No.328 野田前郵政大臣からの返信

前回、野田前郵政大臣に宛てた「NTTの接続料引き下げ幅拡大提案」に関する記事を読んでの感想をお送りしましたが、野田前郵政大臣から返事が届きましたのでその書簡と私のコメントをお送りします。

野田前郵政大臣からの返信

平成11年10月4日

郵政大臣 野田 聖子

東西NTTの接続料金に関する9月24日付けのレターをありがとうございました。忌憚のないご意見と力強いご声援にお礼申し上げます。

この問題に関する私の考え方をご説明したいと思います。

一つは、この問題と日本国民の利益についてですが、接続料金の引き下げは、結果として我が国の利用者の料金の引下げにつながることから、私は、米国の意見とは関わりなく、日本国民の利益のために、接続料金を引き下げていくことを重要な政策課題と位置づけ、積極的に取り組んできているところです。

二つは、このように、接続料金の引下げは、通常は、国民利用者の利益に適うものですが、それが急激かつ大幅に行われた場合には、NTTの経営に破壊的な影響を与える結果として、利用者の料金やユニバーサル・サービスに悪影響を及ぼしかねないことから、この面で慎重な配慮が必要と考えているところです。

即ち、接続料金の引下げに際しては、?国民利用者の料金への影響、?ユニバーサル・サービスの確保、?NTTの経営への影響に適切に配慮する必要があることについて、米国政府にも主張を行い、この点については、米国政府からも同意を得ているところです。

コメント:  前述の3つの点について私はすべて同意します。また国内利用者向け料金の引下げが、サービスの低下や日本の通信基盤に対する投資の削減につながらないのであれば、国内料金の引下げも歓迎します。しかし、そんなことが可能なのでしょうか。国営企業として電信電話公社は、世界でも有数の優れた通信制度を日本に築きました。しかし、ここ10年の間に、自民党の政治家は米国からの要求に次々に屈しています。まず最初に、日本電信電話公社を民営化し、日本国民への最良のサービス提供や通信基盤の向上よりも利益の追求を優先させるような体制に変えました。次に、NTTを分割し、国民への通信サービスの提供および通信基盤の向上能力をさらに弱めました。そして今回、接続料金の引下げが実行に移されれば、NTTのサービス力や通信基盤の向上能力がさらに低下すると思われます。

実際、郵政省の電気通信審議会電気通信事業部会がNTT東西会社と日本テレコムの3社に対して10月22日に行ったヒアリングでは、NTT側は郵政省の研究会が作成した算定モデルが接続料金にそのまま適用されれば経営に破壊的な影響を及ぼすとし、98年度概算で東西会社合計約4,300億円の減収になり、全国均一サービスの維持にも支障が出かねないと説明しています。(『日本経済新聞』、99年10月23日)

また野田郵政大臣が上記に挙げた接続料金の引き下げで配慮すべき3点の中で、日本国民の利用料金がいくらになろうと、米国政府にとっては関係のないことです。以下の『日本経済新聞』の記事をお読み下さい。野田郵政大臣からお返事をいただいた後、掲載されたものです。郵政大臣は日本の利用者の料金への影響に対する配慮について「米国政府にも主張を行い、同意を得ている」と述べていますが、以下にあるように米国ははっきりと今回の郵政省案では不十分であると主張しています。

NTT接続料下げ、

米「郵政省案は不十分」――再考迫る文書きょう提出

日本経済新聞  99年10月18日

【ワシントン17日=町田徹】米政府は18日、日本電信電話(NTT)グループが他社と通信回線を接続する場合の接続料の引き下げ問題に関し、16.7%の引き下げを有力とした郵政省案は不十分であるとし、再検討を求める抗議文書を同省に提出する。郵政省案は消費者への料金転嫁なしには接続料金の大幅な引き下げは困難と指摘している。抗議文書はそのコスト算定を問題視し、下げ幅を小幅にとどめようとしていると批判。接続料金下げを約束した98年の対米公約への違反で外交問題に発展するとして、強い調子で再考を促している。

抗議文書は米通商代表部(USTR)が中心となって作成した。米政府が問題にしているのは、郵政省が2000年中をめどに導入準備を進めている新接続料金の算定基準。同省が9月に決定した算定基準案は、接続費用を現行より41.1%引き下げるケースと、それより小幅の16.7%下げのケースを挙げ、後者が有力と示唆する内容。前者の場合、住宅用で現行月額1,450~1,750円程度の基本料が300円程度の値上げにつながるため現実的でないという。

米側は郵政省案のコストの算定基準に「大きな問題がある」と強調。交換機や光ファイバーといった通信機器の耐用年数について、税制上の償却年数を適用するのをやめて、米英と同じように実際に使用できる年数を根拠に算定すべきだなどと指摘している。

接続料は新電電や外国系の通信事業者がNTTに支払うもの。米国は国内でこの水準を引き下げて新規参入による競争を促し、低価格の通信料金を実現、インターネットの普及などに役立ててきた。このため、USTRのバシェフスキー代表らも8月に特別声明を発表し「日本は(最大で)米国の8倍の高水準にある」と批判していた。

※ 米国からの抗議文書が郵政省のホームページに掲載されていますので、ご興味がおありの方は以下のURLをご覧下さい。

http://www.mpt.go.jp/policyreports/japanese/
telecouncil/iken/991021iken/991021_01J.txt

コメント:  日本は、米国以外の国、例えばドイツやフランス、中国政府に対しても同様の主張を行い同意を得たのでしょうか。日本以外に、こうして米国に状況を説明し同意を得ている国を私はロシア以外に知りません。そして米国のいいなりになっているロシアが、米国からのアドバイスに従ったがために今どのような状況になっているかご存知でしょうか。それともロシアが現在、民営化や自由主義の導入により直面している困難な状況を日本にももたらすつもりでしょうか。

この問題をお諮りしている電気通信審議会に対しても、上記のような基本的スタンスで検討を進めていただくようお願いし、審議が進んでいるところです。

三つに、接続料金自体の水準を具体的にどうするかについては、日本国政府が自らの判断で日本国民の利益を考えて決めるものと考えており、現に、具体的な料金について米国政府と約束を行っているものではありません。

なお、モデルの変更の背景についてですが、これは貴殿がご心配されているように、米国政府の無理強いに応じたようなものではありません。「長期増分費用モデル研究会」は7月末にモデル(案)を公表し、2回にわたって意見を広く募集しました。これに対して米国政府や内外の事業者から合計37件の意見の提出があり、研究会において、専門的見地からこれらに検討を加えた結果、合理的な理由に基づき必要と認められる改善を加えたものです。

コメント:  接続料金モデルの変更に際して、なぜ他の国の意見を聞く必要があるのでしょうか。ドイツ、フランス、中国といった国々でも、自国の接続料金モデル策定の際に外国の意見を取り入れているのですか。また、日本のモデルについて米国政府以外に、意見を提出した国はあったのでしょうか。

最後に、以上のとおり、私は、この問題について、国民利用者の利益を第一に主体的に取り組んでいるところです。この点をご理解いただくとともに、今後ともご支援のほどよろしくお願いいたします。