、ロシアなどに留学する学生は数少ない。こうした現状は、マッカーサーが思い描いたとおり、従順で素直な植民地の住人を教育するのには素晴らしい方法であるが、独立国の国民を育てるには適していない。)

読者: 自由経済体制について言えば、アジア諸国は輸出補助で悪名高い。もちろん、市場がなければ、この輸出補助は何の効果もないわけだが。

回答: 先に述べたとおり、米国の対日貿易赤字のデータは間違いである。アジア諸国の輸出補助については調べていない。というのも、米国がでっち上げる偽りのデータのチェックで手一杯で、米国の他の国に対する不公平貿易の言い分が正しいかどうかをチェックしている暇はないからである。

読者: 第三に、日本の生き残り、ひいてはすべての人の生き残りが先ほど述べた秩序に依存している。自由貿易、開かれた市場、集団安全保障はすべての人の繁栄の鍵である。そこで問題は、日本がこの秩序の維持にいかに貢献できるかである。その意味で、米国は明らかに我々の友人である。米国の憲法は人間の自由を確保する上で大きな利点があり、この点には日本国民の大半が恐らく同意するはずである。また善し悪しは別として、利益団体が米国政府に自由貿易を促進するよう影響を与えてきた。(これが必ずしも当てはまらない時もあったかもしれないが、多かれ少なかれこの方向に進んできたことは間違いない。)

回答: 米国のプロパガンダに影響を受けているようである。先に示したように、米国の行動は世界の安全保障を高めるよりも、むしろそれを弱めているのである。また米国の市場は特に開かれてはいないし、自由貿易を実践してもいない。米国は主要な輸出品である農産物や武器に多額の補助金を与え、過剰な保護を行っている。一方米国政府は日本や他の諸国をダンピングで訴え(米国の主張は間違っている場合が多い)、他方で自国の農産物や武器の輸出業者に連邦政府から多額の補助金を与え、米国の輸出業者による海外でのダンピングを可能にさせている。米国政府は武器メーカーの利益を上げるために、何十億ドル(1995年は70億ドル以上)もの輸出補助金を提供している(”The Other Arms Control”, クリスチャン・サイエンス・モニター、6/28/96)。また砂糖農家に対する連邦政府の補助金プログラムは、米国の納税者に30億ドルもの負担を与えているという。同時に、米国政府は農産物や武器輸入を厳しく制限している。輸入割当ては、米国民1人当たりの輸入アイスクリームの消費量をスプーン1杯、ピーナッツを2粒、輸入チーズを500グラムに制限されている。また米国の牛肉に対する輸入割当ては、米国人全体が1年間に購入するハンバーガーの価格を約10億ドルは押し上げている。米国には輸入に対する税金が8,000種類もあり、米国の平均関税率は5%であるが、安物の腕時計は151%、タバコの葉柄は458%、安物の靴に67%という高関税率がかけられている。(”NoWinners in Japanese Trade War”, ジェームス・ボバード、2/16/94)。また、米国が自国の市場を輸入から保護し、略奪的な輸出を行うことでどれほど他の国に被害を与えているかについては、OWメモ『GATTと世界的な自由貿易』(No.26:8/9/95)を参照されたい。

読者: 第四に、米国の覇権勢力は弱まっている。国際関係や国際政治経済の分野の識者であれば誰もがこれを認めるであろう。アジア太平洋地域における米国のプレゼンスは近い将来削減されるといってほぼ間違いない。これが現実となれば、日本はもはや「ただ乗り」を続けることはできず、この地域における繁栄の秩序を維持するために、歴史上初めてリーダーシップをとらなければならなくなる。この時点で中国がこの地域の勢力図に入ってくることは明らかである。ただしこれは単なる予測に過ぎない。この地域において米国から中国に勢力が移行するにはあと数十年は要するであろう。日本はそのちょうど真ん中に位置する。日本は西洋と東洋の文化を兼ね備えており、そのことからこの勢力の転換において前向きな役割を果たすことができるだろうと考える。サミュエル・ハンティングトンは、日本が他の国とは異質な文明を持っていると指摘した。この指摘は恐らく正しいだろう(ただし違った理由で正しいのかもしれない)。

回答: 米国の覇権勢力は衰退しているかもしれないが、もしそうだとしても、米国政府はまだそれを理解していない。ニューパースペクティブ・クオータリー誌のウィリアム・ペリーのインタビュー記事(本メモの最後に掲載)に明らかである(”U.S. Military Leaves Other Powers in Dust”, デイリーヨミウリに転載、7/17/97)。

なぜ日本を「ただ乗り」というのか。日本の市場は米国と同じように開かれている。また、日本は国連に最大の分担金を拠出している(一方の米国は最大の分担金滞納国である)。日本の政府開発援助も世界最大である。それでもあなたは日本をただ乗り国と呼ぶのか。

日本がアジアや世界で果たすべき役割があるという点には私も賛成である。しかし、米国の召し使いでありながら、同時にリーダーシップをとることは不可能である。大半のアジア諸国はアジア版のEUあるいはNAFTA(いずれもアジア諸国の加盟を認めない)を望んでいる。しかし、米国の従僕である日本は、米国が加盟しない限りこうした組織には加盟しないと主張している。そのため、アジアには活気のないAPECしか存在しない。日本は地雷禁止の条約に調印する際にも米国の許可を得なければならなかった。これだけ他の国に卑屈に追随している国がどうしてリーダーシップの役割を果たすことができるだろうか。

また、私は日本が西洋諸国に植民地化されたアジア諸国以上に、西洋と東洋の文化を兼ね備えた国であるとは思わない。日本と他のアジア諸国との主な違いは、他の諸国は19世紀に植民地化され、1945年以降に独立を果たし、徐々に自尊心を取り戻し、ヨーロッパの宗主国の影響を取り除き、自国の文化を復旧させた。それに比べ、日本は1945年にマッカーサー将軍に植民地化され、日本人の心まで植民地化されてしまった。日本は今も米軍に占領され、マッカーサーのマインドコントロールがあまりに効を奏したからか日本人は「イエローバナナ」(自分を西洋人と考えるアジア人のこと)に成り下がってしまった。(マッカーサーがいかに日本人の心を植民地化したかについては、ヘレン・ミアーズ著、『アメリカの鏡』を参照されたい。)

読者: つまり、この新たな指針は、歴史の一般的な傾向という大枠の中で捉えなければならないと私は確信する。これは正しいか間違いか、適切か不適切かの問題なのではないかもしれない。生き長らえるには何をすべきかに関わることなのであろう。国家の外交政策には、何が歴史を動かすかを十分に理解することが先決であると信じる。

回答: 指針を歴史という大枠の中で捉えるべきだという意見には私も賛成である。そして私は以下のように考える。

1.  新たな指針は明らかに日本国憲法に違反しており、日本に憲法で禁止していることを行わせるものである。

2.  国家の憲法は神聖なものである。憲法はその国の政府および司法制度全体の基盤である。憲法は国家の基本的な法律である。国家の他の法律がすべて拠り所にし、その源となるのが憲法である。

3.  自国の憲法を神聖視する米国が、日本を尊重しているのであれば日本国憲法に明らかに違反する指針に日本が調印するよう圧力をかけるであろうか。

4.  安全保障の基本は信頼である。国家防衛において、信頼以上に重要な武器はない。他の国から信頼されないような国は、安心な国ではない。法律をばかにしたり、政府が憲法をないがしろにするような国を、どうして他の国が信じることができるであろうか。政府が憲法を無視したり、違反したり、さらにはそれから逃れるために子供だましのトリックを使えば、他の諸国はその国が国際条約や取決め、コミットメントに従うと期待するわけがない。多くの国が、すでに日本に不信感を抱いている。日本より信用できない国が他にあるであろうか。日本国憲法を侮辱するような新たな指針による今回の試みは、他の国に不信感を募らせ、日本の安全保障を弱めるだけである。

5.  歴史が示すように、国内の腐敗に屈服しない限り、ある国家が他の国に征服されるようなことはめったにない。ペリーの黒船は日本を征服することはなかった。日本の国民から支持されなくなった政府を転覆させるのを助けただけである。同じことがアヘン戦争や他の諸国の崩壊についても言える。自分の国の憲法をないがしろにするような政府を、どうして日本国民は尊敬することができるだろうか。政府がその国の憲法を無視するような国において、どうしてその国民に法律を守ることを求められるというのだろうか。政府が法律をばかにすれば、無法国家が生まれる。またこの逆も真となる。また何よりも、国家の安全保障を弱めることになるのである。

最後に、「これは正しいか間違いか、適切か不適切かの問題なのではないかもしれない」と言ったが、正しいか間違いか、適切か不適切かの区別ができない人や国は、そうした区別のつく人や国家に不信感を持たれるだけでなく、軽蔑されることになることも付け加えておきたい。それがいわゆる「日和見主義者」であり、この日和見主義者こそ、すべての人間や国家の中で最も安全度が低いのである。

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米軍の軍事力は他国を凌駕

ウィリアム・ペリー

ロサンゼルスタイムズ紙よりデイリーヨミウリ(1997.7.17)に転載

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1994年から1997年まで米国の国防長官を務めたウィリアム・ペリーは、ロバート・マクナマラ(ケネディ大統領の国防長官)以来、国防総省に最も影響を与えた人物である。シリコンバレーのハイテク業界と長い関係を持つペリーは、サンフランシスコにあるベンチャーキャピタル、ハンブレクト・クイスト社の上級副社長およびテクノロジー・ストラテジーズ&アライアンス社の会長を務めた。
現在ペリーは、以前に国際保障および軍備管理センターの共同ディレクターを務めたスタンフォード大学の教授である。以下、グローバル・ビューポイントの編集者、ナサン・ガーデルスによるペリーへのインタビュー内容である。

質問: 歴史家のポール・ケネディは「米国と他の大国との軍事技術の差は開く一方であり、その差は英仏がアフリカを機関銃で征服して以来最大である」と言ったが、米国の軍事力が他国を凌駕していると思うか。その主要な要因は何か。

ペリー: 凌駕していると思う。米国の軍事力の優位性はまずその指導力、訓練、規律にある。今日、米軍の軍事力は世界一であり、この優位性について語るならまずこの3点がくる。次に言えるのは、空中補給路、海上輸送、航空母艦などの軍事力提示能力を米国が持っていることである。これは重要である。いくら偉大な軍事力を持とうが、それを提示することができなければ、地上からの攻撃に対する自国の防衛にしか役に立たないからである。米国のように世界のどこにでも軍事力を提示できる国はなく、また他の国の軍事力が米軍に匹敵することも近い将来はないであろう。

==>耕助:ペリーはここで米軍の目的は米国を防衛するだけではなく、他の諸国を攻撃し、他の国に米国が要求することを行わせるように威圧することにあると認めている。

ペリー: 米軍の優位性を示す第三の側面は、いわゆる「偵察打撃部隊」にある。この軍事力は極めて効果的な技術を組み合わせたもので、いかなる戦場でも優位に立てる。この部隊のその第一の構成要素は情報である。世界中のどこでも標的を突き止める能力である。この世界的な情報収集では、人工衛星が重要な役割を果たす。しかしもっと重要な戦術的な情報収集システムがある。その好例がJointSTAR(Joint Surveillance and Target Attack Radar System)航空機であり、湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦やボスニアでも利用された。戦場のはずれを飛び、輸送車でも大砲でも居場所を正確に突き止める。
またもう1つの情報収集機能がAWACSである。AWACSは戦地の航空機の位置を突き止めるシステムである。プレデターは無人飛行機であり、AWACSと同じことを行うが、かなり狭い、旅団レベルの地域で利用される。さらに、グローバル・ポジショニング・サテライトと呼ばれる人工衛星は、軍隊がいつどこにいるかを正確に突き止める。

偵察打撃部隊の第2の重要な能力は、一度居場所を確認した標的に正確な攻撃を与えることである。正確に誘導された弾薬は、肩にかけるミサイル発射装置などに代表されるように、戦場の戦術レベルで非常にうまく機能する。また、トマホークの巡航ミサイルなどは、戦略的レベルでうまく機能する例である。

さらに、もう1つの構成要素は「システムのためのシステム」を構築する技術であり、ステルス・デリバリー・ボンバーと呼ばれる、補足困難な爆撃機やミサイルなどである。
最後に、デジタル通信があり、これはシステムのためのシステムをつなぎ合わせるものであり、砂漠の嵐作戦の時のように、師団レベルでリアルタイムの情報を得ることを可能とする。我々は現在、戦地の兵士にリアルタイムの情報を直接、提供する能力を追加しようとしている。このシステムを「フォース21」と呼んでいる。

==>耕助:この「システムのシステム」は、米国版のマジノ戦(対独防衛線として1927~36年にフランスが構築した国境要塞戦)のようである。ヒットラーの軍隊は1940年5月に、侵入不可能だと思われていたマジノ戦の周囲を取り囲むだけでフランスを陥落させた。これと同じように、サイバー戦争でハッカー達の技術が米国のこの「システムのシステム」を失敗に導くことにでもなれば、これまで費やされた莫大なコストはすべて無駄になるのであろう。

ペリー: 米国は精密照準弾薬の許容範囲を押し広げている。国防総省は空中レーザーの開発で10億ドルの契約を結んだ。このレーザーは飛行機や衛星から発射され、飛行中であっても弾道ミサイルに命中させることができる。その能力はまだ実用段階には達していないが、次の10年の間には利用できるようになるであろう。

質問: これまでの回答で、米国の軍事力がいかに圧倒的なものであるかがわかった。しかし、私が中国の指導者であれば、次のような質問をするであろう。「なぜ米国はそれ程までに他の国を凌駕して圧倒的な立場を確立したいのか。米国をあれ程までに武器の開発に駆り立てるものは何か。核兵器は日本やドイツ、後にはロシアとの戦いのために作られた。さらに多くの識者は来世紀の安全保障に対する脅威はゲリラやテロリスト攻撃などからくるだろうと見ているが、今、敵はどこの国なのか」

ペリー: 偵察打撃部隊は1970年代に生まれたものであるが、これはもともと米軍の「相殺戦略」から生まれた。つまり、ソ連軍およびその同盟国の武器や軍隊の数の上での強さを相殺するために、米国の技術的能力を利用しようとしたものであるが、もはやこの問題も消滅した。そして米国がこの新しい技術を初めて利用したのは砂漠の嵐作戦においてであった。この経験から、同等の能力の敵と戦っているのでなければ、この技術によって戦争終結を早め、決定的な勝利をもたらすだけでなく、犠牲者の数もわずかなレベルにおさえるということがわかった。米国はこの砂漠の嵐作戦を驚くべき軍事的勝利で終えただけでなく、その犠牲者の数は思いがけなく少なかったのである。

==>耕助:「同等の能力の敵と戦っているのではない」というような婉曲表現に騙されてはならない。それが意味することは、弱いものいじめに他ならない。

ペリー: この経験の後、偵察打撃部隊を維持した方がよいという結論に達した。地域紛争に巻き込まれれば、この偵察打撃部隊により米国は戦いを早急に、またきれいに終結させることができる。

==>耕助:つまりは、「この偵察打撃部隊により、第三世界の小国を、イラクと同様にいたぶり、戦争を早く、きれいに片づけることができる」ということなのである。

ペリー: もちろん、世界の誰もが米国の圧倒的な軍事力に気づいており、米軍と対決しようとは考えないであろう。その意味で、この偵察打撃部隊は非核抑止力である。実際に戦争を行うよりは、抑止する方がましであろう。

==>耕助:もちろん世界は米国を恐れ、米国の押しの強い自分勝手な要求にどの国も屈するであろう。

質問:米国の優位性は中国、日本、さらに今ではロシアをも数世代分は引き離した感があるが、米国に追いつこうとしている国があるだろうか。

ペリー: 米国は世界のすべての国を圧倒的に凌駕している。どの国も米国に追いつくことは極めて難しいであろう。誰かが言っていたように、明確な敵がいなくなったのであるから、これ程の能力は必要ないといって、この首位的立場を米国が捨てるのであれば話は別だが…。

==>耕助:仮想の脅威に対して防衛を維持することに対する巨額のコストについてはどう考えるのか。米国にはそのコストを負担し続ける余裕があるのか。もし余裕があるなら、なぜ国連の分担金を支払わないのか。なぜ日本や他の国に湾岸戦争の時のように資金を負担するよう迫るのか。さらになぜ米国はそれだけの余裕がありながら、米軍の駐留費用を、思いやり予算として日本の納税者に負担させるのか。

ペリー: 技術的な能力があろうとも、武器を装備し、さらに指令体制を確立し、訓練をすべて終えるには10年以上の期間がかかる。忘れてはならないのは、徴兵制から志願兵制度に切り替えるのに10年以上もかかったということである。ミサイルの開発よりも、小隊の曹長を訓練する方が時間がかかるのである。

質問: 米軍が軍事的にこれだけ優位を誇っていれば、一方的な行動に出たいという誘惑にかられるのではないだろうか。さらに、1国だけで戦争に勝てるのであれば、同盟関係など必要ないのではないか。

ペリー: 理論的にはそういう考え方もあると思う。だが実際に過去の記録を見れば、砂漠の嵐作戦やボスニアでもそうであったように、米国が一方的な行動をとったことはない。それどころか、同盟国を募り、米国がリーダー的役割を果たしてきた。成功するための軍事努力には勝つための能力だけではなく、政治的に正統な手段をとることも必要である。そのために同盟が必要なのである。

==>耕助:ペリーが言っているのは結局次のようなことではないだろうか。

1. 成功するためには、どの国の軍事努力にも、勝つための能力だけでなく、政治的に正統な手段が必要であるのは当然である。そのために同盟が必要である。

2. このため米国は、日本や他の同盟国に賄賂を与えたり威嚇したりして、砂漠の嵐作戦やボスニア、韓国、ベトナム、グレナダ、パナマで米国の一方的な行動を支援させたのである。

質問: 冷戦時の「核の傘」のように、現在米国の同盟国は「情報の傘」で守られていると思うか。

ペリー: 米国の同盟国は、米国偵察打撃部隊の利点と技術を共有している。ただし米国ほどに踏み込んでいる国は今のところまだない。したがって事実上は、同盟国は米国の冷戦後の「情報の傘」で守られている、と言えるだろう。

==>耕助:米国の偵察打撃部隊から、日本は具体的にどのような利益と技術を得ているというのであろうか。